出場するための権利を得るために
サッカーフィールドに戻ったシュンたち。そこにはアイメラ兄姉がAクラスの生徒にいい争いをしている。ほかの一部のサッカー部メンバーも対抗心をむき出しにしているものもいる。
「俺たちにエルドラド魔導祭のサッカー大会出場権利を俺たちに渡せ!」
「そうだそうだ!」
「なんどもなんどもうるさいな! 出場するのは俺たちだって決まってんの!」
「いやだ! 俺たちが出るんだい!」
「いい加減黙れよ……貴族だからってわがままが通じると思っているのか?」
「そんなの関係ないわ! 私たちは大会に出たいの! 出場したっていいじゃない!」
「君たち! 何してるの!」
言い争いをしている生徒たちの間に割り込むクアトル。
するとAクラスの生徒がクアトルに目を向けて、
「先生、こいつらがいきなりサッカー大会の出場権利を自分達に譲れって言ってきましてね。俺たちが出ると決まっているのに」
「フロストン! そっちにつきやがって! エルドラド魔導祭のサッカー大会に出場する権利も奪いやがって」
「俺はAクラスの生徒だ。エルドラド魔導祭で成績を残す義務がある。他の競技にも出ないとな。もちろんサッカーでもな」
「コノヤロー!」
フロストンと呼ばれた生徒がサッカー部の先輩と話し合っている。険悪な雰囲気を出していた。
「先生、彼は? なにかサッカー部の先輩たちと因縁があるような」
フロストンに敵意を向けているのはアイメラ兄姉だけではない。ほかのメンバーも向けているものもいる。
その視線でシュンはサッカー部とフロストンの間になにか因縁のようなものを感じ取ったのだ。
だから聞いてみると、
「ランタ・フロストン。冷気の魔法が得意で、元はサッカー部の一員だったのよ」
その言葉を聞いてシュンは目を見開く。
先程聞いた、サッカー部をやめた生徒が目の前にいる。しかもAクラスにいたのだ。
「二年生の時は普通のクラスだったけど、三年生になる前に行われたクラス決め試験でAクラスになってからサッカー部を退部してしまったのよ」
「ああ、なるほど。だから……」
なにか険悪な雰囲気を漂わせていた理由がわかった。
ただでさえAクラスはサッカー部からしてみれば自分達の大会出場の権利をとられただけでなく、フロストンはサッカー部と同じ仲間だったのに相手側についた。それじゃあ気の悪い関係になるわけだ。
「彼がサッカー部を離れた理由は?」
「Aクラスは授業内容も難しいし課題も多いからね。部活と両立させるのが大変なのよ。だから部活動をやめる人もいたり……」
それなら仕方ないような気がする。
でもサッカー部の先輩たちは去年の一年間は一緒に活動をした仲間が、退部して相手側についていたら不満を抱くのもわからんでもない。
「というかさ、サッカー部の連中は俺たちに勝てる実力はあるのか?」
そんなことを考えていると、フロストンは失礼な疑問を叩きつけてきました。
その言葉、サッカー部はAクラスに実力で劣っていると言っているようなものである。
「おいフロストン、今のは言いすぎだ!」
リンナイトが掴みかかるような勢いでフロストンに近づく。明らかに怒っているが、フロストンは涼しい顔で、
「言いすぎじゃあねえだろ。なあ、みんな」
仲間であるAクラスの生徒にそう聞くと、
「ああ、だな。サッカー部のメンバーの誰かが俺たちに魔法で勝てるやつはいるのか? データと成績を見る限りいないと考えられるが」
「そうそう、サッカーは魔法が勝敗を決める要因。なら魔法の分野においてトップを鳥続けている私たちAクラスが出場するのは当然じゃない?」
冷静にそう答えた。
事実を告げる、そのような口調で。
自分達の方が実力が上だということを疑っていない、自分達が出場するのが正しいと思っているようだ。
「フロストン、前にもいったがサッカーは魔法がすべてではない。もちろん魔法も重要だがサッカーの技術も、勝ちたいと言う意思も大事だろ」
「マデュランキャプテン、それで本当に勝てるならあまっちょろいぜ。魔法こそがサッカーの技術だ。それを理解していないとはな」
「魔法以外の技術も大事だといっているんだ」
バカにするような口調で持論を告げるフロストンにマデュランは静かに諭すように言う。
だがそれでもフロストンは自分の考えが正しいと信じて、
