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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
二章 大会への道筋
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練習試合に向けて

 ダーディススクラプ魔法学校との練習試合で勝たなければ、サッカー部はAクラスチームと合同でエルドラド魔導祭にでることになる。

 そう決定された。

 それはサッカー部とAクラスの中から実力のある生徒が選ばれて、一つのチームを作り大会に出るようになるということ。

 もし練習試合に負けてしまったら、おそらくではあるがサッカー部のほとんどのメンバーはエルドラド魔導祭に出場できないであろう。Aクラスの生徒が代わりになるに違いない。

「ほら! もっときびきび動いて!」

 ゆえに、今日行われる練習の雰囲気もより熱くなっている。

 クアトルもフィールドに入って生徒たちの練習相手として頑張っている。

「なんで監督がフィールドに?」

「サッカー部、俺が入る前は九人しかいなくて。代わりにクアトル先生が入ってたんだよ」

「……普通に上手いわね」

 レイカの疑問の声にシュンはそう答えて、なるほどと納得するレイカ。

「ほら、レイカ。次はお前の出番だぜ」

「ええ、わかったわ」

 攻撃の練習をしているレイカ。

 ディフェンダーとゴールキーパーを軽く見つめた後、

「ふっ!」

 目にも止まらない足の一振りから放たれる強烈なシュートは、ディフェンダーが反応することなく、ゴールキーパーの腕を軽々とはじいてキーパーごとゴールに叩き込んだ。

 魔法を使わずに、なんて驚異的な身体能力。

「うん。いい調子ね」

「ヴィルカーナさん、すっごーい♪ なんてパワー♪」

「これは……マデュランさんよりも強烈なシュートかもしれませんね。私も真正面からは受けたくありませんね」

 モココとバルバロサがレイカの鋭いパワーシュートを見て感嘆の声を上げる。

「ほらほら! 俺を止めてみな!」

 次はシュンが攻め込んでいく。

「ええい! 打たせるか!」

 ディフェンダーがシュンを止めようと突っ込んでくるも、

「おっと!」

 ショルダータックルは当たる寸前に、相手選手の肩をかするかかすらないかぎりぎりの距離で避けた後、そのままジャンプしながら回転して、

「シッ」

 ジャンピングボレーが炸裂。

 強烈なスピンがかかったボールはゴールキーパーの前で真横に曲がって、それに反応して手を伸ばすも届かず、ゴールネットを揺らした。

「よし! どんなもんだい!」

「こっちもすごいっ♪ 鮮やかに決めたよ♪」

「剛と柔。互いに違うスタイルでありながら、一流のストライカーですね」

「むふふ~、シュンくんとヴィルカーナちゃんの動きを魔導人形にトレースさせれば……もっといい練習になるかも……ついでに身体能力とマジックシュートの威力も上げて……」

「モーグリンさん、もはや練習道具ではなく兵器を作ろうとしていませんか?」

 無邪気な笑みで物騒なものを開発しようとしているモーグリンに冷や汗をかくバルバロサ。気を失いケガをするようなものは作らないでほしいと祈って注意した。一方、モココは二人のシュートの打ち方を真似していた。

 フィールドの誰もがシュンとレイカの二人の動きに注目している。

「……私なら、彼らをどうやって止めることができるのだろうか」

 キャプテンのマデュランが真剣なまなざしでシュンとレイカの動きを見ていたのであった。




 練習が終わり、生徒たちが片づけをして帰る支度をしている。

 シュンは部室に戻らず、グラウンドに立っていた。

「レイカ、自主練付き合ってくれるのは嬉しいけど、大丈夫なのか? 家族の人、心配してない?」

「大丈夫よ。パパとママに伝えてあるし、グラウンドの外でばあやと護衛が見守ってくれるから」

 レイカもシュンと一緒にグラウンドにいる。彼女も自主練習に参加している。

「家族はレイカがサッカー部に入ることに喜んたのかい?」

「ええ。当主として学ばないといけないこともあるけど、せっかく高等部になったばかりだから部活でも入ったら、って言われて」

「そうなんか。よかったな」

 少し心配していたことだった。

 レイカの両親が、レイカがサッカー部に入ることにどう思っていたかどうか。

 だが、それは杞憂だったみたいだ。

「……家の使命にこだわっていたけど、少し背負い過ぎていたのかもね。パパとママだけじゃあない、ばあやも私の家で働いている従者も、みんな私がサッカー部に入ることに歓迎してくれたわ」

