新入生のお披露目 前編
「えー、チームレッド。チームブルー両者準備はできていますか?」
「できてる」
「ああ、大丈夫だ」
両チームのキャプテン、どちらも頷く。
シュンの方はリンナイトがキャプテンを勤めている。相手チームは当然マデュランだ。
「えー、審判は私、ミンホイが勤めますね。選手じゃありませんから気を付けてくださいね」
「わかっている」
(ミンホイさんが審判ってことは、相手チームはマデュランさん、アイメラ兄姉さん、モココさん、トイズさんか)
相手チームのメンバーを確認する。ポジションも確認したところ、アイメラ兄姉がミッドフィルダー、マデュランとトイズがディフェンダー、モココがゴールキーパーのポジションにいる。しいて言うならアイメラ兄姉の二人組がフォワードもやる、といった感じか。
「シュンくん、頑張りましょう! わたしはパスを出しますのでシュートをバンバン打ってくださいね」
「モーグリンさんも、ここだって時はシュート打ってくださいね」
審判の笛がなる。キックオフだ。
シュンにボールが渡り、ドリブルを開始。敵陣に向かっていく。
「よし! さっそくぶっとばしてやる!」
「うんうん!」
アイメラ兄姉、さっそくシュンに勝負を挑む。二人組の連携ディフェンス。
全力ダッシュでシュンに突進してきた。
(速い! だが!)
「単純だぜ!」
シュンはギアをあげる。
一人目のトノスはハイスピードのドリブルで横切って抜き去り、二人目のプロスはジャンプしてスライディングを回避。鮮やかなプレイで二人抜きで突破だ。
「マジ!? 俺たちの方が速いはずだろ!?」
たしかにスピードはあった。
だが直線的なディフェンスはシュンにとっては抜いてくれと言っているようなものだ。
(俺だって本職の冒険家や魔導士の大人相手にサッカーしてたんだぜ。その人たちに比べたら遅い遅い!)
自分より身体能力も魔法の技術も高い相手にサッカーしてきたのだ。単純なプレイング程度で止められるわけがない。
「一回抜いたからって余裕ぶらないことね」
今度はトイズがシュンを止めようと前に出た。
(ん、冷静だ……)
じっとシュンを見つつ、静かに近づいてボールをカットしようとしている。
シュンは下がりつつ突破する瞬間を見極めていた。
「よし、そこだ!」
得意の緩急あるドリブルで抜き去ろうとした。
急なトップスピードでの突破にトイズはすぐさま反応して、
「スピードのごり押しで!」
そんなもんで抜き去られてたまるかといわんばかりの必死のスライディング。シュンを蹴飛ばすが如く力強い蹴りがシュンを襲う。
だがシュンもそのまま蹴りを喰らうわけではない。
スピードを緩めて華麗なステップで見事に避けた。
「そう簡単に!」
だがトイズは諦めていない。
スライディング体勢のまま地面をかかとで蹴り飛ばして真後ろにジャンプ。
そしてそのまま回転してジャンピングタックルをシュンに仕掛けた。
背後からの奇襲。これなら奪えるはず。
「なんて執念! だが読めてたぜ!」
シュンは察知する。トイズの攻撃に。
シュンはふとももとふくらはぎでボールを挟んで大きくジャンプ。空にとんでトイズの空中スライディングタックルをかわした。
「え!?」
「三人目!」
地面に着地してドリブルを再開。奇襲に完璧に対応されたトイズはありえない、そんなことを呟いた唖然としていた。
(身体能力は高いが……本当にこの程度なのか?)
