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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
二章 大会への道筋
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新入部員歓迎、そして練習試合に向けて

「レイカ! 来てくれたのか!」

「ええ」

「ということは、サッカー部に入ってくれるのか!」

 部室にレイカがいた。

 すなわち、サッカー部に入部を希望したということか。

 シュンはレイカがサッカー部にいることに、必死に誘ってよかったと喜んだ。

「思い出したわ。シュン、あなたとのサッカーでね。家のことも大事だけど……自分のサッカーへの思いは裏切れない。私はサッカーが好きなの。なら頂点目指すしかないじゃない」

「レイカ……そう答えてくれて嬉しいよ」

「もちろん家の当主を継ぐために勉強はし続けるけどね。シュン、これからよろしくね。あなたの期待にこたえてみせるわ」

「ああ、よろしくな!」

 熱く握手をかわす二人。

 ようやく戻った、最高のコンビが。

「シュン、いつも早いな。っと」

 サッカー部キャプテンのマデュランと他のサッカー部メンバーが部室に入ってきて、レイカの姿を見て驚く。

「ヴィルカーナがいる? まさかサッカー部に正式に入ってくれるのか!」

「はい、私の名前はレイカ・レクス・ヴィルカーナ。かのヴィルカーナ家の一族の長女。魔導薬品とサッカーについてならなんでも答えられるわ。皆さん、よろしくお願いします」

「おおー! わたしの名前は〜」

「ヴィルカーナ。あの時、助っ人として活躍してもらっただけでなくサッカー部に入部してくれるとは。歓迎するよ」

「ありがとうございます」

「私の名は、リンガル・ミーホ・マデュラン。このサッカー部のキャプテンだ。よろしく頼む」

「ちょーと〜! 挨拶さえぎらないでよ〜!」

「あ、ああ、すまない。だがキャプテンとしてはまず一番最初に挨拶をするものであると……」 

「……まさか入部するなんて」

「トイズ、ぜってー本人の前で言うなよそんなこと」

「別に嫌なんて思っていないわ。ただ大型新人部員が二人も来るとね。スタメン大丈夫かなって」

「言い方ってもんがあるだろ」

「まあまあ、大声だすと聞こえてしまいますよ」

「モココびっくり。まさかレイカちゃんが入ってくれるなんて!」

「他の人たちも驚いてますね。それは当然ですか、なにせ選抜戦に突然やってきた救世主がこの部に入ってきてくれるのですから」

「あんなに目立って……モココ負けらんない!」

「おお、ヴィルカーナが来たぞ!」

「今日の部活終わりはティータイムね!」

 他のサッカー部メンバー、三年生二年生たちもレイカが入ってきたことを知って騒ぎ出す。

 すると部室のドアが勢いよく開いた。

「みんなー!」

「クアトル先生来たぜ。ヴィルカーナが入部したこと知ったら驚くぞ」

「朝に会って、入部するって伝えたわ」

「それでもわーわー騒ぐわ。クアトル先生」

 クアトルが満面の笑みで部室に入ってきた。

「ねえねえ! 新入部員が来たの! ってもう来てたのね、ヴィルカーナちゃん」

「はい、早くボールを蹴りたかったので」

「じゃあ、早くグラウンドに行こうぜ!」

「おい、制服のまんまで出るのか?」

 早速グラウンドに出て練習しようとするシュン。まだユニフォームに着替えていないことに気づいていない。それほどレイカがサッカー部に入ってくれたことに嬉しいのだろう。

 ――コンコンッ。

 すると扉からノックが、

「失礼します。サッカー部の生徒はいるか?」

 この学院の教師が数人入ってきた。

「えーと……知らない先生たちだな」

「上級生の学級の担任かしら。なにか用があって来たのでしょうけど」

 シュンたち一年生には知らない先生。サッカー部のメンバーの反応を見るに、三年の担任の教師なのであろうか。

 しかし突然何の用件でこのサッカー部に来たのだろうか。

「今回、サッカー部に来たのは今週行われる練習試合に関することで話したいことがある」

 重要そうな話なのは彼らの雰囲気から伝わってくる。

(まさか中止とか?)

