練習試合! ダーディスススクラプ魔法学校
激しくなるサッカーの練習が続き、とうとうその日がきた。
他校との練習試合当日。
今日の天気は快晴、雲はない。まさに絶好のサッカー日和。
シュンの見る景色は横に流れている。
シュンたちサッカー部は馬車に乗ってダーディススクラプ魔法学校に向かっている最中であったであった。
「馬車ってけっこう揺れるもんだと思っていたけど、全然そんなことないな」
「マギドラグ魔導学院は魔法の名門学院よ。馬車だって最先端のものを使っているわ」
「というか、今日の練習試合、相手の学校の方でやるのか」
「こちらから申し込んだし、ほら、ダーディススクラプ魔法学校は……落ち着いてきたとはいえ世間じゃあ不良の集まる学校だって思われてるから、だからね」
「あー、なるほど……」
クアトルの言葉を聞いて納得する。
不良を学院の中に入れたくない、マギドラグ魔導学院の教師陣はそう考えて、ダーディススクラプ魔法学校のサッカーグラウンドで練習試合を行うことにしたのだろう。
「なあなあクアトル先生。相手の生徒たちがちょっかい駆けてきたらオレらも反撃していい?」
「ダメに決まっているでしょう。もしそう来たら教師権限で私がぶっ飛ばすから安心しておいて」
トノスの危ない質問に、クアトルが物騒な言葉で返す。
「いや、いいんですか? 他校の生徒に手を出したら問題になりませんか?」
「シュン君、その言い方は危ないからやめなさい。まあ危険な魔法を使ってきたら他校の教師でも、教師の資格があるものなら魔法を使用して鎮圧してもいいのよ。魔法で大きな被害を出されたら多くの人に迷惑がかかる、それを阻止するという役目があるからね」
「そんな権限あるんですか……」
「まあ、その権限は教師以外も持てるけど、っともうすぐつくわよ。皆、準備して」
どうやら目的地に到着するみたいだ。
馬車が止まり、背を伸ばして馬車から出る。
目の前にある学校、ダーディススクラプ魔法学校に到着だ。
「いや、意外とキレイ……だな」
「ええ、どこにでもある普通の魔法学校ね」
「……もっと暗い雰囲気……あると思っていました」
サッカー部がダーディススクラプ魔法学校の校舎を見てそう感想をこぼした。
噂ではいわくつきの不良学院。
だがそうとは思えないほどきれいな学校。この世界でよく見る姿の校舎。どこかがひどく汚れていたり壊れたりしていない。
不良のたまり場といわれてもそう思えないほど、普通の学校であった。
「ふむ、どうやら私たちが考えていたことは杞憂だったみたいです。いきなりメンチ切られて、ケンカに発展するかと考えていましたが」
「ターキン、あなた割と物騒なこと考えているよ」
「まあ、安心しろって。もしお前らにちょっかいかけてきた馬鹿がいたら俺が蹴り飛ばしてやるよ」
「リンナイトさん! 私たちケンカをしにこの学校に来たわけではありませんよ!」
――シュイーン‼
何気ない物騒な会話を繰り広げていると、どこから空を切る音が響いた。
「何の音⁉」
「箒が飛ぶ音よ!」
「――オラオラ! 通るぞ通るぞ!」
「邪魔だ邪魔だ! どけどけ!」
突如空からうるさい叫び声が響く。
見上げると、この学校の制服を着た生徒が乗り物に乗って飛んでいる。
(ば、バイクの形をした箒⁉)
彼らの乗っている箒は箒を呼んでいいものなのか疑問を呼ぶものであった。
乗っている部分はもはや棒ではなく大木。それに目に悪いペイントを塗られており、メタリックな光沢が輝きを放っている。
このエルドラドで最近はやっている大型箒。乗りやすさとスピードを準来の箒より伸ばした、今若者が誰もが乗りたがっている魔法の箒だ。
すると上空で全員一斉に止まり、地面に向かって降下していく。
「よお! マギドラグ魔導学院の皆さん! 俺がこのダーディススクラプ魔法学校のサッカー部キャプテン、イルマ・イクオスだ! 今日はヨロシク!」
そして魔法箒の群れの先頭に立っている男、イルマ・イクオスが姿を現した。
「おお! お前ら止まれ! 今日戦うお相手さんだ! 挨拶してやりな!」
「「「うっす‼」」」
「「「対戦よろしくッ‼」」」
イクオスの指示に全員頭を下げて、うるさい大声とともに挨拶の言葉をかわした。その姿勢、一切乱れることなく行われた。
「……ええ、よろしくお願いします」
サッカー部の監督であるクアトルが戸惑いながらも、律儀に挨拶を返した。ほかのマギドラグ魔導学院サッカー部メンバーは突然の箒飛行からのあいさつに唖然としていた。
そんな彼らを知らんとばかりに、挨拶をしたイクオスは再び箒・空に浮かんで、
「俺らは先に行って着替えてくる。パイプ、来てくれた学院の人たちにグラウンドまで案内してやりな」
