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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
序章
6/130

子供も大人も魔導士さんも

「シュン! 渡すぜ! 今日も決めてくれよ!」

「おう! 任せときな!」

 オドロン村の広場。

 今日も男女子供の声が響いている。

 サッカーをしているからだ。

 ボールを追いかけて、ゴールを目指す村の子供たち。 そして仲間のドーロンからボールを受け取ったシュンはすぐさま足を振りぬき、

「決める!」

 ボールを蹴飛ばす。

 そのボールは円を描くように曲がって、ゴールの角ギリギリのコース。ゴールキーパーは飛び出して止めようとするも、手が届かずゴールに入った。

「よし、今日もバッチリだ!」

「出た、シュンの曲がるシュート! わかっていても防げないよね」

 ボールを擦るように蹴り出すことによって、強烈な回転をかけて空気抵抗でシュートの起動を曲げる。カーブシュートだ。

 シュートを決めて、シュンたちのチームは大喜びだ。

「皆もいい動きだったぜ! ドーロン、特に今のパス! 最高に蹴りやすいいいパスだ!」

「だろ、なかなかのもんだろ」 

「よし、もっと点とろうぜ!」

「「「おう!」」」

 子供達の元気な声、今日も広場はサッカーで大盛り上がり。

 シュン達はボールをたのしそうに追いかけていた。

「球蹴り、にしては子供の人数が多いな」

 そのサッカーを観戦している一人の魔導士がいた。

「あの木で作った……ゴールっていってたな。そこにボールをいれるゲームか。単純で分かりやすいが、奥が深そうだな。子供が考えたのか、これ?」

 リーザンだ。先程のシュンたちの会話を聞いて、サッカーとはなんだ、と疑問に思って、子供達についてきたのだ。

 そして今、シュンたちのサッカーを見ていた。

 最初はただの球蹴りだと思っていたが、ドリブルやシュートを見てみるとただの球蹴りではないと気づく。

「あの少年のボールを転がす技術……ただもんじゃねえな」

 そう思いながら、子供達のサッカー試合を見続ける。

 そしてフィールド内でシュンの相手チームがある作戦を発動させた。

「何度も打たせたらいけない! 皆でシュンにボールを渡すのを防ぐんだ!」

「おう!」

 相手チームは三人体勢でシュンを囲む。三人でシュンをマークしてきたのだ。

(俺にシュート絶対に打たせないようにするって訳か……)

 これではパスを受けとる前にカットされる。万が一ボールをとれてもすぐさまショルダーチャージされてボールを奪われるだろう。

 だがここまでハードマークされるということは、味方のメンバーも動きやすいはず。なぜなら相手はゴールの守りの人を、シュンにマークするように指示されたため、そのぶん相手の守りも薄くなっているはずだ。

「オラオラ! シュンばっかみてんじゃねーぞ!」

 ドーロンがボールをもって直線的にドリブルで進んでいる。守りの薄くなった敵陣にどんどん攻め混んでいく。

「ドーロン、打て!」

「わかってら!」

 シュンに言われる瞬間、ドーロンのシュートが炸裂。速いスピードシュートが飛んでいく。狙いは木の棒の近く。ギリギリのシュートコースだ。

 相手のゴールキーパーはすぐさま反応してボールに向かって飛び込むが、

「あぁ……!」

 手がかすることなくボールはそのまま進んでいく。

 入ったか! シュンはそう思ったが、ボールは木に激突して弾かれて飛んでいった。

「入らんかったか……」

「惜しい! コースは悪くなかったぜ!」

「次は決めてやる! 俺にパスをくれ!」

「ドーロン、次は俺がシュート打つよ! ドーロンはいつも通りラストパスよろしくね」

「なんだと! たまには俺にパスじゃなくてシュートを打たせろよ!」 

 味方チームの言葉にドーロン、大声をあげた。ドーロンはシュンと長くサッカーをやって来て、パスがメキメキと上達してパスに関してはシュンにも負けないほどになった。だからいつもサポートばっかりなのである。

 だからたまには思いっきりシュートを打ちたいドーロン。だが力むせいで先程みたいにシュートコースがぶれてしまうのがまれにある。いつもだったらパスを渡すときと同じように正確なシュートを放つのだが。

