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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
一章 魔導学院、入学へ
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点取り屋の証明

 マギドラグ魔導学院サッカー部対Aクラス選抜メンバーの試合は始まったばかり。

 トノスのシュートは止められた。

 今度はAクラスが攻めてくる。

『さあ、攻守交代! 今度はAクラスがボールをもって点を取りに行くぞ!』

「冷静になれ、試合は始まったばかりだ。フォワードにボールを渡してシュートを

 ゴールキーパーからボールを受け取ったフロストン。目指すはゴール。

「止めてやるわ! フロストン!」

「お前か! 試合でもしつこいな!」

 プロスが前に出る。

 フロストンも若干イラつきながらもどうやって切り抜けるか考えて、

「立ち止まってろ! 『コールドミスト』!」

 魔方陣を出してボールを軽く前に打ち出して、そのボールから白い煙が巻き上がる。その煙の正体は冷気だ。

 その白い冷気がプロスの体を覆いつくした。

「どこ!? 寒い!」

「迷ってろ」

 フロストンの姿を見失っているプロスを尻目に、抜き去って前線に進む。

「よし、フェネクスさん!」

『ここでフロストン選手、中央にいるフェネクス選手にパスを出した!』

 パスボールを受け取ったフェネクスは周囲を見ながら、

(誰にパスを出すか)

 前を確認すると、味方のフォワード二人の近くにはサッカー部のディフェンダーがいる。ここでパスを出すのは敵にとられるリスクがある。

 ならばとるべき選択肢はひとつ、

「いや、私がシュートを打つべきか!」

『フェネクス選手、ボールをもって前進! ここは自分でシュートを打ちにいくのでしょうか!』

 自分がシュートを打ちにいく選択肢だ。

 フェネクス自身がゴールを目指して突き進む。センターラインからシュートを打つことはできるが今の自分ではゴールに入るか自信がない。

 自分の全力のマジックシュートがゴールにぶちこめる距離まで前に進むことを選んだのだ。

「フェネクスさんのシュートはまずい……」

 一度フェネクスのシュートを見たことがあるシュンだからこそ、彼女にボールを持たせてはいけないことを理解している。

 だがしかし、フォワードの自分が後ろに思いっきり戻ってもいいのか。しかし相手のフォワードを無視することもできない。どうするべきか。

「シュンは留まっていてくれ! 俺たちが止める!」

「マデュランさん……わかりました!」

 マデュランの指示を聞いてシュンは前にとどまることにした。

 ここはマデュランたちディフェンダー陣に希望を託そう。

「ここは私が!」

 そう考えている内に、モーグリンがフェネクス選手を止めに追いかける。

「どかないと吹き飛ばす!」

「きゃ!」

『これは力強いドリブル! フェネクス選手、モーグリン選手を目にも止まらぬ速度でまっすぐ突き進みながら吹き飛ばした!』

「このヤロー!」

 吹き飛ばされたモーグリンを見てこれ以上は進ませるか、とリンナイトが鋭いスライディングタックルを炸裂させる。

 素早い低姿勢の蹴りが相手にヒットした。

「なっ!」

『これはうまい! 横からの奇襲スライディングタックルをボールを盾にして防いだ!』

「力任せだな。だがな、力を使うプレイはこうやるんだ!」

 そしてそのボールを踏みつけて風圧が生まれて、リンナイトは吹き飛ばされてしまう。

「うお!」

「よし、ゴールを奪う!」

「させるか!」

 自身のシュートが確実に決まると感心できた距離まで近づいたフェネクス。シュートを打とうとしたその時、目の前にゴールを邪魔する存在が現れた。

「マデュランか!」

「キャプテンとしてここは止める!」

『ここでキャプテン同士のぶつかり合いだ! どちらにとってもここは大事な場面! さあ勝つのはどっちだ!』

 マデュランとフェネクスが一瞬睨み合う。

 この間、互いにボールをどうするかを考える。

 そしてフェネクスが動き出した。

 自身の最大のドリブルスピードで抜かしにかかった。

(確かに速い……だが見える!)

 シュンのドリブルを見続けてきたマデュランは、フェネクスの目にも止まらないドリブルになんとか目で追うことができた。

「反応したが! 『フレイムドリブル』!」

「ウッ!」

 フェネクスを止めた、チームの皆が誰もが思った瞬間、フェネクスの体に炎が燃える。そして炎の体でのショルダーチャージのドリブルだ。

 ――ガンッ!

 炎のチャージがマデュランの胴体に突き刺さった!

