領域魔法の攻略戦 前編
フェネクスがシュートを外し、ボールはゴールキーパーのエスバーが蹴りだすことになる。
シュンがフェネクスのシュートを妨害したが、先に吹き飛ばされてその後にシュートを打ったためボールはサッカー部の方が持つことになった。
ボールを置いてボールを味方に渡そうとする。
「……なっ」
フィールドを見て驚くエスバー。
なぜならAクラスのチーム全員が自陣にいる。
「領域魔法を使ったんだ。その効果はちゃんと使うさ」
ボールをカットする気なんてさらさらない。自陣でボールを奪えるからだ。
完全な守備体制。領域魔法の『マジックフォースサークル』の力で自軍から強力なシュートを打てるから、点を取れる手段があるからこそできるカウンターフォーメーション。
(魔法の実力があるがゆえの自陣で立てこもり。いいじゃあねえか、突破してやるぜ)
「エスバー! 俺に渡してくれ!」
「……わ、わかりました!」
シュンはエスバーに声をかけボールを要求する。
エスバーは頷いて直接シュンにボールを蹴り渡した。
受け取ったシュンは前に向かう。
『ボールを受け取ったシュン選手! さあ鉄壁の守りを構築しているAクラス相手にどうするんだ!』
自陣にこもっているAクラス。むやみに入れば魔法のディフェンスが飛んできてすぐさまボールが奪われてしまう。一回ぐらいならシュンも魔法を使ったドリブルで抜き去ることができるが、相手はシュンを止めるために大人数でボールを奪いに来る。だからマジックドリブルは使用したところで意味はないだろう。
ならばどうすればいいか。
「相手がそうするなら俺もやってやろうじゃあねえか!」
『あーッ! シュン選手、ここで魔方陣を展開! しかもシュートを打つ構えだ! サッカー部チームもロングシュートを打ちに来た!』
「なにっ⁉」
突然のシュートの構えにAクラスは驚きの声を上げた。シュンならドリブルで攻めてくると思っていたためだ。
相手が領域魔法、『マジックフォースサークル』の効果をうまく活用するというならこちらも使ってやればいい。
魔法で強化された渾身のウイニングショットでゴールを決めてやるとシュンは全力で風をまとった足でボールを蹴りに行った。
「『ティルウィンドジェット』! いけっ!」
ボールを浮かばせてバックステップからのジャンピングボレー。
領域魔法の効果で風の威力が上がっているため、そのことも計算に入れてボレーをかます。
『風のシュートが――飛んだ!』
シュンが放ったマジックシュートは空高く浮き上がるように飛んでいく。
上空に飛ばしすぎて外れたシュートに見えてしまう。
「いや! まて! ゴール前を固めろ!」
そんな単純なシュートミスをしないと思っているフェネクスは味方に指示を出す。
そしてフェネクスの指示と同時にシュートボールが地面に向かって落ちるかのように軌道が変化。そしてゴールめがけて小さな竜巻が飛んでいく。
『曲がった! 真下に軌道が曲がる山なりの変化球シュートだ!』
上空に上がっていたボールを真下に向かいながら、重力の力を借りて加速しつつゴールに向かう。
シュンは『ティルウィンドジェット』を打つ際に強烈な上回転、ドライブ回転をかけてシュートを放ったのだ。
だから山なりの軌道を描くようなシュートとなった。マジックシュートに軌道を変えれるように打てるのはシュンの技術あってこそできるのである。
「まさかこんなシュートを! だがお前なら打てると思っていた!」
後ろに下がっているフェネクスが大空に大きくジャンプ。ボールを止めようと炎の足でブロックしにいく。
『炎の蹴りで止めに行くっ!』
フェネクスは足を振り下ろしシュートをたたきつけようとした。
急激に曲がってくるシュートには真正面から蹴るより、真上からたたきつけるように止めるほうがいいと考えたためだ。
そして蹴りはシュートボールにヒット。シュンがまとわせた風を消し去ってそのまま地面にたたきつけた。
『かかと落としでシュートの向きをさらに真下に変えて地面にたたきつけた!』
「よし!」
