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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
一章 魔導学院、入学へ
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評価する者

「……あの、すいません」

 シュンには理解ができなかった。

 自分はサッカーのテストで好成績を納めたはず

 大量得点を出し、ドリブルやパス、そしてディフェンスでもチームの勝利に貢献したはずだ。

 なのに自分は不合格を言い渡された。

 そのことが納得できず、思わず試験官に聞いてみることにしたのだ。

「なんでしょうか?」

「なんで、俺は合格ができなかったのでしょうか?」

「理由はひとつ、あなたの体内の魔力量は低すぎるからです」

「――っ!?」

 その理由はシュンにとっては残酷な理由だった。

 魔力量、すなわち体内に魔力をためることができる器が小さい、それが原因で不合格になったのだ。 

「あなたの魔力量はこの街の住民を平均した数字の約十分の一。正直に言います、あまりにも低すぎる。普通に低いならまだよかったのですが……マジックサッカーは魔法が勝負を左右する大事な技術。その魔法を満足に使えないあなたは、サッカーの技術が他の生徒より優れていたとしても試合で使うのは難しい、そう判断しました」

 試験官の説明を聞き、沈痛な表情となる。

 たしかに魔力量は普通の人より少ないのは確かだがそこまで言われてしまうとは。

「でもサッカーの特待生としては無理ですが、トゥール魔導学院に入学して、我が学院の生徒となってサッカー部に入部するという形もありますが」

「それは、ちょっと……」

 無理だ。

 学院に入学するなら学院に通うための金が必要だ。シュンの家の資産では三年間通い続けるには到底足りない。

 それにトゥール魔導学院の入学試験は難関で、魔法や魔導道具に関する問題があるのだが、中等部では習わないような知識がテストに出てくる。

 その上、シュンは魔法に関することは勉強していない。オドロン村では魔法のことは簡単なことしか授業で教えてくれなかったからだ。

 学院に入学試験を受けて合格して、サッカー部に入部する選択肢はシュンには無理である。

「なら、今回は縁がなかった、ということで。すいません」

「……そうですか。わかりました」

 自分は相手の学院が求めていた人材ではない。

 なら仕方ない。

 シュンが受けたサッカー部入学試験。不合格になったことを受け入れた。

 



「魔力量が足りないか」

 試験の結果を受けたあと、誰もいない場所でしばらく椅子に座っていた。それほど先程言われた試験の結果にショックを受けたのだ。

 なんとか平静を取り戻して、荷物を持って会場から去ろうとするシュン。

 周りを見ると、試験に受かって喜んでいる人がいれば、その逆もいる。

 自分はその逆、落ち込んでいる方にいる。

「サッカーは魔法だけじゃないが、魔法も大事なのは事実だからな。魔法の試験も合格点にいっていないし。他の場所を受けにいくしかないか」

 正直に言えば、今回の結果に納得はしていない。

 だが結果は変えられない。

 そしてトゥール魔導学園側の言いたいこともわかる。

 なら結果を受け入れてこの学校に入学することを諦めるだけだ。

(こんなときはサッカーの練習でもするか)

