魔法のマークを乗り越えろ 後編
「くう……フロストンのやつに点をとられるなんてよ」
「くう……してやられたって感じだわ」
点をとられてしまって悔しがるサッカー部。
特にアイメラ兄姉は地団駄を踏んで、期限がある依心とがみただけで伝わってくる。
「……すいません。シュートを止められなくて」
「いや、フロストンをフリーにさせてしまった俺たちディフェンダーの責任だ」
「シュンの周りにうろちょろしていたと思ったらいつのまに……あいつの奇策にやられちまったってわけだな」
「私はフロストンさんに抜かされてしまいましたし……」
てっきり守りに集中していたと思っていた。だがフロストンはAクラスのカウンターの瞬間、点をとるために前に出ていたのだ。
そしてフリーになってシュートを打てた。その作戦によって点をとられてしまったのだ。
「でも、同点になっただけです。負けてはいないんです。これからまた点をとっていきましょう」
「そうよね~……まだ試合は終わっていないわ。頑張りましょう」
「ですね」
シュンが勇気づけるように前向きな言葉いって試合に集中させるようにした。
シュンの言葉でサッカー部のメンバーも暗い雰囲気を消し飛ばして絶対に点を取り返してやる。相違既婚だ。
「フロストンのおかげで同点になった! ここからもう一点とって逆転するぞ!」
「「「はい!」」」
Aクラスの方は同点になったことに喜ぶ。このまま逆転してやるとやる気がみなぎっている。
『さあ、試合再開! シュン選手がボールを持っていきます!』
「さっきのように……モココさん!」
「はいはーい♪」
『おっと、これはサッカー部チーム! 先程先制点をとったときに行った得意のパス連携の攻めか! 素早いパスワークで前に進んでいくぞ!』
シュンとミッドフィルダー陣の連携攻撃でゴールを奪う作戦。
シュン以外の攻撃陣がパスをし、シュンがパスの軌道に入って突然軌道を変える変幻自在のパス攻撃である。
「さ、さっきのあれか!」
先程繰り出されたパス攻撃に慌てるAクラスメンバー。あれで点をとられた上に、どうやって防げばいいのかわからないため困惑しているのだ。
だがAクラスのサッカー経験者、フロストンだけは冷静にパスの軌道をみていた。
「その攻撃もシュンが中心だ! ならばシュンを押さえてやればいい!」
フロストンもシュンにしつこくマークする。シュンにきたボールは絶対にカットしてやる、その気迫が伝わってくる。
これはシュンが行った、パスの途中に乱入して勝手に軌道を変える、変則パスに警戒してマークを行っているのだろう。
これではもし自分が味方のパスに割り込もうとしたらフロストンが先に奪ってしまう可能性もある。
(ならば!)
「先輩、もっとに乱暴にパスを出してください!」
「乱暴に……わかった! そういうならちゃんと受けとれよな!」
その言葉にトノスは雑に蹴りつける。
パスは誰もいない場所に飛んでいく。
『これはパスミスでしょうか?』
「オラよっ!」
大きく外れたパスに追い付いたシュン。なんそのまま回転してかかとでボールを蹴飛ばして味方にパスを渡す。
『ま、間に合いました! しかし、なんてパスの打ち方、それでありながら正確な軌道! シュン選手のボールテクニックは凄まじいものです!』
「くう……やるな……」
「甘いぞフロストン!」
「え?」
誰からかそんな言葉を言われたフロストン。声の正体はフェネクスだ。
一方、シュンは文字通り、乱暴なパスボールを追い付いては味方にパスを出してゴールに前進していた。
「いい軌道だ、俺ならとれるじゃじゃ馬なパスボールだぜ!」
「いい気になるなよ! シュン!」
「グォ!?」
パスを出そうとした瞬間、体がぶれるような速度でシュンに激突してくるフェネクス。
(激しくチャージしなければ、あのシュン相手にはボールを取れない。彼の技術を相手にするということは、それぐらいの攻めがなければ勝てない)
試合中に何度もドリブルで抜かされたフェネクスには、シュン相手には容赦はしないと決めた。
「う、うおおお!」
激しいショルダーチャージをくらうも、それでもなんとか足を振り抜いてパスを出す。このままフェネクスの猛攻に屈してボールを奪われるのは勘弁だ。
だがしかし、体勢の悪い状態でのパスキックはスピードがでない。パワーもないため地面をバウンドしながら進んでいる。
「よし、これなら取れる!」
そんなパスボールは簡単に取れるものである。
シュンにマークしていたため近くにいた。すぐにボールに追い付いて拾った。
『フロストン選手! ボールをとった! そして即反撃! 味方のフォワードにパスを出す!』
「よし! 俺も!」
「そうはさせるものか!」
ボールをもらったドゥラハン。だがしかし、突然体に思い衝撃が走り、宙に浮かされた。
