表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
一章 魔導学院、入学へ
42/130

サッカー部の問題

「シュン、エスバー、いいプレイだった」

 試合は一時中断。

 全員集まり、先程の試合で活躍を見せたシュンとエスバーに称賛の目が集まっていた。

「先生がスカウトしたのも納得いった。新入生なのにすげー!」

「うんうん! とくにシュンくんのボールさばき、ボールと一緒に遊んでいるような動きだったね〜」

「エスバー、ナイスキャッチだった。しかし、ファイアボールを飛ばして守るのは驚いたが……」

 サッカー部の先輩たち、皆が絶賛している。

(実力をしめすことができてよかった)

 試合前、少し緊張したがストライカーとしての腕を披露できた。先輩たちの期待に応えてみせたのだ。

「あのー、マデュランさん」

「なんだい?」

「少し、聞きたいことが」

 このサッカー部について疑問に思ったことを聞くことにしたシュン。

 ずっと思っていたこと、このサッカー部の少ない部員について、聞こうとしたら、

「おーい、そこの君たち!」

 フィールドの外から声が聞こえる。

 シュンは視線を向けると、そこにはマギドラグ学院の魔導士ローブを着ている集団が。

 この学院は腕の腕章の色で学年がわかる。彼らはシュンからみたら先輩、マデュランと同学年の生徒だ。

「俺たちも練習がしたいんだ。ちょっとのいてもらおうか」

 いきないそんなことを言ってくる。彼らも練習がしたい、ということは、

(この先輩たちも……)

「ああ、ちょっと待ってくれ。いま重要な最中で」

「マデュランさん。部員、他にもいたんじゃないですか。皆さん、どうも」

「……いや、彼らはサッカー部員ではない」

 自己紹介をしようとしたシュンは首を傾げる。

 彼ら先輩たちはサッカー部員ではない。

 じゃあなぜここに来た。サッカーをするなら他の場所でもできるだろうに。

「待ってください。先輩たちはサッカー部員ではないのにどうしてここでサッカーをしに?」

「おいおい、マデュラン。彼は新入生かい?」

「そうだ」

「なら、知らなくても仕方ないか。まあ、気の毒だな。このサッカー部にいても大会に出られないのに」

「え?」

 聞き捨てならない言葉が聞こえた。

 大会に出られないとはどういう意味だ。

「ちょっとまってください、先輩。大会に出られないってどういうことですか? 人数が足りないなら俺ともうひとり入部してちょうど十一人です。試合ができるなら大会に出場することはできるでしょう」

「それは関係ねーよ。まあ信じられねーようだが、今言った言葉は事実だぜ。エルドラド魔導祭のサッカー大会は俺たちが出場する予定だからな」

 サッカー部ではない生徒がサッカー大会に出る。

 理解できないことだ。

「それってどういう……」

「先生、話しておいてくださいよ。彼、知らないまんまだったらかわいそうですよ」

「……ええ、今話すわ。シュン君、部室に来て」

 腕を掴まれたシュンは部室に連れて行かれる。

 シュンはクアトルの話を聞くことにした。

「先生、なんでサッカー部員以外の人がのここでサッカーの練習をするんですか? 彼らが出場するって。それに、彼らは一体?」

「ちゃんと話すわ。彼らはエルドラド学園の成績トップクラスの人たち、三年Aクラスの生徒よ」

「三年Aクラスの……」

「この学院、二年生からのクラス分けで成績が優秀な生徒はAクラスに入れられるの。学問、魔法、身体能力、全ての実力がトップの生徒のみが入れるわ」

 聞いたことがある。学院の施設紹介にAクラスの教室に訪れて説明された。

 名門学院のマギドラグ魔導学院の中でもトップクラスの実績を持つ集団だと聞かされた。

 彼らがそうなのか。

「もっとも先生からも他のクラスの生徒からも期待をよせられるから凄いプレッシャーだけどね」

「彼らがこの学園のエリートだってことはわかりました。ですが、なんで彼らがサッカーの練習をするかの理由になっているのですか?」

 あの人たちがこの学園の誰もが期待を寄せるエリート集団だということはわかった。しかし、なぜサッカー部に所属していないのにサッカーの練習をするのか。頭の中で結びつかない。

