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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
一章 魔導学院、入学へ
62/130

追い風はゴールへと導く

 ボールを持ってゴールに向かって全力で走っていくサッカー部チーム。

 この攻撃が点を取る最大のチャンスだということは誰もが理解している。絶対に相手にボールを渡してはならない。でなければ同点にできず負けだ。

 サッカー部は全員で攻めに行く。守りに専念していたディフェンダー陣もどんどん駆け上がっていく。

『こ、ここで全員攻撃! サッカー部、フィールドにいる十人の選手が一気に駆け上がってくるぞ!』

「人数で押してきたか!」

「総攻撃だ!」

 サッカー部の捨て身の全力攻撃。

 なんとしても点を取る気迫がひしひしと伝わってくる。

「みんな! 至近距離でのシュートはなんとしても阻止しろ! 遠くからのシュートならブロックで防げるはずだ!」

 気を引き締めるように大声で指示を出し、フェネクスはシュンからマークを外さずにフィールド全体を見渡した。

 全体攻撃を指示したシュンは前に進みつつもフェネクスを警戒する。

(フェネクスのマークはきつい。プレッシャーを感じまくるぜ)

 ほかのメンバーがボールを所持していても、無視してシュンをマークし続けている。

 それは彼女がシュンの行動を縛れば点は取られないという考えがあってのことだろう。ほかのメンバーは他のAクラス生徒に信頼して任せている。ならば自分はシュンを封じることに専念する。

 だからこそフェネクスは絶対にシュンからマークを外さない。

(だが、彼女を振り切れさえすれば――)

 絶好の得点のチャンスというわけだ。

(勝負は刹那で終わる)

 単純な話だ。

(俺がシュートを打つか、それをフェネクスさんが阻止するか。それだけのシンプルな勝負)

 フェネクスのマークを切り抜けて、渾身のマジックシュートを叩き込む。そうすれば点は取ることができる。

 そしてフェネクスにとってそれだけは阻止しなければならない。

 この二人の間にフィールドに漂っている闘志よりも重いプレッシャーが漂っている。互いに獲物を向けあっている決闘のような、心臓の音と殺気だけが感じるような雰囲気。

 目には見えない重圧が彼らの二人の間にある。

 それほど両者が警戒しあっているということ。

(私はサッカープレイヤーではないがわかる。彼と勝負する時が)

 ――この先に起こる一対一の戦いこそが、この試合の命運を握っていることも察していた。

(負けるわけにはいかない。このチームのストライカーとしてな)

 そのためには絶好の場所でボールを受け取らなければならない。

「ディフェンダー陣! 攻撃陣のメンバーとスリーマンセルで攻めてください! そして攻撃はパスを中心にして相手をかく乱するように!」

「わかったぜ!」

 シュンの言葉にうなずいて、ボールを持っているトノスが走り出す。彼をサポートしようと仲間たちも駆け寄ってくる。

「絶対に止めろ! 何が何でもシュートを打たせるな!」

「ボールを取って彼らのチャンスをへし折ってやれ!」

 Aクラス生徒も防御態勢。このリードを覆させないためにボールを全力で奪いに来る。

 Aクラスチームフォワード、ケットシーが炎をまとったスライディングタックルを炸裂。トノスを蹴散らしボールを奪う気だ。

 フォワードでもAクラスなら強力な魔法で強烈なディフェンスを展開できるのだ。

「そんな魔法! 見飽きたね!」

 走りながら足を振り上げてボールを上空に高く上げる。そして空へと大ジャンプ。

「ドリブルだって空中だぜ!」

 そして足元から魔力をジェットのように噴出させて、ボールとともに空を飛びかけ相手の魔法を飛び越えた。

「な⁉」

「へっへ! ワンパターンな技なんてこんな簡単な魔法で抜けるもんね!」

「いい気になるなよ」

 相手の魔法を飛び越えた先に違う選手が待ち構えていた。バリアの壁を張りつつ、トノスへ強引なショルダーチャージをかましてきた。

 このままでは魔法もしくは相手選手のチャージをぶつけられてしまいボールを奪われてしまう。いくら空中戦が得意とはいえ、地上に比べたら動きにくいうえに空中でもAクラス生徒が使う意魔法が驚異なことは変わりない。

