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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
一章 魔導学院、入学へ
38/130

マギドラグ魔導学院サッカー部

「ここよ。サッカー部の部室はここ」

「おお!」

「…………大きい」

 サッカー部の部室へと案内されるシュンたち。

 目にしたのは大きめの部室。さらに二階建て。一軒家でも建築したのか、と思ったぐらい立派な部室だ。

「ささ、入って入って! みんながあなたたちを待っているわ!」

 クアトルが部室の入り口を開けて、シュンたちはついていくように部室に入った。

 なかにはすでに上級生のサッカー部員が集まっており、入ってきたシュンたちに視線が集まっている。

「ねえねえ、彼らがあの噂の! ……えっとどっちだっけ? 噂の少年」

「んなもん練習で動きを見りゃわかるだろ」

「あのミサンガ着けているやつじゃない?」

「新入生が入部してくれるのは嬉しいことだね~」

 部員たちがこそこそと話し合っている。

 どうやらシュンの噂はこの学園のサッカー部にも伝わっているみたいだ。

(想像はしていたが慣れねえな。女性が多い)

 エルドラドのサッカーは男女別ではない。

 身体能力が高く魔法の存在もあって男女混合でチームを組むのがこの異世界のサッカー。

 だからサッカー部にも女性はいるだろうと思ったが、見渡して確認してみると男子生徒と女子生徒の人数がほぼ同じである。

 前世ではサッカー部員だったシュンにとっては不思議な光景だ。

「先生、この二人が新入部員の」

「ええ、そうよ」

 クアトルと巨漢の茶髪男子生徒が話し合っている。

 背が大きいだけでなく鍛えれた肉体、そして精悍な顔つきをしている。

 シュンのストライカーの勘か、彼がこのチームの一番の実力者なのではないか、と密かに思った。

「君たち二人がこの学院のサッカー部特待生として入学してきた生徒か」

「はい、俺はシュンです。性はありませんのでシュンと呼んでください」

「性はない……村民か。ここに来てくれたこと、感謝する。それで、そちらは」

「…………」

「えーと、名前は……」

「すいません、彼ちょっと人見知りが激しくて。彼はフレイ・エスバーっていいます」

「そ、そうか」

 エスバーは固まっている。部屋のなかにいる全員に視線を向けられて頭が真っ白になっているようだ。なので代わりにシュンがエスバーの名前を教えた。むりやり意識を取り戻しても名前を言うまで時間かかるだろうし。

 そんな固まったエスバーに戸惑いながらも巨漢の男子生徒は自己紹介を続けた。

「私はリンガル・ミーホ・マデュラン。このチームをキャプテンを勤めている。ポジションはディフェンダーだ。これからよろしく頼む」

 手を差し出し、シュンはその手を握って拍手をしてよろしくお願いしますと挨拶をする。

(貴族の人か)

 名前と性の間にもうひとつ名前があるのは貴族の証。そのことは村の学校で習った。

 別に驚くことではない。

 貴族とサッカーはしたことある。それも全力で。

 むしろ位の高い人だろうが関係なくサッカーができるのはいいことだ。

(でもやっぱり、貴族の人にはきちんとした言葉で話すべきだよな)

「私のことはサッカー部の先輩として接してくれ。様とか無理につけなくてもいい」

「そうですか、わかりました。マデュランさん」

 別に無理はしてないが、先輩がそういっているなら従おう。

「それとサッカーで同じチームになる以上、他のメンバーの紹介もするべきだな。みんな、自己紹介を」

 マデュランの言葉のあと、部員たちは最初に誰が自己紹介をするか目線で相談する。すると一人の女子生徒が手を挙げながらゆっくりとシュンたちに近づいてきた。

「はいは~いリンガルくん! わたしから~! わたしはチコ・モーグリン。ポジションはミッドフィルダー! 得意なことはね、手先が器用なの~。お菓子とか~ちっちゃい家具とか~、あとは~好きなご飯は~チョコレートで~それからそれから~」

「チコ。すまんが止まってくれ」

「え~、リンガルくん、なんで?」

「止めないとずっと話続けるだろ、君は」

 長くなりそうな話を中断するマデュラン。

 おっとりとした雰囲気の女子生徒、チコ・モーグリンは真っ先に名乗り出た。

 淡いガラスのような水色のウェーブかかったロングの髪、優しげな緑色の瞳のため、包容力を感じる体、彼女の近くにいると時間の流れが遅くなってしまうような感覚にとらわれてしまう。

