表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
二章 大会への道筋
69/130

学院長との面談・前編

 チャイムの鐘がなる。

 午前の授業が終わり昼食を含めた長時間の休憩時間がやってきた。生徒たちはこの時間を楽しみにし、空腹を満たすために食事をする者もいれば、授業でわからないところを復習する者もおり、中には外に出てグラウンドで遊びをする者もいる。

 学院内で自由に過ごせる時間。生徒たちはそれを満喫する。

「…………はあ」

 机に頭を伏してため息をこぼすシュン。落ち込み気味の様子。

「……シュンさん……どうしたのですか?」

 同じクラス、同じサッカー部であるフレイ・エスバーが声をかけてきた。

 シュンが落ち込んでいる様子を見て心配になったのだ。

「エスバー。だめだ、授業が全然わからん。村じゃあ一切聞いたことない単語がどんどん耳と目に入ってくる」

 授業の難しさに頭を抱えていた。

 シュンは村で生まれ過ごした。村にも学校はあったが、その時には魔法のことなんて最低限のことしか習わない。授業で習うのは村で暮らすための文字や数字、農作や狩りなどの生きるための知恵、そしてちょっとした歴史の知識だけだ。

 そのため魔法に関しては使い方ぐらいしか全くわからない。

 そんな状態で魔法の名門、マギドラグ魔導学院の授業を受けてもチンプンカンプンで頭から湯気が出るような、睡魔よりも頭痛の方が襲ってくるのである。

「……そっか……シュンさんは村育ち……ですからね」

「いくらサッカー特待生でこの学院に来たとしても、赤点は避けたいけど……むず過ぎだろ」

 魔法の基礎を全く積んでいない、どれだけ勉強しても頭にはハテナを浮かべるだけ。

 サッカー特待生のため、魔法の授業の成績は気にしないでと担任の先生に言われたが、なんだが情けない話だ。

「この苦しみはサッカーをして忘れるか。よし、エスバー! ご飯食べたらサッカー史に行こうぜ」

「……まあ、いいですけど……」

「シュンさーん。このクラスにいますかー!」

「ん?」

 ご飯を食べに行こうとすると、教室の入り口から誰かがシュンを読んでいる。

「……見覚えがあるような?」

「俺を呼んでいるのか」

 呼ばれたので席から立ちあがって向かうと、

「おー、いましたね」

 この学院は胸のバッジと腕章でどの学年かがわかる。彼女は三年生だ。

 だがしかし、シュンは彼女の顔を見て首をかしげる。

(どこかで見たことあるような……)

「――あ、選抜戦で戦ったAクラスの人か」

 思い出した。

 確か選抜戦のAクラスチームにいた人である。ポジションがフォワードの。

 確か名前はケットシーだ。

「よく覚えてくれましたねー、ちょっと嬉しい。あっ、挨拶まだですね。こんにちは」

「こんにちは。で、俺を呼んだんですか?」

 突然Aクラスの人から呼ばれるとは思わなかったが、何か用があってここまで来たのだ。

 シュンは自分を呼んだ理由を聞くと、

「あー、フェネクスからね。あなたに伝言があるからって。私にシュンに伝えてきてほしいって頼んできたのよ」

「フェネクスさんが?」

「ほら、彼女生徒会長さんだから仕事忙しいのよ。で、私に頼み込んできたわけです」

「なるほど」

 フェネクスといえば選抜戦で戦ったAクラスチームのキャプテンであり、この学院の生徒会長を務めている先輩だ。

 そして生徒会長としての学院での職務を全うしていて忙しい。だから友人であるケットシーに頼み込んだ、というわけだ。

「それでですね、伝言は何かという――」 


「学院長があなたをお呼びなので、学院長室まで案内をしてほしい、とフェネクスから頼まれてね。ついてきてくれます?」

 



