氷砕のストライカー
「皆さん、お待たせしました」
着替え終えたレイカはシュンたちが待つフィールドに再び足を踏み入れた。
『おっと! ようやく到着しました! レイカ・レクス・ヴィルカーナ選手、堂々と入場!』
「サイズは大丈夫?」
「はい、問題ありません」
「背番号9か。君らしい数字だ」
「急いで選んだけど私らしい数字ってどういうこと?」
「俺の村じゃあ9の数字はストライカー、点取り屋が身に着ける数字なのさ」
「そう……ふーん」
いわれて少し照れそうにするレイカ。
シュンの前世において、サッカーにおける背番号9はチームのエースストライカーがつける数字。勝ち気でゴールを狙っていく彼女にふさわしい数字だ。
その背番号9の数字がレイカらしいということは、シュンはレイカをストライカーとして認めているということ。そう思われていることにレイカは嬉しくて照れたのだ。
「ヴィルカーナさん。あなたのポジションは?」
「あっ、その、フォワードです」
「ヴィルカーナもフォワードできるのか!」
突然声をかけられて慌てながらも自身のポジションを伝えるレイカ。
サッカー部はフォワードがシュンしかいない。だがレイカが加わって攻撃面においてより万全となった。
「でも一年生がAクラスの守りを崩せるのかしらね」
「大丈夫ですよ。足で見せますから」
自信満々に答えるレイカ。
勝ち気な姿勢は崩さない。期待ゆえのプレッシャーなんて全く感じていない様子。
「おー、頼りになる~。よーし、ミンホイちゃんと交代ね!」
「あ、私ですか。わかりました」
「え、シュンじゃないの? ディフェンダーのミンホイが?」
「ええ、シュン君はヴィルカ―ナさんのサポートをしてもらうの。でもシュン君、魔法の使用は禁止だからね」
「……善処します」
「破る気満々でしょ!」
注意されるもサッカーで手を抜くなんてことはできない。
もっとも魔法を使ったら流石に倒れてしまうため、ここぞという場面で使うべきであろう。
『選手交代です。サッカー部ディフェンダー、ミンホイ選手に代わってヴィルカーナ選手がフィールドに入ります。そしてフォーメーションもチェンジ。4ー4ー2のツートップ。ヴィルカーナ選手はフォワードなのですね』
「なあ、リンガル。あの助っ人に任せて大丈夫なのか? 俺心配だぜ。新入生にいきなりAクラスの生徒をぶつけるなんてよ」
「……大丈夫だろう。彼女もそれを理解してこのチームに入ってきたんだ」
「そうだな……いや、心配なだけだ。彼女が失敗しようが文句は言わねえよ」
チームのキャプテンであるマデュランはレイカの実力に関してはまだ見ていないため不安に思っている。
だが彼女の姿を見て希望も抱いていた。
レイカは緊張で震えることなく、自然体でフィールドに立っている。
それにかつてはシュンとともにコンビを組んだことがあると聞いた。どこで何があってコンビを組んだのか想像できないが、シュンについていけるということは彼女のサッカーの技術も高いはずだ。
そしてそれはAクラスチームも突然入ってきたレイカに警戒の目を向けていた。
「さっき言ったように『マジックフォースサークル』の使用はやめよう。守りの領域魔法は捨てて、敵陣に乗り込む攻撃で一点を奪う」
「はい、わかっています」
「いくぞ!」
笛が鳴る。
ボールを蹴って試合が再開。
この試合も終盤。
(アディショナルタイムも含めて試合終了まで五分弱っていったところか)
延長はある。
だがシュンは自身の体内の魔力を考えると、このわずかの時間で決めなければならない。延長まではさすがに持たないのだ。そうなるとサッカー部は延長戦で十人で試合に挑まなければならない。
そうなれば勝ち目はない。
シュンはAクラスチームの様子をうかがった。
『おーとっ! Aクラスチーム! サイドから攻めていきます! それほどシュン選手を警戒しているということでしょうか!』
「それだけじゃあないさ」
ボールを持っているフロストンはシュンの隣にいるレイカに視線を向ける。
正直な話、彼女の実力はわからない。だがこの大人数の観客の前で現れて突然選手として入ったからにはそれ相応の実力があるはずだ。
新入生とはいえ甘く見てはいけない。シュンだって恐ろしい実力の持ち主だったのだ。ならば警戒はするべきだ。
サイドラインからゴールに向かっていく。そしてシュンとレイカとの競り合いをさける。
ゴールを取るならこれが安定な策だ。
