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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
二章 大会への道筋
85/130

獰猛なケンカサッカー

 シュンの放ったシュートによって試合が動いた。

 一点を取り、一対零の状況。先制点を奪えた。

 この点を守りつつリードを広げるのが理想の展開。

(シュンが取ったこの一点……無駄にするわけにはいかないな)

 試合は始まったばかり、それに相手は攻撃重視のチームであるダーディススクラプ。余裕はない、油断はできない。

 マデュランは気を引き締めてフィールド中央にいる相手選手を見つめて、守ることを集中する。

 ボールの近くにいるイクオスとパイプ。

「おい、パイプ。すぐに俺にボールを渡せ。お前は後ろに下がっていろ」

「了解っス。イクオスさん」

 イクオスの要求に頷いた瞬間、笛が鳴った。

 試合再開。

 パイプがイクオスにボールを渡して、

「ぶっ飛ばすぜ!」

『おっと再びイクオス選手! 飛び出した!』

 試合が始まった時と同じように単独でゴールに向かって走っていく。

「また単騎か!」

 シュンはすぐさまイクオスの前に立ちふさがる。

 さっきと変わらない単純な攻撃。冷静に対処すれば止められる。

「怪我したくなかったら俺の前に立たない方がいいぜ!」

 イクオスは前に相手選手が来ようが足止めることはしなかった。むしろ走るスピードを上げて、さらに魔方陣を展開した。その瞬間、イクオスの周りに竜巻が吹き荒れる。

「『疾駆韋駄天(しっくいだてん)』!」

 そして、一瞬にして姿を消して、何十メートル先まで目にも止まらぬ速さで空を駆けるように飛び進んだ。

「――ぐはっ⁉」

「あぅ⁉」

「キャア⁉」

 そしてイクオスの行く道を阻むように立っていたシュンはその風に巻き込まれて空高く吹き飛ばされていった。それだけではない、シュンの後ろにいたモーグリンとプロスもその旋風に巻き込まれていたのであった。

『これは! 魔法による強烈なドリブルで一気に三人を吹き飛ばしていった!』

「魔法で強引に……本気で一人で決めに来たのか!」

 彼の怒涛のドリブルにマデュランは絶対に止めなければならないと確信した。

 それほど危機感を感じさせるほどの強引なプレイ。今の彼にシュートを打たせるわけにはいかない。

 マデュランは覚悟してゴールを死守しようとイクオスの行く道を塞ぎにかかった。

「止める!」

「俺の前に立つ……俺に喧嘩を売るってわけだな! いいぜ、その喧嘩のった!」

 己の前に立つマデュランを見た瞬間、足を振り切って鋭いシュートを放つ。

(これは! 胴体にシュートをぶつけて突破しに来た!)

「危ない! マデュランさん!」

 魔法を食らいながらも、すでに立ち上がったシュンがマデュランに大声で警告した。

「フン!」

 そのボールにマデュランは足と腹に力を込めて受け止める。イクオスの放ったシュートは強烈なシュートであり、マデュランの足が思わず後ろに引きずられてしまうも、それでも何とか耐えて受け止め続けた。

『おおっ‼ マデュラン選手! 今度も腹で止めた! ダーディススクラプ魔法学校のエースストライカー、イクオス選手であっても関係――』

「オラッ‼」

 関係ない、実況のメロエウタがそう言葉をつなげようとしたその瞬間、イクオスがマデュランに急接近して飛び膝蹴りをボール越しにかました。

 ガンッ!

 まさかのジャンピングニー。

 ボール越しとはいえいきなり蹴られたようなもの。さすがのマデュランも顔を歪み、その衝撃に耐えきらず吹き飛ばされてしまう。

「がはっ⁉」

『な、なんて凶暴なドリブル! いくらボール越しとはいえ、膝蹴りをマデュラン選手に喰らわせた!』

「なんつー技を!」

 反則だろ、とシュンは思うがここは異世界のエルドラドサッカー。ボールを持っていない選手に殴りかかるぐらいのでなければファールの笛はならない。

「うぅ……・」

「そんぐらいしねーとお前を突破できねーからよ。じゃあな!」

「テメー! このやろー! 『ストライクタックル』!」

 吹き飛ばされるマデュランを見て怒りを抱いたリンナイト。猛スピードのスライディングタックルでイクオスにカットを仕掛ける。

「オラッ!」

「うわっ⁉」

 ボールをかすめ取ろうとしたが、ボールに触れたときにイクオスが足に風をまとわせた蹴りをボールにぶつけて、その衝撃がリンナイトの右足に伝わる。旋風がイクオスの右足を弾き、そのままリンナイトは地面に激しく転がりながら飛ばされていった。