シュートを止めた、そう思ったAクラスチームのミッドフィルダーたちがすぐさまボールを取ろうと近づいていく。
「そう簡単に止まるかよ!」
「なっ⁉」
すると突然ボールがゴールに向かって飛んで行った。いきなりの急発進に反応できず見逃してしまった。
シュンがかけた強烈な上回転が地面の上で回転し、そして飛び跳ねてゴールへと向かっていったのだ。
『いや、ボールの勢いは死んでいない! バウンドしてゴールに向かっていく!』
「ここまでしてもらったのに止めないなんてゴールキーパー失格なもんだ!」
Aクラスゴールキーパー、ドレイクはすぐさま反応して魔法を発動。
バリアを展開してシュートを真正面から受け止めようとする。
ボールとバリアが激突し、魔力の火花が散っていく。強化された魔法同士のぶつかり合いだ。
「この!」
バリアで止まっているボールに飛びつき、勢いを殺そうとするドレイク。強烈な回転に顔を歪ませるも、
「――いい加減止まれ!」
そのままボールに抱き着いて地面に倒れこむ。
ドレイクの胸元にボールがあった。ボールの回転は消えて、魔法だけでなく自身の体も使って何とか止めて切ったのだ。
『止めた! シュン選手のロングシュートを見事止め切ったぞ!』
「くっ……シュートの威力じゃあこれが限界か……」
フルパワーに近いロングシュートでもセンターライン近くではゴールを破ることができない。しかも今のロングシュートを見られてしまったため警戒されて再び打つのも苦労するであろう。
次からシュートを打つにはゴールに近づいて打たなければならない。
「ドレイク! ボールを!」
「はい!」
ボールがフェネクスに渡り、ドリブル開始。
狙うは当然、センターラインからのシュートのみ。
「まただ! またあのシュートが来るぞ!」
「打たせる前に止めてください! それしかあのシュートを止める手段はありません!」
シュンの言葉にサッカー部のみんなが頷く。
先ほど繰り出された『エクスプロージョン』の威力を見れば、打たされたら止めることは不可能だということはわかっている。
ならばあのシュートを打たせないように動くしかないだろう。
「何回来ようが! 燃やし尽くしてやればいいだけの話だ!」
ボールを前に蹴りだして一気に加速。直線のドリブルならこれが速いと思っての行動。
危険区域の冒険で鍛えられた身体能力で一気にセンターラインの近くまで走っていく。
「止めるわ!」
「私もついていきます!」
『モーグリン選手がモココ選手と一緒にフェネクス選手に突撃します。ボールの取り合いが発生だ! さあフェネクス選手、ボールを死守できるのか!』
「何度来ようが! 『フェニックスダイブ』!」
魔法を発動させて紅き炎を身にまとって上空から突撃。
領域魔法で強化された『フェニックスダイブ』が地面に着地した瞬間、爆弾でも落ちたかのように衝撃が広がって二人を大きく吹き飛ばした。
「「きゃあああ‼」」
『なんて衝撃! 大地が焦げてしまうほどの灼熱が二人を吹き飛ばした!』
「よし、ここから打ち込む!」
周りに相手選手がいない。それを見てシュートのチャンスだと思ったフェネクス。
足を振り上げて魔方陣を展開――
「やらせるかよ!」
『おっと、シュン選手が横からボールを奪いに来た!』
「また来たか!」
する前にシュンが走ってフェネクスを止めようとしてくる。
再びの一騎打ち。
フェネクスからしてみれば彼さえどうにかすれば点を取れると思っている。
そしてシュンも彼女を止めることさえできれば失点は防げると思っている。
ならば全力で立ち向かわなければならない。
シュンは何が何でも止める。そう思って体中の魔力を活性化させて、
「全力で止めるしかねえ! 『バリア』だ!」
魔方陣を展開し、シュンの目の前に半透明の魔力壁を作り出す。
そして足踏みの風圧を防ぎつつ前に前進する。
いくら驚異的な身体能力から繰り出される足踏みとはいえ魔法で防げないことはない。これでフェネクスに近づける。
「ほう、サッカー特待生とは魔法も基本はできているようだな!」