「させるか!」
そのまま見過ごすわけにはいかない。レイカが振り向いて走り出そうとする。
ボールを奪うために守りに行こうとしたのだ。
「レイカ! 君は前線にとどまっていてくれ!」
「シュン!」
だがここでシュンの止める声。レイカを立ち止まらせて、
「必ず俺が君のもとにボールを届ける!」
かわりにシュンが自陣の方に走っていく。
(……残り時間を考えてカウンターを狙えってわけね。わかったわ、あなたを信じる)
シュンの考えを察して、レイカはゴールを向かって進んでいき、オフサイドラインぎりぎりまで走っていく。
そしてシュンは自陣のゴール付近まで下がって相手の出方を疑う。
「絶対に勝つ。俺たちが目指すのは勝利のみ!」
「来やがれってんだ! フロストン!」
フロストンを止めようとトノスが立ちふさがった。
「お前に止められたまるか! 『コールドミスト』!」
「魔法を使うことぐらいわかってるんだよ! 『フレイムタックル』だ!」
炎と氷のぶつけ合い。
両者の足がボール越しにぶつかり合って、その勢いに負けじと足に力を込めて押し続けた。
『激しく激突! そしてボールがこぼれた! そのボールを拾ったのはケットシー選手だ!』
一騎打ちの結果、両者引き分けに終わりボールがこぼれる。そのボールを拾ったのはAクラスチームのケットシーであった。
「攻撃は終わってないわ!」
「ケットシー! 目の前の相手を抜け! サポートは私がする!」
「了解!」
後ろにフェネクスがいる。それだけで安心感がすごく感じるケットシー。
生徒会長のフォローを頼りに、ゴールへボールを運んでいった。
「待て!」
「ゲッ、シュン! でも、私だって一応フォワードだよ!」
自陣に下がってきたシュンがケットシーからボールを奪いに行く。
とにかく足に力を入れてシュンを避けるように高速ステップで抜き去ろうとした。
「くっ⁉」
目で動きは追えたものの、体を動かす前にケットシーに抜かされてしまった。
「ぬ、抜かせた!」
今のシュンは魔力が少ない状態。万全の状態ではないため全力を出せない。だから簡単に抜かされてしまった。
「まだ守りが固い……どうやって切り抜ければ」
サッカー部のメンバーは守りを固めている。
(狙いはカウンターってところか。シュンとヴィルカーナに攻撃を任せて自分たちは絶対死守と)
試合時間が少ないのに守りの態勢をしているのは、フォワードの二人を信じて守っている。ボールを奪ってすぐにカウンターに移るために守りを万全に固めているのだ。
隙の無い守備態勢にケットシーは焦ってしまう。
「やらせるかよ!」
「危ない!」
視覚外からの弓矢のような素早いスライディングタックルが襲いかかる。リンナイトお得意の『ストライクタックル』だ。
それでも、フェネクスの指示のおかげですぐさま魔法を発動。炎をまとってボールをキープしようとした。
「燃えて!」
「うおっ⁉」
リンナイトの右足に炎が包まれて減速。相手の高速スライディングを耐えてさらに前に進もうとする。
「見えました!」
「えっ⁉」
炎に隠れながら近づいてきたバルバロサの足払いスライディングが炸裂。奇襲の一撃にケットシーは転んでしまうも、
「た、助けてフェネクス!」
「もう動いている!」
バルバロサの動きに感ずいていたフェネクスはボールをすぐさま奪い去ってゴールに向かって走っていった。バルバロサもスライディング体勢のためフェネクスを追いかけれない。
ここまで近づいてくれた。
ならばあとはゴールを決めるのみだ。
フェネクスが向かってきていて、エスバーは焦りの表情。
(……どうする⁉ このままシュートを打たれたら……僕じゃあ止められない!)
フェネクスのシュートの威力の恐ろしさは何度も受けたエスバーだからこそ理解している。
領域魔法『マジックフォースサークル』で強化されていない状態でもアタッキングサード内でシュートを打たれたらまず防げない。
マデュランたちがシュートブロックをしても止められるかどうか。
(サッカーでは弱気になるなよ! 考えろ!)
相手から目をそらさずに必死になって失点を防ぐ方法を考える。
残り時間を考えると一点取られたら負け。
絶対にゴールを割らせてはならない。
「エスバー……」
そんな必死な表情になっているエスバーの様子を伺ったマデュラン。すぐさま視線をフェネクスに移して、
(エスバーだけに負担はかけさせられない。ならば!)