「ダーディススクラプ魔法学校との練習試合で勝利しなければ、サッカー部のエルドラド魔導祭の出場する権利を見直すことになる」

 衝撃的なことを言い放ったのであった。

 シュンが予想していた悪い予感よりも、ずっと悪いことを教師はサッカー部に伝えてきた。

「「「なっ⁉」」」

「「「え⁉」」」

 サッカー部全員が驚いた。

 それは当然だ、前の選抜戦で勝利し、エルドラド魔導祭に出ることができたのはサッカー部。

 なのにその権利を奪われる。その理不尽に驚き、そして相手が教師という目上の立場の人であっても怒りをあらわにした。

「先生! いきなり何を!」

「横暴です!」

「ほらほら上級生。そんなにつっかかったら一年生がビビるでしょう。ねえ、理由は話してくれるのでしょうね。もっとも納得はできないだろうけどね」

 特に三年生は冷静さを欠け、このことを伝えに来た教師に問いただしにいく。

 クアトルはその三年を落ち着かせつつも、不機嫌そうに教師に理由を聞くことにした。

 教師陣は落ち着いた様子で、淡々と話を始める。

「クアトル教師、言いたいことはわかる。今言っていることが理不尽な内容だって言うことを」

 だがしかし、

「前の選抜戦での試合、あの結果に納得していないものもいる。私達含めてな」

「納得していない?」

「自慢のAクラスのチームが負けたからか?」

「私たちは選抜戦で勝ちました。なのに、勝敗に納得していないなんて子供じみた言い訳を言っているんですか?」

「では、勝てたのはサッカー部の誰のおかげだ?」

「サッカー部全員よ」

「サッカー部にいる三年生、二年生の生徒は活躍できていたか? チームに貢献できていたか? 私からするとそう思えん。あの試合でサッカー部の勝利に貢献したのは一年生の生徒だ」

 座って今の会話を聞いているシュンに指をさす。

「お、俺ら?」

「そうだ、あの試合は一年生が点をもぎ取り勝利を勝ち取った。三点を奪い取りサッカーの技術でAクラスの生徒を出し抜いたシュン、さらに試合後半で交代してすぐさま点を取ったヴィルカーナ、この二人だ。ほかのメンバーは勝利に貢献できていたのか?」