「それは彼らがエルドラド魔導祭のサッカー大会に出る予定だからよ」

「……ん?」

 余計にわからなくなった。

「すいません、少し話を整理させてください。エルドラド魔導祭のサッカー大会は普通サッカー部が出場するんじゃあないんですか?」

「んー……そうね。普通ならね」

「もしかしてサッカー部の人数が足りなかったからとか? それなら俺たちが入部すれば解決できますが」

「それもあるけど、他にも理由はあるわ。この学院は少し特殊で。まず知ってほしいのはエルドラド魔導祭の競技の出現についてなんだけど」

 エルドラド魔導祭の話が始まる。なにがつながっているのだろうか真剣に聞くことにした。

「君がいるこのマギドラグ学院の生徒はね。競技を複数選んでいいのよ。一人一つじゃないの」

「複数、ですか」

「ええ、学院の教師、または学園長や理事長が選んだ成績優秀な生徒は複数の競技に出れる資格を手に入れられる。競技の数が多いからこそそういう決まりを作ったのよ」

「それがどのような関係を?」

「Aクラスが競技を選択する時、サッカーも選べるって言ったら?」

「え?」

「ようは、他の教師や理事長は『サッカー部よりAクラスの生徒を大会に参加させたほうがいい成績を取ってこれる』と思っているからなのよ」

 その言葉にシュンは言葉を失う。

「部活動は成果を出すだけが目的ではないですよね。それなのにちょっと横暴じゃあありませんか?」

「エルドラド魔導祭はそれほど権威のある祭りなの。魔導士を目指すものなら誰もが大会の頂点に立ちたい、そして私達教師も生徒たちを優勝に導きたいって思っている。理由は教師によって様々だけどね。それはサッカー部だけじゃない。他の部活もそう」

 エルドラド魔導祭の影響力はシュンが思っていた以上にあるみたいだ。

 国から認められる魔導士になるにはエルドラド魔導祭で結果を残すことが重要だと聞いたことがあるが、だからこそどの生徒も教師もエルドラド魔導祭で頂点を取りたいのだろう。

 だがシュンは納得していない。

 エルドラド魔導祭が生徒や教師にとって大事なものはわかる。シュンが納得できていないのはもう一つの理由だ。

「第一、サッカーをあまりやっていないAクラスの方が強いって……どれだけサッカー部がなめられているって話ですよ」

 Aクラスのメンバーが大会に選ばれるということはサッカー部のメンバーの実力を低く見ていると言っているようなもの。

 試合をしたシュンからしたら実力はそんなに低くない。むしろあの少人数で考えたら実力は高い方。

 なおさら学院側のその判断に納得いかないのだ。

 だがクアトルは、

「……普通の学院ならそう考えるのが当たり前ね。でもAクラスの生徒たちは優等生ぞろいよ。特にリーダーは」

「そこまで言うのですか」

「ええ、悔しいことにね。魔法の技術も身体能力もずば抜けている。どんな競技に出しても結果を残すぐらいにはね」

 険しい表情をしてそう告げてきた。

 この学院の教師だからこそ的確に生徒の実力が見抜けるのだろう。

 だからAクラスの実力も高いとわかってしまうのだ。

 シュンはそうなのか、と納得はしてないものの、とりあえず頷いた。

 先生の話を聞く限りAクラスのメンバーのサッカーの実力はかなり高いみたいだ。

「そんなに上手いなら一回勝負してみたいな……ってちょっと待てよ?」

 シュンはある考えが頭に浮かんだ。

「まさか先生、サッカー部の部員が少ない原因ってそのことが関わっているとかではないですか?」

 シュンは自分が聞きたかったことを聞いてみた。予想ではあるが今話したAクラスの存在が部員が少ない原因ではないか、と思って。

「そうね……大会に出られないならこの部にいる必要ないって来なくなったり退部したりする生徒もいたし、サッカー部員がAクラスのチームに入ったりして……帰宅部になって広場でサッカーを楽しむなんてことも……他の部活もおんなじ。今じゃあエルドラド魔導祭に出れるのは部活動をしている生徒じゃなくてAクラスの生徒なのよ」

