チーム決め
シュンは先生に再び案内されてマギドラグ魔導学院のサッカーフィールドにやってきた。
「よし、着替えて来たな。シュン、エスバー」
サッカー部キャプテン、マデュランが待っていた。他の先輩たちもこのマギドラグ魔導学院のサッカーユニフォームを来て準備体操を行っている。
シュンたちは学院が生徒に配っている運動服を身に付けている。
「サッカー部特待生とはいえまだ入部できていないの。仮入部の形だから学園の運動用魔導服で勘弁してね」
「ユニフォームならたくさんあるから渡せばいいのに」
「そういう学院のルールなの。私だってすぐに渡してあげたいわよ」
ユニフォームを身に付けるのはまだ先。
でも入部さえすればもらえるから待てばいいだけの話。
今はユニフォームより先輩たちに実力を証明するためのサッカーをすることのほうが大事だ。
「で、先輩。ルールはどのように?」
「ルールは簡単、五対五に別れてミニサッカーだ。それで君たち二人のサッカーの実力をみる」
シンプルなミニサッカーをする。
それで先輩たちと戦い、そして自身の実力をアピールすればいいのだ。
「よし、シュン君。メンバーはあなたが決めて」
「お、俺ですか。いきなりいってきますね」
「まあね。これも試験だと思ってね」
シュンがどのようなチームを作るのか、それを見るためだろう。
クアトルはそれが知りたいのだ。
(そうだな……誰をいれるか)
シュンは先輩たちが行っているウォーミングアップを見て誰を自分のチームに入れるか考えていると、
「……シュンさん」
「なんだ、エスバー」
「……同じチーム、ですよね?」
エスバーがシュンの肩を指で一回軽くつついて、そう言ってきた。
「なんで肩を指でつつくんだ?」
「……だ、だめでしたか? 手を置くのは……ちょっと……」
「君の人見知りの基準がちょっとわからなくなってきた。まあ、いいけどさ」
もしエスバーが相手のチームにいくと人見知りを発揮してしまうだろう。
そうなると実力を発揮できずお粗末なプレイングをしてしまう。それが嫌でシュンに同じチームになろうと頑張って声をかけた。たぶん、そうだろう。
シュンはクアトル先生にチームに入れる一人目を言おうとした。
「一人目はエスバーでいいですか」
「えっ、チーム別れた方が実力わからない?」
「たしかにそうですけど、エスバーに関しては……」
「ああ、そうね。彼に関してはね」
本来なら一年は別々のチームに分けて実力を見たほうがいい。
だがクアトル先生もエスバーの性格は知っている。人見知りの彼ならシュンと組んだほうがいいと思ったため、シュンのチームにエスバーが入ることを認めた。
とりあえず一人は決まった。
あと三人決めなければならない。
「…………」
シュンは先輩たちの準備運動を見て、
「よし、先生。決めました」
「おっ、早いね。誰にするの?」
「リンナイトさん、バルバロサさん、モーグリンさん、この三人でお願いします」
「なぜそのメンバーを?」
「ビビっと来ました」
「へえ、サッカープレイヤーとしての勘ってこと? まあ、あなたがそう決めたのなら文句はないわ」
チームを決めたあと、シュンとエスバーも準備運動を開始。そして体が温まったあと、シュンが選んだメンバーが集まりチームを組む。
作戦会議の始まりだ。
「先輩、よろしくおねがいします」
「よお、シュン。先生から聞いたぜ、俺らとチームを組むってな」
「選んでいただき光栄です。シュンさん、エスバー、よろしくお願いしますね」
「二人とも、わたしたち
「しいて言うなら、組んでみたいと思ったからです。即席とはいえ足は引っ張りません」
互いに挨拶を交わす。
ちなみにエスバーは黙ったまま視線をうろうろとしている。初対面の人が一気に集まってきて慌てているのだ。
「さーて、じゃあ誰がゴールキーパーやるんだ? 一応モココのやつがやれるんだが、アイツは相手チームだからな。俺がやるか?」
「俺もできますが」
「あーダメダメ。シュン、テメーのメインポジションはフォワードだろ? ならフォワード頼むぜ、俺らのチーム、フォワードいねーしさ。ついでに言うなら、ほらよ」
リンナイトは相手チームを見ろと親指を向ける。