 落ち込んでいるときはなにも考えず、ただボールを追いかける。それだけで気分がリフレッシュできる。

 シュンはこの街のサッカー広場にいこうとして試験会場から出ようとする。

「ティンクレイ?」

「あ?」

 入り口の近くにエクス・ティンクレイがいた。

 シュンの顔を見ると舌打ちしながら近づいてくる。

「おいおい、出会ったばかりでそんな態度はないだろ」

「黙れ、くそ」

 おそらく先程の実戦サッカーで負けたことがイラついているのだろう。

 試合でとった点数はシュンは二点、ティンクレイは一点。点取り合戦でシュンの方が多くとっているので勝ちだ。

 それにボールを持った一騎打ちでもシュンの方が勝ちが多い。

 サッカープレイヤーとしての実力はシュンが勝っているだろう。

「試合前で決めた勝負は――」

「うるせーな! これ以上しゃべんじゃねえ! 思い出せるんじゃねえよ!」

「わかった、もう言わない」

 これ以上はティンクレイはキレて手を出してくるかもしれない。それほど声と表情から怒りが伝わってくる。

 会場で暴れられるのは困るのでシュンは勝負のことに関しては話さないことにした。

「……テメーの勝ちだ。気に入らねえが」

 微かな声でそう言った。

 なんだかんが勝敗の結果は受け入れているのだろう。でも今ここで勝ったことを喜ぶと拳か足が飛んできそうなので心のなかでガッツポーズするだけにとどめた。

 会場にはまだ人がいるのに暴力沙汰を起こすのはマズい。

「で、なんのようだ?」

「いや、試験の結果はどうだったのかなって」

 まあ結果は聞くまでもないだろうが。

「合格だった」

「そうか、やっぱりか」

「ああ、オレが合格するのは当然だ」

 彼は自信満々にいった。

 それは納得できる。

 他者を寄せ付けないパワー、巨大な体格から繰り出されるテクニック、そして爆発的な魔法の力。

 どれもが高水準のティンクレイなら合格は当然であろう。

 素直におめでとう、そう伝えようとするシュン。

「――入学するのは断った」

 だが、ティンクレイが放った言葉を聞いて口を閉ざした。

 ティンクレイは合格を受け入れなかった。その事実にシュンは戸惑い、

「……なんで?」

 理由を問いただしてみた。

「テメー、不合格だったんだってな」

 するとそんな言葉を返すティンクレイ。

 シュンは、まあそうだ、と頷いて返した。ティンクレイはシュンの言葉に鼻で笑って、

「試験官に聞いたぜ。オレ以外に誰が合格したか、テメーが合格したかどうかってよ。そしてら不合格だって言ってきてさ。で、俺は思ったわけだ」

 ――この試験官どもは節穴揃いだってな。

「……おい、あまり他学園の悪口は言うなよ。聞いてたら失礼だろ」

「はっ、事実をいっただけだ」

 シュンに苦言を言われても悪びれないティンクレイ。むしろヒートアップする。

「オレを負かしたやつが不合格だ? 魔力量が少ねえから? はっ、サッカーは実力がすべて、勝ったやつが正義なのによ。テメーはオレより強い。残念で仕方ねえがそれは受け入れるしかねえ。なのにテメーの方が実力あって不合格、そしてオレは合格――惨めだ。オレは敗者なのに」

 悔しそうに顔を歪めて吐き出すように言い切った。

 自分に打ち勝った相手が不合格で、負けた自分は合格。

 学院からしてみれば個人の能力を評価してティンクレイに合格を出したが、ティンクレイ自身にはそれが不愉快だと思っている。 

「ティンクレイ……」

「トゥール魔導学院にいったってエルドラド魔導祭には絶対出れん。実力を正当に評価しない学院は雑魚だ。オレは違う学院に入ることにするぜ」

「そんなこと言って、ツテはあるのか?」

「言ったろ、オレは中等部の時に優勝校のスタメンどころかエースだったんだぜ。オレを欲しいと思っている学園はそこいらにある。学院がオレを選ぶんじゃねえ、オレが学院を選ぶんだ」

 自信満々にそう言った。確かにエルドラド魔導祭で活躍したティンクレイならどの学院も欲しがるだろう。彼のエゴイストな性格を受け入れれば、の話であるが。

「じゃあな。もしエルドラド魔導祭の時に再び出会うことがあるなら、そん時はオレがぶちのめしてやるからよ。もうオレはお前に負けねえ」

 ティンクレイがこの場から去ろうとする。

 シュンは離れゆくティンクレイの背中を見ながら。

「ティンクレイ。もしサッカーフィールドで再び会えたなら、その時も俺が勝つ。チームとしても、タイマンでもな」

「言ってくれるね。そうじゃなきゃあ面白くねえ。ぶっ壊してやるよ、絶対にな」

 シュンの言葉に獰猛な笑みを浮かべて、その場から立ち去っていく。

 正直な話、彼に再び合えるかどうかはわからない。

 だが、シュンにはティンクレイと再び出会いそうな気がするのだ。

 負けたことを認め、そしてシュンを越えようと高みに目指し始めた。

 シュンが優勝を目指すならティンクレイは壁となって立ち塞がる。そんな気がしていたから。

「ん?」

 ティンクレイを見送って振り向くと、壁に背をかけて立っているエスバーを見つけた。

 ずっと空を見ている。

「エスバー?」

「…………あっ、ああ。シュンさん、そ、その。キツいこと言われたりしなかった……いやしませんでしたか……?」

(結構話してくれるようになったな)