あっさりと抜くことができたことにシュンは戸惑いながらも、油断せずにゴールに向かっていく。
今のプレイを見てフィールドの味方も相手も、誰もが驚いていた。
「ねえ、マデュランさん。シュンくんすごすぎない? あっさりと抜いてきたよ」
「……やるな。サッカーの腕なら俺たちを凌駕している」
「え、モココたちを!?」
マデュランの言葉にモココは驚く。
だが同時に納得もしていた。アイメラ兄姉とトイズを容易く抜き去ったあの技量はまさしく本物。様々な学園のサッカー特待生試験で結果を出していたのも頷ける。
(まさかここまでの実力とは。村の生まれじゃなくてどこかの学院にいたのなら間違いなく有名になっていただろうな)
もし中等部の時に学院にいてサッカー部に所属していたのなら、エルドラド魔導祭に出て活躍していたに違いない。それほどのドリブルの技術。
そんな彼がこの学院に来てくれたことが嬉しい。
「だが、こちらも先輩としての意地がある! 俺の、マギドラグ魔導学院のサッカーを見せるのみ!」
ならばこちらも本気でいかなければならない。
詠唱を発動し魔方陣を展開した。
「魔方陣! いきなり魔法か!」
「容赦はしない! 君に手加減をしては勝てないからな!」
全力で止めにかかるマデュラン。
一体どんな魔法を使ってくるのか警戒していると地面が揺れ始める。
「地震を引き起こした? だが飛べば!」
空にジャンプして地面からの攻撃を避けようとする。もし地震なら空にいれば避けられる。そう考えての行動。
「『ロックタワー』!」
魔法の名前を唱えると、地面にヒビが入りそこから地面が浮き上がる。すると細長い岩の柱がつき上がり、シュンの体にぶっ刺さった。
「なっ!?」
まさかの魔法。
しかも地面からのマジックブロック。地震だと思っていたが地面そのものが攻撃してくるとは。
シュンは岩の柱に吹き飛ばされていく。だがなんとか体勢を建て直しなんとか着地、しかしボールは相手のチームに渡ってしまった。
「皆! シュン相手には魔法を出し惜しみするな! でなければ止められないぞ!」
「えー! 魔法なしで止めたいよ!」
「そうよそうよ!」
「止められるなら、それでいいわ」
見事に意見が別れてしまった。
「さっき抜かれたのは油断しただけだぜ! 次はマジで止める! 魔法を使わない対等の勝負でな!」
「そうそう! トノスと私の連携プレイで止めてやるんだから!」
「ねえさっさと攻めて、シュンくん取りに来たよ!」
モココが注意すると、シュンがボールを所持しているトノスに向かって走ってきた。
ボールを奪う気満々だ。
「攻めるだけがフォワードの仕事じゃないんでね!」
「うわ! マデュラン、パス!」
すごい速度で向かってきたシュンに驚きつつ味方のマデュランにパスを渡そうとした。
「甘い! 『ウィンド』!」
黙って相手のパスを見送るほどシュンは甘くはない。
魔法を唱えて相手のパスコースの間に強風が吹いてボールの起動が変わった。ボールは横に大きく曲がってシュンの足元に収まる。
魔法はボールをカットすることに使っても問題ない。
「なにっ!?」
「試合中にお喋りはつまらないことだぜ!」
まさかの魔法の使い方に驚くトノスを尻目に、シュンはそのままドリブルダッシュ。
再び相手のゴールに攻め込み始めた。
「二度は進ませない! 『ファイアタックル』!」
「うお!?」
しかし、今度はトイズが真横からハイスピードの炎の足でスライディングタックル。何がなんでも止めてやる、そんな執念が見える『必死のファイアタックル』が炸裂だ!
それに足を取られて再び吹き飛ばされてしまったシュン。
「くそ……なんて魔法の技術……」
魔法の名門学院、マギドラグ魔導学院のサッカー部である。魔法に置いてはどの学院よりも優れている。そしてその魔法力を十分に発揮されたサッカーがマギドラグの『魔法サッカー』である。
「いいねえ」
シュンは楽しそうに笑みを浮かべて立ち上がる。
(人数が少ない時は心配していたが……ちゃんと実力あるじゃないか)
サッカー部に来たときは不安だったが、実力は問題ない。
強力な魔法を武器にするこの学院のサッカーはクアトルが自慢したのも頷ける。
(逆になんでこんなに部員が少ないのか、なおさら知りたくなった。だが、今はサッカーに集中しなくちゃあな。そうでなければ味方にも相手にも失礼だ)
「ほらほら、今度は私たちが攻めるよ!」
プロスがボールを持って攻め混んできた。攻撃のターンは相手に移った。
「おい! バルバロサはトノスをマークしろ! チコは相手のディフェンダーのメンツを見張ってろ! 俺はペナルティーエリアで防衛する!」
リンナイト、咄嗟の指示。
その言葉を聞いてすぐさま行動。
「守ってきたね、どうする?」
「どうする?」
「それはもちろん、シュートをぶちこむよ!」
とにかくシュートを打ちたいプロスは魔法陣を展開。マジックシュートの構えだ。
「打たせるかよ!」
その事にすぐさま察知したリンナイトは誰よりも速くプロスにスライディングタックルを仕掛けた。
シュートが放たれる瞬間に、スライディングの足も激突。
「うお!?」
「きゃあ!」
二人ともアタックしたときの衝撃に吹き飛ばされない。
「危ねえっ!」
ボールは近くにいたトノスが拾ってなんとか攻めのターンを継続させる。
(先輩たちも激しい攻防してんな!)
