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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
序章
8/130

熱は広がって

 時間は進み、夕焼けが出てきた。

「まだ遊んでいるのか」

 村にすむ大人の人がそう呟いた。数人まとまって移動している。

 彼らはシュンと遊んでいる子供達の親だ。もうすぐ暗くなるのにまだ家に帰ってきていないことに心配になって、探しに村のなかを歩き回っているのだ。

 もっとも、子供達がどこにいるかは大体は把握している。

「シュンとまた球蹴りをしているのだな。もの好きだな」

「遊ぶのはいいけど、門限は守ってほしいわ」

 子供達は村の広場にいることはもうわかっている。

 いつもシュンと一緒にサッカーで遊んでいるので、サッカーができる広場にいるのだ。

 今回もそうだろうな、と思っている大人たちは子供達を連れ帰ろうと村の広場に向かっていた。

 そして村の広場につく。子供達が広場のサッカーフィールドで走り回っている。

「いたいた、こら! もう帰る時間だぞ――ん!?」

 子供達を見つけてサッカーを止めようとしたその時、彼らの目にある光景が目に写った。

「やるな!」

「そっちもな!」

 シュンとリーザンはボールの取り合いをしていた。

 シュンがボールをキープし、リーザンが奪おうとしている。

(リーザン。魔導士になるため訓練で身に付けた身体能力! 重機を体内に宿しているのかよってぐらいのパワーだぜ! 全力を出さないとすぐ負ける!)

(シュン、本当に子供か? ボールが足に吸い付いているかと錯覚してしまうほどのプレイング! 大人の俺が押されているってよ! 子供だと思って手を抜いたら赤っ恥かくぞ!)

 二人は互いにそう評価し、そして笑みを浮かべる。

 全力でサッカーをしている、それが楽しくて仕方ないのだ。

「ちょっと、乱暴にいくぜ!」

 肩を前に出して突進。ショルダーチャージだ。肩で体当たりを仕掛けてきたのだ。

 ハイスピードで突っ込んでくるリーザンに対して、シュンは体を揺さぶってフェイントをかける。

 しかし、そのフェイントを無視してチャージでボールを奪い取るにいく。体当たりの勢いは収まらない。

「おっと!」

 シュンがバックステップで距離をとる。そしてボールをかかとにのせると、

「な!?」

 シュンの足元にボールがなくなっていた。

 誰かにパスをしたのか、そう考えたがそれならパスしたボールを見逃すようなことはしない。だとするならば、

(地面にない、ということは!)

 顔をあげて真上をみると、ボールが存在した。シュンのトリックプレイ、ヒールリフトだ。

 すぐさま気づけてよかった。今なら間に合う。奪い取れる。

「そこにボールがあるってわかれば!」

「ああ! リーザンが飛んだ!」

 自分が突進してきたら上空に逃げるしかない。そう思ったリーザンはすぐさまジャンプして足を伸ばしてボールを奪いにいく。急に直角に曲がるように上空にジャンプする姿を見て子供達も驚いた。

 ヒールリフトは読みきれば簡単に奪える。ボールが動く速度自体が遅いからだ。自身の足が当たる、その瞬間、

「読んでるよ!」

 シュンが宙に浮かび、足を真上にあげてインサイドでボールをかっさらう。そして地面へボールを足で振り飛ばし、着地した瞬間、猛ダッシュで前進。ボールと共にゴールに向かっていった。

「さっすがシュン! 横じゃなくて縦のフェイントドリブルだね!」

「まいった……そう来たか。だがすぐに追い付くだけだ!」

 読みきられて、完璧にかわされたリーザン。だがすぐさまシュンを追いかける。ゴールにボールが入らない限り、何度でも妨害しにいけばいいだけの話だからだ。

 そんな風に追いかけていると、リーザンはふとフィールドのそとにいる大人たちの姿が目に写った。

 空をみると夕焼け、もしかしたら子供達を連れて帰ろうとこの場所にやって来たのだろう。

 だがそれ以上に気になることを見つけた。 

(……ほう、なんだ。俺と同じ、サッカーに興味津々じゃねーか)