「フェネクス! お前のシュートだけは絶対に阻止する!」
マデュラン、フェネクスを迎え撃つ。
一方、フェネクスは点を取ることだけを考えている。
「私の邪魔をするなよ!」
ボールを上空に蹴り上げてフェネクスも空を飛ぶ。そして炎をまとってマデュランに向かって急降下。
「『フェニックスダイブ』」
「来い!」
彼女のマジックドリブル、『フェニックスダイブ』が炸裂。それに対してマデュランはバリアを展開。
ここはあえて普通の初級魔法、『バリア』を使用する。
(地面に着地した瞬間、あの爆発がやってくる。その衝撃はこのバリアで防ぐ)
『フェニックスダイブ』を止めるには爆発の衝撃を耐えた後にショルダーチャージを叩き込むしかない。
マデュランが持っているマジックディフェンス、『ロックタワー』では防ぎきれないと思ってのバリア。結界系の魔法はマデュランの得意分野であるからだ。
(来い! 耐えきってやる!)
防御態勢を取ったマデュランに、フェネクスは彼の目の前で大地がへこむほどの勢いで着地した。
――そして爆発はしなかった。
「なっ⁉」
いつまで待っても炎の衝撃がやってこない。
フェネクスが地面に着地したはずなのに。
「――戸惑ったな」
炎の影がマデュランの横を通り抜けていった。そしてそこから炎の風が吹きマデュランの態勢を崩す。
「うおっ⁉」
フェネクスがしたことは簡単なこと。地面に着地しただけ。爆発の魔法は使わない。単純なフェイント。
それでマデュランに迷いを生ませて一気に抜かしたのだ。
(よし、抜いた!)
ペナルティーエリア内まで入ってこれた。これなら『エクスプロージョン』を放てば確実に決まる。
すぐさま魔法を唱えようとすると、
「私を無視するな!」
目の前にトイズが壁のように立ちふさがる。
じっと構えてフェネクスの動きを止めようとした。
(突破してくるなら止める、シュートが来たなら血反吐はいてでも体を盾にして防ぐ!)
――ガンッ‼
鈍い音がトイズの頭の中に響いてきた。
「ぐぁ――⁉」
上空に吹き飛ばされるトイズ。フェネクスの高速ショルダーチャージで無理やり上空にぶっ飛ばされてしまった。目にも見えない速度で繰り出されたため反応できずに攻撃を食らってしまったのだ。
これによりフェネクスの邪魔をする者はいなくなった。
「もらった! 『エクスプロージョン』!」
フェネクスの右足に紅い爆炎、そして燃えた脚でボールを蹴りにいく。
ディフェンダーの守りを切り抜けた。あとはゴールキーパーのキャッチを吹き飛ばしてゴールに叩き込むだけ。
そう思って素早く足を振り抜いた。
「――見えた‼」
「なっ⁉」
だがしかし、足を振り切ろうとしたその時、ボールに影が迫った。
フェネクスが蹴ろうとした瞬間、誰かがボールに覆いかぶさったのだ。
人の姿を確認したフェネクスは蹴りを止めてしまう。
「……あ、危なかった」
「え、エスバー!」
手の中におさまっているボールを見つめてほっとする。
『エスバー選手! 飛び出してシュートを打たれる前にボールを奪い取った! なんて早業だ! ゴールキーパーの腕を見せつけました!』
「エスバーくんやる!」
「なるほど、エスバーらしい止め方だぜ!」
シュートを止めることができない。
ならばシュートを打つ前にボールを取ってしまえばいい。
ペナルティーエリア内ならゴールキーパーは手でボールに触れていい。
ゆえにエスバーはフェネクスにシュートを打たれる前に近づいてボールを奪ったのだ。
「……サッカーの経験の差、だね」
「エスバー……ッ!」
「……ヒッ⁉」
間近くで睨まれて小さく悲鳴を上げるエスバー。
ドラゴンもビビらせるような表情をしていた。エスバーにボールを取られたのが悔しいのが表情に出ている。サッカーの試合でなければ気絶していたかもしれない。
それはともかく、ディフェンダー陣が必死の守りをしてくれたおかげでフェネクスはゴールを見てはいたもののエスバーの立っている位置までははっきり把握できていなかった。そこでエスバーはボールにゆっくりと距離を縮めていく。
そしてシュートを打つ瞬間はどうしても魔法を発動するための隙ができしまうというもの。詠唱時間がどれだけ短くても、わずかの隙さえあれば、驚異的反射神経を持つエスバーにとって大きすぎる隙。その隙を狙ってボールを奪ったのだ。
これにはAクラスチーム攻撃陣も呆気を取られる。
そして根っからのサッカープレイヤーであるエスバーは、相手全体に動揺が走っていることを察した。
ならばすぐさま行動を起こさなければならない。
(安心してはいられない)