「了解っス!」
縞々模様のスカーフを首に巻いている生徒の一人にマギドラグ魔導学院チームの案内を任せて、そのまま学校内に飛んでいく。おそらくグラウンドに向かっていったのだろう。
嵐のようにやってきて去っていったクアトル。
誰もがその場でとどまっていた。
「……かっこいい登場しやがって」
「マネするなよ。私たちの学院でしたら風紀委員がすぐに向かってくるからな」
よからぬことを考えるトノスにくぎ刺すマデュラン。
マギドラグ魔導学院は風紀を乱す生徒の問題行為は見逃さないのである。
それはともかく、早くサッカーグラウンドに向かうべきだ。
「えーと、案内お願いしますね」
「……はあ、面倒なこと押し付けられたな。でもオレ以外の学生で道案内できる頭してる奴イクオスさんしかいねーしな」
かなり大きめの小言が聞こえてきた。なめ腐っているような言葉を吐いている。
「あの……」
「あっ、いや何でもないっス。ただのひとり言っス。オレの名前はキセル・パイプっス。とりあえずついてきてくださいっス」
面倒くさそうにしながらも、リーダーであるイクオスの指示には逆らえないのか、マギドラグ魔導学院のメンバーをサッカーグラウンドまで案内し始めた。
学校内に入るも、やはりきれいだ。それに静か。
生徒はいるも談笑していたりするぐらいで、騒がしいことはない。
(静かだな。正直もっと騒がしいところかと思ったが)
「あんたね! この! この!」
「はっはっは! 効かんぜ! そんなへなちょこパンチ! 痣どころか、痛みもつかん!」
「むっかー!」
いや、うるさかった。
顔や髪や爪にやたらカラフルなメイクしているギャル生徒が大柄の角刈りの男子生徒に殴りかかっている。
想像しているよりなんか和やかだか、ケンカが起こっている。
「あの、なんかケンカが起こっているんですが」
「ああ、気にしないで。皆さんに被害がいかないようにオレが対処するっス。まあ、あれは生徒同士のじゃれ合いってヤツっスね」
「随分とまあ……」
確かにじゃれあい程度なのだろう。ギャル生徒の殴る姿を見ても、ポカポカと軽い音が鳴りそうな弱めのパンチを繰り出しているあたり、本気ではない。
そして騒いでいる二人組にパイプが突っ込んでいった。
「オラッ! 他校の生徒が来るときは暴れるなって言われたろ!」
「あッ! パイプだ! どこ行ってたのよ!」
「そうだぞ! 朝練の最中にいなくなって! 心配になったぜ!」
「心配してんならなんでそこでケンカしてんスか」
「ねーねー! パイプ! シガーがね! あーしのシュートを止めて、よわいぞ! パワーがひくすぎる! っておおごえでいってきたの! ひどいよね!」
「弱いものに弱いと言って何が悪いのだ! くやしかったら俺の腕を壊すぐらいのシュートを打ってみるのだな! もっとも俺の鋼よりも堅い肉体にそんなことができるのは、リーダーであるイクオスさんしかできないけどな! はっはっは!」
「むきー! けりこわしてやる!」
「あーもういいから。もう対戦相手の学院来たっス。だから早くグラウンドにいけ。ぶん殴るぞ」
「えー! どこにいるの!」
「あれだ! もうグラウンドにいるのだな!」
「早く行け!」
「やば、パイプが怒った! 逃げろ!」
「だな!」
「グラウンドにイクオスさんがもういるんだ! 待たせると怒られるぞ!」
「え、まじ! イルマいるの! じゃあ、早くグラウンドにいく!」
「だな!」
騒ぎながらこの場から消えていく二人組。
いつまでもうるさい二人組だった。彼らがいなくなって、この場が一瞬静かになったぐらいには。
「知り合いなのか?」
「ええ、まあ。恥ずかしいことに。女がアン・ホーラ。男の方がレット・シガーって言いますっス。同じサッカー部メンバー。この学校で集まっている馬鹿の中でもトップクラスの馬鹿っス」
「容赦ないね、君」
知り合いなのに罵倒の言葉が止まらないパイプに、シュンは顔を引きつらせる。他人の前で言うことではないし、せめてもう少しオブラート包むべきではないか、シュンはそう思った。ほかのサッカー部のメンバーも同じことを考えているはずだ。
まあ、先ほどの会話の内容といい、相手のことを容赦なく言えるのは少なくとも仲は良いのだろう……おそらく。
「……なんか騒がしい人たちだったな」
「騒がしいというか、なんというか?」
「あんま気にしないでくださいっス。彼ら、馬鹿なだけなんで。さっ、もうすぐつくっすよ」
再び歩き始めるパイプとマギドラグ魔導学院サッカー部。
しばらくするとグラウンドに到着。
フィールドは土でできており、グラウンドの周りにはダーディススクラプ魔法学校の生徒たちが集まっている。
