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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
二章 大会への道筋
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降りかかる突撃隊

 試合は早くも振り出しに戻る。点数は一対一。まだ十分もたっていない。

 ダーディススクラプ魔法学校が守りを捨てた攻撃重視のチームゆえにこのような展開になっているのだろうか。

『イクオス選手が速攻のカウンターで一点を取り返して同点。この試合、点の取り合い、ゴールの殴りあい、ハイスコアになりそうな予感がしますね!』

 実況の言葉通り、この勝負はいかに相手より点を取るか、そういう勝負になりそうだ。シュートを多く打ってゴールを多く奪ったほうが勝つ。

 シュートチャンスをどれだけ作るか。それこそが勝負の分かれ目だ。

「皆さん。どんどん行きましょう。彼らの攻撃に怯えてはいけません」

「ああ、わかっている」

「うん」

 先輩たちもシュンの言葉に真剣にそう返した。

 シュンはフィールドの中央に立ち、笛がなった。

『さあ、試合再開! シュン選手がボールを持って前に出ます!』

 キックオフ。

 モーグリンからボールをもらい、シュンは前に出る。

「やっぱテメーがくるか! シュン!」

 シュンにボールが渡ったのを見て

「トノスさん!」

「おう!」

 だがシュンはサイドライン近くにいるトノスにパスを渡す。

 ここでイクオスとの勝負を避けるシュン。

『おーっと! 素早いパス回しで進んでいきます! マギドラグ魔導学院も速攻だ!』

(まず点を取れ! 話はそこからだ!)

 今イクオスと勝負をする時ではない。

 同点になってしまったこの状況、すぐに点を取り返すべき。

「へえ、なるほどな。ならテメーのシュートを止めればいいだけの話だぜ! おい! ミッドフェルダーより後ろの奴はシュンからボールを奪いに行け!」

「「「はい!」」」

 イクオスはシュンたちを無視して自陣のゴールへと走っていく。ペナルティーエリア内で守りに徹するつもりなのだろう。指示されたダーディススクラプ魔法学校の選手はシュンたちに向かって襲い掛かっていく。

「むっ!」

「ビビるな! 単純な守りだ!」

「うんうん♪ わかった!」

 モココは怯えることなく、軽やかな動きで相手選手のディフェンスを潜り抜ける。低めの態勢で相手を惑わし、死角からのスライディングタックルも地面をこする音で察知して羽のようにふわりをジャンプ。かわいらしいドリブルでかわした。

「ふっふーん♪ シュン君パスだよ!」

「よし! モーグリンさん!」

「わかったよ!」

 モココからのパスをノートラップでモーグリンに渡す。

 シュンを中心とした変則自在のパス連携。ボールの動きが止まらない。シュンがパス軌道を突然変えるため、それにダーディススクラプ魔法学校の選手は対応できない。どんどん抜かされてシュンたちがダーディススクラプ魔法学校のゴールに近づいていく。

「く、くそ! もう面倒くせえ! シュンにぶつかってやらあ!」

 ボールを奪えない、ただただ抜かされていく、その光景を見てディフェンダーのコヒバがしびれを切らしてシュンに向かって突撃。パスをする瞬間にチャージしてボールを強引に奪うつもりだろう。

「おいおい、

 だが頭に血が上った単純な守りなんてシュンにとっては抜いてください、と言っているようなもの。

 パスボールをトラップした後、足首にボールを固定してそのまま回りながらステップ。コヒバのチャージもかすらず、楽々とかわされた。

 相手のディフェンダーを抜かした。

 ゴールが見えた。

「シッ!」

 足首のボールをそのまま上空に放り投げるように足を振り上げる。

 そして空に足で投げ飛ばされたボールは重力に引っ張られて地面に落ちていく。

 そのボールをシュートするために、回転蹴りの構え!