 大きな木の扉の前まで案内されて来たシュン。

 学院長室の前だ。普通の木の扉なのに、どこか厳格な雰囲気を漂わせているのは気のせいだろうか。

「……なんで呼ばれたんですかね」

「ごめん、そこまでは聞いてないわ。じゃあ、私はこの辺で」

 伝言と案内を終えたケットシーはこの場から離れる。

 シュンは学院長室の扉の前で一人になった。余計に緊張する。

(そういや、俺はまだ学院長の姿を見たことがなかったな)

 この学院に来てから学院長と出会っていない。学院長の姿も見ていないし、この学院のパンフレットを見たが、名前も知らない。

 素性を全く知らないのだ。

 それにどんな用件で学院長に呼ばれたのかわからない。それがまた心臓をドキドキさせる。

「……いつまでビビっていてもな。早くいかないと学院長に迷惑が掛かっちまうな」

 用件がどんなものであろうと考えても仕方ない。

 扉をたたいて反応を待つ。

『誰ですか~?』

 間延びした高めの声。おそらく女性の声だ。

「シュンです。フェネクスさんからの伝言のことで

『あ~、シュンさんね。待ってたよ。ほら、入ってきて』

 入室の許可を得て、扉を開けて室内に入る。

 まず目に入ったのは、壁にある見たことがない魔法の道具。壁には魔導士の衣服や様々な杖がずらりと並ばれており、棚には指輪やイヤリングなどのネックレスにまがまがしい色をした薬品が入ったガラス製の入れ物。そして部屋の中央には大きな窯が何かを煮込んでぐつぐつと泡と立てている。

 本当に学院長室なのであろうか。研究室に入ったのではないかと思ってしまうほどの魔法に関する道具の数々。

 学院長室というより学院長の私室というべきだろうか。

「おいおい、テーマパークみてーだな。なんかワクワクしてきたぜ」

 シュンは緊張よりも好奇心が勝ってきた。前世でよく見た魔法使いの部屋。それが目の前に広がっている。本当だったらもっと近づいて見てみたいが、魔法の道具は危ないものもあるのでそれは我慢することにする。

 それよりも学院長に話をしなければならない。

 しかし部屋の中に人の姿はない。

「あれ、誰もいない?」

「いやいや、ここに~いるよ」

 机の奥にある椅子が回転する。

 すると薄いピンク色のゆるふわな髪をした女性が座っていた。

 優し気な表情でシュンを見ている。

(この人が学院長……)

「ようこそシュンさん。急に呼んで悪かったね。でもミウさんは普段は忙しくて、この時間ぐらいしか予定がなかったんだ」

彼女の名前は、ミウ・マギドラグ。

 このマギドラグ魔導学院の学院長にして、魔法研究家である。

 そして椅子ごと空中に浮かんでシュンのもとへと近づいていく。

 魔法の箒のように、空飛ぶ魔法の椅子で空を飛んだのだ。 

「い、椅子に乗って飛んできた⁉」

「おっ、いい反応! すごいでしょ、この椅子!」

 シュンが空を飛ぶ椅子に驚くと、学院長が目をキラキラさせて見せつけてきた。

 自分のお気に入りである椅子の機能に反応を示したのがうれしいのである。

「魔法使いは魔法の箒や絨毯で空を飛んできた。だけど、最近はほかの日用品に魔導具職人は目を付けたんだ。椅子やベッド、あと小舟とかね。小舟が日用品かどうかはわからないけど。で、この椅子は私と魔導具職人が協力して使った代物で……」

 自慢の魔法椅子のことを詳しく話そうとしたが、ミウはハッとして、

「おっと、ごめん。いきなり話し込んでしまって。いや、私と同志が丹精込めて作った魔法の椅子に驚いてくれてうれしかったんだ。この街に住む人は魔法に慣れ過ぎていてね。椅子が飛ぶ程度じゃあ驚かないんだ」

「いや、驚きもんですよ、あんなに速く空を飛ぶなんて」

「でしょう。そこら辺の箒にも性能は負けていない。しかも、こんな機能もある」

 ひじ掛けについたボタンを押すと、

「ベッドにもなる!」

(……すごい快適そうだな)

