学院長との面談・後編
「俺の『進学と退学』について?」
まさかまた退学の危機にさらされてしまうとは。
教師陣に自身の実力を認めさせたはずだ。
やはり魔法の実力が低いのが原因なのか?
自身の退学になる可能性が頭によぎってくる。シュンは突然の重大な話に唸っていると、
「ああ、きちんと聞く姿勢はいいよ。でも~そんなに重く受け取らなくていいよ。本当だったら親御さんを呼んで家族と一緒に話すべきだろうけど、私忙しいから」
シュンを落ち着かせるようにして、ミウは話をつづけた。
「まず君の進学について話す前に、この学院における『進学と退学』になる条件を教えないといけないね」
ミウが指パッチンすると、指先から魔方陣が出現して、それを空中に飛ばす。するとその魔方陣から液晶が現れて、様々な図形や文字が出現する。
これも魔法だ。
この空中液晶でミウはこの学院の進学について説明し始めた。
「まずね、この学院で進学するには授業を規定数以上受ける、筆記、実戦で目標点を越える、とまあ色々あるんだ。その中からトップの成績を取ればAクラスにいける」
だけど、
「シュンさん、君は例外だ」
シュンは違う。
なぜならシュンはサッカー特待生としてこの学院に来たのだから。
「シュンさんはこちらがサッカーの実力を買ってスカウトしたサッカー特待生。だから魔法の実力で退学になることはない。筆記、実戦、どちらがどれだけ点数が低くても、ね」
一息、
「さて、ここからが今回の話の本題だ。シュンさんは『どうやったら次の学年に進学』できるか。それを教えるために今日呼んだんだよ」
シュンが知りたかったことだ。
魔法の成績が進学に関わらないのならば、何の要因でシュンは進学できるのか。
なんとなく察していたシュン。しかしここは自分の考えがあっているかどうか確認したいためにミウに問いかける。
「どうやって、ですか?」
「簡単さ。君の進学条件は『エルドラド魔導祭に出場する』。それだけだ」
「え?」
戸惑いの声。
シュンが思っていたことと違った答えが返ってきたためだ。
サッカーで成績を残すことが進学する条件だと考えていた。
だがミウが言った条件はすでに達成されている。シュンは進学する資格をもう手に入れている。
「ちょっと待ってください! 自分はもうエルドラド魔導祭に出場できますよ! それってもう俺は合格しているってことですか?」
「……ひょっとして知らないのか。まあ、ずっと村の中で暮らしていたからねえ」
「何をですか?」
「シュンさん。君たちサッカー部はまだエルドラド魔導祭に出場できるわけじゃあないんだよね」
ミウの言葉にシュンはさらに疑問が深まっていった。
マギドラグ魔導学院選抜戦でサッカー部が勝った。あのAクラスチームを倒して。
そしてエルドラド魔導祭のサッカー大会の出場権を手に入れた。
なのに出られないとはどういうことなのか。
「よし、次の話題に移ろう。『エルドラド魔導祭』にでるにはどうするか、についてね」
「すいません。教えてもらって」
「いや、本当だったらサッカー部監督、クアトル教師が教えてくれるだろうけど。本題のことを話すにはまず『エルドラド魔導祭』のことを知らないとね、うん」
その疑問を解くために、ミウは『シュンの進学』の話から『エルドラド魔導祭の出場に関すること』を話し始めた。
「まずね、エルドラド魔導祭に出るにはね。『エルドラド魔導祭主催の審査員に実績を認められる』ことが大事なんだよね」
「審査員?」
「ああ、エルドラド魔導祭に出場するにふさわしい生徒を探して実力を調べ、そして大会本番で審判をする人のことさ。彼らに認められたらエルドラド魔導祭に出場することができるんだよ」
ではどうやって認められるかというと。
「サッカーでは地区大会で優勝するのが一番の近道だろうね」
「地区予選!」
「エルドラド大陸では北部、東部、西部、南部の東西南北に分かれた地区に加えて、大陸の中心である中央地区の五つある。それぞれの地区で魔法競技の予選が行われるのさ。審査員の目に止めるには地区予選で活躍するのが一番さ」
この世界にも地区予選があった。
エルドラド魔導祭に出場するために、生徒たちはその地区予選で勝ち上がらなければならない。それはエルドラド魔導祭のほとんどの競技に該当する。
そしてエルドラド魔導祭の競技にサッカーが追加された年に、サッカーの地区予選も開かれるようになったのだ。
「まあ、練習試合で勝ち続けるという方法もあるが、大会で優勝する方がシンプルでわかりやすいよ。ほかには個人で呼ばれることも……まあ、これは試合には出れないし関係ないか」
ともかく。
「エルドラド魔導祭に出場するには『地区予選で優勝する』、それがいいだろうね」
「ということは、俺は地区予選に優勝すれば、エルドラド魔導祭に出れるから進学もできるってわけですね」
シュンの目標は定まった。
サッカー部とともにエルドラド魔導祭に出場する。そのために地区予選で優勝すればいい。
それは簡単なことではない。サッカーの強豪学院もいるだろう。
ならば地区予選を勝ち抜き、エルドラド魔導祭の出場する権利を取るほかあるまい。
「そうだね~。理解が速くて助かるよ」
「学院長、いろいろと教えてもらってありがとうございます」
「いや、いいよ。シュンさん、私はね。君には期待をよせているんだよ。今まで魔法を用いたマジックサッカーは他の競技と同じく魔法が優れていたものが勝った。だが君はその魔法の実力をサッカーの技術ではね返した。君がこの学院のサッカーチームを引き連れていってくれば優勝を狙えるかもしれない。だからクアトル教師からの推薦に答えたんだ」
ミウの高い評価にシュンは嬉しくなる。
サッカーの技術力を褒められるのはサッカープレイヤーなら誰もが嬉しいこと。
そこまで期待を寄せられているのならそれにこたえてみせよう。
「任せてください。地区予選、勝ちぬくつもりですよ。戦う前から負ける気なんてないし、そもそも自分の目指しているのはこの大陸で一番のサッカープレイヤーになることですから。優勝も狙います」
そうだ。
シュンの目標はエルドラド魔導祭サッカー大会で優勝して大陸一のサッカープレイヤーだと証明すること。前世の時に優勝旗を手に取ることができなかったその夢を叶えるために。
「おお、言うね。シュンさん。ミウさん、期待マックスで見守るよ~。さて、私からの話は終わりだね~。昼休憩を楽しんできなさいな~」
「はい、ありがとうございました!」
話は終わり、シュンは学院長室から去る。
それを見送ったミウは、
「彼ならサッカー大会のトロフィーを持って帰ってこれるかもしれないね。頑張ってほしいな~」
心の中で生徒の活躍を祈って、応援の言葉を口に出した。