サッカーをしよう
シュンたちは家の庭から出て、この村の広場に足を運んだ。この広場は一番広いため、子供たちがよく遊んでいる場所だ。
「これでよし……」
シュンは持っていた木の枝を地面に置いた。
彼の目の前には長方形の線が描かれえている地面に、左右には長い木の棒が二本ずつ立てられている。
(フィールドに簡易のゴール……簡単なものとはいえサッカーフィールドの完成だ!)
今の自分が可能な限り再現してみたサッカーフィールド。サッカーをやるならこれが無ければ。
ドーロンたちは興味津々にシュンが準備している物を見ながら、
「なあ、シュン何してんだ?」
「なにか準備していたみたいだけど、これがさっきのシュートに何の関係が?」
「これからやる遊びに必要なんだ」
不思議とおもったドーロンたちにシュンは説明し始めた。
「これから俺たちがプレイする遊びは『サッカー』っていう遊びだ」
「「「サッカー?」」」
疑問の声を上げる三人。当然だ、この異世界にはサッカーは存在しないからだ。
「ああ、ルールは簡単。このボールを、あの木と木の間に入れればいい。木のゲートがゴールってわけだ」
「なるほど……ってあれ? じゃあ、あのシュートとこの遊びに何の関係が?」
「このサッカーで一番大事なルールを教える。この遊びではボールに腕は触れていけない」
自分の腕を見せつけて、
「腕以外ならどこにでも触れていい。まあ、でも。ようは足でボールをゴールを入れるゲーム、だと思ってくれればいい。転がしてゴールに目指してもいいし、さっき俺がやったみたいにボールを蹴ってゴールを入れてもいいのさ」
「そういう遊びか……」
サッカーのルールを聞いた三人は同時に頷いて、
「面白そうだな! やってみよう!」
「ああ、ルールも簡単だし!」
「よーし、その『サッカー』をしてみよう!」
三人とも、やる気満々。サッカーをしたくてたまらないようだ。
「よし、じゃあ最初は三対一でやろうぜ。俺が一人でドーロンたちが三人だ?」
「え、いいの? 仲間はずれで?」
「仲間はずれって……まあいい。俺はサッカー結構うまいんだぜ。二人組で別れて戦ったら、俺がいるほうが勝っちまうからな」
シュンの自信満々な台詞。
「言ってくれるじゃねーか、シュン!」
「確かにシュートは凄かったけど、流石に三人相手じゃあ勝てないよ」
「絶対に負かしてやる!」
ドーロンたちも絶対に勝ってやると、闘志をメラメラ燃やす。シュンの言葉になめられていると思ったみたいだ。
「よしやろう。フィールドに立ってくれ。ボールはそっちが先でいいぞ」
そう言ってシュンはフィールドの中に先に入って、木でできたゴールの前に立った。シュンは一人しかいない。そのため相手のシュート、ドリブルを止めるためにゴールの前に立ったのだ。
「ドーロン。やってやろうぜ」
「ああ、シュンを驚かせてやる!」
ドーロンはボールを蹴って、転がし始めた。ゴールに目指していくが、
(転がしにくい……)
ボールがまっすぐに転がらない。
それは仕方ない、毛玉のサッカーボールは本物のサッカーボールと比べて軽い上に滑りにくいので、自分の思い通りにうまく転がせないのだ。
(なら!)
「ほら、受け取れ!」
ドーロンはボールを友達に渡す。
「転がすより飛ばしてつなぐぞ!」
ドリブルからパスでボールを前線に飛ばしていく作戦を取ったみたいだ。パスの速度は遅いが、確実に前に進んでいた。
「パスか……だが!」
シュンはすぐさま走り出してボールを持っているドーロンに向かっていった。
(奪い取ってくるのか?)
そう考えたドーロンはすぐさま仲間にパスを渡してシュンからボールを遠ざけようとした。
「え⁉」
パスをした瞬間、パスの軌道にシュンがいた。そしてすぐさまボールを奪い取ったのだ。
「カットすれば問題ない!」
ボールを奪ったシュンはゴール目掛けて走り出した。
(俺はドリブルの方が得意だぜ!)
前世の時も、シュンの得意プレイはドリブル。
敵選手を何度も抜き去り、シュートチャンスを多く作ってきた。
それを今、見せるとき!
「挟み撃ちだ!」
前と後ろからシュンのボールを奪い取ろうと体当たりを仕掛けてきた。
だがシュンは焦らず、自分に激突する瞬間に体を横にワンステップ、からの前方にダッシュですぐさま抜き去った。
「あ⁉」
「イテ!」
緩急のついたドリブルに対処できず、ドーロンの仲間たちは激突。仲間同士でぶつかり、そのまま地面に倒れた。
「何やってんだよ……」
取れないのは仕方ない。
でも自滅している姿にはドーロンも呆れてしまう。
仲間たちからすぐに視線を外して、シュンを止めるように立ち塞がった。
「来な! 止めてやる!」
「いくぜ!」
シュンはドーロンの目前で止まり、
「打ってやるよ!」
――なんと、シュンは足を大きく振り上げる!