「ウワアッ!?」
『これは豪快! マデュラン選手の巨体のショルダーチャージでドゥラハン選手を石ころのように吹き飛ばした!』
「この! よくもやってくれたわね!」
ボールをとられたのなら取り返してやればいい、そんなケットシーの火をまとったスライディングタックルが炸裂。
炎の蹴りが火の粉と共に舞う。
「その程度なら!」
相手の攻撃に防御体勢、マデュランはバリアを右足に展開した。
そしてその右足を地面に思いっきり踏みつけ、相手のスライディングタックルを迎えうつ。
「なっ!?」
ケットシーのスライディングタックルはマデュランが持っているボールに命中した。
しかしボールを動かず、ケットシーのスライディングタックルも止まって地面に横になるように姿勢になってしまった。
がら空きだ。
「防御の魔法ならAクラスにも負けてない!」
「きゃあ!」
ボール越しにケットシーの足を吹き飛ばして、そのまま前に進む。
すると前にシュンの姿が見える。すでに立ち上がっている。
「よし、シュンにパスを――」
「マデュラン、お前を抜けばゴールはフリーだ! 『コールドミスト』!」
「フロストン⁉」
『おおっと! フロストン選手が上がってきていた!』
冷気を漂わせてからのチャージを仕掛ける。
視界を封じ肉体の動きを抑制させて、その状態でのディフェンス。
「ウグゥ⁉」
いくら肉体が頑丈なマデュランでもフロストンのチャージを受けてダメージを受けてしまう。
マデュランの姿勢が揺れたその時を狙って、フロストンはボールを奪い去った。
「し、しまった!」
「マデュラン、いくら守りは上手くてもドリブルはそこまでではないようだな! もう一点とるぞ!」
「そうはさせるかっての!」
突如、フロストンの横からリンナイトがやって来た。そして素早いスライディングタックルを炸裂。
矢のように飛んでくるスピードでフロストンの体を吹き飛ばしてボールを奪おうとした。
「死角から……くそ!」
それでもなんとかボールを奪われないためにパスを出そうとする。だがその前にリンナイトがボールに触れてフロストンを吹き飛ばした。
「く、邪魔された」
「ちぃ、いい反応だぜ」
しかしリンナイト、険しい表情。ボールはラインを越えてしまい、結果ボールを奪うことができなかったためだ。
『リンナイト選手! ボールはラインを越えてしまいましたが、相手のシュートを防ぎました! なんて素早い守り!』
「スラ、助かった」
「礼はいい。ボールを奪えなかったんだからよ」
何かとAクラスの攻めを中断させることはできたが、それでもボールはまだAクラスが持っている。
まだまだ攻撃が続くということだ。
「くう……」
悔しそうな顔を浮かべるシュン。
自分のプレイを封じられている。自分はストライカーなのに、シュートも打っている数が少ない。情けない話だ。
「なあ、あの新入生。押されてないか?」
「やっぱり先輩たちの魔法が強力なのが原因かな」
「シュンは魔法も技術もそんなに高くないからね」
シュンのクラスメイトたちが話している。
その話はシュンの耳に入ってはいなかったが同じようなことを考えていた。
(あの魔法の制圧力……厄介だ。この異世界でサッカーの頂点を狙うなら魔法は乗り越えなくちゃあならない壁だぜ。だがAクラスの魔法、ありゃ恐ろしい)
やはりこの学院の優等生集団であるAクラスの魔法は恐ろしいものである。同じ学生とは思えないほどの魔法の威力。
あの高火力かつ広範囲の魔法を相手にするのは骨が折れる。
(俺のスピードでも抜け出せない攻撃範囲……どうすれば……)
「範囲か……」
そう呟くシュンの目は真剣な眼差しだ。なにかを思い付いてそれを実行する覚悟ある目。
そしてAクラスチームのゴムレスがフィールド外からボールをもらってフィールドないに投げる。
『さあゴムレス選手のスローインから試合再開! ボールはケットシー選手に渡った!』
ケットシーにボールが渡って、周囲の相手選手をどうやって抜き去るかを考えていると、
「え!」
『スローインの時に下がっていたシュン選手がボールを奪いにきた!』
シュンがケットシーの正面にいた。
ディフェンシブサードまで下がり、守備に参加していたのだ。
「いえ、相手はフォワード! 考える必要はないわ! 突破する!」
ケットシー、素早いドリブルでシュンを吹き飛ばして前に進むことを決めた。
一方、シュンはケットシーがこちらに向かってきたので、ボールを奪い取るために様子見。
(速いが、サッカーを初めたばかりだな。あのドリブル)
相手のドリブルを見ていると、遅くなった瞬間が見えた。シュンに力ずくのドリブルを仕掛けたとき、足に力を込めたその瞬間こそわずかに足が遅くなる。
それは確かなドリブルの隙。
その隙が見えた時、シュンの足が動いた!
