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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
一章 魔導学院、入学へ
47/130

試練は突然に

 日が沈みかける時間。

 空も星が見えかけてくる。

 チーム練習は終わり、部活動も終える。サッカー部員は自分の家に帰っていった。 

 シュンも寮に戻って、

「さてと」

 シューズを履いて寮から飛び出した。

「さっさとグラウンドに行くか」

 自主練習をするためにシュンは再びサッカーフィールドに向かっていった。

 監督のクアトルからはフィールドの使用許可を、寮の管理人から外出する許可をもらっているので文句は言われない。

「先輩たちもんなにやる気になっているんだ。俺もやる気がどんどん上がるもんよ。寝るまでボールを蹴りたいね」

 初めて行われた高等部での練習でやる気が満ちている。

 もっとボールを蹴りたいと体がうずいて仕方ない。はやくフィールドに向かう。

 サッカーフィールドは魔力をエネルギーにしている魔導街灯で明るくてらされており、暗くて練習に支障が出るようなことは起きない。

 さすが魔導の名門学院、夜の暗闇もランプの炎以外で明かりを灯す設備も充実している。

「オラッ!」

 ボールを大きく浮かばせてからのオーバーヘッドキック。

 最初はシュートの練習だ。

(俺はこのチームのストライカーだからな……点を決めるためには蹴りの威力を上げなければ)

 マギドラグ魔導学院のサッカー部フォワードはシュンしかいない。

 ほかのメンバーは自分に点を取ってくれることに期待してくれる、そう思ったシュンはシュートの練習を重点的にすることに決めたのだ。

「マジックシュートの練習したいけど魔力の使う量に気をつけないといけないからな……」

 シュンの体内に貯めることができる魔力は普通の人よりも少ない。

 ゆえにマジックシュートの練習は短時間しかできない。全力でやれば数発打つだけで魔力切れを起こしてしまい、そうなったら練習を中断しないといけなくなってしまう。

 ゆえにシュートの基礎練習を行っているのだ。

「きちんとしたシュートの打ち方をすればそれだけで威力もコントロールも上がる。サッカーは技術が大事だからな」

 魔法だけがシュートの威力を上げる手段ではない。だがら基礎の練習を行うのだ。

 次は得意のボレーシュートを打とう。そう思ってボールを再び高く上げて、

「そこの少年! 君がシュンか!?」

「ん?」

 声がどこからか聞こえてくる。低めの声だがおそらく女性の声。

 慌てずボールを地面に落として体制を崩さず着地したあと、周りを確認したが人影はない。一体どこから声が聞こえるのか、頭を悩ませていると、

「上だ! 顔を上に向けてくれ!」

「上?」

 言われた通り見上げる。すると斜め上に人影が映る。

 女子生徒が箒の上に乗って飛んでいたのだ。

 赤髪で青のメッシュの髪色、キリッとしたツリ目の女子生徒だ。

 ちなみに下はズボンを履いているため見上げていても怒られる心配はない。大丈夫である。

(ほ、箒で空を飛んでいる人を間近で見た。あらためて見ると凄いな)

