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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
一章 魔導学院、入学へ
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選抜戦 決着

 ゴールネットにボールが引っかかっている。

 この瞬間、誰もがゴールが決まったことを理解した。

『き、決まった! 試合再開して五分! 速攻のカウンターで決めたのはこの試合で途中出場のヴィルカーナ選手! 彼女の左脚から放たれたマジックシュートでゴールを奪い取りました!』

 実況の声と共にグラウンドに歓声が響き渡る。

 それほどレイカの活躍に誰もが熱狂したのだ。

「『ブリザード』だと……上級氷属性魔法だぞ、一年生が身につけているなんて……」

「これがヴィルカーナ家の令嬢の実力なのか⁉」

 Aクラスの生徒たちがレイカを信じられないような目で見ている。

 上級魔法は国から認められた魔道士でさえも習得するのは難しい。

 それをすでにレイカは身につけているのだ。エリート集団のAクラスにいるからこそ彼女の恐るべき魔法の実力に驚愕しているのだ。

「そういえば、レイカは昔、魔術の天才児と言われていたけど、その異名は今も健在なんだな」

 新入生でAクラス相手にも引けを取らない魔法技術をすでに持っている。一年でここまで魔法の技術を高めていたことはシュンも驚きだ。

「でもレイカ、あんなシュートを身につけていたなんて」

 あれはただのマジックシュートではない。

 確かにレイカの魔法は素晴らしいものである。だがそれだけでなく彼女のシュートの打ち方にシュンは目を向けた。

 足を大きく振り上げた体勢からシュートをするのは難しいもの。だがレイカはバランスを崩れることなく足を振り切ってボールに100%力を伝えることができている。

 あのマジックシュートは魔法とサッカーの技術を融合させて放った、まさにマジックサッカーの神業だ。

 膨大な魔力によって得た強靭な肉体と魔法技術、マジックサッカーの才能は確かなもの。だが努力もしてきたのだろう。あのマジックシュートを見れば、それがわかる。

『そして試合終了! 勝ったのは! まさかまさかのサッカー部チームだ!』

 レイカが点を取ったと同時に試合終了。

 スコア四対三で、サッカー部が見事に勝利を掴み取った。

「うおお! 勝った勝った! 俺たち勝ったぜ!」

「まさかAクラスのチームに勝てるなんてよ! 何年ぶりだ? 普通のクラスが勝てたの!」

「何年でしょうね〜? でもそんなことどうでもいいわ〜! 勝ったことを喜びましょう!」

「そうですね!」

 試合が終わり勝利が確定したその時、サッカー部のメンバーが歓喜の声を上げていた。

 試合前はAクラスが勝つとこの学院にいる人は誰もが思っていた。

 サッカー部の二年生と三年生もAクラスの実力はよく知っている。だからこそ今回の勝利に大喜びである。

「流石だレイカ! おっとと……」

 シュートを決めたレイカを祝福しようと急いで駆けつけようとしたら躓いて地面に体が倒れていく。

「まったく、魔力が尽きかけているのに無茶しないの」

 だが転ぶ瞬間にレイカが駆けつけてシュンを支えた。

「ははは、ごめん。でも試合に勝ったんだ! そして君は勝利の一撃を決めた! レイカ、凄いな!」

「……そう」

「ヴィルカーナ! よくやったな!」

「正直心配だったんだぜ! でもこんなに上手いとはな!」

「シュンも凄かったよ! あんなパスを出すなんてさ!」

 サッカー部の先輩たちもレイカとシュンの元に駆けつけて、この試合の勝利の立役者を褒め称えていた。

「いや本当に頑張ったわ、皆!」

「監督!」

 ベンチにいたクアトルも全力疾走でこっちに向かってきた。嬉しそうな表情を見るだけで、この勝利に喜びを噛みしめているのがわかる。

「特に一年生のシュン君とエスバー君、助っ人のヴィルカ―ナさん。一年生なのにAクラスチーム相手に頑張って……ありがとうね!」

「……私はそんなに」

「何言ってんだエスバー。ゴールキーパーやってくれたし、最後、フェネクスからボールを奪ったから勝利できたんだ。最高の活躍じゃねーか」

「ねえねえ、監督! オレ達には!」

「空じゃあ負けなしね! さすがトノス君!」

「だろ!」

 監督の称賛に微笑むシュン。エスバーはうつむいているが、顔が真っ赤になっているため、褒められて恥ずかしいのである。

「でさ、二人ともいつまで抱き合っているわけ?」

「「えっ?」」

 クアトルの言葉にシュンとレイカは互いに見る。

 抱き合っている……というよりレイカがシュンを支えている体勢。密着状態だということに気づいて、顔を赤くしてゆっくりと離れた。 

「いや、これは……その……支えているのであって」

「俺が倒れかけて……抱き合ったとかじゃなくて」

「へー……」

「い、今は勝ったことを喜びましょうよ!」

 暖かい視線を向けれれて恥ずかしくなる二人はすぐに距離を置いて、

(負けた……)