「見えた! 『スクリューカット』だ!」
相手のドリブルしているボールの軌道を読んで、軽くボールを踏んで脚の裏でボールを転がしながら自身の体を回転させる。
右足でとったため時計回りで回転して、相手のドリブルを避けつつボールを奪い去った!
「避けられ……あれ⁉ ボールは⁉」
『あ、あ~⁉ い、一体どうしたのでしょうか? ワタシの目にはケットシー選手がシュン選手を抜いたように見えましたが、いつのまにかシュン選手がボールをとっている! いつカットしたか見えませんでした!』
(フォワードだけど他のポジションもできるんだ。守りだってうまいんだぜ。よし、ここからが勝負だ)
「みんな、上がれ! モーグリンさん、パス!」
シュンはすぐさまパスして前を目指す。点をとるために。
『サッカー部の反撃だ! 前線に一気にかけ上がっていくぞ!』
「トノス、はい!」
「ああ! そしてシュン! 受けとれ!」
「はい!」
シュンに再びボールが戻ってくる。
そしてシュンはボールを味方に渡すことはせず、ここは単独で突破しにきた。
「ここでドリブルぅ? パスは?」
「俺を信じてくれ!」
「シュン……いいぜ、託してやるぜ!」
サッカー部メンバーもシュンの行動に戸惑うも、シュンの言葉を信じて前線に上がっていく。
「一人で進むつもりか、なめられたものだな!」
シュンが走ると、マークについていたフロストンがシュンをよこから襲いかかってきた。
(ここで彼を抜き去れば絶好のシュートチャンスだ! だから単騎駆けをすると決めたんだ!)
「いくぞ!」
「たとえお前のドリブルだろうが止めて……ッ!」
シュンのドリブルを魔法、『コールドミスト』で止めようとしたその時、思わず足を止めてしまう。
シュンの周りにはAクラスのメンバー、すなわち仲間がいたのだ。他のAクラス生徒も魔法を発動しかけていたが、仲間の姿を見て発動を止めてしまう。
(だ、だめだ! 俺の魔法が仲間を巻き込んでしまう!)
フロストン、そして他のAクラス生徒も思ったこと。
もし『コールドミスト』をここで放てば、味方に冷気の霧をぶつけてしまってしまう。そうなればしばらくの間、仲間が動けなくなり、人数不利におちいってしまう。
(第一、ボールを持っていない選手に攻撃魔法をぶつけるのは仲間であってもファールになる! ならばこっちは三人いるんだ。普通にスライディングタックルで防ぐ!)
