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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
二章 大会への道筋
87/130

全て蹴り飛ばす

 イクオスにボールが渡り、相手のゴールへと走りだす。

 攻撃のターンは交代、ダーディススクラプ魔法学校のカウンターだ。

 前線にいるシュンも黙って見ているわけにはいかない。

「止める!」

「シュン! 来たか!」

 シュンが止めに来て、獰猛に笑うイクオス。

 相手が強ければ強いほど燃える。それが喧嘩好きのイクオス。

「飛べ!」

 迷わずシュンにめがけてシュートを放つ。

 イクオスお得意の相手選手にボールを当てて突破する『ボールショット』。至近距離からのこの技はそう簡単に避けられない。同体で受け止めてもボール越しからの蹴りで無理にでも吹き飛ばして突破する。

 魔法が使えるこのエルドラドサッカーだからこそ許されるダーティープレイ。

 鋭いシュートがシュンに襲い掛かる。

「シッ!」

 そのボールをシュンは胸で受け止めつつ、ボールが当たった瞬間に大きくバックステップ。ボールからの衝撃をやわらげてボールを奪い去った。

「ほう、そうやって防ぐか! だが!」

 シュンがボールを受け止めると、そのボールから強風が吹き出て、シュンに襲い掛かってきた。

「ぐっ⁉」

 ボールには魔力が込められていた。その魔力によって風が起こりシュンを弾き飛ばそうとしている。二段構えのドリブル技だ。

「この!」

 それでもイクオスにボールを渡してたまるか、必死に足を振り上げてボールを真後ろに蹴り飛ばすシュン。風の威力に押され地面に倒れながらもなんとか押し返してボールを飛ばすことに成功した。

「シュンからのボール!」

「おっと、ラッキーっスね」

「なっ⁉」

 だがそのボールを取ろうとしたプロスであったが、その前にパイプがこぼれたボールに追いついていた。

『シュン選手が蹴り上げたボールはパイプ選手がカット! 味方選手に渡らず!』

「くっ、取られた!」

「いいフォローだ! さあ走るぞパイプ!」

「着いていきますぜ、イクオスさん!」

 なんとかボールを死守したダーディススクラプ魔法学校。

 イクオスはすぐにゴールへ向かって走っていく。

 そしてパイプはイクオスから距離を置いて、サイドライン近くを走ってゴールへと近づいていく。

 その最中に前を見て味方のいる位置を確認。

 中央に多くの味方が。パイプはすぐさまボールを蹴りだしてボールを前にあげていく。

「アン・ホーラ! 頼むっスよ!」

「よーしゃ! あーしにまかせな!」

 意気揚々のホーラ。

「おい、シュートじゃなくてイクオスさんにパスを」

「よっしゃ! かましたれ!」

「やれやれ!」

「うおお! 全力全開! 『ジャンプ・ヘッドバッド』!」

 チームの仲間の掛け声と共に、ボールを浮かばせてジャンプしつつ体を前方向に回転。その回転を利用してボールに額をぶつけてヘディングシュート。中央からのロングシュートだ。

(あのバカ! 打ちたがり過ぎだろ!)

 まさか中央ラインからいきなりロングシュートを放つなんて。とにかく攻めようという考えからあの行動をとったのだろうか。パイプがホーラの単純な行動に頭を抱えていた。

「そうはさせん!」

 そのシュートを止めようとマデュランが動きだした。もう一点も取らせてはたまるか、と気迫がこもった表情で、

「止める!」

 ボディにバリアを張ってボールの真正面に立ちふさがる。

 強烈なマジックシュートを腹で受け止めた。腹部に力を込め、ボールの勢いがしだいに弱まっていき、ボールの動きがとまった。

(ほら、止められた! 馬鹿正直にまっすぐのロングシュート打つから!)

「ああ、もう、とめられた!」

「よし、止め――ッ⁉」

 前線にいる味方にボールを渡そうとしたその時、足元から誰かの影が。

「足元お留守だ!」

 イクオスだ。

 両足を前に出してスライディングタックル。マデュランの持っているボールを取りに来た。

(速い!)