「困ったことがあったらわたしに頼ってね。なんでも相談にのるわ、シュンくん、エスバーくん」

「はい、わかりました」

 今の自己紹介でわかったことはマイペースなお姉さんって感じの人だ。頼りになるかは……正直キャプテンのマデュランさんのほうが頼りになりそうだな、と思ったシュンだが胸のうちにしまった。

「次オレ! トノス・チャーチ・アイメラだ! こっちは双子の――」

「はーい! プロスだよ! アタシたち、双子の兄姉なの! ポジションも同じ、ミッドフィルダーね!」

 次に自己紹介を始めたのは元気に挨拶をする活発な双子の二人組。

 どちらも容姿が似ていて、ショートの赤髪に加えて身長もほぼ同じ、目がギラついている方がトノス、つり目な方がプロスだ。

(兄姉?)

 兄妹や姉弟ではなく兄姉。なぜそのような言葉を使っているのか。 

「兄姉……どっちが年上なんですか?」

「どっちでもいいじゃん。オレたち同時に産まれたから気にしないんだ、なあプロス」

「そうそうトノス、アタシたちは双子、それだけ覚えててね」

「あと様はいらないぞ。サッカーは勝負が始まったら身分関係ないからな」

 そういわれたため、素直に頷くシュン。

 どちらが兄とか姉とか気にしない二人組なのだろう。ならそのことに疑問を持つことはない。

「はいはーい♪ モココだよ! モココ・ユーミール♪ 覚えてね♪」

「うおっ!」

 きゃるん、そんな聞き覚えのないかわいい効果音が聞こえるような気がした。

 金髪のハーフツインでエスバーより一回りの小さい彼女、モココ・ユーミールはいつのまにかシュンとエスバーの前にいて自己紹介を始めていた。本当にいつのまにいたので、シュンは思わずびびってしまう。