「そんなもの、魔法で消し飛ばせる。サッカーは魔法なんだよ」
彼の言葉に同じ仲間のAクラスの人たちも頷く。
「他の競技と同じように、魔法の技術が優れたものがサッカーに勝利する! ゆえに、俺たちAクラスが出たほうが勝てる、ということだ。それに俺たちが出場した方が教師たちも喜ぶたろうよ」
魔法こそがサッカーで勝つための一番の手段だと全員が思っているようだ。
(異世界だからこその常識か)
魔法が常識だからこそ、魔法を第一に考え、サッカーにおいても魔法を重要に考える。
たしかに魔法はサッカーにおいても大事であろう。
魔法が強力であれば、それだけで相手を制圧できる。それだけで自分のチームが有利に勝負を進めることができる。
マジックサッカーを体験しているシュンもその意見は間違っていないとは思う。
だがしかし、
「それは違います」
「あっ?」
急に割り込んできたシュンに誰もが視線を向けた。
シュンは顔色変えず自分の意見を言う。
「魔法はサッカーにおいて重要でしょう。だが魔法だけで勝てるわけがない。サッカーはそんなに単純じゃない」
フロストンの意見は間違っていない。だが他の意見も正しさはある。
シュンからしてみればマデュランの言葉も正しいと感じている。
「サッカーの技術は魔法だけじゃあない。ボールさばき、シュートの撃ち方、ディフェンス、様々ある。それらをないがしろにしたら勝負は勝てない」
根っからのサッカープレイヤーであるシュンだからこその考え。
魔法もサッカーの技術ではある。ならば他の技術も大事なはず。
魔法、ドリブル、シュート、ディフェンス、この世界のサッカーの技術を磨くことが勝負に勝つには大事だ。
一つの技術だけ大事にして、他の技術を蔑ろにしていてはサッカーでは勝てない。
それがシュンの異世界サッカーに対する考えである。
そのことを聞いたフロストンはなるほど、と呟きながらもシュンを見て、
「魔法以外も大事と。ほう、言ってくれるな。お前、名前は?」
「シュンです」
「シュンか」
「性はないってことは村生まれの生徒か」
「珍しい、田舎育ちがこの学院に入学できるなんて」
「よく入ってこれたわね」
Aクラスの生徒、ざわめき始める。
この学院に来るのは貴族の子供か魔法の才能溢れる街の人がほとんど。
村生まれの人がこの学院に入学するのは滅多になく、シュンが入学していることに驚いているのだ。
すると、Aクラスの生徒の一部がシュンの名前を聞いて目を見開いていた。
「……待って、シュンだって?」
「おい、ケルベロ。どうかしたのか?」
「シュンって、たしかサッカー部の特待生で入ってきた新入生じゃない?」
女子生徒の言葉にAクラス、黙り込む。
サッカー部の特待生。
その言葉に一瞬、理解できなかったからだ。
「そうだ思い出した。生徒会の会議で名前を聞いた! あとエスバーって生徒も特待生で入ったって」
「そんなに有名なのか?」
「魔法の腕じゃなくてサッカーの実力でこの学院に来たのよ、そりゃあ教師や生徒会のなかでは噂になるわ」
「サッカーの実力で……魔法の名門学院であるこのマギドラグに?」
「そうだそうだ! シュンは俺と同じぐらい強いぞ!」
「あなたたちの守りなんて私たちがぶちやぶれるんだから!」
「うんうん、そうだね~」
「あのー、すいません。変なポーズとらさないでくれませんか?」
先輩たちがシュンの腕をつかんで強者のポーズをとらせる。腰に手を当てて胸を張った偉そうなポーズ。
強いんだぞ、ってアピールのつもりなのだろうがたくさん生徒のいる前でこんな姿させられて、シュンは内心やめてほしいと思った。
「なるほど、そこまで噂になるとはサッカーの腕はあるらしいな。だが、お前がいたところで俺たちが出場するのは変わらない。残念だな」
「いや、俺たちがでる方法は一つあるぞ」
「……まさかあれか?」
マデュランの言葉を察したフロストン。
新入生以外の生徒もなにかを思い浮かべた顔をした。
「二週間後、学院内でエルドラド魔導祭の選抜戦がある。それでどちらがでるか決着をつければいい」
「やはりマギドラグ魔導学院選抜戦か」
「選抜戦?」
「新入生は知らねえか」
「この学院にはエルドラド魔導祭に出場するメンバーを決めるためにAクラスと部のメンバーが勝負するのよ」