 そして試合は再開。

(しばらくはこのマークが続くな。しばらくは動けそうにないかな)

 周囲の状況を確認してシュンはそう考えていると、

「えーと……シュン、お願い!」

「マジかよ!」

 仲間がシュンにパスを渡してきた。どうやらドリブルで突破しようとしたが逆に追い込まれてしまい、焦ってしまって近くにいたシュンにパスを渡したようだ。

「よし、とるぞ!」

 こっちにボールが来たら、シュンをマークしていた敵チームが三人が動き出す。二人はシュンへのマークを強めて猛一人はボールをカットしにいく。

 このままでは相手にボールが渡ってしまうだろう。

 このままボールを取りに行っても、マークについている敵チームの二人がシュンに突撃してくる。

「ならば!」

 シュンはボールに向かって全力疾走。そしてそのまま前方に大ジャンプ。

「「「え!?」」」

 シュンの突然の行動にフィールドにいるすべての子供達が驚いた。

「まさか、あんな状況でボールを蹴り飛ばすのか!?」

 観戦しているリーザンは驚く。

 そうだ、シュンは大ジャンプしながらボレーでシュートを打ちにきたのだ。 

(ギリギリか? いや、たとえそうだとしても打つのがストライカーだ!)

 シュートを打つ決心がついたシュン。前に大きくステップしながら足を降る。

 ノートラップボレーシュート。ボールを胸元や足で受け止めることをせず、そのままシュートを打つ高難易度な技だ。

 不安定な体勢ではあるものの、ボールに足がヒット。

(――ダメだ! タイミングが外れた!)

 だが蹴った瞬間の手応えが悪い。きちんと力が伝えられなかった、そんな感覚が足に伝わってくる。

 そしてその感覚は正しく、ボールはゴールとはかけ離れた方向に飛んでいった。

「くっ、やはり決まらなかったか……」

「な、なんとか防げた……」

 シュートが外れて悔しがるシュンと安堵の息をはく相手チーム。

「え!?」

 フィールドにいる一人の子供が驚きの声をあげた。

 ボールが飛ぶ方向に今日来ていた魔導士、リーザンがいた。このままだとボールが当たってしまう。

「あ、危ない! 避けて!」

 すぐさま危険を知らせようと大声で叫ぶシュン。

 だがリーザンはボールが顔に当たる瞬間、

「おっと!」

 右手を素早く振って、ボールを片手で掴んだ。

「まあ、これぐらいの勢いなら反射で止められ――ん?」  

 誰がこのボールを自分に向けて飛ばしてきたんか、辺りを確認しようとした瞬間、手に変な感触が。

 自身の手を確認してみると、ボロボロに壊れたボールだったものが。

 掴む力が強すぎてボールが壊れてしまったようだ。

「……しまった」

「あー! 魔導士さんがボール壊した!」

「えー! ひどいよ‼」

「ああ……すまん、まさかこんなにもろいもんだとは思わなくて」

「これでも前よりかは頑丈になったんだぞ! それなのに……」

「ひどいねー!」

 ボールを壊されて、子供達に攻められるリーザン。

 おかしい、自分はどちらかと言えば被害者なのでは、そう思ったがボールを壊してしまったのは事実。子供達を落ち着かせようとしていると、

「こらこら、リーザンさんが困っているだろ。元はと言えばボールを明後日の方向に飛ばしちまった俺が悪いんだ。ボールなら予備があるから大丈夫だ。ほら、ゴールの近くに置いてあるから取ってきな」

「……わかったよ」

「そうね。じゃあ、早速ボール取ってきましょう」

 シュンがなだめて子供達を落ち着かせる。そして子供達はサッカーを再開するためにボールを取りに行った。

 そしてシュンはリーザンと向き合って、頭を下げて謝った。

「すいません、そっちにボールを飛ばしちゃって」

「いや、いいってことよ。むしろこっちが悪いな、ボール壊しちまって」

「俺もフィールドに戻るんで。魔導士さん、じゃあね」

「なあ、待ってくれないか?」

 子供達に合流しようとするシュンを止めリーザン。

「……? なんですか?」

「敬語は要らねえ。坊主に丁寧な言葉を使われるのは、逆に気が引く」 

「そうか、でなんかようか?」

「なあ、坊主たちは今何をやっているんだ?」

「サッカーだよ」

「サッカー……って遊びか。どんな遊びだ?」

「魔導士さんもサッカーに興味持ってくれたのか!」

「うおっ!?」

 リーザンの眼前にまで近づいて、興奮しながらそう聞くシュン。

(大人の! しかも魔導士の人が! サッカーに興味持ってくれたのか~!)