「よ、よろしくお願いします。ユーミールさん」

「だめだめ! ユーミールなんて名前で呼んじゃだめ! モココっていって!」

「え、えっと、モココさんでいいんですか?」

「そうそう! よろしくね、シュン君♪ ほら、エスバー君も」

「…………え、あ……私?」

「うんうん♪」

 無茶ぶりをされて目をキョロキョロしてしまうエスバー。

 かわいいそぶりにどこか危険な臭いを感じてしまうのは気のせいだろうか、エスバーはなにかを感じ取ってしまった。

 そんななか、ある男がやってきてモココの首裏の服を掴み上げた。

「おい、困っているだろ。あまりちょっかいはかけるな」

「離してよ~ちょっかいなんてかけてないよ、リンナイト先輩」

 掴んだ男は細身の体で、藍色の長髪で後ろ髪を紐で雑に束ねている。

「俺はスラ・リンナイト。歓迎するぜ。まあ新入部員でも容赦はしねーがな」

 今の言葉とモココの対応に厳しそうな先輩である。

「まあ、期待してるぜ。わざわざこの学園のサッカー部に入ってくれたんだ。応えてくれよ」

「失望はさせません。試合で活躍しますよ」

「いいね。その自信、気に入った。後で見せてもらうか。ほら、トイズ。新入生が来ているのに魔導書読むんじゃねえ」

 黙々と魔導書を見ている彼女。

 紅髪のつり目をした女子生徒は魔導書を机に置いて立ち上がり、

「……トイズ。プーニー・トイズ。ディフェンダー」

 自身の名前を言って、

「以上」

「え……いや、はい」

 自己紹介は終わり。彼女は椅子に座って本を読み始めた。

「あー、すまんな。トイズは人と話すのが得意じゃないんだ……まあ、ちゃんと人の話は聞くし、最低限のことは答えてくれる」

 エスバーとは別ベクトルで人見知りの人なのだろう。そう思ったシュンは頷いた。

「では、次は私ですね。私はターキン・バルバロサ。前の三人と同じポジションのディフェンダーです。この部に来てくれたこと、感謝していますよ」

 頭を下げてシュンたちがこの部に来てくれたことを歓迎する。

 首にアンク・クロスの首飾りを身に着けた銅髪の男子生徒、バルバロサは二人を見て、

「お二人さん、一つ聞きたいことが。教会に訪れたり、毎日お祈りを捧げたりしてはいるでしょうか?」

「……いえ」

「俺も。村に教会はあるがあんまり行きませんね」

「そうですか」

「えーと、なぜそのようなことを?」

「気にしないでください。ほら、ミンホイさん。貴方の番ですよ」

 聞きたいことを聞いたバルバロサは眼鏡をかけたパッツン髪の女子生徒に声をかけて、ミンホイと言われた女子生徒はシュンたちの前に立って、

「あ、はい。私が最後ですね。私はマーズ・ミンホイです。ディフェンダーを担当しています、一応サッカープレイヤーです」

「一応?」

 なぜ一応と言葉をつけたのか、疑問に思ったことをすぐにミンホイは答える。

「本職といいますか、メインはマネージャーです。体より頭を動かす方が得意なんです」

 彼女はマネージャーと選手を兼任しているということなのか。

「へえー、大変じゃあありませんか?」

「そこまでは……慣れました。サッカー部で困ったことがあるなら私に相談してください。私、マネージャーですので」

「そして、私がこのサッカー部監督のセニース・クアトル! 魔法のことなら私に聞いて、何でも教えるわ!」

 ミンホイの自己紹介は終わったら、すぐさまクアトルが胸を張って名刺を見せつけながら紹介を始めた。

「サッカーのことは?」

「魔法を使うサッカーの技なら教えられるわ!」

「普通のサッカーは?」

「……ごめん、それは無理」

 監督大丈夫か、と心配になりかけたが、

(まあ、大丈夫か。サッカーの監督に真剣に取り組んでいる人だし)

 世の中その分野に詳しくない人が監督になっても上手くいったりすることもあるので、心配しなくてもいいと思った。それにサッカーに対する情熱を感じ取れる。監督としての素質は十分にあるということだ。

「まっ、でも困ったことがあったなら私に声かけてね。サッカーのことだけじゃなくてこの学園のこととか魔法の授業とか。特にシュン君は村から来て魔法のことは全然知らないでしょう。いくらサッカー部の特待生でも、この学園に来たのなら魔法のことを習っておくのは損じゃない、むしろいいことだから」

「なるほど……わかりました。魔法のことで困ったことがあったなら先生に相談します」

 このマギドラグ魔導学院の教師なのだ。

 そのエリート中のエリートであるクアトルに魔法のことを聞くことができるのは村育ちのシュンにとっては珍しいことである。

 魔法の話を聞くのも楽しいそうだ、とシュンはクアトルと話してそう思った。

「サッカー部員全員、紹介を終えたな」

「……え」

 マデュランの言葉に思わず声をこぼして、

「待て」

 思わず敬語を忘れてしまうシュン。

 突っ込まなければならない部分が多くある。

 ここにいるのがサッカー部員全員だということか。ならば部員はシュンたちを除いて九人。今までどうやってサッカーをしていた。

 さらにゴールキーパーがいない。いままで誰がゴールを守っていた。

 あとフォワードもいない。ポジションが片寄りすぎている。

 今の紹介に色々と問題が見えてしまった。

「あのー、ほかに部員いないんですか?」

「いない」

「ああ、ここにいるので全員だぜ」

「やっとサッカー部に十一人揃ったね〜。これから他校と練習試合を申し込めるよ〜」

「フォワードは? ゴールキーパーは?」

「そのポジションは交代でやっていますね」

「モココはどのポジションもできるよ♪」

「……ひょっとしてミンホイさん。あなたはマネージャーだったけど部員が少ないから選手になったのでは?」

「はい、そうです。元はマネージャー専門だったんですけどね。あと一人来れば、私はマネージャーの仕事に集中できますね」

「…………」

 思わず頭を抱えてしまう。

 希望を抱いてこの魔導学院のサッカー部に入部しようと思ったが、ここまでひどいとは思わなかった。サッカー部じゃなくてミニサッカー部なのではないかと思ってしまう。

(いやでも実力はまだわからない……しかし実践やってないだろうしな……)