 なるほど、と頭を抱えながらも納得はした。

 大会に出られないとなったらモチベーションも低くなる。練習に力が入らなくなり、それなら退部なり幽霊部員になったりするのは理解できる。

(だがサッカー部から引き抜きされるのは予想外だ)

 サッカーの大会に出たいがためにサッカー部から離れるのはなにかの冗談か? だがこの学院ではその方法をとった方が試合に出れるのである。

 このマギドラグ魔導学院は実力主義の学院なのだ。

「どうするんすか。悔しくないんですか、サッカー大会の出場の権利を奪われてしまって」

「悔しいに決まっているわ!」

 拳を握りしめたクアトルの声が部室内に響いた。

「一年前からサッカー部を作って、サッカー部に入ってくれる生徒を集めて! 部員も必死に頑張っているのに! おかげで去年はサッカーの練習試合さえできなかったのよ! 今年はそうはいかないって!」

 悔しそうに思っていることを吐き出したあと、シュンを見て、

「だからこそ! あなたをスカウトしたの!」

「俺を?」

「ええ、あなたのサッカー技術は魔法の差を埋めてくれる、いや凌駕する! それほどの技術をあなたから感じ取った! あなたがいれば私たちのサッカー部は優勝できる!」

 だから、  

「お願いよ〜! 一緒に戦って! 私達と一緒にエルドラド魔導祭に出ましょう! ね!」

「うわ! いきなり足にしがみつかないでください!」

 熱意のこもった言葉とともに情けなくてもシュンにすがりついて残ってくれと頼み込むクアトル。教師の威厳がまるでない。

 だが、だからこそ彼女がサッカー部を大切に思っていることがシュンにはわかった。

「落ち着いてください。俺はあなたにスカウトされてここに来たんです。俺の腕を評価してスカウトしてくれたならそれに応える、俺はそう思っていますよ」

「じゃあ!」

「話を聞いても迷わないですよ。俺はここを離れません。このチームに入部するって決めましたから」

 多くのサッカー部の試験を受けたシュン。魔力を収める器が小さい、その理由で不合格にされ続けたが、クアトルはシュンのサッカーの技術を評価してくれた。

 サッカー部の先輩たちもシュンの技術を褒めてくれた。

 己のサッカーの実力をきちんと見てくれてくれる。だから、マギドラグ魔導学院のサッカー部にいてもいいと思ったのだ。

「まあ、学院の上の人がサッカー部に来るななんて言われたら仕方ないですけどね」

「そんなこと言わせないから! サッカー部は潰れないから!」

「先生! 来てくれ! ちょっとトラブルが!」

 クアトルとの話が終わったその時、リンナイトが部室に慌ててやってきた。

「なーに?」

「アイメラのヤツら! Aクラスの連中に宣戦布告しやがったぜ!」

 リンナイトの言葉に先生は頭に手を当ててため息をつく。

(あの双子……やっぱりトラブルメーカーなんだな)

 なんとなく感じ取っていたが、それは口には出さないシュン。

「まったく……何してんのあの二人は。シュン君、ついてきて」

「はい」

 なんか一波乱ありそうだな、シュンは部室から出ながらそう思った。

【エルドラドサッカー日誌】

 コットンガード

 モココが使用する魔法。

 バリアの応用で、衝撃を吸収する空間を作り出してボールや相手選手の勢いを消して行動を制限させるブロック技。

 キャッチ技でも使えるが、本来はボールを奪うためのディフェンスやシュートボールを防ぐブロックのための技である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