「やば! 『フレイムドリブル』!」

 瞬時に魔法を発動。

 炎をまとって相手の魔法の防御を無理やり突破しようとする。

「うおっ!」

「なんと!」

 二人がぶつかり合って、両者どちらも吹き飛んでしまう。魔法ではAクラスのトレンツが上だったが、高く飛んでいたトノスが重力の力を味方にしていたため、そのおかげで引き分けに終わったのだ。

「いや、ナイスですよ!」

 そしてトノスから離れて地面に落ちてきたボールはバルバロサがすぐさま拾う。

 一騎打ちで引き分けに終わってもサッカー部の全員攻撃によってボールを持っている選手の近くに仲間がいる。こぼれ球になってもすぐさまボールを拾えることができるのだ。

 攻撃はまだ終わらない。

「モーグリンさん!」

「はーい! モココちゃん!」

「うん!」

 ここでサッカー部、連続パスで行い相手を避けながら前に進んでいく。

 ライン際にいるモココがボールをもらってドリブル開始。前へ前へと進んでいく。

「通すわけにはいかない!」

「むっ?」

 ここでタルチュラの高速スライディングタックルが炸裂。

「甘いね!」

 モココ、ここでボールを軽く浮かばせて舞い落ちる木の葉のような軽やかなステップ。その可憐ともいえる動きで鮮やかに抜かした。

「本命はこっちだ!」

「え⁉」

 タルチュラを抜いた先にはタウロスがいる。魔法を発動させており、大きな岩とともにモココにショルダーチャージ。

「キャアッ⁉」

 二段攻撃にモココ対応できず直撃して吹き飛ばされてしまう。ボールは上空に飛んですぐさまタウロスが追いかけてボールを奪おうとする。

 このボールを奪えばサッカー部の攻撃は終わる。しかも前線にディフェンダー陣も来ているためサッカー部のゴールががら空きに近い。

 すぐさまフォワードにボールを渡そうとタウロスは全力で走ってボールに追いついて、

「油断するんじゃないわよ! この!」

 ボールを奪われたと思われたその瞬間、トイズの鋭いスライディングがタウロスの足元にあるボールをかっさらいつつタウロス本人を吹き飛ばした。

「うわ!」

「奪われても取り返せばいい! 予定通りだわ! モーグリン!」

『攻撃は止まらない! サッカー部チーム、どれだけ強力な魔法が向かってこようともそれを跳ねのけてゴールに向かっていく!』

 スライディング体勢で足を振ってパスを出すトイズ。ボールはモーグリンに渡った。

(決める時が来たか!)

 ここがシュートを打つ場面だ。

 シュンはすぐさまモーグリンに片手を向けて、

(頼む、シュートを打ってくれ)

 手でシュートの合図を送る。

 それに気づいたモーグリン。シュンがモーグリンのマジックシュートをチェインシュートでゴールに叩き込むのだと察した。

 ならばすぐさまシュートを打つべきだ。

「シュンくん……お願いね。『ウォーターシュート』!」

 モーグリンの水のマジックシュートがゴールに向かって放たれる。そしてそのシュートの軌道にいるシュンは消えるような速度のステップで加速して、マークしているフェネクスを振り払うように移動して。シュートのタイミングに合わせて足を振った。

「よし! 決める! 『ウィンドボレー』だ!」

「させるか!」

 マークを徹底的にしているフェネクス。相手に自由に打たせるわけにはいかない。

 シュンよりも速いスピードでボールに回り込んで近づき、炎の足でシュートを蹴り返そうとする。

 互いに魔法をまとった蹴りがボールにぶつかりあう。

『二人のエースのシュートのつば競り合い! 魔力の余波がこちらにも伝わってくるかと錯覚するほどです!』

 炎と風がボールを中心に吹き荒れる。二人以外の選手はその炎風の強さに近づくことすら困難。完全に二人だけのぶつかり合いだ。

(あんな不安定な体勢なのに! なんてパワー!)

