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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
一章 魔導学院、入学へ
53/130

魔法のマークを乗り越えろ 前編

「オラ!」

 Aクラスのフォワード、ドゥラハンの風のシュートが長距離から炸裂。

 周りにミンホイとリンナイトがいて必死に守っていたが、その守りをなんとか抜けつつ不安定な体勢でシュート。

 マジックシュートでも威力が乗っていない。

「エスバー、頼むぞ!」

「……『ファイアボール』!」

『あーっ! これも防いだ! エスバー選手! 一年生とは思えない魔法の実力と驚異的な反射神経でAクラスのマジックシュートを止めました!』

「……先輩たちに必死に守ってもらって……ロングのマジックシュートは止めないと……他の皆に申し訳ないからね……」

 飛ばしたファイアボールがマジックシュートに命中してペナルティーエリアで地面に落ちて、エスバーは落ち着いてボールをつかむ。

(ディフェンダーとしての実力もあったけど、ゴールキーパーとしての実力も凄いな)

 エスバーのセービングを見てシュンはいいゴールキーパーだなと素直に思った。

 気弱ではあるがマジックシュートに対しては少し驚くだけで、きちんとボールを見て行動している。そしてキャッチや魔法のブロック技も丁寧に使っている。

『ファイアボール』でシュートを止めるのはボールの動きを的確に見極めれる目を持っているからこそ使っているのだろう。

 ゴールの前で突っ立ったりはせず、相手の位置によって自身の位置も変えている。新入生と考えたらいい腕をもったゴールキーパーである。

「ナイス、エスバー! 急いで前に飛ばせ!」

「……っ!? ……はい!」

 リンナイトの指示を聞いてビックリするものの、すぐさま前線にボールを蹴り飛ばすエスバー。怯えながら蹴ったものの、ボールのコースはわずかに逸れただけで味方にきちんとボールが渡った。

「うん♪ 今度こそゴールを奪うよ!」

「この!」

「もー、動きがはやいー! えい!」

 相手チームがすぐにボールを奪い来たため、こちらも素早い足捌きでパスを味方に飛ばす。飛ばした先は、

「よし、今度こそ!」

 シュンにボールが渡った。優しいトラップですぐに体勢を整えてゴールに向かって走り出した。

「シュン! お前にボールは持たせないぞ!」

 近くにいたフロストンがシュンを追い詰めようと近づいてくる。

 相手からしてみればシュンは攻撃の中心。さらに言えば先制点をとられたのはシュンの活躍があったからである。ゆえに止めにかかるのは当然。

 シュンは自身に向かって来ているフロストンに警戒していた。

(フロストンさんは試合が再開してから俺にマークし続けている。彼を越えなければシュートを打つことができない)

 点をとってからフロストンはシュンから一定の距離を保ち続けている。離れることもなく近づくこともなく。

 その理由は距離が遠かったらシュンが警戒してパスを出す、そして距離が近づきすぎたらシュンの得意のドリブルで魔法を使われる前に突破されてしまうから。ボールを奪えないのが一番の理由。

 確実に魔法でシュンからボールを奪い取るために距離を保っているのだ。

(俺がちょくちょくフィールドを動き回ってもキッチリ着いてきてまわっている)

 しつこいと思ってしまうぐらいに。

 それぐらいシュンのストライカーとしての実力を警戒している、それがわかるほどのフロストンの行動。

 ならばその魔法の守り、突破して見せるのみ。

「『コールドミスト』! 止まれ!」

「止まらない! 『ゲイルステップ』だ!」

 身を震えさせる冷気が襲ってくるも、風の如く、ハイスピードのステップで冷気を避けつつフロストンを抜き去った。

「なにぃ!?」

 フロストンがシュンに抜かれたことに気づいたのは、頬に激しい風が撫でたときであった。

『と、突破した‼ シュン選手! 風と共にフロストンの冷気を霧払いして抜けました!』

「くう、シュートは絶対に打たせないわ――」

「遅い! 『ギアチェンジドリブル』」

 ミッドフィルダー、タルチュラの魔方陣が見えたが、シュンの必殺ドリブル、『ギアチェンジドリブル』で発動する前に抜き去る。

「なっ!?」

 相手の目の前に一瞬止まって、すぐさま最高速のダッシュで切り抜けた。

 緩急あるスピードで相手を惑わすドリブルだ。

「ノってきた! 止めてみやがれ!」

「調子に乗るなよ……っ!」 

 タウロスとケロベロ、Aクラスのディフェンダーがコンビでシュンを止めようとするも、タウロスには軽快なボールタッチで自由にボールの軌道を変えて、迷った瞬間に抜き去った。

 次にケロベロはスライディングタックルを仕掛けてきたので、シュンはボールと共に大地を飛んで、ジャンプで蹴りを回避してあざやかに突破した。

「え?」

「ボールの軌道が……読めない……?」

 シュンの変幻自在のドリブルにAクラスチームディフェンダー、思わず立ち止まってしまう。

 様々なドリブルが披露され、ボールを目で追えばいいのか、シュンに視界を向ければいいのか、迷ってしまうAクラスメンバー。

 シュンの体もボールも触れることなく完璧に避けられて抜かされてしまった。

(攻撃のチャンスだぜ!)