クアトルがシュンに教えてくれる。
マギドラグ魔導学院はエルドラド魔導祭に出場するメンバーを決める際、実力のあるAクラスとその競技に出場したい生徒、両者が競いあい、勝利したものが出場する権利を得ることができるのだ。
「マギドラグ魔導学院の教師からしたら実力がある生徒をエルドラド魔導祭に出したいのは当然。基本は学院の優等生が集まるAクラスを出したいけど、もしかしたらAクラスの生徒を超える実力を持つ生徒が他のクラスにもいるかもしれない。だから選抜戦があるの」
「なるほど、そうですか」
「この学院は実力、実績主義だからね」
説明を聞いて頷くシュン。
この学院にこのような制度があるとは思わなかったが、魔法の名門学院だからこそエルドラド魔導祭に出る生徒を決める選抜戦が生まれたのかもしれない。
「だが出れるのか? 人数は足りているか」
「私たちサッカー部は新入生をいれて十一人、ちょうどいる。だから勝負を挑めるってわけだ」
マデュランは自分のチームメイトであるサッカー部を見ながらそういった。シュンとエスバーが加わったことにより十一人となり、試合ができるようになった。
選抜戦に出れるのだ。
「なるほど、それなら挑戦できるな」
「ああ、勝負の結果ならば、互いに納得するだろ」
「確かにな。いいだろう。二週間後、相手になってやる。なあ、みんな! サッカー部の連中の挑戦を受けようじゃないか!」
「ああ! 他のクラスや部の挑戦を断るなんて俺たちAクラスの恥ずべき行為だ!」
「そうね、誰が相手でも挑戦を受ける。それが生徒のトップに立つ者の勤めよ」
Aクラスの生徒もサッカー部の挑戦を受け入れる気でいる。
自分達は生徒の模範として、正しき行動をする。
対戦を申し込まれたら、逃げず勝負するのがトップにいるものの使命なのだ。
「四日に一日は俺たちが練習するから場所あけとけよ、マデュラン。よしみんな! 今から練習するぞ!」
「「「おう!」」」
Aクラスの生徒がボールを持ってフィールドに向かう。
「……この対決に負けたら、少なくとも半年は俺たちは観客席にいることになるだろうな」
「教室で授業を受けている方が想像できるぜ」
「でも勝負を挑まないと結局大会には出られないわ。必要なことだったのよ」
「あんなに偉そうに……私たちが強いってこと証明してやるわ!」
「あなたがたは乱暴に勝負を挑まないでください。喧嘩腰にならず礼儀正しく……」
「うるさいな、バルバロサ! いつも自分達が上って威張っているやつらが悪いの!」
「まあまあ、勝負することになったのだから~練習しないとね~」
先輩たちもヤル気満々。
大会に出場する権利がかかっているのだ。優勝を目指しているサッカー部にとって絶対に勝ちたい勝負だ。
(まさかはじめての高等部での試合が同じ学院の生徒が相手とは……楽しみではあるけどこれからのことを考えると負けられない試合になるな)
自分はエルドラド魔導祭のサッカー大会に出場するためにこの学院に来たのだ。負けたなら、ここに来た意味がない。
学院内で絶対に勝たなければ試合が二週間後、始まろうとしている。
「なあ、サッカー部の連中に勝てるかな?」
「なんだ、心配になっているのか? 大丈夫だ、普通に俺たちの戦い方をすれば勝てる。魔法の実力は俺たちが圧倒しているしな。それにあの人も来てくれるってよ」
「……えっ、あの人って。もしかして生徒会の?」
「ああ、今年こそエルドラド魔導祭のサッカー大会に優勝したいから、教師たちが彼女を参加させるんだとよ」
「それなら勝てるわ。あとはちゃんと魔法の練習していれば、ね」
【エルドラドサッカー日誌】
マギドラグ魔導学院選抜戦
マギドラグ魔導学院の特別な制度。
基本は優等生が集まるAクラスの生徒がエルドラド魔導祭に出場するのだが、Aクラス以外のクラスの生徒の中には出場したい競技に関してはAクラスを超える実力も持っているものもいる可能性がある。
だからこそ、出場する競技に関わる部活員とAクラスの生徒が勝負して、勝者が大会に出場する権利を得ることができる。
魔導の名門校であり、さらに他の生徒よりも圧倒的な実力をもつAクラスという存在があるからこそ生まれた、とされている。
近年はすべての競技でAクラスが勝利を立ちとっている。