「……それぐらい読んでいたさ! 君は結構乱暴なプレイをするからな!」

 だがマデュランの体を空に浮かばない。がっしりと地面に立ちフェネクスの攻撃を耐えきった。

「なっ!」

 フェネクスは驚愕しつつ、なぜチャージが直撃したのに吹き飛ばされなかったか、考えてすぐさま理解する。

 彼の体に当たったとき、人体のからだとは思えないほどの硬い感触があった。

 間違いなくあれはバリア。

 マデュランはフェネクスと一騎討ちになる前から魔法を使用して、体にバリアを張っていたのだ。

(バリアを使っていたことはわからなかったが、だとしても私のドリブルを受けても壊れないとは)

 このマデュラン、Aクラスではないにしてもなかなかの魔法の技術の持ち主、そのことを今の攻防で理解した。

「俺はAクラスほどの魔法の腕はないが、守りの魔法に関してなら負けてないぞ!」

「なるほど……それは理解した!」

 押し返そうとしてきたマデュランの防御をすぐさま反応してバックステップで距離をおくフェネクス。このままではあの巨体のパワーから繰り出されるディフェンスに返り討ちにあってしまうと感じたからだ。

 だがマデュランはそんなフェネクスを逃がしはしない。

「待て! 『ロックタワー』だ!」

 魔法を発動させて距離をおこうとしているフェネクスの足元に岩の塔が突き上げるように出現する。

 これでフェネクスを吹き飛ばしてボールを奪う、そのための魔法だ。

「止めれると思ったか! 『フレイム』だ!」

「なっ!?」

 ここでフェネクス、魔法を連続で使用、マデュランはまさかの魔法の再使用に共学する。

 強烈な炎が石のタワーに激突させて粉砕させた。

 魔法連続使用。

 魔法を発動し終えた瞬間に次の魔法を発動させることによって魔法の効果を途切れさせることなく発動させ続けさせる魔法の技術だ。

 この技術は魔力の消費量が激しい上に、複数の魔方陣、脳裏で複数の思考をして魔法を構築しなければ発動しないため、普通の学生なら使えることができない技術。

 だが彼女、フェネクスは例外である。

「魔法の連続使用ぐらい、私の技術ならできる。数回程度なら一呼吸も必要ない!」

 フェネクスなら魔法を連続で発動させることができる。その技術を持っている。

 なぜなら彼女はこの魔法名門学院で生徒会長になれるほどの実力者なのだから。

 そしてタワーを壊した炎の余波がマデュランに襲いかかり、

「くうぅ!」 

 その巨体が吹き飛ばされていく。

 これでフェネクスの前には邪魔をするものはいない。ゴールの壁はない。

「よし、なんとかマデュランを抜かして――」

「そこです!」

 シュートを打とうとして足を上げた途端、肩に岩のシールドをまとったバルバロサのマジックチャージが炸裂。体勢が不安定なフェネクスにヒット!

「ぐっ!」

 軽く悲鳴をあげるものの、持ち前の身体能力でシュートをなんとか放つフェネクス。しかし、バルバロサの横やりで魔法を唱えられず、ただ普通に威力のあるシュートしか放たれることはなかった。

 だが学院一の彼女のシュートは速く、ゴールに向かって進んでいった。

「エスバー!」

「……速いだけ、止めれる!」

 驚異の反射神経を持っているエスバーであれば、例え三年のシュートだとしても対応できる。

 ゴールに向かってきたボールを両手でガッチリとつかんだ。

『おっと軽々とキャッチ! バルバロサ選手のディフェンスが決まったおかげでしょう! フェネクス選手のシュートは防がれてしまいました!』

「さすがに決まらないか……ッ」

 シュートを止められたことに悔しがるフェネクス。

 あと一歩足を早く振ることができれば魔法も唱えることが出来たはず。そうすればマジックシュートを炸裂することが出来たはずだ。

「バルバロサ、ナイスだ!」

「マデュランさんの必死の守りのおかげです。隙を狙うことができましたから」

「エスバー、早く私に渡して!」

「…………は、はい、トイズさん!」

 すぐさまカウンターを仕掛けたいトイズは怒鳴るような大声でエスバーにそう指示を出す。エスバーも少しびびりながらもすぐさまトイズにボールを投げ渡した。

「よし、モココ! カウンターよ! 絶対にシュートを打ちなさい!」

「はーい♪ さて、私もマジだからね!」

 ボールを受け取ってすぐモココにパス。

 モココもボールを受け取ったあとにすぐにドリブルを始めた。

 さあ反撃の時だ。

「サッカー部のみんな! パス連携でいきましょう! モーグリン先輩!」

「はーい!」

『サッカー部のメンバー! ここで素早いパス連携だ!』

 サッカー部、ここでパスを中心とした攻めを仕掛けた。

 この攻撃はAクラスに魔法を使わせないための戦略だ。

 いくら激しい肉弾戦が許容されているエルドラドサッカーと言えど、ボールをもっていない人物に激しいチャージや魔法をぶつけたらファールになってしまう。最悪の場合レッドカードだ。