魔法ではなく、体勢を低くして鋭いスライディングタックルを放つ。他のメンバーもシュンからボールをとろうとチャージを仕掛けてきた。
三方向のディフェンスなら確実に止められる。
三人の攻撃がシュンに迫ってきて、
「――見えたぜ」
そういった瞬間、目に止まらぬ速さで三人の攻撃をすりぬけていった。
「なっ!?」
ディフェンスの三人、抜かされてしまったことに驚愕する。
三方向からのディフェンスでも、どこかしら穴があるもの。その穴を見つけて全力でそこに飛び込めば抜けれる。
魔法がない実力の勝負ではシュンはそう簡単に止められない。
「まさか、とは思わん。私が止める!」
「フェネクスさん!」
シュンが相手選手を抜き去ったその瞬間を隙と見て、フェネクスが接近。
スピードを上げた高速ショルダーチャージがシュンを襲う。
確実に仕留める、シュンを吹き飛ばそうと足を踏みしめたその時、
「――え?」
――シュンの足元にボールがない。
どこだ、どこにいったのだ。
誰かにパスを出したのか。
そもそもボールはいつ見失ってしまったのか。
「迷ったな?」
シュンのささやくような言葉がフェネクスの耳のなかに入ってくる。微かな音なのに頭のなかに強く響いてきた。
そしてシュンはフェネクスの横を楽々と通りすぎていく。
「フェネクスさん! 上!」
味方のドゥラハンの言葉が聞こえた。
すぐさま上に視線を向けるため顔をあげると、
「あっ」
ボールがあった。
そしてそのボールはフェネクスの目に写った瞬間、落ちてきて、背後にいるシュンがトラップ、そしてそのまま前に走っていった。
「ど、どうやって……?」
なにをやったのだ。
シュンがどうやって上空に、しかも自分に気づかれないように上げたのかがわからないフェネクス。
疑問が頭のなかを埋まっているなか、
「フェネクスさん! 驚いている暇はありませんよ。さっさと追いかけないと!」
フロストンが迷っているフェネクスに声をかけて気持ちを立て直そうとする。
その言葉を聞いて、フェネクスはハッと目を見開いて、
「あ、ああ。すまない」
試合中に立ち止まってしまったことに迷惑をかけたと思ったフェネクスはフロストンたちに謝ってすぐさまシュンを追いかけ始めた。
『ま、まさかこの場所で見れるとは! あれはまさしくヒールリフトです! あの高度なプレイを! しかもあの生徒会長のフェネクス選手を欺くために繰り出すとは!』
そう、シュンが繰り出したのはお得意のヒールリフトだ。
急接近してきたフェネクスを見て、この距離のヒールリフトならボールを見失って迷うだろう、そう考えてのプレイだ。
そしてシュンの考え通り、フェネクスはボールを見失ってプレイに迷いが生まれた。
「止めてやるぞ!」
「そうさ、ドリブルは!」
Aクラスディフェンダー、タウロスが魔法を唱えてくるが、ここでボールを蹴り出す。ボールの軌道はタウロスの横。
バスを出したか、そう思ったタウロスは魔法を唱えることをやめて、すぐにボールを追いつこうとする。足を伸ばせば止めれると思ったためだ。
「あっ⁉」
するとボールが地面に激突して高速回転。そこで斜めに軌道が変わり、シュンの足元に戻ってくる。
ソロワンツーだ。強烈な回転かけれる足さばきを持っているシュンだからこそできる技だ。
「ドリブルは欺くこと! 迷わせたら俺の勝ち!」
相手を騙すことがドリブルを成功させるコツ。
どれだけ魔法がすごくても、どれだけ身体能力が高くても、ドリブルのフェイントに騙されて動きに迷いが生まれたら簡単に抜き去ることができるのだ。
「トノスさん!」
ここで、素早く味方にパス。
トノスの後ろにはプロスがいる。双子組が前に出た。
「へっへ! がら空きだぜ! みんなシュンに目を向けていやがる!」
「当然よね、ちょっと嫉妬しちゃうけど!」
「プロス! あれを打つぞ!」
「うん!」
アイメラ兄姉二人が大きく足を振り上げる。
そして二人の足元に魔方陣が展開された。
「「『ツインフレイムシュート』だ! いけ!」」
同時に足を振って、タイミングを合わせた双子の炎のシュートが炸裂。
ブレながらも空気を燃やすような熱を帯びてゴールに向かっていった。
「二人で打ってきようが止めてやる! 『リフレクトシールド』だ!」
ゴールキーパー、ドレイク。
アイメラ兄姉がシュートを打った瞬間に魔法を発動。ボールを絶対にゴールには入れない、その思いを右手に乗せてつき出そうとしたその時。
「いいシュートがきたぜ!」
――シュンがペナルティーエリアにいた。
「なっ⁉」
『シュン選手だ! シュン選手がボールと共にゴールに走ってくるぞ! もしものこぼれ球をねじ込むために来たのでしょうか!?』
「このシュートは絶対に決める! 『ウィンドボレー』だ!」
業火の球に風をまとった蹴りの一振りを放った。
ハイスピードで、しかもぶれながら飛んでくるシュートに、炎の熱を耐え抜いて蹴りをぶつける。
――ガシンッ‼
渾身の蹴りがボールにヒット。
シュンは蹴った瞬間に理解した。
今打ったシュートのタイミングはバッチリ合っていると!