「な、言ったろ。皆レイカがサッカープレイヤーとして活躍している姿が見たいんだって」

「といっても次の試合には出れないけどね……まったく面倒な要求を叩きつけられたわ。私が出れば絶対に勝てるのに」

「俺もそう思うけどさ。じゃあ、試合終了間際にミンホイさんと交代するってのはどうだ? それなら文句言われねーさ」

「はじめっから出場したいわよ!」

「お、やっぱいたか」

 これから練習を始めようとしたとき、誰かがこのグラウンドにやってくる。

 声をした方向を見ると、リンナイトがこちらに歩いてやってきた。

「リンナイトさん? どうしたんですか?」

「いや、練習試合に近いだろ? それに一年がグラウンドに残って練習しているんだぜ。後輩が頑張っているのに帰ってたまるかよ。俺も練習に付き合わせてくれ」

 どうやら彼も自主練をするために来たらしい。

 ディフェンダーのリンナイトがいれば、ドリブルもシュートの練習もはかどるもの。

「もちろんいいですよ。なあ、レイカ」

「そうね。次の試合は先輩たちが頑張らないといけませんから」

 二人は当然、リンナイトの練習の誘いを受け入れる。

 リンナイトは気合を入れるように両頬をぱちんと叩いて、

「そうだな。よーし、二人とも、来な! 止めてやるぜ!」

「いきますよ!」

 先に仕掛けたのはシュンであった。

 リンナイトはすぐさま姿勢を低くした。

 ドリブルが得意なシュン相手に近づくのはまずい。巧みなボールさばきで自分のディフェンスを翻弄して抜き去ってしまうだろう。

 ならば自分の得意なあれで仕掛ける。

「吹っ飛べ!」

 リンナイトの姿が突然ぶれる。

 すると、リンナイトがいた場所から風が巻き起こり、シュンにめがけてリンナイトの足が鋭い矢の如く飛んでいく。

 リンナイトが得意としている高速スライディングタックルだ。

「おっと!」

「なっ⁉」

 タイミングよくジャンプでスライディングタックルをかわされる。

 鮮やかにボールとともに飛んで猛突進の蹴りを避けてそのまま着地して抜かされた。

「俺の動きを見切ったのか?」

「レイカ、次だ!」

「ええ!」

 あまりにも簡単そうに避けられて唖然とするリンナイト、シュンはそれを尻目にレイカにすぐさま素早くパス。

 そしてそのパスを受け取って、

「ほら、先輩! 次、私がいきますよ!」

「……おう!」

 レイカを止めることに思考を切り替えて、向き合う。

 先ほどのシュンと比べてスピードは落ちているが、一歩ごとに地面を踏みしめるたびに感じる確かなパワー。

 ショルダーではだめだ。

「やはり俺自慢の!」

 二人の距離が近づき、ついに仕掛けるリンナイト。

 さっきシュンと同じように仕掛けた高速スライディングタックル。地面を蹴ると、すぐさまレイカの足元のボールに足裏を当てた。

「見え見えよ!」

「うお⁉」

 だがしかし、レイカに高速スライディングタックルを仕掛けるも、ボールに足が触れた瞬間、レイカの力強い足腰で止められてしまい、そのまま足を振り上げられてボール越しに吹き飛ばされた。

 その後も練習は続くが、ほとんどシュンとレイカの方が勝っている。

「くう……やっぱうめーな」

 悔しそうにうつむくリンナイト。ディフェンダーでありながらここまで突破されるのは、たとえ期待の新人であるシュンとレイカ相手でも悔しいのだ。

「リンナイトさんも、すごいスピードですね」

「ええ、一瞬のダッシュ力ならトップクラスね」

「へ、こんななりでもこの学園の授業についていけているんだぜ。冒険なんて危険な実践授業もな。まっ、長距離ならともかく、短距離なら誰にも負けねーよ」

 彼の言葉通り、リンナイトが一歩大地を踏みしめると、体がぶれていつの間にか相手選手の足元に現れてボールを奪い去っている。

 リンナイトの姿を、目をそらさず瞬きもせずに見ているのに、視界から姿を消しているのだ。

 音速、と呼ぶに相応しいダッシュである。シュンも初めてリンナイトのマジックディフェンス、『ストライクタックル』を見たときは目を見開いたものだ。

「そのスピードなら、フォワード目指しません?」

「あー、俺もやろうと思ったんだけどよ。シュートのパワーがなくて、簡単に止められてな……練習もたくさんしたが、やっぱディフェンダーが一番性にあうぜ」

「そうだったんですか」

「でも、わかんねーな」

「なにがですか?」

「いや、ヴィルカーナに止められるのはまあわかるんだ。強力な身体能力ではじき返される。だがシュン、お前はどうやって俺のスライディングタックルが来るタイミングを読んでいるんだ?」