 ――圧倒的な暴力。

 イクオスのプレイスタイルを見て、誰もがそう思った。

 自身のパワーは相手選手を吹き飛ばし、ただ一直線にゴールを奪いに行く。

「くっ、止めないと――」

「遅い!」

「うわ⁉」

「キャ!」

 そしてゴール前にいたトイズ、バルバロサの二人のディフェンダーを蹴散らして、ゴールはすでにがら空きになった。

「飛びな!」

 魔方陣を展開し、浮かばせたボールに飛び膝蹴りをかました。ボールがへこむほどの強烈な蹴りをボールにぶつけて上空にボールを上げて――

「『臥竜空牙(がりょうくうが)』‼」

 膝蹴りをした瞬間に、体をひねらせて縦回転のインサイドキックが炸裂。

 するとボールに膨大な魔力があふれ、空駆ける竜となった。

 空を飛ぶ竜がゴールへと牙を向け、噛み潰そうと大きく口を開いた。

『なっ⁉ りゅ、竜だ! 竜がボールと共にゴールへと牙を向けて飛んでいく‼』

「『ファイアボール』!」

 エスバーは自分に向かってくる竜におびえることなく立ち向かう。両手で魔力を込めた炎の球を飛竜に向けて放った。

 だがその火の玉はボールに触れることなく、竜の雄たけびでロウソクの火を消すかのように軽く吹き消した。

「なっ⁉ ぐああっ⁉」

 自身が作り出した炎が軽々と消されてしまったことに驚いた瞬間、マジックシュートが胴体に激突して、竜にかみつかれながらゴールへと叩きつけられてしまう。

 試合が再開して一瞬であった。

『ご、ゴォォオルゥ‼ もう一点を取り返した! イクオス選手の豪快な攻撃にマギドラグ魔導学院の選手たちは一歩も手が出ません!』

「へっ、決めてやったぜ」

 ゴールが決まったことを確認して、帽子を外して指先で回しながら、

「これが俺の『ケンカサッカー』だ。どうだい、激しいだろ」

「な、なんて乱暴で強引なプレイ……でも」

 ベンチにいるレイカもイクオスの今のプレイを見て驚愕する。

(……喧嘩が強いと聞いて身体能力が高いだけだと思っていたけど。この男、普通にサッカーが上手い!) 

 乱暴なプレイに目が行くが、ドリブルやシュートを見て、ただの力任せのプレイではないことを見抜いた。

 ハイスピードのドリブル、アクロバティックなシュートに加えて、特に驚いたのは魔法の技術。魔法の名門学院であるマギドラグ魔導学院の生徒たちに負けていない。竜を放つあのシュート、あれを独学で作り出したというのなら大したものだ。

「リーダー、さすがです! こんなあっさり点をとっちまうなんて!」

「相手もなかなか手ごわいのに、キャプテンはこんなにも楽々と突破して! すごすぎ!」

「お前ら、こんなもんで満足しないだろ? 見に来た観客が飽きちまうぐらい一方的に勝っちまおうじゃねえか!」

「「「はい!」」」

「「「うっす!」」」

 イクオスの活躍に活気出すダーディスススクラプ魔法学校チーム。

 彼らにとって一点取られても関係ない。それ以上に点を取ればいい。

 相手が諦めてしまうぐらい持って点を取ってやる。それが彼らの超攻撃的『ケンカサッカー』なのである。

「……くぅ……なんて威力……」

「エスバー、大丈夫か?」

「……うん……大丈夫だよ、シュン……治療魔導師も必要ない……です」

 エスバーの体は無事。ヒーリングタイムに入ることなく試合は続行できそうだ。

 するとマデュランが申し訳無さそうな顔で、

「すまない……私が止めれなかったのが原因だ。君の一点を無駄にしてしまった」

「き、気にしないでください。次イクオスの攻撃を止めればいいですよ。俺も点を取りますから」

「……そうだな」

 そう言ってマデュランは自分の守るポジションに戻っていく。

(……不安だ。同点になったこと、引きずらなければいいが)

 試合はまだ始まったばかりだ。まだ同点になっただけ。だがマデュランの様子を見て不安がよぎる。

 ここから先は波乱が満ちてきそうな、そんな予感がした。


【エルドラドサッカー日誌】

 臥竜空牙

 イルマ・イクオスが放つマジックシュート。

 飛び膝蹴りからの体を捻らせてインサイドキックのコンビネーションで蹴り飛ばし、強大な魔力によって竜を作り出し、空をかけるような速度でゴールに向かっていく。

 元々は喧嘩で使う必殺技をマジックシュートにしたものであり、飛び膝蹴りで相手の顎を砕き、インサイドキックで相手の頭をへこませ、そのまま地面に叩きつける。この技を受けて立ち上がったものはおらず、シュートも喧嘩で使う時と変わらない威力である。

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