 この街に来てから空を飛ぶ光景を見るのは珍しくない。始めてみたときは驚いたものだ。

「えーと、なにかようですか?」

「練習を邪魔してすまない。えーと、君がシュンだね?」

「あーはい、そうです。俺です」

「そうか、よかった。寮に行ってもいなかったから焦ったよ」

 箒から降りシュンと向き合う謎の女子生徒。

 なにか用があって合いに来た、そのことは彼女の言葉と雰囲気で理解した。

「本来、君と顔を合わせるのは選抜戦のときだと思っていたが、なにぶん理事長に急に頼み事されてね。シュン、君と話をしなければいけなくなった」

「選抜戦のときに……えーと、すいません。そちらの名前は?」

「ん? あー、すまない。仕事が忙しくて名乗るのを忘れてしまった。これは失礼に値する」

 頭を軽く下げて、女子生徒は服装を整えて名乗りを上げた。

「私の名は、バニス・ウー・フェネクス。この大陸にて由緒正しいフェネクス家の長女。そしてこの学院の生徒会長を務めさせている」

「バニス・ウー・フェネクス……生徒会長だって?」

 彼女の漂う気高い雰囲気で貴族の人ではないか、それはなんとなく理解していた。

 だがこの学院の生徒会長。まさかそのような人物がこの場に現れるとは。

「そうだ。そして、選抜戦でAクラスチームのキャプテンでもある」

「Aクラスの……!」

 突如現れた女子生徒、フェネクスが言った内容にシュンは彼女の顔を見た。

 シュンが勝負するチームのキャプテン。

 その人物が目の前にいる。

「なんで、俺に声を?」

「今回は宣戦布告をしにきたというわけではない。シュン、君に要件があって会いに来た。これから話すことは大事なことだ。だからできる限り早めに話しておきたい」

「一体、何を?」

 わざわざ生徒会長が新入生であるシュンに会いに来た。よほど大事なことなのであろう。

「落ち着いて聞いてほしい。君の学院生活に関わることだ」

「……そこまで大事なことなんですね」

 彼女の真剣な声色に、シュンは気を引き締めて聞くことにした。

「イスを用意した。練習したあとに立ったまま話をするのは疲れるだろう。ほら、座って」

「……箒ですよね」

 いつの間にか目の前に置かれてある箒の形をしたイスに戸惑う。

 というか先程フェネクスが乗っていた箒ではないか。

「安心してくれ、座り心地は良い。ほら、座る部分は広くして柔らかい素材を使っている。長時間飛行も安心して行えることができるということだ」

 彼女なりシュンのことを思ってイスを用意したのだろうけど、箒をイスにするのはシュールに思ってしまう。

 この世界だと常識なのかもしれないが、それでもなんか不思議だなと感じてしまうシュンであった。

「いえ、大丈夫です。まだ自主練習は始めたばかりなので疲れていません」

「そうか、わかった。ではかわりにこれをあげよう」

「えっ、いや、はいもらいます」

 いきなり物を渡してくるフェネクスに戸惑いながらも受け取る。

 受け取った物を見ると、それは包装紙に包まれたチョコである。

「チョコレートか?」

「甘くて美味しいぞ。今では安く食べられるが、数年前は量産できず高くて……おっと関係ない話だ。大事な話の方を優先させなければ。シュン、君に要件を伝えよう」

 箒をそのままにして会話を続けるフェネクス。

 シュンは箒のことに関しては今は忘れることにして大事な話を聞くことに集中する。

「マギドラグ魔導学院で行われる選抜戦の結果次第では、君は退学になってしまう可能性がある」

「え!?」

 フェネクスの言葉にシュンは驚愕の声を上げる。

 自分がマギドラグ魔導学院を退学になってしまう。

 学生であり、この学院にスカウトで来たシュンからしてみればそのようなことを突然言われてしまったら驚いてしまうのも無理はない。

 シュンは動揺しながらフェネクスからその理由を聞こうとした。

「ど、どういうことですか? 俺がこの学院からいなくなるかもしれないって?」

「信じられないことを言われて慌てる気持ちはわかる。だからこそ落ち着いてほしい」

 シュンが冷静になるまで待ったあと、フェネクスは口を開いた。

「シュン、君はサッカー特待生として学院に入学した。だが、マギドラグ魔導学院の上層部、わかりやすくいえば一部の教師と学院長、理事長らは君に対して、サッカーの実力があるか知りたがっている」

「俺はクアトル先生にスカウトされてきました。実力を認められてこの学院に来ました。それでも認められないと?」

「サッカー部の監督であるクアトル先生は君を認めているかもしれないが、ほかの教師や上の立場にいる理事長や学院長も君の実力に対して疑念を抱いているのだよ」

 なるほど、とシュンは頷く。

 確かに今言われた人物たちからは自身のプレイを見せていない。

 それならシュンの実力を知らなくても知らないのはおかしくない。

 むしろサッカー特待生のシュンのことを知りたくなるのは当然か。

「ゆえに、次の選抜戦において君は実力をしめさなければならない。でなければ君はこの学院の生徒名簿から名が消えてしまうだろう」

 フェネクスは一息つき、

「このことは教師の中でも上の立場にいる人物しか知らない。学生では私しか知らされていない。そして理事長は私に、君へこのことを知らされてほしいと頼まれた。シュン、かなり危うい立場にいるのだ。シュン、学院からの伝達を忘れないように」

 彼女の要件を聞き、シュンはまさか自分がそんな退学になるかどうかの瀬戸際に立たされているとは。

 だがそれは受け入れるしかない。

 あくまでこの学院を退学するということは可能性の話。

 それを覆すこともできる。

 そう、選抜戦で勝てば。

「わかりました。このことを伝えていただきありがとうごさいます。あと、フェネクスさん。俺も言いたいことがありますけど、いいですか?」

「構わない」

 シュンの伝えたいことを聞くことにしたフェネクス。

 シュンは自分の思いをぶつけた。

「選抜戦、俺たちが勝ちます」

「……ほう」

 シュンの突然の勝利宣言にフェネクス、思わず眉をひそめる。

「言ってくれるな。よほど自身の実力に自身があるとみた」 

「実力をしめすってのはそういうことでしょう。なら、勝負に勝つ、それが一番手っ取り早い。あなた達Aクラスは手強いでしょう、ですが負ける気はありません。勝って自分たちの実力を証明します」