マデュラン率いるチームも作戦会議をしている。するとマデュランは見られていることに気づいたらしく、こちらに視線を向ける。
シュンと目が合う。
「……いい勝負を」
彼の視線から熱い闘志を感じる。
シュンは理解した。
(俺と勝負したい、ってことか)
サッカーの勝負は逃げないがシュンの信条。
ならばフォワードで勝負を挑まなければ。
「アイメラ兄姉だけじゃなくてリンガルもお前の実力に興味津々のようだな。相手してやらねーとふてくされるぜ」
「スラくん、リンガルくんはむしろシュンがゴールキーパーをやるならシュートうちにいくと思うよ」
「それもあるな。まあ、俺もテメーにはストライカーとして期待しているんだ。だからフォワード頼むぜ。だから俺が……」
「…………(スッ)」
リンナイトがポジションを決めようとしたとき、エスバーがシュンに近づいて、
「……シュン」
「なんだ?」
「……ゴールキーパーできる」
「まあ俺はでき――エスバー、君ゴールキーパーできるのか!?」
まさかの事実。
エスバーのメインポジションはディフェンダーではなくゴールキーパーだったのだ。
「じゃあ、なんで前の試験ディフェンダーやってたんだ?」
「……ディフェンダーもできます」
「いや、そういうことを聞いている訳じゃあなくてな」
「……先にゴールキーパーのポジション……取られて……自分もゴールキーパーって言うの……恥ずかしくて……怖くて」
「想像できる理由だぜ」
先に他人にゴールキーパーのポジションを取られてあわてふためくエスバーの姿が脳裏によぎる。
(あの驚異的な反射神経はメインポジションがゴールキーパーだったからか)
この世界のシュートは凄まじい。
ゴールキーパーを何度もしたことがあるシュンにはわかる。実際、ゴールキーパーをやったおかげで相手の動きが見やすくなっただけでなくシュートのコースも瞬時にわかるようになったぐらいには。
エスバーの天才的反射神経はゴールキーパーでシュートを止め続けて鍛えられたのだろう。
「おい、エスバー。シュンにこそこそ話してないで俺たちにも話せよ」
「…………っ」
「リンナイトさん。エスバーさんが怖がっています。もう少し、優しく接っすればいいのではないでしょうか」
「小さい子供相手にしゃべるようにしろってか? だる」
「こ~ら、スラくん。後輩には優しく、だよ」
「いつも通りでいいだろ……わかった、チコ。頬を膨らませるな。なあ、エスバーとシュン。なんの話をしていたか教えてくれないか?」
「それがですね――」
シュンは先ほどエスバーから聞いたことを話した。
「マジか。エスバー、ゴールキーパーもできるのかよ」
「わたしたちのチーム、ディフェンダーが多いからね~。よかったよ」
先輩たちは喜んでいる。
自分達のチームに不足していたフォワード、ゴールキーパーが一気に揃ったのだ。これですべてのポジションがきちんと揃ったちゃんとしたチームになった。
エスバーがゴールキーパーをすることが決まり、そして作戦も決まる。
「シュン、作戦はこうだ。俺たちがお前をとことんサポートする。守りは俺たちに任せて、お前のストライカーとしての腕を見せつけてやれ。点を取りまくれ」
「わかりました」
「エスバーはきちんとボールを取るんだ。相手に本職のフォワードはいねーがマジックシュートは全員打てるからな。わかったか?」
「……わ、わかりました」
「よーし、テメーら! 気張っていけ!」
「「はい!」」
「はーい!」
「……(コクコク)!」
そうしてミニフィールドに入っていくシュンたち。
シュンは頭につけているミサンガをきつく締めてフィールドに向かった。
【エルドラドサッカー日誌】
フレイ・エスバー
身長161センチ 体重50キロ
魔力属性 火
人見知りの激しいな少年。
驚異的な反射神経で相手のボールを奪うディフェンダー……でもあり、メインポジションはゴールキーパー。その反射神経でボールを受け止めるテクニックよりのゴールキーパーである。
初対面相手には言葉を発することなく黙ったままになってしまうほど。でも意外と臆病ではない。他人が関わらないことなら割と平静である。
実は本を読むのが趣味で、好きなジャンルはホラー。