 サッカーは村の子供達には流行ったが、大人の人は球蹴りだと思ってあまり関心を抱いてくれなかった。

 しかしサッカーに興味を抱いてくれた大人が目の前に現れた。なら丁寧に教えなければ。

 シュンはどうやったらサッカーの魅力が伝わるか考えて、

「魔導士さん、ちょっと見てて。いまからサッカーの面白いところ、見せるからさ」

「ちょ、待てっておい」

 そういってシュンは子供達が遊んでいる広場のフィールドに向かっていった。制止の声をあげる魔導士を無視して。

「皆、いまから俺がフィールドに戻るから! ちょっと俺にボールを渡してくれよ!」

「シュン、戻ってきたか。だがボールは渡せないな!」

 シュンがフィールドに入って試合が再開される。

 そして再開した途端、シュンが動き出した。 

「甘いぜ!」

「あっ!」

 シュンは冷静に、スライディングでボールを奪い取ると、すぐさま立ち上がってドリブルを始めた。

「さあ、ここから俺の独断場だぜ! 止めれるもんなら止めてみろ!」

 トップギアでフィールドを走り回るシュン。ゴールに向かって一直線。

「おっと! シュンが本気だした! でもいきなりなんで?」

「魔導士さんにアピールしたいからかな?」

「ああなったらパスして、って頼んでも聞かねえな」

 突然の本気状態のシュンに、チームメイトは驚き、ドーロンはサッカーバカめ、あきれていた。

「いいじゃん。たまには全力のシュンと戦いたかったのよね」

「まあいい! 今度こそ本気のお前を止めてやるぜ!」

 敵チームの子供達がシュンに向かって襲いかかってくる。

「練習した新しいドリブルを試すときだぜ!」

 前からショルダーチャージしてくる敵選手に、シュンは足を大きく後ろに下げて、

「――え?」

 突如、シュンの足元からボールが消える。どこにいったかわからず困惑していると、

「上だ! 上にあるんだ!」

 周囲の声を聞いた瞬間、シュンはすでに相手を通りすぎていた。

 ヒールリフトと呼ばれる、かかとでボールを浮きあげて相手の頭上を越えて真後ろに落とすテクニックだ。練習では使ったことあるが、実践で使うのははじめてであった。

 シュンはシュートだけでなく、ドリブルも前世のサッカー漫画やゲームであった技を再現しようとして練習したのだ。ドリブルも心を震わせるようなカッコいい技もある。それにシュンはドリブルが大の得意。練習しないはずがなかった。 

 突然のトリックプレイに子供達全員が驚愕する。

「まだまだ!」

 シュンのドリブルはまだ続く。今度は落ちてきたボールを真下から蹴って、もう一度浮かばせて、先ほどのようにボールを相手の頭上に飛び越えさせて、またもう一人抜き去る。

「さすがにこれ以上はシュンでも行かさねえ!」

 止まらないシュンを止めようとして、前から三人やってくる。先程の三人マークのようなものだ。数の差でシュンのドリブルを止めようとしたのだろう。

 だがシュンは三人来ても、前に向かって進み、チームの皆にパスを渡すことはしなかった。相手を抜き去る、その事だけを考えている。

(三人同時じゃあなければ抜けるな、よし!)

