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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
一章 魔導学院、入学へ
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マギドラグ魔導学院、選抜戦開始

 この日、マギドラグ魔導学院には人の声が絶えることはなくなる。

 なぜなら今日はエルドラド魔導祭に出場する生徒を決める対決が行われるからである。

 その期間は三日。

 その間は授業はない、課題もない。しかし生徒はその事に喜ぶものはいない。なぜなら生徒たちはエルドラド魔導祭に出るために必死に試合で勝つために努力をするのだから。

 教室に人がいるとすれば、飲み物片手に気を休めている瞬間のみ。

 それ以外は、体育館、グラウンド、研究室、その他広い場所全般に生徒と教師が集まる。

 その理由は簡単、その場所で生徒たちの対決が行われるからである。

 それがマギドラグ魔導学院選抜戦なのだ。

「しかし……言葉がでねーな」

 シュンは一人でこの学院を渡り歩いていた。

 サッカーの試合が行われるのは三日目の午後、しかも最後の競技。他のすべての競技が終わった後に行われる。

 他の競技は対決が行われるいるときは観戦し、それが終わったら練習に集中する。サッカー部との話し合いでそう決めたのだ。

 そして今日は三日目。対決の日だ。シュンはこれまで観戦とサッカーの練習に専念していたのだ。

「Aクラスが圧倒的すぎるぜ。魔法の実力スゴいな」

 行われている魔法競技を観戦した後にそんな感想を思い抱く。

 Aクラスとその他のクラス、もとい部活の部員たちとの対決の結果はAクラスが全勝。勝負内容も圧勝が多い。

 魔法の技術は他のクラスより圧倒的に上だ。

「他の人も俺からしてみればすごい魔法使えるのに、Aクラスの生徒の魔法は恐ろしいとしか言いようがない。学生なのにあんなに魔法をうまく使えるなんて」

 村から来たシュンにとってこの学院の魔法の技術は他の生徒も教師も驚くものばかりだ。

「コメットレース……あの箒で空を飛ぶレース。一番圧倒的な勝負はあれだったな。生徒会長のフェネクスさん、あんなに速く飛べるなんてよ」

 この世界の空の競争、コメットレースでの結果は明らかだった。

 一着でゴールしたフェネクスだがその差があまりにもありすぎて、距離を測定できず『大差』の判定になってしまったほどだ。 

「あんなに速いのに危なげのないコース運び……実況の人も前回の選抜戦も圧勝していたっていうし、マジで上手いんだよな」

「……シュンさん」

「うおっ!?」

 先程のレースの感想をいっていると、後ろから突然声をかけられた。

 驚くものの誰かはわかった。

 振り向くとエスバーが立っていた。

「ってエスバーか。いきなり後ろから呼ばれたからビックリしたぜ」

「……そろそろ集合の時間ですよ」

「そうだな。じゃあ行こうか」

 そろそろ試合前のミーティングの時間。

 シュンはサッカー部の部室に向かうことにした。

 

 シュンとエスバーが部室に入ると先輩たちと先生はすでに集まっていた。

「みんな集まったわね!」

「はい、全員集まっています」

「よーし、作戦会議よ! といっても今まで話し合ったことの復習みたいなものだけどね」

 クアトルは机の上に紙の束を置いた。

 この紙は今日戦う相手、Aクラスのサッカー対決に参戦する生徒の実力に関する情報がかかれているものだ。ほとんどミンホイが作ったものである。

「あなたたちもわかっていると思うけど、Aクラスの実力は中々のものだわ。これまで選抜戦の結果は全勝。他のクラスや他の部も頑張ったんだけどね」

「俺たち三年生から見ればいつも通りの光景だな」

「でも、私たちがその光景を破りましょう! Aクラスはこの学院の優等勢揃い、選抜戦の内容を見てもわかるように高い魔法技術と身体能力が特徴のチーム。特に魔法に関しては正直に言って私たちでは勝ち目はないわ」