 体が傾いてどう考えても威力の出るシュートのモーションではない。なのにこの威力。タイミングがばっちりとあっていてボールに十分威力を乗せれているというのに。

 シュンが押し返されているのだ。

「このフェネクスを魔法で勝てると思うな!」

「うお!」

 フェネクスの蹴りがより威力を増す。そしてそのままシュンを押し飛ばしたボールは二人の蹴りによってあらぬ方向に飛んでいきラインを越えてしまった。

「くっ……力を込めすぎてボールも飛ばしてしまったか」

 だがそれは仕方ない。

 力を抜けばシュンのシュートを止めるのは不可能に近い。ならばラインを越えさせても点を入れさせないことの方が大事だ。

(な、なんてパワーだ……)

 シュンは思わず右足に触れる。電撃でしびれたかのような感覚が今もなお足に残っている。それほどフェネクスの蹴りが凄まじいことの証明。踏み込みだけで人を吹き飛ばすほどの風圧を作り出すことができる脚力を持っているだけはある。

(スピードもパワーも負けている……身体能力では明らかに差がありすぎる。何とかしてその差を埋めることができれば……)

 でなければシュートを十分な威力で放つことはできない。彼女を乗り越えなければ点を取ることなんてできはしない。

 だがどうやって。

 身体能力は言わずもがな、魔法の実力だってフェネクスの方が圧倒的。

 サッカーの技術もその二つによって封殺される。

 せめてスピードだけフェネクスと互角に近いところまでいければ……。

「――やるしかないか」

 そう考えて、あることを思いついたシュン。

 地面の魔方陣と自身の胸元に手を当てて覚悟を決める。

「それに、俺のチャンスはまだ終わっていないってことだ」

 覚悟を決めたシュンは急いでラインを越えたボールを手に持った。

『おっと、シュン選手がボールを拾い! スロワーは彼がするつもりでしょう!』

 実況のメロエウタがそう言った瞬間、シュンはすぐさまモココにボールを渡す。

「「「なっ⁉」」」

 拾った後すぐにボールを投げたため敵選手驚く。トイズとミンホイも驚いていてのはここだけの話。

「すぐに俺に!」

「うん♪」

 そして素早くシュンにボールを渡した。

『シュン選手にようやくボールが渡った! これはうまい!』

 スローインする瞬間だけはマークはつけない。なぜならボールを投げる選手の近くにあいて選手は近づくことができないルールがあるから。異世界のエルドラドでもそのルールは健在。そのわずかな隙だけがシュンにとってのフリーになるチャンスであった。

 そしてさらに味方に渡してすぐ自分に返してもらえれば、スロワーであるシュンにボールを渡せるということだ。

 シュンがボールを持つことができるまたとないチャンス。

 だからシュンはラインを割ったボールを見てチャンスはまだ続いていると思っていたのだ。

(ボールが外に出たら素早く拾って素早く投げる。『クイックスロー』もサッカーの基礎技術だぜ)

 すぐさまゴールに走り出すシュン。

 ようやく自分の足元にボールがやってきた。

 ゴールは間近だ、ここまで攻め込んでくれた味方に感謝して、あとは自分でゴールを奪いに行く。

 ストライカーとしてここで点を取らなければならない場面だ。

「ボールをすぐに奪い返せ! ほかの選手は今だけは無視しろ! シュンにシュートだけは打たせるな!」

 フェネクスの号令とともにAクラスの生徒たちが全力でシュンを妨害しに行く。

 魔法を発動させる準備もある。

 こんなに注目されているのなら味方にパスを渡すのが定石。しかし自分の力でゴールを奪うと決めたシュン。魔法が襲い掛かってこようが逃げるつもりなどない。

 目指すはゴール一直線。

「ゴールを奪えない守りなんて存在しない! 突破してやる! 『ウィンド』!」

 相手が魔法を唱えるというのなら自身も魔法を唱えればいい。風魔法で自身の足に風が包み込む。

「魔法の勝負では負けるか!」

 ミッドフィルダー、フロストンも冷気を飛ばしてシュンを妨害する。ただの風魔法では飛ばせないように魔力を込めて。

 ほかの選手も魔法を発動している。前面魔法の制圧防御。それに対してシュンは、

「わかりやすい軌道だ!」

 横に向かって全力で走り魔法の攻撃を回避。そしてさらにそこから急停止してフロストンたちを全速力で抜き去りにかかる。

「なにっ――」

「うそ⁉」

 こちらに向かってきたのを察したAクラスメンバー、止めようとしたその時、シュンの姿はもうない。すでに突破されて背後にいる。

「ま、待て――うお⁉」

そしてシュンが通ったその道には魔法の余波である風が吹き荒れて、Aクラスチームのメンバーに強風が襲い掛かり思わず足を止めてしまう。

『ま、まさか! シュン選手、魔法の風で走る速度を上げたということでしょうか! まさに風となってゴールに突き進んでいく!』

 ギアを上げた、なんてどころではない。

 ギアそのものをぶっ壊したかのような速度でゴールに向かっている。

 シュンの足を包んでいる風が、地面を蹴ると同時に足裏から強風で押し出している。その風のおかげでいつもよりも倍以上のダッシュでフィールドを駆け抜けることができるのだ。