「ここで蹴るの⁉」
突然のシュートモーションに困惑。
シュンならこの距離でもゴールの中にボールを入れる事ができるかもしれない。
そう考えたドーロンはすぐさま近づいて、シュートを打たれても入らないように体を壁にした。
シュンの足とドーロンの足、どちらが速いか。
「――あっ⁉」
「なんてな!」
シュンはボールの下を蹴って振り上げる。するとボールはドーロンの頭上を越えていった。
キックフェイク、からのチップキック。
飛び越えたボールに視線を奪われた状態の相手を抜きさるのは簡単。シュンはドーロンをダッシュで抜き去った。
(マズイ、ゴールががら空きだ! 振り返ってボールを取らないと――‼)
すぐさまシュンに追いつこうとして後ろを振り向くと、
「――!」
シュンは空を飛ぶようにジャンプしていた。
ドーロンたちはすぐさま理解した。
(あれは……横向きの空中キックだ!)
エアリアルボレーシュート。
シュンは抜き去った瞬間、すぐさまシュートを打つと決めていた。
「決める!」
足の一振りをボールにぶつける。
ボールは勢いよく飛んでいき、そのまま吸い込まれるかのようにゴールに入っていく――
「――!? ダメか!」
そんなことはなく、ゴールバーに激突して、ボールは弾かれてゴールから遠ざかっていく。
冷や汗をかくドーロンたち。
「そ、そうだよな……あんな大技、そう何度も――⁉」
「止まってまんまじゃあ俺の攻撃は続くぜ、皆!」
入らない、そう思った瞬間、シュンの体は動いていた。サッカーの攻撃は相手にボールを奪われるまで続く。今、ボールは誰の手にも渡っていない。ならシュンの攻撃はまだ終わっていないのだ。
全力疾走でボールを追いかける。
そして体勢を低くして、そのまま地面をスライディング。
「スライディングシュートだ!」
地面を滑りながら土煙を巻き上げて、足を動かしてボールに当てて蹴る。そして蹴ったボールは、今度こそゴールの中に入っていった。
「よし!」
決めたシュン、ガッツポーズ。
(これだ、これ! この点を決めたときの高揚感! これがサッカーだよな!)
シュンは思い出す。
前世でストライカーとして活躍していたあの時を。その瞬間をいま味わっている。
サッカーの歴史がないこの世界で。
そうやって喜んでいると、ドーロン達三人がシュンに近づいてきて、
「な、なんだ今のキック! かっけえ! シュン! まだそんなキックを隠し持っていたのかよ!」
今のスライディングシュートに目を奪われたみたいで、興奮しながら称賛してきた。
「ありがとよ、あとボールを蹴るのはキックじゃなくてシュートとも言うんだぜ」
「シュート! そっか! そうよぶのもカッコいいな!」
「それも教えてよ!」
「なんだって教えてあげるよ」
今の勝負の悔しさはどこにいったのやら。ドーロンたちはシュンのシュートを真似したいらしく、熱心に聞きにきた。
シュンは快く教えようとすると、
「シュンくーん! 何して遊んでいるの!」
広場に子どもたちがやってきて、シュンたちに集まってくる。この村に住む子どもたちだ。
「よう、皆。なんのようだい?」
「今のキック何?! 凄いね!」
「なんか楽しそうなことやってるじゃん!俺たちも混ぜてよ!」
「教えて教えて!キックも、遊んでいるゲームも!楽しみたいの!」
男女子どもたちがシュンに殺到してきた。全員、今のシュンの活躍を見て、サッカーに興味を持ってくれたらしく、サッカーについて知りたいようだ。
(……夢みたいだな。サッカーにこんなに興味を持ってくれるなんて!)
サッカーのない世界でこんなにもサッカーを求めてくれる。
それがこんなにも嬉しいことはない。
「こんなに楽しんでもらえるなら、喜んで教えるよ! 何でも聞いてね!」
「「「やったー!!!」」」
当然、シュンは村の子どもたちにサッカー教えることにしま。サッカーを知ってもらえるなら、そして楽しんでくれるなら、そう思って。
(異世界でも、サッカーは楽しいんだ! 早く皆にサッカーを教えて、もっと一緒にサッカーしたいぜ!)
異世界生活の不安が心なしか消えたような、そんな気がしたシュンであった。