「テメーにシュートは打たせねえぜ!」

「イクオス!」

 だがシュンを止めようとイクオスがペナルティーエリア内から出てきてシュンに襲い掛かってくる。

 シュンがシュートを放つのを防ぐ、もしくはマジックシュートを放ってもシュートブロックで防ぐ。そのためにシュンに強引に攻めてきている。

 それでもシュンは冷静にコースを見定めてマジックシュートを放とうとした。

「――っ!」

 シュートを打とうとしたその瞬間、シュンの足元が止まる。

 だが止まったのは一瞬。すぐさま足を横に動かして、

「モーグリンさん! 決めてください!」

「うん!」

 落ちてくるボールをあえて空振って、かかとで近くにいるモーグリンにパスを渡した。モーグリンの周りには相手選手はいない。フリーだ。絶好のチャンスだ。

「『ウォーターシュート』!」

 魔方陣を展開。

 そして濁流の魔法シュートが炸裂。

 強烈な水鉄砲がゴールに向かって飛んでいく!

「シガー! 横だ! ゴールポストギリギリに飛んでいる!」

「了解です! イクオスさん!」

 イクオスの指示を聞いて体を横に向けて、

「そんなシュートなぞ! 俺の豪腕で止める!」

 頭上で手を組んで魔方陣を展開。

「『豪腕ロックハンマー』!」

 巨岩のような硬さと鍛え抜かれた両腕の筋肉から放たれるパワー、それが見事に組み合わさったアームハンマーが水流弾に激突。

 強烈な水の流れに逆らい、その豪腕を思いきり振り下ろす。

 そしてボールが地面に軌道を変えて、クレーターが発生して地面にボールが埋まるのであった。

 モーグリンの放ったシュートは止められてしまった。

「ふっ、そんな水! 俺の腕筋肉の前には冷や水だ!」

「あ~……」

 完璧なゴール隅のコース、自信があったマジックシュートであったがシガーに止められてしまい落胆するモーグリン。

「良いキャッチだ! さすがのパワーだな!」

「鍛えてますから!」 

「モーグリンさん、ドンマイです。次は違うコースを狙いましょう!」

「ん~……」

 シュンの励ましの言葉を聞いても不機嫌そうな顔するモーグリン。

 いつものほほんとしている彼女にしては珍しい対応。

 先ほどのシュートによほど自信があったのか、シュンはモーグリンの態度に不思議に思いながらもそう考えることにした。

(……しかし、どういうことだ?)

 味方のシガーが相手のシュートを止めたことに喜びつつも、今のシュンのプレイにイクオスが疑問に思っていた。

(今の場面は絶好のシュートチャンスだ。なのに味方にパスか)

 自分ならあの状況ならパスなんて出さない。シュートを打つ。

 チームのストライカーを名乗るなら絶好のシュートチャンスで他人にパスなんて出さない。己でシュートを打ちに行くものだ。

(そもそも、俺がシュートを止めようとしたのにあいつはシュートを打つモーションが乱れなかった。突然パスに変えたようにしか思えねえ)

「……何か秘密があるな。シュンには」

 ストライカーらしからぬ行動に若干戸惑いながらも、それは試合の中で見つければいい。

 ボールを蹴っていればいづれわかること。そればかりに思考を引っ張られていては試合に集中していないのも同然だ。

(……ちっ、魔力が少ねえ。序盤から無茶しすぎたな)

 シュンは自分の胸に手を当てて悪態をついていた。

 シュンは生まれながらにして魔力をためる事ができる器のようなものが小さい。マジックシュートである『ティルウィンドジェット』を連続で三回打てば切れるぐらいには。

 だからあのとき、シュンはマジックシュートではなくパスを選択したのだ。

(今は魔力の回復の時だ。ドリブルとパスなら皆のフォローができる)

 魔力が回復するまではチームの仲間にラストパスを送り続ける。それがシュンが今やるべきことだと考えた。

「イクオスさん! このボール、どうしましょうか!」

「俺にボールを渡せ!」

「はい!」

 イクオスの指示通り、すぐさまボールを投げ渡すシガー。

 ボールを受け取って、ゴールへと走っていく。

「さあ、もう一点取りに行くぜ!」

 再び始まるイクオスの単騎駆けだ。

【エルドラドサッカー日誌】 

 疾駆韋駄天

 イクオスが使用するドリブル技。

 両足に風を集めて、最大までためた瞬間に爆発。その風の爆発による加速で一気に相手を抜き去る、というより進行方向に無理やり進みこむドリブル技。自分が進む道に相手選手がいようが、お構いなしに突き進んで相手選手を吹き飛ばす強引なマジックドリブルだ。

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