倒れた体勢のまま、クイックスローで味方にボールを渡すエスバー。
ボールを受け取ったのはモココ。彼女に渡したのは急に渡されても対応できるはずだと後ろから見たプレイで思ったことだ。
「……シュンに! 頼む!」
「うん!」
エスバーの言葉を聞く前にすぐさまシュンにボールをパスするモココ。
「よし来た!」
ボールを受け取ったシュン。
ゴールへ向かってドリブル開始。
目の前にいるAクラスの生徒を二人一気にごぼう抜き。体が苦しくても動揺している相手なら楽に抜ける。
「なっ、しまった!」
『シュン選手! 得意の緩急あるドリブルで見事に相手選手を抜き去った! 体の調子は悪くてもドリブルのキレは健在!』
相手選手を抜いて、すぐさまレイカの姿を見た。
(絶対にボールを渡す! ならここはドリブルじゃあなくて!)
するとシュンは魔方陣を展開した。
「えっ⁉」
「なんだって⁉」
いきなりの魔法陣にチームの誰もが驚愕。
なぜならシュンの魔力はなくなりかけている。その状態で魔法を使うのは自傷行為に近い。
でもシュンはこの場面こそが最後の魔法の使い所であると感じていた。
このカウンターこそが勝利への大きな一歩なのだから。
(相手にボールを渡すわけにはいかない! 必ずレイカにボールを届けなければならないんだ!)
「届けっ! 俺のシュートッ!」
竜巻のボールが大空を飛ぶ。
誰にも邪魔をされずにゴールに向かって進んでいった。
「ここでロングシュートだと⁉」
「くっ!」
呼吸が苦しい。体のいたるところが悲鳴を上げているのか痛い。
シュンは思わず倒れそうになるも、最後まで試合に出る。その思いを裏切らないために足に力を入れて歯を食いしばってなんとか立ち続ける。
飛ばしたボールは空高く飛び、誰にも邪魔されずゴールに向かっていく。Aクラスチームも止めようとするが高速で飛んでいくマジックシュートに追いつかず見逃すのみ。
だがそれでも問題ない、ゴールキーパーのドレイクはそう考えていた。
センターラインよりも遠くからのマジックシュートなんてペナルティーエリア内に侵入するころには威力が大きく下がっている。どれだけシュンのシュート技術が高くても、威力が大きく下がるのは当然だ。
そんなシュートボールを止められないならゴールキーパー失格だ。
冷静な気持ちでボールを見て、シュートを止めるための魔法を準備する。
「――えっ、曲がった⁉」
ドレイク、もといディフェンダー陣、ゴールから大きく外れていくボールを見て戸惑う。
これはシュートミスなのか。なら落ち着いてボールを取りに行って、キャプテンのフェネクスにボールを渡して再度攻撃を仕掛けるべきだ。
ボールを追いかけていくと、
「違う! これは――」
シュートではない。
これはシュートに見せかけた、
「パスだ! 魔法を使った!」
ボールが落ちる場所には、前線にとどまっていたレイカがいた。
「マジックシュートをパスにするなんて……トノスだったら味方の腹にぶち当ててたわ。シュンにも当ててたし」
「なんだよ! 当てる気持ちでパスを打たないと敵に止められるぞ!」
「なるほど、山なりに打つことで受け取る側が安全かつ相手のカットを無視して渡せるのか」
そう、シュンが放ったのは強烈な上回転のウィンドシュート。
それをレイカに安全に受け取ってもらうために空高く放つ。上回転はシュートの軌道を真下に向かって落ちていくため、レイカの近くに上空から地面に向かって落ちていく軌道となるのだ。
これこそがマジックパスである、『ティルウィンドパス』である。
「……後は頼むぜ……レイカ」
そして風をまとったボールは地面に激突した瞬間に消えて、レイカの足元に収まる。
「――託されたなら答えるのがストライカーよ!」
そしてゴールに向かって突撃。力強いドリブルでゴールへ一直線。
『パスです! 今のマジックシュートは、マジックパスだった! シュン選手、ここで確実にレイカ選手にボールを渡すために魔法を使ってパスを出した!』
「相手は一人だ! 止めろ!」
レイカを止めようとディフェンダーのゴムレスとケロベロが向かってくる。
「ああ! 一人じゃ無謀だ!」
マデュランが心配になって声を上げる。
前線にとどまっていたのはレイカ一人のみ、ほかの味方のカバーは間に合わらない。
相手のケロベロの鋭いスライディングが炸裂。レイカの足元めがけて飛んでいく。
するとレイカは右足でボールを軽く押し出した後、すぐさま左足のインサイドで右奥にボールを出して相手をよけつつ抜かしていった。
あの動きはシュン自身もよく使う、フェイント系のドリブルの基礎といっていいテクニック。
(ダブルタッチ!)