 シュンが使う『ゲイルステップ』を常時使用しているようなもの。

 これならAクラスの強力な魔法相手にも対応できる。

 魔法のぶつけ合いで勝てないのなら、魔法をサッカーの技術を上げるために使えばいいのだ。

(続け! 風を発生させ続けろ! 魔力の残りなんて考えるな! 一点取ることだけを考えるんだ!)

 普通なら絶対にできない魔法の使い方。

 使っている途中で魔力切れが起こり倒れてしまう。十秒ちょっと持てばいい方。

 だが今は例外だ。

 Aクラスが作り出した――『マジックフォースサークル』がシュンの体内に魔力を注ぎ続けている。

 そのおかげで三十秒ぐらいは持つことができる。

 それぐらいの時間があるなら。

(ゴールを決めてやる! この攻撃で点を取れなければ負けだ!)

 シュン、そのまま一直線にゴールに向かって走っていく。途中にいる相手選手も風の如きスピードでどんどんと抜き去っていく。

 誰もシュンの体とボールに触れることすらできない。

『シュン選手! スピードがさらに上がったドリブル! Aクラス選手をごぼう抜き!』

「くっ、通されるか!」

 フェネクスが止めようとしたものの、シュンはフェネクスの目の前で体を左右に揺さぶって惑わせる。そしてフェネクスの思考に迷いを生ませて動きを鈍らせた瞬間に、刹那のスピードで抜き去った。

 風をまとった状態でのフェイントドリブル。

 スピードが上がっても、ボールのキープ力、テクニックは落ちていない。

(なぜだ! あんな風を足にまとったら! 普通ボールはどっかに飛んでいくだろ!)

 追いかけながらもシュンの驚異的なドリブルに戦慄する。

 フェネクス自身もシュンが今やっていることを練習でしたことがある。魔法の炎をまとってドリブルをすればもっと速く、もっと力強いドリブルができると考えて。

 だが結果は上手くいかなかった。

 足に炎をまとうのは何の問題ない。問題があったのはドリブルの方だ。

 魔法をまとってドリブルをしたらボールがどっかに大きく飛んで行ってしまう。では飛ばないように丁寧にボールをタッチしてドリブルをしようにも、スピードが全然出せずこれなら普通にドリブルした方がいいとフェネクス自身がそう思ったのだ。

 サッカー経験が短いのでサッカーそのものの技術がまだ身についていないことが原因だ。

(なのに……シュンはどうだ?)

 あんなに激しい旋風を足にまといながらもドリブルのキレは落ちていない。むしろ魔法の威力が加わってより動きのキレが増している。

 魔法が強化されている状態でもすぐに慣れて、ボールとともに進んでいる。

 常にサッカーをしてきて、サッカーの技術力を上げてきた、サッカーの申し子であるシュンだからこそできるマジックプレイング。

 あらためてシュンのサッカー技術に驚愕する。

 だが驚いている場合ではない。

 なんとしてでも止めなければならない。

 ――己がマークした相手にフリーにシュートを打たせてたまるか。

「フェネクスをなめるな! 『フェニックスダイブ』だ!」

 炎の翼とともに空を駆け飛ぶ。そしてそのスピードのままシュンにチャージを仕掛けた。

「そんな守り! 丸わかりだ!」

 背後から熱気に気づいたシュンはすぐさま横によけつつ、ボールを少し前に浮かばせようにチップキック。ボールに風をまとわせて、大ジャンプからのボレーキックを炸裂。

「くらえ! 『ティルウィンドジェット』!」

 シュンのウイニングショットである『ティルウィンドジェット』が放たれた。いつものシュートに加えてボールに風をまとわせた状態からのショットのため、威力も倍増。

 強風の小型竜巻がゴールに向かって飛んでいく。

「決めさせるか!」

 チャージをよけられたフェネクス。しかしそのおかげでゴールの前に移動できた。そのから振り向いてからの『豪快なカット』による獄炎の蹴りがシュンのマジックシュートにヒット。