 そう考えたシュンは、最初の一人と対面する。一瞬止まったあと、右足でボールを蹴って左に動かしてそのまま抜こうとした。

 すると目の前にいる相手はシュンを止めようとボールが転がった方向に体を傾けた。

 その瞬間、シュンは右足ですぐさまボールの左側をアウトサイドで蹴り返して方向転換。

 そのまま抜き去っていった。フェイントドリブルだ。

 そして二人めはシュンに向かってスライディングタックルを仕掛けてきた。それをシュンはボールを浮かばせるように蹴ったあと、自身も飛んで相手をジャンプで飛び越えて抜いた。

 最後の三人は、相手が動く前にボールを素早く前に蹴ったあと、相手の股下をボールが通っていき、その瞬間全力ダッシュで抜き去った

 連続三人抜き。前の二人を加えたら五人を一人で抜き去ったのだ。

「「「あっ!?」」」

 鮮やかに抜かれて、驚きの声しか上がらない相手チームの三人。すぐさま追いかけようにも、すでに十メートル以上は離れている。シュンはドリブルも早いため、すぐに追い付けない。

 シュンはドリブルしながらボールを上空に高くあげる。

「マズイ! あれは――」

 相手のチームメイトはすぐにわかった。なぜなら毎日見ている、シュンの得意な空中シュート。

「オーバーヘッドキック!」

 ゴールに背中を向けて上空にジャンプ。そのまま後方に一回転しながらボールにキック。そしてボールはハイスピードでゴールに向かって突き進んでいく。

 そしてボールはゴールの隅に向かって飛んでいき見事に入る。

 相手ゴールキーパーは突然のオーバーヘッドキックに反応できず立ち尽くしたままだった。

「っし! どうだ!」

「どうだじゃねえよ、オマエ一人で突っ走りやがって」

「イテッ!」

 シュートが決まっていることを喜んでいると、同じチームのドーロンに背中をこづかれた。他のチームメンバーもかなり不機嫌だ。

 理由は皆でサッカーを楽しんでいたのにシュンがワンマンプレイをし始めたからである。

 さすがに悪いと思ってシュンは素直に謝ることにした。

「ゴメン、魔導士さんがサッカーに興味持ったから、俺のサッカーを見せたくなって」

「だと思ったぜ。まあこれ一回きりなら許すよ」

「今度は私にシュート打たせてよ!」

(……なんだこれ)

 リーザンはシュンの活躍を見て思った。

(ただボールを蹴るだけかと思っていたが、あのボールを転がす技術、そしてあの蹴り! どれもが曲芸じみてやがる。なるほど、これは『球蹴り』じゃなくて『サッカー』なのか!)

 サッカーと言う存在にリーザンは心引かれていた。いや一番引かれたのはシュンのプレイングなのかもしれない。とにかくサッカーに関して触れてみたいと思ってしまったのだ。

「おもしれえ。子供が考えた遊びにしてはかなり凝ってやがるな。おーい、さっきの少年!」

 リーザンはすぐさまシュンに声をかけた。

 サッカーをもっと詳しく知りたい、そう思ったからだ。

「あっ、魔導士さん」

「なあ、坊主たち。俺も、サッカーってやつをやってみたいんだが、教えてくれないか?」 

「……!」

 シュンは目を見開く。

(サッカーに興味を持ってくれたんだ! それだけじゃあない! 自分もサッカーをしたいって思ってくれた!)

 ならばシュンがするべき行動はサッカーを伝えること、それのみだ。

「もちろん! なんでも教えるよ!」

 シュンは喜んでリーザンの頼み事を受けた。

「やっぱり大人の人にもサッカーの魅力わかるかー! 面白いもんね」

「サッカーに関してはシュンに教わるのが一番だぜ」

「ほら、早くフィールドに行こうよ! 魔導士さんも楽しみましょう!」

 子供達もリーザンの参戦を受け入れて、一緒にサッカーをしようと裾を浮かんでフィールドにつれていこうとする。

「ま、待ってくれって! 最低限のルールは教えてくれって」

「コラコラ、魔導士さんが困っているだろ。ルールがわからないと楽しむものも楽しめないぜ」

「リーザンだ」

「え?」

「魔導士さん、ばっか言われるのもな。検査の前に名乗った通りだ。性はない、リーザンが俺の名前だ」

 リーザンは己の名前を名乗った。 

「俺はシュン。サッカーのことなら俺に聞いてくれ。なんでも答えてあげるからさ」

「わかった。頼むぜ、シュン」

 二人は握手をかました。

 この広場にまた一人、サッカーを楽しむ人が増えた。

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