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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
二章 大会への道筋
89/130

猛攻への反抗

 ダーディススクラプ魔法学校の怒涛の攻めに抵抗できず、三点も取られてしまったこの状況。

 これ以上の点は渡すことはできない。三点も差が開くと、そこから逆転するのはほぼ不可能だ。

 だからこそシュンの心には焦りがある。すぐにでも一点を奪いたい。なんとしてでもゴールを取りたい。

(心を落ち着かないといけないが……これはもう悠長にしてはいられない。今のチームの状況、スコアの点数以上にメンタル面で差が出ちまっている)

 チームの雰囲気が最悪に近い。このままではダーディススクラプ魔法学校の怒涛の攻めをとめるなんて不可能だ。さらに点差が開けば、よりメンタルに重圧がかかっていく。

 だからこそ一点欲しい。

 チームの落ち込んだ雰囲気を消し飛ばすには言葉だけではなくプレイも必要なのだ。

「みんな焦っているわね……」

 ベンチから試合を見ているクアトルは険しい表情。

 先ほどから点を取られた後にできるかぎり大丈夫だと声はかけているが、やはりチームの雰囲気はよくならない。

(……私が出れれば)

 グラウンドを悔しそうに見つめているレイカ。

 学院のルールによって出場できない彼女は、自分が選手として出ていれば、勝っていると思っていた。

(私がいれば、こんなに点を取られることもないし、もっとたくさんシュートを決めている!)

 それに、

(シュンばっかりに負担をかけされるようなこと! 絶対にさせないのに!)

 シュートを打っているのはシュンがほとんど。自分がいれば彼のサポートもできる。なにより自身が出れば攻めが盤石になってダーディススクラプ魔法学校の攻撃にも負けないほどの攻め方もできるのに。

 それができなくて悔しい。

 自分がこの試合において部外者になっていることが、何もできないことが悔しくて仕方ない。

(それに先輩たちはなんでそんな弱気になるのよ! まだ試合は終わっていないでしょう!)

 気落ちしている先輩にもイラつているレイカ。

 頼りになる先輩が暗い気分でいてどうするのか。レイカの心は激しい衝動が募っていくばかりだ。

 それを見かねたクアトルは優し気な声色で、

「ヴィルカーナちゃん。落ち着いて。ほかの生徒が怯えているわ」

「え?」

 そう注意すると、レイカは周囲のベンチの様子を確認する。

 他の生徒がレイカを見てビビっていた。どうやら無意識に魔力を放出していたらしい。それを感知してレイカから距離を取っていたのだろう。

「……ごめんなさい。ちょっと気が荒ぶっていたわ」

「い、いえ気にしないでください」

「そう! 試合に負けていると悔しいもんね!」

 驚かせてしまったチームメイトに謝罪してすぐさまフィールドに目を向けるレイカ。

 いつも強気なレイカも今回ばかりは不安な気持ちになる。

「三点取られたとはいえ、取り返せばいいのよ! 勝って、みんな!」

 だが自分ができることは勝利を祈ること、チームの皆を鼓舞するだけだ。

 チームが勝利を勝ち取ることを願い、応援の声を届けていく。

『さあ、マギドラグ魔導学院! まさかの大ピンチ! ダーディススクラプ魔法学校の攻めに一方的‼ だがまだ前半は終わっていません! 試合の時間はまだまだあります! どちらも気を緩めずに頑張ってほしいところ!』

 ピピィィィッ!

 実況の言葉と共に笛がなる。試合開始の合図だ。

『さあ! 笛が鳴った!』

「モーグリンさん! 行きましょう!」

「うん」

 シュンはボールを受け取り、

「モーグリンさん、ここは相手の魔法に警戒しながら前線のメンバーのパスを中心で進みましょう!」

「了解!」

「トノスさん!」

「おう!」

 シュンはパス連携でゴールに向かう作戦を取り、トノスに素早くボールを渡す。

「よし! ちょっと通るよ!」

「うわっ⁉」

 受け取ったトノスは前にいた相手選手を大ジャンプで頭上を飛び越えて、しばらく前に進んだ後シュンにボールを戻す。

 そしてそのボールをシュンはかかとで打ち返すようにモーグリンのもとにボールをパスをする。

 シュンお得意のノートラップパス。相手が守りを構える前にパスを出して、モーグリンのもとへと届ける。

「――あっ」

 そのボールを受け取ろうとするも、トラップミスをしてしまい慌ててボールを拾う。

 その行動に隙ができてしまう。

「すっとろいじゃーん! ホラッ!」

「キャ⁉」

 その隙を見逃さず、ホーラの強気なショルダータックルが炸裂。右肩がモーグリンに激突させて吹き飛ばしボールを奪う。

「イテテッ……そ、そんな……」

(動きが鈍い! やはり勝たなければならないって気持ちがプレイに焦りを生んでいる!)