 相手のゴール付近にいる選手はあと二人。彼らをどうにかして抜かせれば再びシュートチャンスだ。

「冷静になれ! 一定の距離から攻撃を仕掛けるのだ!」

「ええ!」

 ゴールの前を守っているAクラスチームのディフェンダー、ゴムレスとリデッドがシュンを止めようと魔法を発動しようとしてきた。

 シュンは相手の距離を図って、

「抜けない……これはまずい!」

 このままでは魔法を発動されてボールを奪われてしまう。

 じゃあ自分も魔法を使って一気に駆け抜けるべきか。それならいくら魔法が強力なAクラスメンバー相手でもドリブルが大の得意なシュンであれば抜けきることができるであろう。

 だが、

(魔法は使えない! ここでドリブル技はダメだ!)

 シュンのサッカープレイヤーの思考がそう判断させた。

(マジックドリブルで彼らを抜いてもマジックシュートは打てない。それに後半戦のことを考えるとここで魔法の無茶はできない)

 ここで無理に魔法を使えば、魔力を多く消費してしまい、試合終了までプレイをすることができない。

 試合の途中で倒れてしまうのはチームの皆に迷惑をかけてしまう。

 試合を続けることを考えれば、ここでドリブル技はダメだ。

 無茶をする場面はここではない!

「ならば! 俺がとる行動は!」

『おっと! シュン選手、ここで足を上げた!』

 シュン、シュートの構え。 

 ロングというほどの距離ではないがペナルティーエリアの外からのミドルシュート。

 ドリブルで抜けないからシュートを打つと決めたのだろう。

「シュートか! どれだけ強力であっても俺たちが防いでやる!」

 シュンが放とうとしているシュートを魔法で止めるため魔方陣に魔力を流す。

 シュンが使う『ティルウィンドジェット』は遠くでも打たれてしまったらゴールを決められてしまう可能性がある。

 絶対にシュートブロックで威力を下げなければならない。

 そんな相手ディフェンダーの行動を見てシュンは足を振り回してボールを蹴った。

「なに!?」

 ゴムレスの戸惑いの大声。

 シュンが放ったのはただのノーマルシュート。魔法を使っていない。

 ただのシュートをシュンが放ったのだ。

 なぜそんなシュートを打ったのか。そんなことを考えていると、

 ――キュイン‼

 突然、シュートボールがゴムレスとリデットの目の前でカクっと真横に軌道を変えて二人の横に通りすぎていく。

「このシュートは……いや、まさか」

「だれがシュートを打つって言った!」

 二人を通りすぎた先にはモココがいた。

『これはシュートではない! パスだ! 鋭く曲がったボールは味方のモココに渡った!』

「いいパス♪ ちょっと驚いたけど」

 サイドの奥にいたモココがパスを受けた。

 シュンがパスを打つ瞬間、一瞬モココに視線を向けた。それに気づいたモココがシュンがパスを出した瞬間、前に出てパスボールを受け取ったのだ。

(フリーのシュート! 絶好の点取りチャンス! 俺に視線を向けすぎたな、お相手さん!)

 Aクラスディフェンダーは魔法を発動しかけているためむやみに動けない。

 そしてモココの前にはディフェンダーがいない。

 絶好のシュートチャンスだ。

「モココさん、頼みますよ!」

「ふっふーん、決めるもんね! 『リーフカッター』!」

 モココのマジックシュートが炸裂!

 魔方陣から大量の鋭い刃のごとき大葉が出現し、蹴り飛ばされたボールと共にゴールへ飛んでいく!