 自信満々にそう告げた。

 そう、自分の実力を知りたがっているなら、それを知らしめせばいい。

 今、シュンが行った言葉はそのことの宣言なのだ。

「それに、勝たないと試合に出られませんからね」

 それになんと言われようと試合は始めから勝つ気だ。試合に出て、そして大会に出る。そして自分の夢、エルドラド大陸で一番のサッカープレイヤーになる、それを叶えるために。

「……なるほど、いい眼だ。勝ちに貪欲な勝負師の眼」

 震えることなくじっと目を見つめ返してくるシュンに、只者ではないと感じ取ったフェネクス。

 自分たちAクラスを前にする生徒は怯えたり力んでしまうものだが、彼は言葉こそ敬語だが姿勢は自然体だ。

 それだけで彼が普通の生徒ではないことを感じ取ったのだ。

「なら、少し私の蹴りをお見せしよう。自信を保っていられるか」

 するといつの間にかシュンの足元にあったボールを手に取りサッカーボールを地面において、

「『フレイム』!」

 足に紅蓮の炎をまとい、目にも映らぬスピードで足を振り払う。 

 その一振りでボールを蹴り飛ばす。

 するとシュートボールは流れ星のように進んでいき、ゴールに向かっていく。

 業火の球はゴールに――入ることはなかったが、ゴールポストに命中。するとボールは真上に上がって地面に落ちた。

 ボールに穴が空き、真っ黒になっていた。見るも無惨な姿になった。

「なっ!?」

「……外れてしまったか。壊れたのはボールにダメージが入りすぎていたかな。すまない、後日新品のボールを渡すよ」

 壊れたボールを拾いにいくフェネクス。

 シュンは今のシュートを見て、驚愕した。

 今のシュートの打ち方はなんてことない。普通のシュートモーションだ。だが、普通の蹴り方であの威力を生み出すとは。それほどフェネクスの身体能力と魔法の腕が高いことがシュートを見ただけでわかる。

(俺は村で冒険家になった魔導士とサッカーで遊んだことがあるからわかる。フェネクスさんは大人の魔導士と変わらないほどの実力者!)

 学生でありながら本職の魔導士並の魔法の実力。

 伊達に魔法の名門学院で生徒会長を務めているわけではない。

「今はまだ未熟なシュートだが、試合の時は確実に決める。シュン、選抜戦を楽しみにしておくことだ」

 戻ってきたフェネクスはシュンにそういったあと、手を握って何かを渡した。 

 見て確認すると紙に包まえたキャンディが手のひらにあった。

「……なんで飴? さっきのチョコといい?」

「話を聞いてくれたからな。大事な練習の時間をとってすまない。だが今のことは話しておかなければならなかったことだからな。ではこちらも明日の準備があるため、さよならだ」

 飴を渡してそのまま箒に乗ってフェネクス。

 シュンは空に消えていくフェネクスを見ながら、貰ったお菓子を食べた。甘くて美味しい。

「なんか……優しい人だな。だがあの身体能力と魔法の実力は本物だ」

 優等生ぞろいのAクラスの中でトップに立つ者。

 フェネクスの僅かではあるが実力を見て、シュンの体に無意識に力が入った。




「ふっ!」

「うわ!」

 翌日の練習。

 シュンは素早いドリブルでプロスを抜き去る。

 いつもよりも速く、そして緩急ある動き。

 誰が見ても鋭いキレのある動きでプレイしている。

 昨日のフェネクスとの会話で絶対に勝ってやる、その気持ちがプレイにあらわれていた。

「なんかシュンくん燃えてるね〜。動きがアグレッシブというか〜」

「当然だろ。サッカー大会に出たいために頑張ってんだ。アイツに負けねえように俺もシュンを止めてやる!」

 リンナイトがシュンに向かっていく。

 それを見送りながらシュンの動きに注意する。

「でも、今日の動きは一段と冴えているな。私もシュンの熱意に負けられん」

「そうですね♪」

 シュンのやる気にチームの皆も燃え上がる。

 そんななか、シュンはドリブルをしながら昨日の話を思い出して、

(負けられないな。彼らは強い。負けられない理由もある。絶対に勝ってやる)

 シュンの闘志は燃え盛る。

 自分の高等部生活だけではない。エルドラド魔導祭のサッカー大会に出るためには負けることは許されない。

 シュンはドリブルのスピードをより速めて、フィールドを走っていった。

 シュンの鬼気迫るプレイに練習もヒートアップ。全員、次の試合に勝つために必死に練習をした。選抜戦に勝って大会に出場するために。

 そして、時間が流れ、選抜戦当日。

 シュンにとっても、サッカー部にとっても、大事な対決の日がやってくる。

【エルドラドサッカー日誌】

 フレイムシュート

 火の属性をまとって放つシュートである。『ファイアシュート』の違いは魔法の威力であり、『フレイム』は中級魔法で、『フレイムシュート』はより威力の高まった火属性のシュートである。

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