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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
二章 大会への道筋
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猛攻

 シュンのマジックシュートをイクオスのマジックシュ―トである『ケンカキック』で弾き飛ばされて、そのボールを拾ったのはパイプである。

「テメーら! 根性だ! 突っ切れ!」

「「「はい‼」」」

 イクオスの指示に従い、ダーディススクラプ魔法学校サッカー部の攻撃陣、全力突破。

 大人数がゴールを奪いに相手フィールドに攻め入っていた。

『ダーディススクラプサッカー部の怒涛の行進だ! ゴールに殴りこんでくるぞ!』

「来るなら来い!」

「ワタシたちが止める!」

 アイメラ兄姉が相手の攻めを止めようと前に出る。そしてプロスがパイプにチャージを仕掛けた。互いに肩がぶつかりあい、パイプの方がよろけてしまう。

「うわ!」

「奪った!」

 ボールを取りすぐさま味方に渡そうとする。

 だがその時、ボールを奪われたパイプはすぐさま体勢を立て直し、足払いスライディングで再びボールを奪い返した。

「キャ⁉」

「おいおい、ボールは俺のっスよ」

「このやろー! 吹っ飛べ! 『ファイアチャージ』!」

「うおっ⁉」

 炎をまとったショルダーチャージでパイプから再びボールを奪い吹き飛ばすトノス。パイプも空に吹き飛ばされては簡単に体勢を立て直すことはできない。

 ボールを奪えた、これで攻撃はマギドラグ魔導学院の方になる。

「うおおお! かえせ! アンのボールだし!」

 そう思ったトノスに、何かが突っ込んでくる。

「へ?」

 トノスはすぐさま足元を見て驚く。

 アン・ホーラが頭からボールに向かって突撃。ダイビングヘッドスライディングだ。

 あまりにも無謀な体勢でのタックル。

 それでも恐怖することなく低空で飛んで突っ込んでくるホーラ。その勢いのままトノスのボールを奪いうつ、頭からの突撃で弾き飛ばした。

「ぎゃ⁉」

「イテ⁉」

 そして頭から突撃したホーラもボールを奪い返した瞬間、頭を抱えてじたばたと暴れまわる。額に激痛が。

「バカ! だから言ったろ! 頭からスライディングなんてやめろって!」

「バカっていうなし!」

 こぼれたボールは味方のフォワード、シーシャが拾って周囲のメンバーと一緒にゴールに向かっていく。バカといわれて怒ったアン・ホーラを無視して。

「お前ら攻めろ! ゴールに殴りこめ!」

「ボールをとっても無理矢理奪い返しに来る⁉」

「攻めも守りもお構いなしか!」

『ダーディススクラプ魔法学校、止まらない! ボールを奪われてもすぐさま取り返して前に進んでいく! むしろボールを奪われても全然焦っていないぞ!』

「攻撃陣の人数が多いからこそできる攻めか」

 相手チームのプレイスタイルをそう判断するマデュラン。

 前線に人が多いということは、ボールを取られてもすぐさま取り返しに行ける。パスボールだってカットしに行けるだろう。

 ボールを奪われても、そのボールを前線に維持し続けてじわじわとゴールに近づいていく。

 それがダーディススクラプ魔法学校の攻めのスタイルなのだろう。

(逆に言えば、相手が攻めてきているときにシュンにボールを渡せば……)

 守りが手薄になっている状況、強烈なカウンターをお見舞いすることができる。

「確かに攻めは強烈だけど……マデュランさんたちなら止めれる」

 応援しているレイカもダーディススクラプ魔法学校の攻めのスタイルはなんとなく理解していた。

 だからこそ、あの攻めをマデュラン率いる守備陣で防げると思っている。

「止めに行くぞ! スラは後ろで!」

「わかった!」

 相手のパスカットをリンナイトに頼み、マデュランが前に出る。

「でかぶつめ! 逆に吹っ飛ばしてやる!」

 すると魔方陣を展開する相手フォワード、シーシャ。

 右足に魔力を込めて、そのままボールを全力で蹴り飛ばして、

「『キラーパス』!」

 シュートボールがマデュランの腹部めがけて進んでいく。

 相手を吹き飛ばすようなシュートを、まるで味方にパスを渡すかのように出すマジックドリブル。至近距離のマジックシュートならどんな相手でも吹き飛ばす。

(ビビって避けな! そしたらそのままシュートだね!)