「もう点はやらん! 『リフレクトシールド』!」

 魔法の盾を展開し、モココのマジックシュートを止めにかかる。

「この程度の魔法など!」

 つきだした魔法の盾にもう片方の腕で押し込む。すると『リフレクトシールド』に魔力のオーラが輝き、そのままボールを遥か高く殴り飛ばした。

「え!?」

 モココ、思わず驚きの声。

『ドレイク選手! ボールを吹き飛ばすようにバリアで弾き返した! これは魔法の力が加わったパンチングだ! 一気にセンターラインにい味方選手にボールが渡る!』

「なんだって!?」

 力強いボールの弾き返しにシュンは急いで振り返った。

 ボールが落ちた場所にはフェネクスがいて、すぐさま走り出す。

「ナイス、ディフェンス! 守りが薄い今が好機! いくぞ皆!」

「「「はい!」」」

 フェネクスの指示と共に一斉攻撃。Aクラスチームの攻撃陣が攻めにきた。

「油断はせん! 『フレイムドリブル』だ!」

『フェネクス選手! 炎に包まれたままゴールに直進していくぞ!』

「ちっ! 強引な生徒会長さんだな! 『ストライクタックル』!」

 業火の突進に対して、リンナイトはハイスピードのスライディングタックルを仕掛けた。

 斜めから鋭い蹴りをぶつけてフェネクスからボールを奪おうとしたが、

「うわあっ!?」

『リンナイト選手! 燃やされながら吹き飛ばされる! 魔法のぶつかり合いはフェネクスが勝った!」

「くっ! シュートは打たせんんぞ……」

 マデュランがすぐさまフェネクスに近づいてくる。フェネクスに絶対にシュートを打たせてはいけない。彼女のシュートが何回も打たれたら、こちらの守りが崩壊してしまう。

 ゆえにマデュランがフェネクスを止めにきたのだ。

「……右か。ケットシーに」

「ボールをけりだす前に止める!」

 パスを出すことに気づいたマデュラン。巨漢の身体をいかしたパワフルなチャージをぶつけにかかる。

 奪われる前にボールを渡さなければ、フェネクスは急いでケットシーにパスを渡そうとした。

「……!」

 ボールを蹴ろうとした瞬間、ある人物が目に入った。

 フェネクスは足の向きを変えてパスを出した。

 ボールを蹴りだした先には、

「よし、まかせろ!」

「なっ!?」

 フロストンがいた。

 シュンをマークしていたフロストンが、だ。

 ドレイクがボールを弾いた瞬間にアタッキングサードへ走り出していたのだ。

 Aクラスチームにとって相手の守りが手薄な今、点をとるチャンスである。

「私は見えてましたよ! フロストンさん!」

 だがフリーに近いフロストンを見逃さない人物がいた。

 ミンホイだ。

「お前じゃあ俺は止められんよ!」

「なあ!?」

 しかし、フロストンはあせらない。

 足をボールの前で交差させるような動きでミンホイを惑わし、迷いを生じさせて動きを鈍ったその隙に軽やかに抜き去る。 

(あの動き、ステップオーバーか!)

 前世でにたようなドリブルを見た。

 サッカーの技術だ、フロストンはテクニックを用いたドリブルで抜き去ってきたのだ。

「元サッカー部だからな、これぐらいの動きはできる! ゆえにAクラスのみんなに貢献せねばな! 『フリーズシュート』!」

 ここでマジックシュートを解き放つ。

 地を這うように進んでいくシュートは、冷気をまといながら地面を凍らせながらゴールを目指す。

「……速い! だが……『ファイアボール』で!」

 右手から真っ赤に燃える炎のボールを発射。

 フロストンが放つ『フリーズシュート』に激突させてボールを止めようとしたが、

「……えっ!?」

 簡単に火の玉が消されたことに驚いてしまった。

 いくら一年生のなかで魔法が優秀だと評価されても、フロストンは三年生で優等勢揃いのAクラスのメンバー。

 魔法の技術の差はあまりにも大きい。

「……だけど!」

 それでもなんとか持ち前の反射神経で、蹴りでマジックシュートを止めにかかるエスバー。

 素早い蹴りがボールにぶつかる。

「……ワアッ!?」

 守りの蹴りは軽々と吹き飛ばされて、足をとられたエスバーは地面に顔を激突。

 そして冷気のボールはゴールに入っていく。

 フロストンのマジックシュートが決まった。

『ゴォールッ! 決めた! フロストン選手の地を這う氷のマジックシュートがゴールに入った!』

「先生に推薦されたんだ。期待に応えなくちゃあな」

 ゴールを決めて小さくガッツポーズ。表情は笑みを浮かべており点をとれたことに歓喜していた。

「フロストン、ナイスだ!」

「フェネクスさん、よく俺の動きに気づいてくれましたね。おかげで点をとれましたよ」

「パスをしようとした瞬間、君の動きが見えたからな」

 シュートに見せかけたフェイントパスがあったから、手薄となったゴールにシュートを叩き込むことが出来た。

 フロストンとフェネクスは両者、互いにプレイを褒め称えている。

「……振り出しに戻ってしまったか」

 シュンの言葉通り、点数は一対一。

 同点になり、リードはなくなってしまったのであった。

 

【エルドラドサッカー日誌】

 リーフカッター

 モココが使用した土属性のマジックシュート。

 魔方陣から鋭い刃のような葉っぱを作り出して、それらと共にシュートを放つ。

 ボールそのものより葉っぱに当たる方が痛い。

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