 プレッシャーがモーグリンのプレイングに動揺が走る。

 やはり心配していたことが起きている。

 チームの皆の精神状態はどん底だ。この状態を立て直すにはやはり点を取るしかない。

「そう何度も攻めさせてたまるかよ!」

「あれ⁉ ボールない⁉」

 ボールを取られたことを確認したシュンはすぐさまホーラのボールをカットして前にドリブル。素早く足を振ってボールを掬い取ったのだ。

「こっち!」

 自分一人で突破しようとしたその時、遠くから声が聞こえる。

(この声はモココさんか!)

 声の人物をすぐさま見つける。サイドラインの近くで走りながらシュンに視線を送っている。

 どうやらモココだけこの状況でも平常心を保っている。

 ならばここは彼女にボールを託そう。

「――! モココさん! わかった!」

 シュンはシュートを打つかのように足を鋭く振り抜きパスを出す。

「速いだけのパスなんて――えっ⁉」

 ダーディススクラプ魔法学校のミッドフィルダー、ウィナがボールをカットしようとするも、ボールには鋭い横回転がかかっており、彼女の目の前で直角のように曲がってカットをすり抜ける。

 そしてボールはモココのもとへと渡った。

「なーいす!」

 ボールを受け取ったモココは前に走り出しながらも、ほんの少しだけシュンの方に視線を向けて、

(魔力が少ない状態でシュン君に無茶はさせられないよね)

 ストライカーであるシュンに頼りたいが、頼ってばかりでは試合には勝てない。体調も悪い状態で頼りっきりではいられない。

 ここは自分も積極的にならなくては。

(それに、ここで活躍すればみんなの視線、モココがひとりじめ!)

 そして彼女にとって大会に出ることよりも今ここで目立つことの方が大事なのである。先のことより今行われている試合の方が重要だ。

 モココはサイドラインぎりぎりにドリブルで前へと進んでいく。

「ドンドン進んでいくからね♪!」

『ユーミール選手がボールを持った!』

「モココって呼んで!」

「あっ、やべ、間違えて性の方で呼んでしまいました」

 実は試合前からモココから名前の方で実況して、と頼まれていたメロエウタ。つい癖で性のユーミールの方を叫んでしまって叱られる。

 きちんと訂正した後、ゴールへ向かって走っていく。

「へっ! 止めてやらあ!」

 ダーディススクラプ魔法学校の選手、シーシャとカメルが止めに入る。すぐに止めて

「甘いね!」

 相手選手の蹴り飛ばすような鋭いスライディングも可憐なステップでかわいらしく空を舞う。そして着地と同時にシュンにパス。

「シュン君!」

「おう!」

 そのボールをノートラップで返してワンツーパス。

 シュンたちの足は止まらない。

「シュン君! 決めちゃって!」

 そしてそこから優しいタッチで緩い軌道を描くループパス。シュートを打たせるためのラストパスだ。

「打たせるかよ!」

 だがシュンの前にイクオスがまた立ちふさがる。

 シュンを警戒し、ゴール前ではシュンのシュートボールを止めることを専念するイクオス。

 ――また来たか。

 今度は止められはしない。イクオスが動く前に魔法を発動させてシュートを放とうとする。

 だがその時、シュンの足が止まる。

(ま、まだ駄目か!)

 肉体が危険信号を発している。

 魔法を使うなと訴えかけている。まだ魔力がシュート一発分回復していない。

 ならばこの状況で取る選択肢は。

「そらっ!」

「よし! オレの出番だな!」

 シュートを打つ素振りを見せて空振り、からのかかとでボールを真横にパス。そしてパスの先にはゴール付近まで上がってきていたトノスが意気揚々と構えている。

『おおっと! シュートを打つと見せかけての味方へのパス! シュン選手! フェイントが上手い!』

「なっ⁉」

 再びのフェイントパス。

 シュートを打つと思っていたイクオスは再び驚いた。

(またシュートを打たなかった! この点差なのに! ストライカーなら打つ場面だろうに!)

 シュンのストライカーとしての実力を見たからこそ信じられない選択。

 なぜゴールを奪いに来ない、そんな疑問を抱くもトノスがシュートを打ちにいく!