「はい、着きましたっス。ここが学校のグラウンドっス」
「なんか、観客の数多くない?」
「まあ、最近サッカー流行ってますし。それにあの人も出場するっスからね。みんな彼の活躍が見たくてワクワクしてるっス」
「あの人……」
シュンも、ほかのサッカー部メンバーもあの人がどのような人物はわかっている。
さっき箒で登校してきたイクオスのことであろう。
彼はこの学校で人気者のようだ。
「よう! シュン! 久しぶりだな!」
その声とともに、ボールがシュンに向かって飛んできた。強烈な勢いを感じる。ゴールを狙うシュートのようなボールだ。
「シュン! 危ない!」
「――おっと!」
それをシュンは軽く飛んでボールを踏みつけて自身の足元に収めた。
誰がこのボールを打ってきたかはすぐにわかる。
「いきなり激しいな。イクオス」
「声かけたろ」
「わかりずらいかけ声だな。今のあいさつだろ」
「俺なりのあいさつさ」
迷惑な挨拶だ。
そう思いつつも、ボールを受け取ると気分が高まるシュン。根っからのサッカー少年だ。
「練習試合が待ち遠しくて仕方なかったぜ。ボールを蹴る足に力がこもるってもんよ」
「へー、あんたがシュンなの?」
「オメーのことはイクオスさんから聞いてるぜ! てかさっき見たぜ!」
(さっき言い争っていた二人組か)
イクオスの後ろから先ほどケンカしていたホーラとシガー
「アンタをぶっ飛ばせばあーしたちの勝ちなのね!」
「俺はゴールを守るから体当たりにいけないな!」
「サッカーのルールわかっているのか?」
サッカーは格闘技ではない。
いや、この世界ではそう考えているものもいるかもしれないが、少なくとも点取り勝負のはずだ。
「そうだ! 強いやつを潰せば勝てるんだ!」
「あとゴールを守る人も魔法で吹き飛ばせば点が取れる!」
「攻撃こそがサッカーだぜ!」
(野蛮だな……おい)
この二人組だけでなく相手チームのほかのメンバーも、やる気満々だ。サッカーは相手を吹き飛ばす喧嘩だと考えているかもしれない。
ゴールよりも血を見ることが多くなりそうだな、と心配になることを考えるシュン。
「おいおい、あんま怖がらせんじゃねーぜ。まあ、お前はそんな程度でビビるとは思ってねーがな」
「いや、ビビるよ。サッカーの試合が成立するかどうか、今からハラハラドキドキさ。審判の手を上げる姿をよく見ることになりそうだ」
「なんだと……なんで!」
「ホーラがポカやらかしてファール起こしまくるかもしれない、シュンさんはそう言っているっスよ」
「なに、キセル! いまばかにされたの⁉」
「馬鹿にしたというか事実っスね。心配になるのも仕方ねっス」
「むっか~!」
「シュン、あんた言うじゃねーか」
イクオスの後ろで地団駄踏んでいるホーラを無視して、シュンの言葉に笑みを浮かべた。
初めて出会ったときは不良相手に逃げ回っていたら臆病な男かと思っていた。だがサッカーにおいては誰よりも度胸がある男だ。現にイクオスのチームメンバーからにらまれていてもシュンは涼しい顔をしている。
なおさら勝負が楽しみというもの。
「お前との勝負もいいが、あの女とも勝負が楽しみだ」
「ああ、それはな……だな」
あの女、すなわちレイカのことであろう。
「レイカは……その、な。事情があって出られないんだ」
「ほーう……」
シュンの言葉に残念そうにしながらも、
「まあいいか。ワケアリなら仕方ない」
「察してくれて助かる」
「なーに、安心しろ」
マギドラグ魔導学院のサッカー部に指さして、
「あの女が出ねーとマズイぐらいお前らを追い込めばいい。それだけの話だ」
そう言ってチームの元へ戻っていく。
その言葉、お前らなんて楽に倒せるぜ、そう言っているようなものだ。
その挑発にサッカー部はムッとする。
「自信満々に答えやがって。オレらのこと舐めてんな!」
「なら逆にこっちが相手を追い詰めればいい。違うか?」
「だね!」
サッカー部にとって練習試合でありながら、絶対に負けられない勝負が、今始まる。
スタンディングメンバー
・マギドラグ魔導学院
シュン FW
チコ・モーグリン MF
トノス・チャーチ・アイメラ MF
プロス・チャーチ・アイメラ MF
モココ・ユーミール MF
リンガル・ミーホ・マデュラン DF
プーニー・トイズ DF
ターキン・バルバロサ DF
スラ・リンナイト DF
マーズ・ミンホイ DF
フレイ・エスバー GK
・ダーディスススクラプ魔法学校
イルマ・イクオス FW
キセル・パイプ FW
アン・ホーラ FW
シーシャ FW
セブンスタ FW
スートン・ウィナ MF
マル・ボーロ MF
カメル MF
コヒバ DF
スヌース DF
レット・シガー GW