「フン!」

 ――ガキンッ‼

「へ⁉」

 シーシャの放ったシュートのような激しいパスは、マデュランの腹部に命中した。その時、金属でもぶつかり合ったような音がする。

 その音に驚くシーシャ。

「その程度がシュートか!」

「――キャアアッ⁉」

 さらに空に吹き飛ばされてしまう。あまりの驚きの展開に地面に落ちた後、マデュランの様子を確認する。

 マデュランは全くの無傷であった。痛みに苦しんでいる素振りすら見せない。ノーダメージである。

(腹部にバリア貼って防いだのか! なんて速い詠唱!)

 パイプはすぐに理解した。マデュランがなぜ無傷なのかを。

「ええい! うばいとればいいだけの話じゃん!」

 すぐさまボールを奪い返そうとホーラ達がマデュランに激しいチャージを仕掛けに行く。

「力なら負けん!」

「うわ⁉」

 容赦ないチャージも、マデュランは肩に力を込めて数歩前に押し出すように進む。芝がはげるほど全身に力を込めたチャージドリブルは襲い掛かってきたダーディススクラプの選手を思いっきりはじき返した。

 相手の攻撃が崩れている! 

 いまが反撃の時か。

「パスを!」

「出させるかよ!」

 そのパスを妨害しようとするものが。

 パイプからしてみればここまで攻め込んできたのだ。

 そう簡単にボールを奪われたままでいられるか。パイプがマデュランのボールを奪い返そうと素早くカット。

「邪魔をするか!」

 それを見たマデュランは強引にボールを蹴って、目の前のパイプを吹き飛ばして味方にボールを渡そうと足に力を込める。

 それに負けじと、パイプも足に力を込めた。

「パイプ! だいじょうぶ⁉」

 さらに横からホーラがマデュランに向かって素早くチャージ。力で負けるパイプ、だがマデュランの動きを数秒止めればそれでよかった。

「ぐっ!」

激しいアタックディフェンスのコンボ。

 これにたまらず苦い顔を浮かべるマデュラン。それでも必死に味方にパスを渡そうと足を振り払う。

「しめた!」

 だがしかし、ボールに力を込めることができず、こぼれたボールはイクオスの前に。

「決めてください! リーダー!」

「吹っ飛べ! 『ケンカキック』!」

 人体を蹴り壊すような勢いで足を突き出してシュートを放つ。

 喧嘩によって鍛え上げられた突き出し蹴りのマジックシュート。まっすぐとゴールへと進んでいった。

「テメーに決めさせるかよ! 『ストライクタックル』!」

 そのシュートに待ったをかけるものが。

 リンナイトが地面をスライディングで滑りながら、イクオスのマジックシュートを横から蹴りつけて止めようとする。

 ――ガンッ‼

 高速スライディングから繰り出されるキックがボールに激突。

「チィ! 重てえな!」

右足に鉛球を蹴ったかのような鈍い衝撃が返ってくる。それだけイクオスのマジックシュートの威力がわかる。このシュートはエスバーでも止めるのが難しいであろう。

 ならばディフェンダーである自分がそのシュートを止めてやればいいだけの話。それが先輩の務めというもの。

「ウオラッ!」

 さらに足に力を込めて、ボールを押し出す。するとボールは思いきり横にずれていき、ゴールから外れていった。

『おっと、リンナイト選手! イクオス選手のシュートを弾いた!』

「ッ! コイツは驚いたぜ! だが!」

「ハイハイっす! 『激流口』!」

 魔方陣とともにシュート。水をまとったマジックシュート。ハイスピードでゴールに飛んでいく。

「……『ファイアボール』!」

 マジックシュートを止めようと、エスバーも魔法を発動する。手のひらに熱く燃える炎の球を作り出し、それを相手のシュートボールにぶつけて止めようとした。

「――フッ‼」

 すると、パイプの口から水が吐き出され、鉄砲水のように勢い発射された水がボールに命中して、軌道が大きく曲がっていく。

「ボールにつば吐いて⁉」

「魔法の水だからセーフ!」

 戸惑っているシュンの言葉にダーディススクラプ魔法学校の選手がすぐにそう答えた。

 納得いかないがセーフらしい。

 急なボールの軌道変化。普通ならそのフェイントにつられてしまうもの。

「――見えた!」

 ボールが曲がった瞬間、すぐにエスバーの体が動く。

 手のひらに作り出した火の玉を投げることなくそのまま握りつぶす。すると右手が炎にそまり、その炎の右腕でマジックシュートをワンハンドキャッチ。シュートの勢いに流されることなく、ボールを握りしめてつかみ取り防ぐことができた。