 それは確かに、とほぼ全員が頷く。

 それは認めるしかない事実。でなければ選抜戦でここまで勝利していないわけがない。

「でも、サッカーの経験は浅いわ」

「だがそれを補うぐらい魔法が優れているってわけだがな」

「しかし、それは魔法を使った場合。普通のドリブルもディフェンスもつたないでしょうね」

「魔法を使わせないように立ち回るのが重要、というわけですね」

 Aクラスは自分達の自信ある魔法を中心としたチーム。

 それを警戒しながら戦わなければならない。

「注意する人物はランタ・フロストン、彼は元サッカー部のメンバーでミッドフィルダー。魔法もいいけど、やっぱりサッカーが普通に上手いのよね」

「アノヤロー! 絶対にぶっとばしてやるぞ!」

「トノスさん、彼以外にもサッカー部を抜けた人はいるじゃあないですか。なぜそこまで彼に敵意を?」

 バルバロサが疑問に思ったことを聞くと、

「アイツことあることに俺たちのプレイングに文句いってくるんだぜ! 双子だけのプレイングは攻めの選択が少ないんじゃないかって!」 

「仕返しに暑い日に水の代わりお湯渡したりしてやったもんね!」

「そのイタズラが仲悪い原因じゃないんですか?」

「それに今のはアドバイスじゃあ……」

「ふん! 俺たちは二人でも強いし一人でも強いの!」

「そうだそうだ!」

(……フロストンさん、大変だな) 

 サッカー部に所属していた時のフロストンはイタズラ好きのアイメラ兄姉におもちゃのように扱われていたのではないか、そう思ったシュン。

 とにかくサッカーの経験があるフロストンは要注意だ。

「でも一番注意するのは、生徒会長のバニス・ウー・フェネクス。彼女よ」

「……生徒会会長?」

 エスバーが首をかしげた。

「そうか、一年はフェネクスのこと知らねえのか」

「フェネクスはこの学院の生徒会長であり、そしてこの学院トップの魔法使いだ」

「そもそもこの学院の生徒会に入るには学力、実践、ともにトップクラスの成績の者しかなれない。そして生徒会長はその生徒会の中で一番の実力者にしかなれないんだよ」

「……なんでサッカー部に?」

 そんな実力者だから警戒するのはわかる。しかしなぜトップクラスの実力を誇るフェネクスがサッカー対決に参戦したのかちょっと疑問に思ったのだ。

 その疑問はマデュランが答えてくれた。

「おそらくだが、マギドラグ魔導学院の上層部はサッカー大会のトロフィーがほしいからだろうな」

「トロフィーが? なんででしょうか?」

「俺たちの学院はエルドラド魔導祭のほとんどの競技に優勝しているが、最近出来たサッカー大会はまだ優勝していない。サッカー大会も魔法が使われている競技。そしてマギドラグ魔導学院は魔法の名門学院」

 リンナイトは一息ついて、

「サッカー大会は新しく出来たとはいえ、魔法に関する競技なら優勝をなんとしても取りたいとマギドラグ魔導学院の教師陣はそう考えているのだろうな」

「だからこそこの学院の屈指の実力者、生徒会長のフェネクスをサッカー対決に参戦させたってわけですか」

「だろうな」

 なるほどとシュンとエスバーを頷く。

 絶対に勝利したいなら学院の生徒のなかで一番の実力者をいれたいのは当然。

 フェネクスがサッカー対決でAクラスに入れさせたというわけだ。 

「とにかくフェネクスの魔法には要注意よ。特に彼女のマジックシュートはどんな破壊力を秘めていることか……シュートは打たせないようにね」

「「「はい!」」」

 サッカー部員の声が響き、作戦会議は終える。

 そしてクアトルはシュンとエスバーに人差し指を向けた。

「さて勝負の前に、そこの一年生諸君」

「はい、なんでしょうか。監督」

「試合に出るにはユニフォームが必要よね」

 それは確かに、シュンは頷いた。

 するとクアトルは箱の中に入れていたユニフォームを取り出す。それを机に並べた。

「本当はもっと早く渡したかったけど。まあ好きな番号選んでちょうだい」

「待ってました! いやー、この学院のユニフォーム着たかったんだよな」

「…………(コクッ)」

 シュンはようやくユニフォームが着用できることに喜び、エスバーもシュンに同意しているのかゆっくりと頷いた。

 今まで練習では学院の冒険用魔導服、ようは運動服でサッカーの練習をしていた。

 まだユニフォームを身に着けていなかったのだ。

「……うーん」

「俺はもう決めてるぜ」

 どれを着ようかな、エスバーはユニフォームを眺めている中、シュンは速攻で決める。

「やっぱこの番号だな」

「へえ、10番を選んだのね」

「ええ、この数字は俺が好きな数字ですから」

「好きな数字ねえ」

 シュンが選んだ番号、10の数字がかかれている。

 そう、前世の時に中学生時代で来ていたエースの証、10番のユニフォームだ。

 このエルドラドにはまだ数字に大きな意味は持っていない。基本は自分の好きな数字や直感で選ぶであろう。だがシュンにとっては10番は大きな意味を持つ。

 サッカーにとって10の背番号はチームのエースの証である。チームの一番の実力者で、仲間の期待に応えるもののみがその背番号を背負うことができる、シュンはそう考えているのだ。