そのまま足を振り切る。
炎のシュートに風が加わり、さらにゴールキーパーの近くでシュートの軌道が鋭く変化する。
「――軌道が‼」
突然シュートの向きが変わったため、なんとか反応してボールに向かってジャンピングで追いかける。
そして右手の魔法の盾をぶつけてボールを弾き飛ばそうとしたが、
――ピシリッ!
ボールに触れた瞬間、魔法の盾に大きなヒビが入って広がる。体勢が不利な状態で止めにいったのが原因か。
「うおおお!?」
それでももう片方の腕で盾を補強しようとしたが、その前に盾が壊れてしまい、ドレイクの腕ごとゴールに連れ去っていった。
『ご、ゴォォオルゥ‼ 決まった‼ トノス選手とアイメラ選手のマジックシュートをシュン選手が繋げてゴールにねじ込みました!』
「よっしゃ! 決めてやったぜ――イテ!?」
「コノヤロー! オレたちの点をとりやがって! スゴいなシュンはよ!」
「ねえねえ、シュンくん。私たち三人が点をとったってことにしない?」
ゴールをとったことに喜んでいると、アイメラ兄姉
「やったな! シュン! あとお前らバカ二人、落ち着け」
「なんだよ、リンナイト! バカはなんだ!」
「そうよ!」
「だったら素直にシュンを誉めてやれよ!」
「うんうん~、シュンくんのチェインシュート、すごいわね~。まさかアイメラちゃんたちの『ツインフレイムシュート』もつなげれるなんて~」
「チェインシュートは得意ですからね。どんなシュートでもノートラップで繋げてみせますよ!」
点を決めてサッカー部大盛り上がり。
「見たかよ! あのチェインシュート! 完璧だったぜ!」
「あんなに速いシュートに蹴りを重ねれるなんて……!」
観客も今の連携シュートに大興奮している。
「まさか、チェインシュートを使えるなんて……」
「あんな高等技術を……しかも一年生が」
Aクラスのメンバーもシュンが繰り出したチェインシュートに驚愕。
マジックシュートを重ねてシュートを打つのは高度な技術が必要。
だがシュンはそれをしてみせた。
このマギドラグ魔導学院に魔法の実力ではなくサッカーの実力で入学してきただけはある。Aクラスはあらためてシュンのサッカー技術に称賛の思いを抱いてしまう。
「だ、だがまた取り返せばいいだけだ! このままサッカー部の連中に負けるわけにはいかん!」
「そうだな!」
「うん」
まだ試合は終わっていない。ゆえにまた点を取ればいいとチーム全体で士気をあげようとしている。
「…………」
「フェネクスさん?」
そんななか、フェネクスは何を言葉を発していない。いつもならチームの仲間を盛り上げるために誰よりも早く声を上げるはずなのに。
それを疑問に思ったAクラスのチームメンバーがフェネクスに呼び掛けるが、耳に入っていないのか、ただ黙ったまま自陣のゴールに入ったボールを見つめていた。
彼女の両手は震えるほど強く握りしめていて。
このあと試合が再開されたが、前半終了間際だったためフィールド中央での小競り合いをしたあと、少しも時間がたたずに笛がなった。
試合は二対一。サッカー部が一点リードしたまま前半が終わったのであった。
【エルドラドサッカー日誌】
ツインフレイムシュート
サッカー部のアイメラ兄姉が繰り出す連携シュート。
二人の呼吸を会わせて、同時に蹴りを放ちボールを蹴って火炎のシュートを放つ。
互いの炎の魔法をボールに重ねて放つシュートはタイミングがバッチリ合えばすさまじい威力となる。
だが本人たちの気分次第ではタイミングが合わなくて威力が低くなったりすることも。