「な⁉」

 止められたボールを見てパイプは唖然。

 このシュートはパイプのとっておきの変則マジックシュート。

 それを初見で見切られて止められた。

 そのことに信じられないような表情を浮かべてしまう。

『と、止めた! エスバー選手、なんて超反応! 突如軌道が変わったマジックシュートをすぐさま対応して見事つかみ取りました!』

「やるっ! エスバーくん!」

「……シュン!」

 ボールを軽く投げた後、すぐさま足を振って蹴り飛ばす。

 そのボールはフィールドの中央にいたシュンのもとに。

 相手選手はシュンのチームの自陣まで深く攻め込んでいる。

 絶好のカウンターチャンスだ。

「今度は決めるぜ!」

「打たせるかよ!」

 ボールを持っているシュンのもとにイクオスがダッシュで向かってきている。パイプのシュートが止められた瞬間に戻ってきている。

 なんてスピードだ、このままでは相手のゴールに向かっている最中に止めに来る。さらにはゴール前まで移動してきて先ほどのようにシュートを止められるかもしれない。

 この絶好のチャンス、イクオスに邪魔されたくない。

「ならば――」

『シュン選手! ここで魔方陣を展開だ! まさかのロングシュートか⁉』

 イクオスがディフェンスをする前に、自分がシュートを打ってしまえばいい。

「飛ばすぜ! 『ティルウィンドジェット』‼」

 旋風の弾丸シュートが彼の右足から放たれた。そのシュートは空高く軌道を描き、山なりに飛んでいく。

「これは、前にやった中盤からのロングマジックシュート!」

 前の選抜戦でやった長距離マジックシュート。あの時は軌道を読まれて、シュートブロックをされてしまい結果決まらなかった。

 だが読まれなければ奇襲の一撃だ。

「え⁉ うそ⁉」

「この距離で!」

「ええい! そんな距離でシュートを放ってくるとはなめられたものだぜ! 止めてやら!」

 シガーが止める気満々で魔方陣を展開。

 その魔方陣に両腕を突っ込み、その腕に強烈なパワーを宿らせて空高く飛ぶ。

 両手を頭上にあげて、手と手をがっしりと握りしめて、

「『豪腕ロックハンマー』! ダウン!」

 全身全霊の力で腕を振り下ろした。

 風のマジックシュートにアームハンマーをぶつけて、そのまま地面に叩き落とそうとして――

「くわっ⁉」

 だが、ボールの勢いは止まることなく、地面に激突することもなく、シガーの腕を豪快に弾き飛ばして、ゴールのネットを揺らした。

 決めた。

 シュンのマジックシュートがゴールを決めた。

『決まった! シュン選手のロングシュートが決まったぞ! 試合早々、一点をもぎ取った!』

「よし! 早速決めてやったぜ!」

「くそ! 俺の鍛えた筋肉と魔法が弾き飛ばされるだと! イクオスさん以外に⁉」

 ゴールを決めれたことにガッツポーズ。

 会心のシュートをゴールに叩き込むことができた。

「さすが! 今回も決めたな!」

「まだまだ試合は序盤、どんどん決めていきますから!」

「頼もしいー!」

 先制点を取れたことに喜ぶマギドラグサッカー部。

「さっすが! やるじゃない!」

「あの距離から入るものなのね! ほんとすごいシュートコントロール!」

 ベンチにいるレイカもクアトルもシュンの活躍に

「あー! くそくそくそ! 守りの奴ら何やってんだよ! 止めろよ!」