 そう聞かれて返す言葉に困るサッカー部メンバー。

 言い返してやりたいが、彼らの心には図星をつかれたような、そんな焦りが浮かんでくる。

 点を取ってくれたのも、Aクラス相手に諦めず戦い続けたのも、入ったばかりの一年生のおかげ。特にシュンの活躍があったからこそ試合に勝てた。

 そのことに納得しているからこそ、教師の言い放った言葉に黙ってしまったのである。

 そんな彼らをよそに、教師は言葉をつづける。

「ならば、サッカー部とAクラスのチームから優れたメンバーを選抜して、新しいチームを作るほうがいい。そのほうが強く、優勝を目指せるチームとなるであろう」

 教師陣の考え。

 それはサッカー部とAクラスの中からサッカーの実力があるものを選び出し、そのメンバーで大会に出場させようという考えであった。

 それが先ほど言った、サッカー部のエルドラド魔導祭に出場する権利の見直しである。

「私達では力不足と言うのですか?」

「そう思ってくれても構わない」

 そう言い切った。

 その言葉にクアトルは煮えくり返る思いだ。

「言ってくれるじゃない……っ!」

「私達の考えを覆したいのなら、選抜戦の時と同じスタメンメンバーで練習試合に望め。そして結果を示すしかない」

「あの時と同じメンバーで、なるほど」

 選抜戦で戦った、最初の十一人。

 そのメンバーでダーディススクラプ魔法学校との練習試合で己のチームの実力を証明しろ。

 それができれば、サッカー部は何事もなくエルドラド魔導祭に出場することができるのだ。

「……あれ、私は出れるの?」

「いや、レイカは途中出場だからスタメンじゃない。出れないな」

「は?」

「そこの二人、無駄話は禁止!」

 一年生コンビのおしゃべりを止めようとするリンナイト。

 そんな騒ぎを無視して、クアトルたちと教師たちの会話は続く。

「私達サッカー部が勝てば、その話はなかったことにする、ということですね」

「ああ、練習試合に勝てば、私達も引き下がる。一切サッカー部に言葉を投げかけない。実力があると証明できれば、な」

 結果を示せば、これ以上は言わない。

 教師たちが求めているのはサッカー部が実力があるかどうかだ。

(先生たちはサッカー部よりAクラスの生徒たちの方が実力が高いと思っている。だから選抜戦の結果に納得していない。ならば、俺たちサッカー部全員の実力を見せる必要があるってわけか)

 先ほどの話を聞く限り、部室にやってきた教師たちは選抜戦の結果もサッカー部の実力も認めていない。

 だからこそエルドラド魔導祭に出場するチームを見直そうとしている。

 サッカー部がエルドラド魔導祭の出場権を見直されることを阻止するには『ダーディススクラプ魔法学校との練習試合で勝つ』ことだ。しかも『選抜戦でスタメンだったメンバー』という条件で。

 これではレイカは出ることはできない、試合途中でメンバーを交代することも許されないだろう。

「わかりました。監督、どうします?」

「引き受けるしかないわね」

 断るなんてことはできない。

 その挑戦を受け入れなければ大会に出場することはできない。

 ならば練習試合に勝って、教師陣の口を閉ざすしかないだろう。

「いいわ、次の練習試合を見てびっくりしないでよ。私たちサッカー部が勝つから」

「Aクラスの生徒よりも頼りになるか、見せてもらおうか」

 話し合いは終わった。

(まさか……いきなり大変なことになったな)

「ああ、それと」 

 帰ろうとした教師陣が扉の前に止まって、何かを思い出したかのように振り返って、

「シュンさん、ちょっといいかな」

「はい、いいですけど」

 シュンの前に立って声をかけた。

 一体何のために、この部室にいる生徒はだれしもそう思った。

「君、Aクラスとサッカー部の選抜チームでキャプテンをしてみないか?」

「え⁉」

 それは選抜チームへのスカウトの言葉であった。

 しかも一年生でありながらチームを引っ張るキャプテンの役目も加えて。

「……なぜ俺にそんな大役を? キャプテンなら生徒会長さんにでもやらせればどうですか?」

 疑問をぶつける。

 ほかのサッカー部はシュンが選抜チームに行くかどうか、ハラハラしている。

「フェネクスさんならキャプテンにふさわしい実力を持っているだろう。しかし彼女はほかの競技にも出る。それにサッカーなら君が一番上手い。だからキャプテンをしてみないか、と聞いたのだ」

「俺は魔法を使うのは得意ではありませんよ」

「それはAクラスの生徒たちに任せればいい。どうだ?」

「一つ聞きますが、もしAクラスの人たちと組むことになって、毎日練習に来てくれるんですか?」

「それは無理だな。Aクラスの生徒たちはほかの競技に出るために、サッカー以外の競技の練習もする。それに課外授業や課題を取り組むために部活動ができないこともある」

 Aクラスは学年の優等生が集まるクラス。ゆえに様々な課題や授業が押し寄せてくる。そのため部活動を止めたりするものも多い。

 さらにほかの競技の練習も入っているのならサッカー部の練習にはそう簡単には来れないだろう。

 そしてシュンは教師の言葉に頷いて。

「やっぱりね。じゃあ俺は選抜チームに入りませんよ」

 首を横に振って教師の選抜チームの勧誘を断るシュン。

 そのことに教師は戸惑う表情を見せた。

「……なぜだ? 君はエルドラド魔導祭で優勝を目指しているのではないのか?」

「Aクラスにはエルドラド魔導祭で様々な大会に出て優勝を目指す、その使命があるのはわかります。その実力もあるでしょう」

「なら、優秀なメンバーでチームを固めるべきだろ?」

「でも、チームとともに勝ちを目指すために練習するのに、そのチームメンバーが練習に来ないっておかしいでしょう? ならこの学園から去ってほかのところに行きますよ、俺は」