 実力もちゃんとあるのかわからない。

 とりあえず何でここまで人数が少ないのか。そのことを聞こうとしたら。

「ちょっと待って、キャプテン」

 シュンが言葉を発する前に誰が先にリンガルに声をかけた。

 元気な少年、トノスだ。

「トノス、どうしたんだ?」

「こいつらさ、サッカー部の特待生としてきたって言うが、本当に強いの?」

 トノスの言葉に一瞬、部室内に静寂が包まれた。

 シュンも目の前でそんなこと言われるとは、思ってもみなかった。

「あんまり失礼なことを言うな。先生が実力を見てそう判断したんだ。十二分にあるだろう」

「だったらなおさら知りたいよ! シュンが今このオラリマで有名なサッカー少年なんだよね! 一緒に遊びたい! みんなもシュンの実力知りたいでしょ?」

「まあ、それはな」

「なら素直にサッカーしたいって言えよ」

「たしかに知りたくはある。横にいるエスバーも」

「…………えっ、いや、あの……」

「名前言われただけで驚くなよ、エスバー」

 サッカー特待生として来たシュンに先輩たちは興味を抱いている。

 しかし、ここまで注目されていることになっているとは。

「シュン、君の噂は聞いているよ。なんでも試験に出ては負けなしの男だって。なんで君が試験に落ちたのか、それが不思議で仕方ないよ」

 なるほど、シュンはなぜここまで注目されているのかを理解した。

 サッカーの特待生としてだけでない。オラリマの街で開かれた他学院のサッカー特待生試験で活躍して試合で勝ちまくったが故にオラリマで噂の少年として有名になっていた。

 その噂を耳にしてシュンがどれだけの実力者か興味を抱いたのであろう。

「まあたしかに試験では落ちましたね」

「なんで? 試験じゃあ君は活躍しまくったんだよね」

「失格した原因は俺の魔力をためることができる器が極端に少ないのが原因です。試験官の人は魔法を重視して評価をしますからね」

 ――ですが、

「試験では常に好成績を残してきました。魔法では誰よりも劣ってしまいますが、サッカーの実力なら誰にも負けません」

 自信に満ちた表情でシュンはそういった。

 実際に試験では負けなしで、誰よりも点を取り活躍してきた。

 たとえ相手が上級生だとしても、サッカーの腕なら自分の方が上だ、シュンは心のそこからそう思っている。 

「おお、すごい自信! 君、ポジションは!」

「どこでもできますが、フォワードが自分のメインポジションです」

「フォワードか!」

 その言葉を聞いて、部室の誰もが喜ぶ。

 このサッカー部、フォワードがいないのだ。だがシュンが来てくれてフォワードの穴が埋まる。

「ようやくフォワードがこのチームにやって来たな。モココだと決定力にかけていて」

「ひどくない? モココないちゃう。というかモココは本当はミッドフィルダーなの、フォワードじゃないの」

「魔力量がない……それ大丈夫なの?」

「そんなことが気にならないほど上手いのよ、彼! サッカーなら三年相手でもね互角に戦えるわ」

「それほんとう!」

「クワトル先生の見る目は確かだぜ。ここまで推しているなら、ぜひ実力を見てーもんだ」

「よーし! グラウンドに来い! みんなも先輩たちも来いよ!」

「楽しみにしてるからね!」

 アイメラ兄姉は先に部室から出てグラウンドに向かっていった。

「元気な双子だぜ]

「さっさとグラウンドにいきましょう」

 他の先輩たち、サッカー部員もグラウンドに向かう。

「ある意味、サッカー部の入部試験のようなものですか」 

「まあ、そうね。二人とも、頑張って」

「シュンくん、エスバーくん、緊張しなくてもいいわ。失格なんてしないから、思う存分走って蹴ってね〜」

「そうだ、むしろ私たちが君たちに入ってほしいと頼む立場だろう。人数少ないからな。だからこそ、私たちに己の実力を見て存分に披露してくれ」

「わかりました」

「……はい」

 二人とも頷き、サッカー部の先輩についていく。

(先輩、あなた方が俺を試すように俺も君たちを試す。その権利は俺にもある!)

 ミニサッカーしかできないほど人数が少ないこのサッカー部。実力は本当にあるのか。

 シュンはこの大陸で一番のサッカープレイヤーになりたい。チームでてっぺんを取りたい。

 そしてこの学園のサッカー部はその頂点を取れる可能性を秘めているのか。

(サッカー部の部員不足、そして実力。どちらも確認しないと。それに、あそこまで期待をよせられたのなら、俺の実力を見せつけてやるぜ)

 シュンの初めての高等部生活、初のサッカーが始まる。

【マギドラグ魔導学院サッカー部】

・監督

 セニース・クアトル

・三年

 リンガル・ミーホ・マデュラン DF キャプテン

 チコ・モーグリン MF

 スラ・リンナイト DF

 プーニー・トイズ DF

 マーズ・ミンホイ DF マネージャー

・二年

 トノス・チャーチ・アイメラ MF

 プロス・チャーチ・アイメラ MF

 ターキン・バルバロサ DF

 モココ・ユーミール MF

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