動作こそシンプルなものの、丁寧かつ素早い足さばき。
それを見てシュンは嬉しく思った。
サッカーの実力が落ちていない。むしろ一年前によりうまくなっている。
家を継ぐことを選んだとはいえ、サッカーは好きなままだということを今のプレイで理解した。
それがうれしいのだ。
「シュートは打たせんぞ!」
ケロベロを抜かした後、ゴムレスがショルダーチャージを仕掛けてきた。巨体の突撃は直撃すれば軽々と吹き飛ばされてしまうだろう。
「邪魔!」
だがレイカはここでよけることはせず、なんと自身も肩を突き出して足に力を籠める。そして体勢を低くして砲弾のように飛び出してぶつかり合った。
「うわ!」
吹き飛ばされたのはゴムレスの方だった。
「え?」
「は?」
その光景に誰もが驚く。
女性のレイカが巨体の男性であるゴムレスを吹き飛ばしたことに、驚いたというわけではない。
新入生がエリートぞろいのAクラスの生徒を身体能力で勝って吹き飛ばしたことに驚いたのだ。
レイカお得意の一直線の『ハイチャージドリブル』。
一年前に一緒にプレイしたシュンならわかる。前に見た時よりもスピードもパワーも上がっている。
そして相手を抜き去ってゴールの前にディフェンダーの壁はなくなった。
「ええい! この!」
このままシュートを打たせてたまるか、Aクラスのリデッドとタウロスが横から二人で止めに行く。
だが彼女に近づこうとした瞬間、身が凍るような強風が襲い掛かってきた。
「うお⁉」
その風に思わず足を止めてしまう。
レイカの周りには全てを凍てつかせる猛吹雪が発生している。
これではボールを奪いに行けない。
「誰もシュートの邪魔はさせない」
すでに魔法を発動させているレイカ。
彼女の周囲に猛吹雪が包み込み、ボールに強力な冷気が集まっていく。氷と冷気がボールと一体となる。
レイカが足を大きく振り上げて、そして全身全霊の力でボールを蹴った。
「そして邪魔するものは全て打ち砕く! これが私の! 『アイシクルブリザード』‼」
強烈な猛吹雪が大地と空を凍らせながら、彼女の足元から解き放たれた。
強大な魔力と冷気が秘められたボールはゴールに向かって突き進んでいく。ボールの周りには冷気と氷が共に飛んでいる。
そんなシュートを前にドレイクは魔方陣を展開。
「止める! 『リフレクトシールド』!」
右手に巨大な魔力の盾を構築し、冷気のマジックシュートにぶつけて止めようとする。
『リフレクトシールド』がボールに当たった瞬間――魔力そのものが凍り付いていく。
そしていともたやすく魔力壁にひびが入っていった。
「なんだこれは……っ! 本当に一年生が使う魔法か――うわぁっ⁉」
ドレイクが作り出した『リフレクトシールド』は凍り付いて瞬間に粉々に砕け散り、そしてそのままマジックシュートに弾き飛ばされてしまう。
そしてボールは無人となったゴールに入っていった。
ゴールネットには氷と雪がまとわりついていたのだった。
【エルドラドサッカー日誌】
アイシクルブリザード
レイカが魔法とサッカーの技術を鍛えていってできたマジックシュート。
全てを凍てつかせるほどの吹雪を生み出し、その冷気エネルギーをボールに込めてシュートを放つ。あまりの魔力の強大さにボールに魔力が収まりきらず、吹雪そのものがゴールへと向かっていく。