 だからこそこのパス連携は相手に魔法を使ったときのファールになる可能性をあげて、魔法を使わせることを封じる作戦なのである。

「魔法で勝てないからパスで来たか……」

「なるほどね、なら取ればいいじゃない!」

 Aクラスミッドフィルダー、タルチュラはサッカー部のパスの軌道を読みながら移動を開始する。

 パスで攻めてくるならそのパスボールを奪えばいい。

 そう思って、パスボールに静かに近づいてボールを奪おうと足を伸ばした。

「ほらよ!」

「えっ!」

 ボールはカットされた。

 だが驚いたのはタルチュラの方。思わず声をあげている。

 ボールをカットした人物は、なんとシュンであった。

 そしてすぐさまボールをモココに渡す。

「自由にパスだしていいですよ! 俺が軌道変えますんで!」

「いいね、モココたちもわからない方がお相手さんよめないでしょ!」

『いきなり味方のボールを止めたシュン選手の行動はフェイントだ! ボールの軌道が不規則に変わっていくぞ!』 

(このパス連携は練習して一、二週間程度のAクラスには真似できねーだろうよ!)

 シュンの自由で不規則なパスを受けとるのは難しい。なにせこの人物に渡そうと思ってパスを出したら、いつのまにか違う仲間にボールが向かっている。しかもシュンはダイレクトにパスを出しているため、常にボールとシュンの動きを見なければボールを受け止めきれないこともある。

 この連携をした最初の頃はよく失敗した。

 シュンの速いダイレクトボレーパスを受け止めるのがとにかく大変だった。

 だが勝つために練習を重ねて実践でできるようになったのだ。

「パスと見せかけて! 『ウォータードリブル』!」

「うお!」

 そしてここで動きを変える。

 モーグリンを守る水の壁が現れて、そのまままっすぐ突撃。ボールを奪いに来たタウロスを弾き飛ばした。

 パスボールを奪おうとしてきた相手はボールばかり見ている。ゆえにマジックドリブルを仕掛けやすいのだ。

 ここでモーグリン、フリーになった。

「シュンく~ん! 受け取って!」

 シュートで点を取ってくれることを祈りながら、モーグリンは正確無比の鋭いパスを繰り出した。速く、全くぶれないパスボールはAクラスの防御を潜り抜け、シュンに渡った。

(ボールをトラップしたら取られるな。ならばダイレクトに蹴る!)

 シュンはボールを足で止めて、さらにそこからボールを軽く浮かせるように足を上げた。ボールを受け取ってすぐさま浮き上げたのだ。これならすぐにシュートのモーションに移ることができる。

 そして、それを見たサッカー部のメンバーはあのシュートを打つのだとすぐに理解する。

「ダイレクトチップキック!」

「あれが来るぜ!」

 ボールを浮かばせた後、後ろにステップ。

 そして風の力で体を押し出して前にジャンプ。風と一体なったかのような、そんな感じで空を飛び、そのままボールをジャンピングボレーキック!

 これがシュンのウイニングシュート。

「『ティルウィンドジェット』だ! 決まれ!」

 豪風の弾丸シュートが今放たれた!

「キャア!?」

「なに、この風!」

 シュンを止めようとしたAクラスディフェンダー、ケロベロとリデッドはシュートを打つ瞬間に生まれた暴風によって吹き飛ばされる。

 これでシュンのボールを防ぐものはゴールキーパー、ただ一人だ。

「止めてやる! 『リフレクトシールド』!」

 魔力で作られたバリアよりも硬い魔法の盾でシュンの風弾を止めようと思いっきしぶつける。

「なっ!?」

 しかし魔法のシールドは壊れて消えていき、そしてドレイクの腕を弾き、ボールはゴールに入っていった。 

『ゴォーーールッ! やはりやはり! この学院にサッカーの実力だけできたシュン選手の実力は本物だ! なんて鮮やかで強烈なシュート! 見事、一点奪いました!』

「よっしゃ! これが村で点取り屋って評された実力よぉ!」

 点を決めたシュン、ガッツポーズを掲げる!

 シュンが決めたことにチームメイトも大喜びだ。

「よくやった! シュン!」

「さすがだね! 決めてくれてよかった!」

「モーグリンさんのパスのおかげですよ。いいパスでしたら、すぐにシュートを打てましたよ」

「そ、そんなにほめられると照れるよ~」

 あのパスは本当によかった。

 足元に吸い付くようなパスのおかげですぐにマジックシュートを打つことが出来たのだから。

「どんどん点をとりましょう! 次も決めますから!」

「相手はあのAクラスの連中だからな。点はいくらあってもいい」

「はい!」

 一点は取ったが、試合は始まったばかり。

 勝つために何点でもとってやる。シュンはそう決めた。

【エルドラドサッカー日誌】

 コールドミスト

 強烈な冷気の霧を相手にぶつけて視界を封じつつ動きを鈍くして確実に相手を抜かすドリブル。

 氷属性中級魔法のコールドミストをサッカーで使えるようにフロストンが工夫を施した技である。

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