 大人たちの目はフィールドを見つめたまんま動かない。

 最初は子供達を連れて帰ろうと思っていた。

 だがシュンとリーザンのボールの取り合いを見て興奮したのだろうか。

 子供達とリーザンのサッカーに夢中で観戦していたのだ。

「この村に来たときは文句を言っていたのにな。子供達が日が沈む前まで遊んでいて困っているってよ。ひょっとして今の俺とシュンの戦いを見て心が白熱したのか?」

 ならば、

「シュン! 本気だしていいか!」

「っ! いいぜ!どんな技でもきていいよ!」

 リーザンの足元に魔方陣が生まれる。そして炎をまとった足でスライディングタックルを仕掛けた。

「『ファイアタックル』だ!」

「うわぁっ!?」

 炎の高速スライディングタックルが炸裂。ボールを奪いつつシュンを吹き飛ばした。

「いや、この感触は!」

 足に大きな衝撃がない。おそらくシュン自ら飛んだのだろう。

 シュンは回転しながら綺麗に着地して、

「魔法のディフェンス技! だが、そのスライディングは隙だらけだ!」

 すぐさまリーザンに近づくようにダッシュしてボールを奪い返した。

「や、やられた!」

「いいタックルだ! だがそれでも止まらねえ!」

 ボールを奪い返した瞬間、足を素早く振り抜いて、

「決めるぜ!」

 ハイスピードシュート。突風のように速く飛んでいく。

「突っ立っているだけじゃねーぜ!」

 相手DFが足を伸ばしてシュートをブロックしてきた。

 足がかすって、わずかにスピードが落ちる。

「これなら……!」

 相手GKがシュートボールに向かってジャンピングしながら拳を当てる。パンチングだ。ボールをとるより弾いて防ぐ技。

 拳を当てたボールは飛ばされてゴールから離れていく。 

「やった!」

「いや、まだだ油断するな!」

 安堵の表情を浮かべているゴールキーパーに敵チームのメンバーは気を引き締めるように大声をあげた。

 ボールが転がった先にはシュンがいた。シュートを打ったあと、すぐさまダッシュしてゴールの近くまで来ていた。そして弾かれたボールに追い付いていたのだ。

「くるぞ!」

「うおおぉ!」

 大地を跳ね空に浮かぶ。そして体を回転させながらのジャンピングボレー。

 回転のエネルギーを加えたシュートを放つ――

「おいおい、俺を忘れるな!」

 ボールに足が触れる瞬間、思い感触が伝わってきた。

 なんとリーザンは横から現れて、シュンと同じようにジャンピングボレーで蹴ってきたのだ。

 足と足がボールを間にぶつかりあう。

「オラっ!」

 シュートのつばぜり合いは一瞬で決着がついた。リーザンがシュンとボール両方まるごと蹴り返した。

 さすがに魔導士であるリーザンのほうが身体能力は高い。ゆえに楽々と押し返せたのだ。

「くっ!」

 飛ばされたシュンは地面に倒れるもすぐに立ち上がる。

 そしてボールは遠くにいき、ラインを割った。

「シュン、大丈夫か? ちとやり過ぎたか?」

「いや、楽しかったし体に怪我はないから大丈夫だよ。しかし、驚いた突然魔法を使ってくるなんて」

「魔法使わねえと止められねえと思ったからさ。お前、本当に子供かよ」

 リーザンは大人達に視線を向ける。

(親たち、俺らのプレイを見て熱くなってくれたみたいだな)

 大人たちはなにも喋らず、ただシュン達のサッカーを熱心に観戦していた。

 おそらくだがサッカーに大きな興味を抱いてくれたに違いない。

 そう思っていると、子供達が興奮しながらシュン達に近づく。

「シュン、リーザン、すごい。二人のサッカーをもっとみたーい!」

「一緒にやりたいよ! そうしたら俺も二人みたいなプレイできるかも!」

「続けたいのは山々だが、見ろよ。お前らの親が来ているぜ」

「「「あっ」」」

 親指差す方向見ると、大人達がいる。

 せっかくサッカーが楽しかったのに、その時間はもうおしまい。子供達は落胆した表情をした。

「もう帰る時間なの……もっとサッカー続けたいよ」

「両親を心配させちゃあいけない。早く家に帰るんだ。だがまあ――」

 リーザンはボールを片手でもって、天高く放り投げる。

「約束、果たさないとな。シュンから教わったシュートと俺の魔法の合体技、見せてやるぜ!」

 そのままジャンプ。

 突然の行動に大人達は驚くが、子供達はリーザンが何をするか理解してワクワクと目をキラキラさせた。

 オーバーヘッドキックをしようとしているのだ。だがただのオーバーヘッドキックではない。

「足元に魔方陣! オーバーヘッドキックのマジックシュート!」

(見てな、村の親御さん。興奮させてやるからよ!)

 足に炎を宿して、そのまま大振りで振り払う。

「燃えろ! 『ファイアオーバーヘッド』!!」

 ボールを蹴り飛ばし、業火の玉が飛んでいく。ボールは地面に激突したあと、爆発を起こして大地さえも焼いた。そして火が消えると、そこにはクレーターができてそのなかには黒こげの土とボールが姿を表した。

「おおっ!」

 子供達、全員大興奮。

 シュンが使う大技にリーザンの魔法の組み合わせ。その合体技術を見せつけられたら興奮するしかないだろう。

 そして興奮したのは子供達だけではない。

「なんだ今のボールさばき……そしてあの魔法!」

「ていうか、シュンとリーザンのあのボールの奪い合い、凄くなかったか?」

「子供達はあんなたのしそうな遊びをしているのね」

 子供の親御さんたちも興奮しながら今行われたサッカーのプレイングのことを言いあっていた。

「ねえ、皆さん。今度、俺たちと一緒にサッカーをやってみませんか?」

 シュンは大人達にサッカーを誘ってみた。

 サッカーをしてみたいなら一緒にしたい。絶対に楽しいものになると思ったからだ。

「サッカー……君たちは遊んでいる球蹴りはそう呼んでいるのか?」

「うん」

「でも、子供の遊びに大人が入ってもいいのか?」

「サッカーに子供も大人も関係ない。ただボールを追いかけるだけでも楽しいし、どうやってゴールに点をいれるかボールを奪い取るかといった戦略を練るのも楽しい。サッカーは誰もが楽しめる遊びであり、頭を働かせて勝利を狙うゲームでもあるんだ」