 初対面では緊張してずっと黙ったままだったが、わりと話してくれるようにはなった。

 まだ視線は合わせてくれないが、それでも会話をしてくれるのは嬉しいものだ。

「言われてないよ。エスバー、君はどうだった?」

「…………その、試験は……合格……」

「おお! よかったな!」

「…………できませんんでした」

 思わずガクッと体を傾けてしまうシュン。

「…………身体能力測定やサッカーの技術の試験で……ちょっと……緊張して……」

(たぶん、ちょっとどころじゃない緊張したんだろうな)

 涙目になりながら語るエスバーを見てそう思ったシュン。

「…………あと……試合で魔法を……使わなかったのが……」

「あー、そういえば魔法使ってなかったな」

 思い返してみれば、エスバーは試合で魔法を使ってない。普通のプレイだけで戦っていた。

 それが原因で失格したのだろう。

「…………自分、ダメダメで……」

「そんなことないさ。君のディフェンスプレイはいい動きしてたよ。ボールも奪えてたし」

 エスバーは試合では活躍できていた。守りで相手の攻撃を防ぎ、ティンクレイの激しいドリブルも止めてみせた。

 緊張せず魔法さえ使っていれば合格していただろう。

「…………あ、ありがとうごさいます……あの……シュンさん……試験、どうでしたか?」

「ああ、失格だったよ」

「えっ?」

「魔力量が少ないからってさ」

「…………そ、それだけで、ですか?」

「マジックサッカーなら魔法方面の能力も大事だからな」

 シュンが試験で不合格だったことに驚きつつ納得していないエスバー。

 チームを組んで、彼の活躍を見ていたからこそ、なんで合格していないんだ、とエスバーは思った。だがそれが結果なら仕方ないのである。

「…………君なら、たぶん合格するよ。僕と違ってすごく上手いし……」

「え?」

 いつもと違う話し方にちょっと驚くシュン。するとエスバーは視線を大きくそらして、

「…………いや、私はあなたをその応援してる、いや、ます……さようならです…………!」

 早歩きでシュンから離れるように消えていったエスバー。

 人見知りではあるが、今発した言葉は彼のいつもの話し方なのかもしれない。

「俺も君の合格を祈っているよ、エスバー。ってもういないか。さてどうしようかな」

 試験は不合格。となると次の学園のサッカー入部試験を受けて合格を目指すしかない。

「他のサッカー入部試験をしている学園は調べておいたから、明日また行動するか。今日の残りの時間は一人で練習するしかないな」

 シュンはこの街のサッカーフィールドで練習をすることに決めた。

(俺のサッカー技術を認めてくれる学院はあるはずだ。認めてもらえるまで試験を受けるまで)

 合格するまで、何度も試験を受けるだけだ。




 だが結果を先に言うと、シュンはサッカー部特待生の入部試験にことごとく不合格になった。

 確かにシュンは他の学園のサッカー部入学試験で結果を出した。

 身体能力測定では何度も高得点をだし、実戦形式では大量得点して活躍もした。

 魔法の技術も平均点以上は叩き出している。

 だがある一点、魔力量のせいで失格にされ続ける。

 シュンは毎回、納得はできないもののその結果を受け入れるしかなかった。

 サッカーの技術なら誰にも負けていないのに、そう思いながら。

【エルドラドサッカー日誌】

 ゲイルステップ

 シュンが編み出したマジックドリブル。

 足や背中から強力な風を起こして、その風で自身の体を押し出して音速の如き速度で抜き去る。

 魔力の消費を少なく、なおかつシュン自身のドリブルの技術を存分に発揮できるように開発された技。

 相手を飛び越えるのがよく使うパターンだが、地面スレスレの姿勢で抜き去る『低空ゲイルステップ』のパターンもある。

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