「なんだと! お前らが攻めに行き過ぎたのが原因だろ!」

「なんだテメー! 吹っ飛ばしてやるよ!」

 ダーディススクラプ魔法学校のサッカー部メンバーが仲間同士で取っ組み合う。点を奪われたことに怒りを抱いて、その怒りをどこかにぶつけようとしている。

 ようは仲間に八つ当たりしているようなものである。

 相手の学院にその怒りをぶつけない良心はあったが、その学院の生徒の目の前でやるような行為ではない。

点が入り試合が中断しているが、それでも試合の途中で喧嘩が起きているのはまずいことである。このままだと試合は中止になってしまうかもしれない。

 シュンは頭を抱えながらも、とにかく彼らの騒ぎを収めようと声をあげようとした瞬間、

「お前らッ! ケンカしてーなら試合が終わった後にしやがれ! なんなら今俺がお前らのけんか相手になってやろうかッ!」

「「「お、おっす! リーダー! ちゃんと試合します! はい!」」」

 イクオス、激怒の喝。

 そのケンカは、イクオスの一喝ですぐに収まった。

「その怒りは試合でぶつけろ。点取られたら点取り返せばいいだけの話だろうが」

「「「りょ、了解です!」」」

 叱られたダーディススクラプ魔法学校の選手たちはすぐさま散って自分たちのポジションに戻っていく。

 とにかく騒ぎは収まった。試合が途中で終わることはなさそうだ。

「くー! 取られちゃった! パイプ! 点取られちゃったよ! ねえねえ! シュンに取られちゃった!」

「何度も同じことを言うな。イラつくっス」

「くそったれ……あのシュンってやつ! 絶対に吹き飛ばしてやるぜ!」

「ああ、ボール持った瞬間、蹴り飛ばしてあいつのドリブル止めてやろうじゃん!」

 さっきの騒ぎも収まっていたが、彼らの闘志はむしろ激しく燃えがっている。ここからより攻撃が激しくなるだろう。彼らの言葉を聞いてシュンはそう感じた。

「いいケンカできるのはシュンだけかと思っていたが……なんだ、全員ぶっ飛ばしがいのあるやつらばっかじゃねーか」

 そんな感想をこぼしながら、獲物を見つけた獰猛な獣のような笑みを浮かべたイクオス。

「ねえ、パイプ。あーし怖いよ……イテッ⁉」

「力込め過ぎだ、痛いっス。しかし久しぶりに見たっス。イクオスさんのあの顔」

 パイプは体を震わせて抱き着いてきたホーラを腕で薙ぎ払いつつ、イクオスの楽しそうな表情を見て、

 ――ああ、お相手さん。ご愁傷さまだな。

 心の中で憐れむように、手を合わせていたのであった。

【エルドラドサッカー日誌】

 イルマ・イクオス

 身長181センチ 魔力属性 風

 ダーディスススクラプ魔法学校に在学している生徒。

 彼は無類の喧嘩好きで勝負に熱くなりやすい性格。それでいてどんな状況でも冷静でいられる度胸も持っている。

 彼にとって喧嘩とはルールある対等な勝負であり、殴り合いだけでなくボードゲームや箒のレースだってよくしている。他人と競い合い、身を削るような勝負をすることが一番の楽しみなのだ。

 喧嘩で鍛えた戦闘術をサッカーに取り入れており、『ケンカサッカー』はゴールを邪魔するものを全てなぎ倒していく。

 実は成績優秀。学校内でテストの成績は1位を常にキープ。他の学院に行ってもトップを狙えるぐらい勉強できる。

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