 背もたれが倒れてベッドになる魔法椅子。空を浮かびながら寝る。少し体を動かしたら地面に転落するから危ないが、とても寝心地がよさそうである。

 実際、ミウも横になってだらしない顔をしている。生徒の目の前でそのような顔をしていいのかはさておき。

「ちなみにマッサージ機能も付いているよ」

 さらに椅子が激しく振動し始めた。マッサージを受けているのだろうけど、ここまで激しく振動していると、テーマパークのアトラクションにでも乗っているのではないかと思ってしまったシュン。

「さ~さ~、そこの席に座って」

 椅子の話はここで終わり。

 本当はもっと聞きたいが、大事な用件を聞くことの方が大事だ。魔法の話はそれを終えた後に聞けばいいだろう。

 シュンは用意された椅子に緊張して座った。

「お菓子も用意してあるよ」

「えっ、いいんですか?」

 まさかのお茶会のお誘い。

 机の上には用意されたお菓子と飲み物が置かれている。シュンにとってはどれも見たことない未知の食べ物だらけ。

 大事な用件があって呼ばれたと思ったシュンは戸惑うも、目の前にあるお菓子たちに興味を惹かれた。

「いいよいいよ。かたっ苦しい話だけじゃあ飽きるだろう。今日のお菓子は『セブンフルールの七色グミ』と『いきるチョコット』。あと飲み物は『ブラッドウッドの木の粉ドリンク』さ」

「木の粉ドリンク? 木を飲むんですか?」

 お菓子にはコーヒーか紅茶や緑茶とかの飲み物ではないのか。なにより木の粉を溶かした液体を飲むのか、と未知の飲み物にシュンは戸惑っていた。

(木の粉のドリンクか……)

 だが考えてみれば、紅茶は葉っぱを飲み物にしたようなもの、ならば木の飲み物があっても不思議ではない。

 だが初めての飲み物に手が止まってしまう。

「大丈夫。木の粉だけどお湯に含むと木の香りと渋い味がお菓子を引き立ててくれるんだ。この街じゃあ今トレンドだよ。ほら」

『木の粉ドリング』を受け取ってシュンは一瞬口に含むことに躊躇したが、せっかく用意してくれたものを飲まないでいらないと言うのは失礼だ。

(ここまで進めるのなら美味しいはずだ。飲んでみるぜ!)

 シュンは湯気のたったコップに口につけた。

「……ほう!」

 警戒していた表情が消えて、二度ドリンクを飲む。

 渋い味が口の中に広がっていくが、顔をしかめるほど渋いというわけではない。口に含むと清々しい木々の香りが広がっていく。その香りにほっと気分が落ち着く。

「どう?」

「美味しいです! いや、これは菓子にあうドリンクだ!」

「そうかい! それはよかった! ほら、お菓子も食べて! 用意したかいがあったよ。ゆっくりと味わってね~」

 ミウも椅子と一緒に机の前に移動して、自身もお菓子タイムに入る。

 まさかこのようなものまで準備してくれるとは。喜んで味わうことにしよう。

(魔法の名門学院のトップに立っている人だから、厳格なイメージがあったけど、何とかいうか柔和な人だな)

 魔導学院の学院長と聞いてクールで威厳ある人物なのではないか、と想像してみたが、実際は物腰の優しそうな人で、元気なお姉さんって感じだった。学院長と知らずに初めて会ったら新人の教師だと思ってしまうだろう。

 シュンは用意されたお菓子を堪能する。

 どれも美味だ。

「さて、本当だったらもうちょっとゆ~くりしたいんだけどね。話、長くなりそうだからそろそろ始めてもいいかな?」

 ミウはお菓子のグミを食べて、しばらくたってそう切り出してきた。

「では、シュンさん。今回、君を呼んだ理由はね、君の『進学と退学』に関することなんだ」

 学生生活における重要な話し合いになる。

 そのことをすぐに理解したシュンは机の上に置いていた手を自然と膝の上に動かしていた。姿勢を正して聞くべきだと思ったためだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