 何度もかわされて疑問に思った。

 シュンはどうやってリンナイトの高速スライディングタックルをジャンプでかわしているのかと。

「来るタイミングですか」

「じゃなければ、あれほど俺の足があたるぎりぎりの距離で避けあられねぇ。なんか理由あるのか。もしくは俺も知らない技術とか」

「そうよ、シュン。リンナイトさんがくるってわかってないと、あんなよけ方できないわよ」

 その疑問をシュンに問いかけてみると、

「目ですよ」

「目?」

 突然そんなこと言われて戸惑うリンナイト。

 目が一体、そう思っていると、すぐさまシュンが言ってくれた。

「スライディングタックルが来るとき、一瞬俺の足元見ましたよね」

「えっ……」

 そう言われて戸惑うも、リンナイトはシュンにディフェンスを仕掛けたことを思い出す。

「た、確かに……無意識だが、今思い返してみれば俺はお前の足元を見ていた……ような」

 確信はないが、見ていたような気がする。

 ボールを奪い取るために、ボールの位置を確認するために、視線を下げてシュンの足元を確認していた。

「それが原因ですよ。だから俺はリンナイトさんのスライディングタックルが来るのを予測できたんです」

「そんな予測方法があったのね」

「そうか……次の試合に向けて直しておくべきだな。なにせ、あのダーディススクラプと戦うんだからな」

「リンナイトさん。ダーディススクラプ魔法学校のこと知っているんですか?」

「まあ、悪名高い魔法学校だからな」

「そっちじゃなくて、サッカーの実力の方ですよ」

「ああ、そっちか」

 戦う相手学校の情報は大事、どの勝負でも情報は大きな武器である。

 シュンはリンナイトからダーディススクラプ魔法学校のサッカースタイルを聞いてみると、

「ダーディススクラプ魔法学校は攻撃全振りの超特攻チーム。中でもキャプテンのイルマ・イクオスの暴力的なまでの攻撃スタイルはゴールを奪うまで誰も止めれないと言われるぐらいだぜ」

「なるほど、あのドリブルは結構痛かったな……」

 前に受けた腹にボールを受けられたあの衝撃を思い出した。

「勝負したことがあるのか」

「前に、寮にやってきて突然勝負を挑まれて」

「あの時は頭抱えたわ。部外者が寮にやってきて、しかもシュンに勝負を挑んで……私がボールを奪って止めましたけど」

「そうか、迷惑な奴だな。もし見つけたら校舎外までぶん投げてやる」

「リンナイトさん。さすがに物騒です」

 いくら迷惑な人がこの学院に来たからと言って投げ飛ばすのはまずい。

「あの男はケンカで磨き上げた戦闘術をサッカーの技術として使っているんだよ。生半可な守りじゃあ逆に壊されて、治療師のお世話になっちまうのさ」

「うげえ、それは嫌ですね」

 凶暴かつ暴力的な攻めで守りを壊してゴールを奪いに行く、それがイルマ・イクオスのサッカースタイル。それは前に突然挑まれた一騎打ちでなんとなく理解したシュン。

 それが試合になれば、どれほど暴れるのか。

 より警戒を高めるシュン。

「それが彼ら、ダーディススクラプ魔法学校のスタイル、『ケンカサッカー』だ」

「待て、ケンカサッカーってなんだよ」

 思わず敬語も外して、突っ込んでしまった。

 確かにこの世界のサッカーは魔法が飛び交う『エルドラドサッカー』。

 ゆえに多少のラフプレイは認められていることは理解している。

 だがそのスタイルのサッカー名はいくらなんでも物騒が過ぎる。サッカーで喧嘩でもしたいのか。

「去年の地区大会でベスト4まで行けたのもイクオスが活躍したからだ。だから、俺らディフェンダーがきちっと止めねーとな」

「おお、いたいた~」

 練習を再開しようとしたら、のほほんとした声がする。

「モーグリンさん」

「リンナイト、それに二人、頑張っているな」

「マデュランさんも!」

 モーグリンとマデュランもやってきた。

 どちらもユニフォームを身に着けている。

「みんなまだ練習? すごいね、頑張ってる~」

「リンガルもチコも参加するか?」

「ああ、私もやろう。さっき迎えの人にもう少し待ってくれと頼んでいてな。それで来るのが遅くなった」

「わたし体がガタガタで……今日の練習、急にきつくなったからかな~」

 大会に出場するためには練習試合に勝たなければならない。

 そうなればサッカー部全員気合が入るもの。練習も激しくなり、特にスタメンメンバーは厳しい特訓になった。

「まっ、だろうと思ったぜ。お前は集中力はあるが、それがつきるとスライムみたいにふにゃふにゃになるからな」

「二人みたいに体力ないよ~、スタメンの二年生たちだってぐったりしているよ」

「部室で横になっていたな。そのあと、クアトル先生が早く帰って家で寝たら、といってなんとか帰したが」

「モーグリンさん。無茶はしないほうがいいですよ。悪い動きが身に付いたら逆効果ですし」

「疲れた時には体を休ませるのも練習ですよ。サッカーが上手くなるのは何も体を動かすだけじゃあありませんし」

「な~るほど~、じゃー練習見るよ~。じっくり見て明日真似してみる~」

「マデュランさん、よろしくお願いします」

「ああ、こちらもな」

 自主練習を再開させた。

 次の試合に勝つために。

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