 突然の高速スライディングタックルに戸惑うも、ボールを奪われるわけにはいかない。すぐさま横にステップして両足タックルを回避しようとする。

 が、マデュランがそう動いた瞬間にイクオスが両手で地面に殴りつけて無理やり止まり、そこから腕の力で体を動かして双脚の足払いタックルをお見舞いしてくる。

「ぐっ⁉」

 そのタックルがマデュランに襲い掛かり、ボール越しから強烈な衝撃がやってくる。不安定な体勢なのになんて力強い蹴り。

 だがそう簡単にボールを奪われてはたまるか。

「うおおおおっ‼」

「おぅ⁉」

 そのタックルに何とか耐えて、強引に前に進む。その力強い走りにイクオスが押し返されて、蹴りをはじき返されてしまう。パワー自慢のマデュランの力強いドリブルだ。まっすぐ地面を踏みしめてパイパワーで前に行く。

「へー、やる! だがよ!」

 イクオスのタックルはまだ終わっていない。

「『ウィンドタックル』!」

 今度は風をまとった旋風のスライディングキックを繰り出す。

 風と共に地面を滑り、より速いスライディングタックルでマデュランを蹴り飛ばそうとする。相手が強引に来るならそれに乗ってやる。迷いなしの滑り込み蹴りだ。

「しぶとい! 『ハードバリア』!」

 その攻撃も堅い結界によって阻まれてしまう。カキンとイクオスの右足が弾かれた。

『イクオスの暴力的ディフェンス! しかしマデュラン選手! それでも止まらない!』

(コイツ! なんて守りの堅さ!)

 様々な相手と喧嘩をしてきたイクオスだが、ここまで堅固な守りの魔法を繰り広げてきた相手はなかなかいない。

「すぐにシュンにパスを!」

 イクオスの激しいディフェンスをなんとか突破することができた。

 前線にいるシュンにボールを渡そうと蹴り飛ばそうとするマデュラン。

「なんとしてでもボールを止めろ!」

「イクオスさんだけ攻めるんじゃねえ!」

「多勢でボールを奪いにイケぇ!」

 だがそう簡単にボールを渡してたまるか、と言わんばかりに前線にいるダーディススクラプの選手たちがマデュランに怒涛の連続攻撃を仕掛けに来た。弾き飛ばされようが関係ない。ボールを取ることだけを狙って複数人でスライディングタックルの連鎖攻撃だ。

『ダーディススクラプ魔法学校の激しい攻撃は止まらない! ゴールを決めるまで続けるつもりか!』

「なっ⁉」

 ボールを蹴ろうとした体勢で連続スライディングタックル。魔法を発動する前に相手選手のスライディングキックがマデュランの足元に迫ってくる。

 すぐに足を振ろうとしたが、その前にダーディススクラプ魔法学校のフォワードの一人の足がマデュランが所持しているボールに触れる。ボールがその場から弾き飛ばされていく。

「しまった⁉」

「よし奪いな!」

「おっと!」

 そのボールはプロスが何とかボディで受け止めて奪われることだけは阻止した。ダーディススクラプ魔法学校の選手が動く前にプロスがこぼれたボールを拾うことができたのだ。

「ウララァ! もえろ!」

「きゃ⁉」

 だがボールを受け止めた瞬間、背後から炎をまとったホーラが力強い体当たり。プロスに直撃し吹き飛ばして、強引にボールを奪っていった。

「よし! こんどは決めるよ!」

「アン・ホーラ! いい加減適当なシュート打つなっス!」

 再びシュートを打とうとするホーラを止めようとする。

「あーしがシュートを打ちたい!」

「だったらもうちょっと考えてシュートを打てっス!」

 味方同士で言い争うになるも、パイプはこんな無駄なことしている暇なんてあるか、と考えて、

「俺に任せろって!」

「あっ⁉」

 味方であるホーラから無理やりボールを奪い去り、そこからゴールに向かって突き進んでいく。

 パイプはすぐさま周りを見る。前の相手選手の位置、そして周囲の味方の位置を。

「――! 見えたっス! 『激流口(げきりゅうこう)』!」

 口から魔方陣があらわれて口の中に魔力の込めた水が生まれていく。それをモンスターが吐くブレスのように飛ばしてボールをゴールに向かって吹き飛ばすマジックシュート。

 シュートが来る、構えて相手の攻撃に備えるエスバー。

「――イクオスさん!」

 シュートを打とうとしたパイプがボールの反対側に回り込んで後ろにいるイクオスに向かって圧縮して口から飛ばすマジックシュートを繰り出した。

「……え⁉」

 背面へのマジックシュートにシュンも思わず対応できず。

 まさかの後ろに向かってマジックシュートを放つ。

「おお! 来た来た!」

 そしてそのマジックシュートが向かう先にはイクオスがいた。

 しかも今放った『激流口』はボールの真芯を捉えている。一回目に見せた時よりも威力が高い。味方に向かって放つはいったいどういう理由があってやったのか。

 その理由はすぐにイクオスが証明してくれた。

「いいシュートだ! 『ケンカキック』!」

 そのシュートに動揺することなくすぐさま飛び上がり、相手を一撃でノックダウンするかのような鋭い突き出し蹴りが炸裂。

 わずかにシュートの勢いに押しこまれるも、一呼吸して足に力を入れてボール押し返す。

「吹き飛べ!」

 パイプのマジックシュートを『ケンカキック』で蹴り返して、そのボールがエスバーが守っているゴールに向かって飛んでいった。

「まさか! 味方のシュートを打ち返す形で!」

 イクオスのシュートに、パイプの魔力とそのマジックシュートを蹴り返したときに発生した反動。その二つが加わることにより、先ほど一人で繰り出した『ケンカキック』よりも威力が高くなり、先ほど弾かれてしまった『ケンカキック』が強烈なマジックシュートへと変貌した。