やはりあの魔法で突破しなければならないと考えたフェネクス。再び赤い炎が彼女の体に包み込む。
「受けてみろ! 『フェニックスダイブ』を」
再び上空に火の鳥が舞う。
そしてそのまま地面に向かって激突するかのような速度で着地して火の暴風が彼女を中心として解き放たれる。
バリアで自身を守っていてもその灼熱に思わず頭部を守ろうとして腕を盾のようにして構えた。
炎の風圧がバリアに激突した瞬間、パリンッ、と軽々と壊れる。
「はっ⁉」
一瞬にしてバリアが破れてしまったことに信じられないと驚くシュン。
それほどフェネクスの魔法の実力はすさまじいものであり、シュンとフェネクスの魔法の実力は天と地といっていいほど残酷な力の差があった。
それは当然である。
魔法の名門学院で生徒会長をやっているフェネクスと、魔法がそんなに使われていない村育ちのシュンでは魔力の実力がここまでできてしまうのは当然なのである。
「ぐおぉっ!」
『炎の旋風になすすべなし! やはり魔法ではフェネクス選手には太刀打ちできないのか⁉』
そのまま炎に巻き込まれて上空に吹き飛ばされるシュン。空中で自由がきかず、地面に叩きつけられてしまう。
受け身が得意なシュンでさえも体を動かすことができないほどの魔法の威力である。
そして自身の周りに邪魔するものがいないと思ったフェネクス。すぐに魔法陣を展開して自身のマジックシュートを放つ準備をする。
「今度こそ――『エクスプロージョン」!』
フェネクスのリーサルウェポン、『エクスプロージョン』が今解き放たれる。ボールに魔力を注ぎ込み、紅い流星を蹴り飛ばそうとする。
領域魔法、『マジックフォースサークル』で強化された『エクスプロージョン』ならば確実にゴールを決められてしまう。
生徒会長であるフェネクスの魔法の実力ならそれぐらいのマジックシュートの威力を秘めているのだ。
「くそ! 届かねえ!」
シュンは立ち上がるももう間に合わない。当然の、他のサッカー部の選手もだ。
そして右足から『エクスプロージョン』が解き放たれ――
「――じゃじゃじゃーん、ってね!」
「なっ――⁉」
ようとしたその瞬間、突然目の前から人影が。
トノスだ。
トノスがいつの間にか目の前にいる。
そして驚いているフェネクスの足元にあるボールを姿勢を低くして足払いで蹴飛ばした。これでシュートを防ぐことができた。
「おっとー」
こぼれたボールはプロスが丁寧に拾う。こちらにボールが来ることがわかっていたかのように。ボールも奪うことができAクラスの攻撃を阻止することができたのだ。
いきなりやってきて驚いたフェネクス。後ろからでも横からでもない、ではどこからやってきたのか。
(……上空からか!)
そう、トノスは地上からではなく上空に思いっきり飛んで、フェネクスの頭上近くから垂直落下でボールを奪いに来たのだ。
「へっへ、こう見えて空中戦は得意なんだぜ。突然空から現れたらみんなびっくりした顔しておもしれーんだ!」
「トノス! やるじゃん!」
奇襲によってボールをなんとか奪うことができた。
そして今が攻撃のとき。
「シュン! さっさと前に走れ! みんな、ここがチャンスだ! 攻めるぞ!」
「「うん!」」
「わかりました!」
ボールを転がして前進するサッカー部。シュンもすぐさま立ち上がって相手ゴールにダッシュだ。
ボールを奪えた。得点のチャンスが巡りまわってきた。カウンターだ。
「止めろ! 絶対にだ!」
「ああ!」
Aクラスチームも全力でサッカー部の攻撃を止めようと守りの体制を取ってくる。
(ここは勝負のターニングポイント……この攻防で一気に流れが変わるぞ)
ならば点を取ってやる。
シュンはフィールドの流れを見て強く芝を踏みしめた。
【エルドラドサッカー日誌】
フェニックスダイブ
フェネクスお得意のマジックドリブル。
全身を紅い灼熱で包み込み大空に羽ばたく。そして地面に素早く着地して、その時の衝撃を風圧として飛ばして相手選手を吹き飛ばして前に進む豪快なドリブル。守るときにも使用可能。
元々はフェネクスが冒険での戦闘で繰り出す魔法である。