 シュンの言葉を聞いて、大人たちはよりサッカーに興味が湧く。

 子供達があそこまで楽しそうにやっていたゲーム。自分達もしてみたいとからだうずうずしている。

「騙されたと思ってやってみてくださいよ。今日はもう遅いから無理ですけど明日はどうです? 全力でサッカーをするのは楽しいですよ」

「そうそう! シュンの言うとおり! 母さん、一緒にやろうよ!」

「父ちゃん、ボール蹴ろうよ!」

「大人で魔導士の俺も楽しめたんだ。やってみる価値、十分にあるぜ」

 シュンと子供達、そしてリーザンの誘いを聞いて大人たちはすこし考えるそぶりを見せて――




 翌日。

「おい、こっちにパスを渡してくれ!」

「ああ! 頼むぜ」 

 フィールドに村の大人達がボールを追いかけていた。

 村の大人達はシュンからサッカーのルールと基礎プレイを教えてもらって実際にやってみたところ、ものの見事にはまってしまった。

 大人達にとってもサッカーは楽しいものだと、プレイしてそう思った。

 だから全力でボールを蹴り、全力でボールを取り合いをしている。

 フィールドで走っている大人達全員、笑顔を浮かべながらプレイしている。サッカーが楽しいからだ。

「ははっ、みんなサッカーに夢中になってんな。まあ、気持ちはわかるけどよ」

 観戦しているリーザンが嬉しそうに手を叩く。

 するとシュンがリーザンの近くにやって来て、

「リーザン。ありがとう」

「ん、なんだ急に?」

「リーザンが広めてくれたようなものだよ。村の大人達にもサッカーの楽しさが伝わってよかったよ」

 村の大人の人にもサッカーを楽しんでいることにシュンは喜んでいる。

 そして村の大人にサッカーの魅力が伝わったのは自分達のプレイ、シュンとリーザンの熱い攻防によるものだと思っている。

 だからリーザンにお礼をいったのだ。

「ちげーよ。俺とお前達子供、全員がサッカーを本気でしたからさ。その時の熱が、大人の連中に伝わった、だからはまってくれたんだよ」

「……リーザン」

「サッカー、楽しかったぜ。じゃあ、俺は仕事があるんで街に帰るよ」

「え? 帰るの?」

「魔導士は忙しいからな。そろそろ俺が暮らしている街行きの馬車が来るだろうしな」

 リーザンは国に認められた魔導士。常に仕事がやってくる。

 今日もまた新しい仕事がある。この村にはいられないのだ。

「次はちょっと危険な場所に足を運ぶことになるな。この村に帰ってくるのは当分先だろう」

「リーザン!」

 シュンはあわてて大声をあげる。

「なんだ?」

「また一緒に、サッカーしてくれる?」

 リーザンとのサッカーはとても楽しかった。

 子供達のサッカーも楽しかったが、大人の身体能力で立ち向かってくるリーザンとのサッカーは熱く燃えた。

 互いにしのぎを削りながら戦うサッカーほど楽しいものはない。

 だからリーザンにそう聞いたのだ。

 そしてその問いにリーザンは、

「当然! 休みとれたらすぐさまオドロン村に来てやるからな!」

 即答で楽しそうに返した。

 リーザンもシュンとのサッカーが楽しかったから。

 またもう一度、プレイしたいと本気で思っている。だからシュンの頼みを受け入れたのだ。

「絶対だよ!」

「ああ。絶対に来る」

「……よかった。その言葉が聞けて。また一緒にサッカーができるのを楽しみにしてるよ」

「ああ、じゃあな。再びサッカーするときは、俺が圧勝してやるからよ!」

「次も勝つよ! 俺もリーザンが勝てないっていうぐらい上手くなっているからさ!」

 両者が勝つと宣言しつつ、リーザンはこの場から離れていく。魔導士としての仕事をまっとうするために。

 シュンはリーザンの小さくなる背中を見ながらすこし寂しい気分になるも、また会えると思うことにして逆に楽しみな気分になって、

「……よし! ねえ、お兄さん達! 俺も混ぜてくれ!」

 フィールドにいる村の大人たちに向かって自分もいれてくれと頼み込んだ。

 シュンはあそこまで楽しんでくれている大人の人と一緒にサッカーがやりたいと思ったからだ。

「おっ、シュンが来た!」

「ちょうどよかった! 新しい戦略を思い付いたんだがよ、一緒に聞いてくれないか?」

「俺はアドバイスが欲しい! あの回転しながら打つシュートをさ!」

「ねえ、私にもアドバイスほしーなー、って」

「わ、一斉に言わないでくれ! 一人づつお願いだ!」

 全方向からの無数の声に戸惑うシュン。大人からこんなに頼られるとは思ってもみなかった。

 この日から広場には子供達だけでなく大人達もやってくるようになった。

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