「ぐうぅ!」

 シュートをはじき返そうとしたが、そのシュートの威力に足が悲鳴を上げる。なんて強烈なシュート。風魔法だけでなくシュンがかけたスピンがより威力を上げている。

 この一撃でゴールを奪いに来たのだろう。

 だがしかし、そんなことはさせない。

 フェネクスはそのまま魔法を強くし、そして全力で足を振りぬいた。

「うおおおおぉっ!」

 鉛球を蹴っているような錯覚になるも、諦めず足を押し出す。するとボールははじかれて上空に飛んでいく。

『と、止めた!』

 実況のメロエウタがボールの行方を見てそう思った。

 観戦席にいるレイカや生徒や教師も、フィールドにいる選手たちも、そしてはじき返すことに成功したフェネクスも。

「ボールはまだ生きているぞ!」

 ――だが、一人だけ、シュンだけがまだシュートは止まっていないと思っていた。

 上空に上がったボールを見て、すぐさま大空に飛ぶ。

『いや、これは浮き球! シュン選手のシュートは止まったが、まだ攻撃は終わっていない!』

 それを見たメロエウタがあわてて言う。観客席にいる生徒たちが再びシュンに視線を移した。

(俺の魔法はまだ終わっていない。今もずっと続いている。終わってないならまだマジックシュートを打てる!)

 点取り屋にとってボールを奪われるまでは、シュートを防がれても攻撃は終わっていない。そしてシュン自身の魔法も終わっていない。

 残り数秒の攻撃チャンスがまだ残っているのだ。

 勝利への道はまだ閉ざされていない。

「ボールは私のものだ!」

 それに気づいたフェネクスもすぐさまボールを追いかけて空へ飛んだ。

 身体能力が高いフェネクスの方がジャンプが遅れていても、シュンに追いついてすぐさま抜き去る。

 あとはヘッドで味方にボールを渡せばいい。ボールに近づいて額を当てようとしたその時、

 ――シュンの足がボールに当たっている。

「……なっ⁉」

 自分はシュンを追い越したはずだ。

 なのになぜシュンの方が先にボールに触れているのか。

 そう思ってシュンの姿を見ると、シュンは頭を地面に向けて、足を上空の方に掲げてボールを蹴っている。

「――こ、この動きは!」

 見覚えある動きだ。

 あの動きは間違いない。

 このエルドラドにおいて、一流のサッカープレイヤーの証明となるシュート。


「どこまでも飛んでいけ! 『ティルウィンド・オーバーヘッド』!」


 ――真上にあるボールにオーバーヘッドキックが炸裂! 

 旋風の蹴りからジェット風のマジックシュートが飛んでいく。音速で飛んでいるのかと思ってしまうほどの高速シュートフェネクスも目では終えても体は反応できない。

そして自由なシュートボールはゴールの隅にぶれず的確に飛んでいき、

「あっ! ば、『バリア』で!」

 ドレイクも下級魔法を発動させるのがやっとで、

「う、うおぉっ⁉」

 魔力を十分に込めた堅固な魔法壁でも一瞬で壊され、その手を弾かれてゴールに入っていく。

 強烈な風とボールがゴールネットを激しく揺らす。

 笛の音が鳴った。サッカー部にとって歓喜の笛が。


『ゴオォォォォルゥ‼ シュン選手! フェネクス選手の激しいマークを切り抜けて! 同点打を叩き込んだ! これがサッカー部のエースストライカー! この試合で三点目を決めました!』


「みんな! やったぞ俺は!」

 ゴールが決まったこと、それを理解したシュンは地面に倒れつつも両手を掲げて歓喜の大声をこのフィールドで上げた。

【エルドラドサッカー日誌】

 ティルウィンド・オーバーヘッド

 シュンの十八番である『ティルウィンドジェット』をオーバーヘッドで打つシュンのサッカー技術の極みの如きマジックシュート。

 空に飛びながら空中で風魔法を発動させて素早く蹴りを行うことができ、その結果オーバーヘッドの威力を上げている。

 この世界においてオーバーヘッドキックは一流のサッカープレイヤーの証。これができてこそストライカーを名乗ることができるという人がいるほど、この技に人々は魅了されている。

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