魔法と技術のプレイングにシュンは興奮しながらも
「トノス、こっちだ!」
「マデュランさん! わかった!」
マデュランの声を聞いて、素早くパスを出す。
シュンはその瞬間を見て、
(よし、あのパスを奪うぞ)
パスコースを予測して、すぐさまボールを取りに行くシュン。
「やはり来たか! ならば!」
つねにシュンに目を光らせるマデュラン。
自分に向かってくるボールとシュン。
マデュランはどうやってボールを安全に確保するか、そう考えて、
「これだ!」
なんと、ボールを取らず、シュンをマークして行動を封じに来たのだ。
「スルー!?」
ボールはそのまま進んでいく。ボールをカットしようにもマデュランが行く道を阻んでボールを取りにいけない
マデュランはボールを受け取るつもりはなかったのだろう。
ではボールは誰のもとに行ったかというと、
「えへへ、ボール取っちゃった♪」
「えっ、モココさん!?」
なんと、ゴールキーパーのモココが前線に上がってきていた。
ミニサッカーのフィールドだからこそできる作戦であろう。モココは味方のボールを受け取って、
「モココはシュートも打てちゃうゴールキーパーなの♪ 『バリアシュート』!」
フリーのマジックシュート。堅固なバリアをまとったボールが蹴り出された。
「……! き、きたっ……」
「とにかく魔法を使え! 他人の顔なんて見ないでボールを見ろ!」
シュンは思わず声をあげる。
エスバーは慌ててボールを見つめる。なんとか震える体を押さえて、魔法を唱える。
「……『ファイアボール』!」
手からサッカーボールと同じ大きさの火の玉を作り出し、指先を振るって火球を発射。
バリアに包まれたボールに激突させて威力を殺そうとしたのだ。
火球ボールとバリアに包まれたボールがぶつかり合う。大きく火花を散らしたあと、ボールの勢いは止まらぬままエスバーに向かって飛んできた。
「エスバー! 君なら反応できる! 体のどこかに当てろ!」
「……止める!」
シュンを言葉を聞いて冷静にボールを見るエスバー。
速い。だが魔法はなくなっているためただの速いシュート。
速いシュートなら、
「――当たれ!」
自分の目で対応できる。
横に大きく飛んで両手でボールをキャッチ。ボールを弾くことも落とすこともなく、見事手のひらにボールが収まった。
「……や、やった」
「ナイス反応!」
シュンはエスバーのプレイングに大声で誉めた。
至近距離からのシュートに対応することができたエスバーなら速いだけとなったシュートぐらい対応できると思った。
そしてエスバーは見事先輩のモココのシュートを止めることができた。
「わあ……ただのバリアシュートだけど止められたのはショック~」
「早く戻れ。シュートを打たれるぞ」
そう言われたモココはすぐさまゴールの前に戻っていった。
突然のオーバーラップには驚いたものの本来のポジションはミッドフィルダーだかシュートを打ちに来たのだろう。
奇襲を狙ったマジックシュートだがエスバーは止めてくれた。
(ゴールキーパーとしての実力は確かなんだな。なら俺もシュートを打たないとな……ストライカーとしての力を示す!)
シュンはどうやって点をとるか、脳裏にシュートを打つためのルートを作り出すのであった。
【エルドラドサッカー日誌】
エルドラドサッカーのルール
マジックサッカーにおける魔法は、ゴールキーパー以外のポジションの選手は腕から使用する魔法はファールと見なされる。
腕から魔法を使えるのはゴールキーパーだけなのだ。