「あの筋肉、燃やしてやるぜ! 『フレイムシュート』だ!」

 豪火球がトノスの足から放たれる。

 イクオスはそのシュートを止めようにも距離が届かない。

「チィ! シガー! 止めろ!」

「了解! マッスルパワー! 『豪腕ロックハンマー』!」

 イクオスの指示と共に飛び上がって魔方陣を展開。

 巨岩の剛腕が今振り下ろされる。

「熱っ⁉」

 ボールの炎の熱が手にダイレクトに伝わってくる。あまりの暑さに体勢を崩すのも、そこはさすがのパワーの持ち主、なんかボールを弾くことには成功。ゴールは防いだ。

「今度はアタシ、モココも続くよ!」

 マギドラグ魔導学院の攻撃は終わらない。

こぼれ球を今度はモココが拾ってシュートを打とうとする。

「……そういうことか! なんてこった、もっと早く気付けたぜ!」

 そのシュートが放たれる前に、イクオスが納得するかのように大声をあげる。シュンの不可解な行動に答えを見つけたイクオス。

 ストライカーらしからぬ行動には意味があった。

「だったら今のお前に相手する意味はねえ! とことんボールを奪いに行くぜ!」

 今のシュンにシガーからゴールを敗れる力はない。

 そう判断したイクオスがすぐさまこぼれ球を拾ったモココに向かって走り出し、

「喰らえっ! 『風刃脚』!」

 魔方陣を展開。

 右足に風を集めて、それを風の刃にして蹴り飛ばす。鋭い風刃は空気を切り裂き、そしてモココの足元に命中。

「キャッ⁉」

「モココさん!」

 爆発するかのような暴風がモココを吹き飛ばし、シュートを防いだ。そしてボールはモココと同じようにイクオスの『風刃脚』に吹き飛ばされ、フィールドのラインを越えた。

『イクオス選手! モココ選手を魔法で吹き飛ばした! ボールはラインを割って外に! イクオス選手が魔法でボールを外に出したため、ボールは依然マギドラグ魔導学院の方! しかし猛攻は防ぎました!』

「クッ、止められた!」 

「イクオスさん、流石っス!」

「やられっぱなしは性に合わんからな」

 ボールが外に出たことを確認し、

「シュン! 凄腕のサッカープレイヤーであるお前にも弱点はあるんだな」

「――っ! なんだ!」

「相手がマギドラグ魔導学院の連中だから魔法が得意と思っていたが……それがノイズになっていた。だが冷静になれば、お前の今の状態、ケンカで負けかけている奴とそっくりだぜ!」

「なにが言いたい! 負け犬ってことか⁉」

「シュン! お前、魔力がつきかけているな!」

「……よくわかったな」

 見抜かれた。

 ケンカで磨かれた勝負の直感がシュンの魔力残量を見抜いたのだろう。

「じゃなきゃあの状況でシュートを打たないわけないだろ! お前ならな!」

 イクオスの言葉に間違いはない。

 シュンはイクオスのその洞察力に舌を巻く。

「だから今は勝負はおあずけだ! お前が魔力を回復するまでは他の奴相手にするぜ!」

 そういってシュンのもとから離れていく。

(先輩たちを止める方を優先するってわけか)

 なるほど。

 確かにシュートで点を取ることができない今のシュンを相手にする必要はない。イクオスがシュンを止めに行くのは点を取られる可能性があると思っていたからだ。

 だが今の魔力が切れたシュンなら止める必要はない。

 なぜなら強力なマジックシュートが放つことができないのなら、シガー一人でも止めれるとふんだからだろう。

 それは間違いではない。

 シュンもそう思っている。

 だが、

(いいぜ、そっちのほうが好都合だ。ストライカーの武器はシュートだけじゃない。それを見せてやる!)

【エルドラドサッカー日誌】

 レッド・シガー

 身長192センチ 魔力属性 土

 ダーディススクラプ魔法学校に在学。

 彼は自身の肉体に絶対的な自信を持っており、その自信にふさわしい筋力を持っている。魔法を使わずに巨大な猛獣も真正面から捕まえて投げ飛ばせるほどだ。

 そして世の中は力によるゴリ押しさえ出来れば何とかなる、そんな単純思考の持ち主であり、それが原因でパイプからシガーとホーラのことをバカコンビと呼ばれている。

 実は勉強は苦手でも、歴史は平均点は取れる。言葉の意味はわからなくても、言葉そのものを覚えるのはそこそこ得意なのである。

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