(まあストライカーなら9番を選ぶべきなんだろうけど、やっぱり俺は10番がいい)

 9番はチームのエースストライカーの証なのだが、シュンはチームのエースでありたい。そう考えて10番を取ったのだ。

 シュンは10番が描かれているユニフォームを受け取って着替え室に行ってすぐに着替える。ちなみにエスバーは11番を持っていった。

「うん、サイズはぴったりだ」

 この学院の制服と同じ、白と青の模様のユニフォーム。

 前世のユニフォームと比べて生地が厚い。これは魔法のダメージを減らすためにそうなっているのだろうか。でも軽くて曲げやすい。特殊な素材を使っているのだろう。

「……俺、またユニフォームを身に付けれるんだな」

 シュンは思わず目に涙を溜める。

 異世界に来て再びサッカーのユニフォームを身にまとえることができるなんて思ってもみなかった。

 それが嬉しくて仕方ない。

「おっと、泣くなよ俺。嬉し涙だけどそれは試合に勝ってから流すべきだな」 

 涙を指で拭き取って、頭につけているミサンガを整える。

 着替えを終えて、先輩たちがいる部室に戻った。

「着替えてきました」

「うん、似合っている」

「うんうん~」

 マデュランとモーグリンの言葉にシュンは恥ずかしそうに頭をかくも、内心喜ぶ。

「ありがとうございます!」

「おーい、エスバーはまだか?」

「まだですね――」

 パシャ!

「うわ!」

 突然のフラッシュに驚くシュン。

 すると光の出した人物はモココ。手には長方形のデコレーションされた箱を持っている。

「こんなに似合っているもの、写真とらなきゃね♪」

「い、いきなり撮るのは止めてくださいよ。言ってくれればいくらでも写真取っていいですから」

「ほんとー! たくさん撮るからポーズを取って♪」

(この世界にカメラあるのか……)

 前世ではよく見た道具だ。

 まあ魔法があればカメラに似たような道具は作れるだろうと思ったシュンは、モココの持っている道具に興味を抱く。試合が終わったらちょっと貸してもらえるか相談しようか、そう思ったほどだ。

「…………お待たせしました」 

 エスバーがユニフォームに着替えて現れた。

「おお、エスバー。遅かったな」

「きゃ~♪ お似合い♪ カワイイ♪ ねえ、写真撮っていい♪?」

「……ひっ!」

「モココさん。お止めになったほうがよろしいのではないでしょうか。彼、エスバーさん怖がっていますよ」

「むー……まあ嫌がっているならダメか~」

 バルバロサの言葉に残念そうな顔をしながらも引き下がるモココ。

 人見知りのエスバーは写真も苦手である。

「よし、みんな気合いいれましょう。この試合に勝たなければ大会の出場権利は彼らのもの。今までサッカー部員が少なくてミニサッカーしか試合ができなかったけど、でもそんなの関係ないわ。勝ってエルドラド魔導祭に出場するわよ!」