「え、シュン、何を言って……」

「ヴィルカーナストップ。今は彼ら二人の話を聞こう」 

 反応するレイカを止めるマデュラン。

「一人勝手に練習しとけって言うんですか?」

「それはいつも通りサッカー部と練習をすればいい」

「サッカー部は優等生のためにあるんじゃあない。第一、俺はクアトル先生にスカウトされて、この学院にサッカー特待生で来たんです。サッカー部から離れるなんて考えてませんよ」

 それに、

「――俺たちが次の練習試合に勝つから」

 自信満々にそう言い切った。

 淀むことも、目をそらすことなく。

「俺たちサッカー部が大会に出場する。それは変わらない」

「言ってくれるな……」

「交渉決裂ね。先生、今日はここまでにしたらどうですか?」

 レイカがこれ以上の話は無駄と考え、シュンと教師の話を止めに入る。

 教師はレイカの言葉に頷いて、

「練習試合のあとに、話を聞くことにしよう。考えが変わるかもしれないからな」

「そうですね。先ほど思っていたことが変わるかもしれませんね」

 シュンの言葉の後、しつれいする、といって教師たちは部室から去っていった。

「シュン! 残ってくれるのね!」

「残ってくれるも何も、離れるつもりなんてありませんよ。ほかの学院のサッカー部入部試験で落とされまくった俺を受け入れてくれたサッカー部にまだ恩を返せてないですから」

「もういろいろともらっているけど、サッカー部にいてくれてありがとうね♪」

「それに、俺からしてみればサッカー部のみんなサッカー上手いですよ。いろいろな人とサッカーしてきた俺が言うんです。間違いないですよ」

「もう、そんなに褒めてもなにも出ないよ~へへへ~」

 シュンがサッカー部から去らなくて、安堵する部室のメンバー。

 だがしかし、安心していられるのもこれまで。

 なにせ次の練習試合は絶対に勝たなければならない。気合を入れなければならない。

「しかし大変なことになったわね……」

「この試合に勝たなければ、実質私達はエルドラド魔導祭に出る権利を無くしたようなものだ。まいったな……」

「でも、勝てばこれ以上言ってこないでしょう。言われた通り、実力を見せれば誰もがサッカー部が大会に出ても文句は出てこないはずです」

「シュンの言う通りだぜ、次の試合、オレたちが勝ちゃいいんだよ!」

「ワタシたちが大活躍すれば文句の文字もでないわ!」

「まっ、あの先生の言うことも一理ある。俺も前の選抜戦じゃあいいところ見せれねーかったからよ。サッカー部は一年生だけのチームじゃあねえってこと、教えてやるぜ!」

「うんうん!」

 売られた挑戦は買ってやる。

 大会にはサッカー部だけで出る。

 そのために奮起するサッカー部であった。

「ただの練習試合じゃあなくなっちまったな。絶対に勝たねえと」

「ねえ」

「なんだ?」

「練習試合は選抜戦のスタメンメンバーで望めって言っていたわよね」

「まあ、そうだな」

「ということは私は試合に出られないってこと?」

「試合途中から入ってきたから……そうなるな」

「そうなるな、じゃないわよ! もしサッカー部が負けたら大会に出られないのでしょ! 私が来た意味ないじゃない!」

「お、落ち着け!」

「しかも、また退学を持ち出して……理由はわかるけど、選抜戦の時あなたを退学させないために頑張ったのに……ハァァァアッ⁉」

「うわー⁉ 怒らないでくれ! あれはものの例えみたいなもので!」

 シュンと二人きりになった後、怒りの叫びをあげたレイカ。

 このあと、レイカをなだめるのに苦労したシュンであった。

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