「きゃっ⁉」

 そのシュートの軌道上に立っていたトイズはそのシュートに対応できず直撃。遠くに吹き飛ばされてしまう。

「……くっ! 『ファイアボール』で!」

 ボールを止めるために魔方陣を展開。

 炎の球を当ててボールを止めようとする。

「……え⁉」

 うねりを上げて向かってくるシュートボールに『ファイアボール』を当てるも、僅かもスピードが落ちることがなく、そのままゴールへと決まっていく。

 炎の球をシュートボールに当てた、その瞬間ゴールの中にボールが入っていた。エスバーにはそう見えてしまった。

『ゴォォォルゥッ! イクオス選手! また決めた! パイプ選手のマジックシュートを蹴り返して威力を上げて放ったのか! なんて蹴り! これが数多の不良相手をのしてきた豪脚か!』

「パイプ! いいパスだったぜ!」

「でしょ。ホーラ、マジックシュートってのはこう打つっスよ」

「ゴールに打ってないじゃん! むしろうしろにボールを蹴っているからオウンゴール!」

「お前、後ろにいる味方にパスを出す行為もオウンゴールって言うんじゃあないっスよね」

「そうじゃないの⁉」

「なわけあるかボケ」

 そんな言い争いはともかく、パイプとイクオスの連携は見事なものであった。味方のシュートを跳ね返してゴールに叩き込む。突然の味方にマジックシュートを放ったことに、マギドラグ魔導学院の守備陣も困惑してしまい、それが原因でゴールを破かれてしまった。

「……そ、そんな」

 自分の魔法が全く効かなかったことに落ち込むエスバー。なによりこんなあっさりとゴールを決められてしまったことに一番心に来る。

「ま、マジかよ……」

「また、イクオスが決めちゃった……」

(まずい……流れが完全に相手チームの方になってやがる)

 シュンはチームに流れている雰囲気に目を細めてしまう。

 さっきの同点打が試合の状況を変えた。

 イクオスの積極的な攻め、そこからの一点に相手チームのみんなは勢いが増している。プレイに迷いがなく大胆になってきている。

 それが彼らの勢いある攻撃につながっている。

 今の彼らの攻めにシュンたちに大きな精神的負担を与えられている。

 チームの運域は険しい状況だ。

(おっとこいつは……)

 そんなマギドラグ魔導学院サッカー部のムードを見て、何かを感じ取るイクオス。

「おい、あれの準備をしろ」

「あれ……あの技ですね!」

「今のあいつらは点を取られることにビビってやがる。ならここいらで一気に点取ってお相手さんの闘争心をへし折ってやろうじゃねえか」

 常に喧嘩と勝負に明け暮れていたイクオスにとって、勝負におけるターニングポイントはよく理解している。

 どの場面で切り札を切るか、どうやったら相手の心を挫くか、そしてその瞬間がやってきた。

 だからこそ、サッカー部全員が練習して編み出した必殺技を使うべきだと思ったのだ。

「わかりました。おい、お前ら、あの技ができるようにいつでも準備しろっス! イクオスさんの指示だ!」

「「「おう!」」」

 パイプの言葉に力強く返す選手たち。

「一体何をするつもりなの……?」

 そんな様子を見ているレイカは不安が心によぎる。

 ダーディスススクラプ魔法学校の攻撃はまだ止まらない。

【エルドラドサッカー日誌】

 キセル・パイプ

 身長178センチ 魔力属性 水

 ダーディススクラプ魔法学校在籍している男子生徒。

 彼は容赦のない男、自分が思ったことはズバッと言葉を出し、嘘の言葉は相手をだます時に言う。普段は物静かでも、少しでもストレスがたまるとそれをどこかにぶつけざるを得ない。いかに相手に気づかれず効率よくダメージを与えるか、が彼の魔法の使い方だ。そしてそれはサッカーでも現れており、相手を翻弄して出し抜く。魔法技でも一癖あるものばかりである。

 キャプテンのイクオスに対しては敬意を抱いていると同時に、自分の方が喧嘩が強いとも思っている。ほかの生徒に関しては……あまりいい印象を持っていないと説明しておく。

 実はガムが好物で、市販で打っているフーセンガム一粒で誰よりも大きく膨らませることができる。

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