「「「おう!」」」

「勝てば一年生も増えるね♪」

「おそらく、だけど」

「もしそうなら喜ぶべきですね」

「ならなおさら負けられねえ!」

「あの威張り散らしてくるAクラスをぶっとばしてやるぞ!」

「ぶっとばしてやるわ!」

「ぶっとばしてみせるわ~」

「あのー、皆さん、物騒な言葉はあまり……」

「ゴホン……皆、緊張せずリラックスできているのはいいことだが、そういう話は試合の後でしような」

 雑談が多くなり始めたためキャプテンのマデュランが止めに入る。

 確かに大きな試合の前に体がガチガチになるぐらい緊張するよりかはましだが少し気を緩めすぎである。今の注意は必然だ。

「皆、フィールドに行きましょう。対戦相手が待っているわ」

「ええ、わかっています。よし、皆。行くぞ!」

「「「おう!」」」

 マデュランの号令でサッカーフィールドに向かう。

 サッカー部、闘志むき出し。絶対に勝つという意思が見える。

「あー、シュン君はちょっと待ってちょうだい」

「クアトル監督?」

 部室から出ようとしたとき、シュンはクアトルに声をかけられて立ち止まった。

「水を指すようでごめんなさい。ちょっと彼と話があるの」

「そうですか……わかりました。シュン、先にフィールドで待っている」

「はい、マデュランさん」 

 サッカー部の先輩たちとエスバーは先に部室から出てフィールドに向かっていった。

 クアトルとシュンが二人きりになる。

「先生、自分はなんで呼び止められたのでしょうか」

「シュン君。そのーごめんね」

 止めた理由を聞いた瞬間、いきなり頭を下げられた。

 普通なら疑問に思うことだが、シュンはなぜ謝れたのかすぐに気づく。

「先生、前もその言葉を聞きましたけど、俺はこういいましたよね。気にしないでくださいって」

「でも、あなたをこんな風に巻き込んでしまうなんて。まさかこの試合で学院の退学がかかっているなんて」

 クアトルは頭を抱えてしまった。

 シュンがこの試合の結果次第でこの学院からいなくなってしまう、そのことをクアトルは知っている。

 シュンがフェネクスとその話をした、その翌日にクアトルは他の教師陣からそのことを聞かされたのだ。

 それを聞いた瞬間、自分はシュンに理不尽な目にあわせてしまったと思ってしまい、話を聞いたその日からシュンに謝りにいったのだ。

 だからシュンは今クアトルがなぜ謝ったのかその理由に気づいていたのだ。

「あなたを振り回してしまったわ。本当だったら、もっと長くこの学院にいていいのに」

「先生、この学院のルールがあるならそれに従うだけです。豪に入っては郷に従えというやつですよ」

 シュン自身は納得はしている。

 教師陣はシュンがサッカー特待生の制度を受けるに値する実力を持っているかどうかを知りたいのだ。

 ならばそれを示すだけはシュンができる行動である。

(それに、ここで実力を示せないようじゃあエルドラド魔導祭で優勝は目指せない)

 今から行われる対決はシュンにとっては試練であり、そして夢を叶えるための通過点でもある。のりこえなければならないのだ。

「大丈夫です。その心配も試合が終わった後には消えてますから。監督が暗い雰囲気出していると先輩たちも心配しますよ。それに俺がこの学院にこれたのはクアトル監督が俺の実力を見抜いてスカウトしてくれたからです。むしろ胸張ってください。自分がサッカー特待生としてスカウトしてきた生徒は凄腕のサッカープレイヤーだって。私は最初から彼の実力を見抜いていたんだって」

「シュン君……」

 クアトルを安心させるように励まし、自分に任せろと胸を叩く。

 その言葉にクアトルは、心に宿っていた不安と後悔がやわらいでいくような気がした。彼の言葉に元気をもらったのだ。

 ならそれに答えるのが監督であり、教師だ。

「……そうね。ここまできたらシュン君を、いえ自分達のチームのメンバーを応援するしかないわ。頑張って、もし勝ったらなにか奢るから」

「じゃあ、ハンバーグでもおごってもらいましょうかね」

「好きね、君。いいわ、たくさんおごってあげるから」

 そんな軽いやり取りをして、部室から出る二人。

 先程の暗い空気はもうない。今は勝利することだけを考えている。

(俺は勝つ。誰が相手であっても。どんな障害が来てもそれがサッカーの頂点に目指すための試練なら受け入れて乗り越えてやるぜ)

 シュンは再びミサンガを強く結んで先輩たちと対戦相手のAクラスが待つサッカーフィールドに向かうのであった。




「え、シュンが……退学……?」

 サッカー部室の窓の近くでレイカが信じられないような声でそう呟いた。

【エルドラドサッカー日誌】

 ランタ・フロストン fd 男

 身長171センチ 

 体重59キロ

 魔力属性 氷


 マギドラグ魔導学院の優等生が集うAクラスに所属している少年。学年は三年生。

 元はサッカー部のメンバーだったが、Aクラスに入って退部した。

 彼は飽きっぽいところがあり、同時に知識の探求者でもある。一つの物事にこだわらず、知識は浅く広く知ることが重要であり、それこそが知識を得る行為の楽しいことだと考えている。

 そんな彼だが、夢は国から認められた魔導士になることである。

 実は寒いのも暑いのもどっちも平気で、どんだけ気温が高かろうが、逆に低かろうが平然としている。

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