 空を仰ぎ、拳を握りしめているフェネクス。

 負けた悔しさと怒りがその拳から伝わってくる。

 他のAクラス生徒も負けたことに悲しんでいた。 

「フェネクスさん」

 ここで声をかけたのはフロストンであった。

「皆が怖がっていますよ。それに戦ってくれた相手を讃えにいきませんか。それが勝負のマナーってものですよ」

「……そうだな」

 言われた通り、ここで気分を悪くしてだんまりしてもチームの皆や相手に失礼というもの。

 心を落ち着かせてサッカー部の方に向かった。

「サッカー部のみんな」

「あっ、フェネクスさん」

「いい勝負だった。君たちのサッカーのテクニック、見事だったよ」

「こちらこそ。Aクラスの魔法、本当に厄介でしたよ」

「そうか、そう言ってもらえるのは嬉しい限りだ」

 フェネクスが手を差し出し、シュンはそれに答えて握手をする。

「シュン、クアトル先生が君を特待生としてこの学院に呼んだ理由がわかった。君のボールテクニックはまさに魔法のようだったよ」

 何度もシュンと一騎打ちをしたからこそ、シュンの華麗なボールテクニックを嫌というほど味わった。

 シュンの技術はこのサッカー特待生として推薦されるにふさわしいものだとフェネクスはそう評価するほどに。

「どうだ、見たかオラ! フロストン! オレたちの勝ちだ!」

「これがワタシたちの力よ! 崇め奉るなら今よ!」

「うるさいな! あー強かった。でもお前たち活躍したか? 点取ったかよ」

「なんだと!」「なによ!」

「フロストン、アイメラ兄姉。言い争いはやめてくれ」

 一触即発の空気を感じたフェネクスが止めに入る。やはり仲が悪い三人組だ。

「では、私たちは行くよ。こっちも、まだ生徒会の仕事が残っているからな。皆、行くぞ!」

「「「はい!」」」

 フェネクスたちはフィールドから去っていく。

(Aクラス……サッカーを練習した時間は短いのにこの強さ)

 もしサッカーを練習する時間がもう少し長かったら、もっとサッカーのことを詳しく知っていたら、勝っていたのはAクラスの方だったかもしれない。

 それほど彼らの魔法と身体能力は驚異的であった。 

「ねえねえ、みなさーん♪ せっかくAクラスチームに勝って、私たちが魔導祭の出場する権利を手に入れためでたい日ですから、お祝いしましょうよ♪」

 モココがそう提案した。

 するとほかのサッカー部も頷いて、

「いいですね!」

「おーっ! それなら俺らが金出すぜ! 欲しい物何でもいいな!」

「おー、太っ腹〜!」

「ついでに新入生の歓迎回もやるか! 今回のMVPたちを祝ってやらないとな!」

「……ごめんなさい」

「え?」

 祝勝会でも開いて、どんな催しにしようか盛り上がっていると、レイカが申し訳無さそうな顔で謝った。 

「今回はあくまでシュンの助けるためにフィールドに来たの。もっともシュンが頑固でフィールドから降りなかったけど」

「頑固で悪かったな」

 レイカの伝えたいことがサッカー部の皆は理解した。

 彼女はサッカー部に入らない。あくまで助っ人としてこの場に、魔力切れになりかけたシュンを助けるために選手としてサッカー部のチームになった。

 それは一時的な話で、試合が終わればサッカー部から去るつもりなのだ。

「試合に勝てたからシュンはこの学院に居続けることができるし」

「ん? どういうことだ?」

 マデュランはレイカの言葉に疑問を抱いた。

「……ねえ、シュン君。ひょっとして話したの?」

「俺たちの話、偶然聞かれたみたいで。彼女に悪気はないですよ」

「そ、そうなのね」

 他のメンバーに気づかれないように話し合うシュンとクアトル。

 彼女の言葉の意味を理解しているのはシュンとクアトルだけである。

「私には一族の使命のためにしなければいけないことがありますから……さようなら。ユニフォームは後日返します」

 そういってレイカはこのフィールドから去っていく。

(……レイカ、やっぱり今回だけなのか。サッカーを一緒にできるのは)

 彼女の使命のことを考えると一緒にサッカー部に入ってサッカーをしよう、なんて言えない。

 だけど、言わなければならないことがある。

「レイカ! 助けてくれて、一緒にサッカーをしてくれて、ありがとな!」

 一緒に戦ってくれたこと、助っ人として来てくれたこと、そのことに感謝の言葉を贈る。

 シュンの声を聴いたレイカは振り向いて、

「どういたしまして。シュンも大会、頑張って」

 そう言って、再び前を向いてサッカー部の前から離れていった。

 サッカー部は彼女の背中を見送る。

「まあ、ヴィルカーナ家は貴族の中でも位の高い貴族だからな。後を継ぐのは大変なことなんだろうな」

「でさ、シュン。ヴィルカーナとは一体どういう関係なんだよ」

「え?」

 突然、トノスからの言葉にシュンは言葉を詰まらせる。

「だってお前、村から来たんだろ? どこでこの街に住んでいるヴィルカ―ナに出会ったんだ?」

「あっ、ひょっとして恋仲〜とか? キャ♡」

「い、いや、そういう関係じゃあないですって! 友人ですよ!」

「なあ、ヴィルカーナが言っていた、試合に勝ったらシュンがこの学院に居続けることができるってどういうことなんだ?」

「なんか色々隠してんだろ、お前」

「いや、隠してたわけじゃあないですって。本当に!」

 このあと、いろいろと聞かれることになるシュン。

 でも今は、この勝利を喜ぶべきではないか、そう思ったシュンであった。




 マギドラグ魔導学院選抜戦は終わり、見事サッカー部のが勝利した。

 このことには学院の誰もが驚いている。

 前にAクラス以外のクラス、または部活が勝利をあげたのは十年以上も前と記録に書かれており、サッカー部が勝利したことは学院の中だけでなく、オラリマの街中にも広がっていったという。

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