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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
一章 魔導学院、入学へ
31/130

ジェットのような追い風

「よし、なんとか同点に持ち込むことはできた」

 味方のシュートをシュンがチェインシュートで一点を取った。今は同点である。

「このまま勝ちきってやるぜ」

「ええ、そうね」

 シュンの同じチームのメンバーも勝つ気満々。

 今やっているのは実践形式のサッカー試験。活躍するためにプレイに我を出すのは当然であろう。合格するには自分の実力をアピールしなければならないのだから。

 だがしかし、この試験を受けに来たのは皆サッカープレイヤーなのだ。サッカーで負けるなんて考えられない。試験も大事、だが勝負に勝つのも同じぐらい大事なのだ。

「あんな大技をもっているなんて……」

「なんでアイツ、エルドラド魔導祭に出場してないんだよ」

 一方、ティンクレイがいるブルーチームはシュンの驚くべき活躍に困惑している。

 どこから来たかわからない少年がこのサッカーフィールドで暴れまわっている。

 エルドラド優勝学院のエース、ティンクレイが活躍するならともかく、全く無名のシュンにいいようにされている状況が信じられないのだ。

 チームの雰囲気も悪い。同点の状況とはとても思えない。

「うるせえ! アイツが強いかどうかなんて関係ねえ!」

 そんなムードが悪くなっているチームのメンバーに大声で怒鳴ったティンクレイ。

 ウダウダ言っているメンバーに怒りを抱いたのだ。

「そんなこと考えている暇があったら点とること考えてろ」

 そう言ってセンターサークルに向かっていく。

(ムカつくが、いいじゃねえか。あのシュンより俺がストライカーとしての格が上だって証明してやる。オレの『カノンファイア』でな)

 得点をとって勝てば自分が上だということに誰もが納得する。

 ストライカーのプライドとして、どこから来たかわからない無名のシュンに負けるわけにはいかないのだ。

「おい、すぐにオレにボールを渡せ」

「また一人で突っ込むのか?」

「いや、そんなことしねえ。そんなことする手間が無駄だ」

 いつものようにボールを貰って強引なドリブルを仕掛けていくのかと思ったが否定される。

 となると、どうするのか。

「まさか!?」

 今までのティンクレイの行動を考えて、チームメンバーはある考えを思い付く。

「そのまさかだよ」

「……わかった、すぐに渡すよ」

 話は終わり、全員ポジションにつく。

 そして試合再開。

 ティンクレイにボールが渡って、

「なっ――!?」

 センターサークル内で大きく足を上げるティンクレイ。

 その行動ですぐにわかった。

「守れ! 打ってくるぞ!」

 試合開始直後にマジックシュートを打つつもりなのだ!

「気づいてもどうせ止めれねえだろ! 吹っ飛べ! 『カノンファイア』!」

 センターサークルから緋色の砲丸が発射された。

 ゴールに向かって一直線。触れれば炎で吹き飛ばされるティンクレイのマジックシュート。一瞬でけりをつけるためにこの距離で打ったのだ。

「やりやがったか!」

 シュンはすぐさま行動を起こす。

 あのシュートに対抗しなければゴールを決められてしまう。一点目を取った時もセンターラインから打ってディフェンダーやゴールキーパーを弾き飛ばしてゴールを決めたのだ。

 何がなんでも『カノンファイア』を止めにかからなければならない!

「シュン! お前じゃあ止められねえよ!」

「止める! シュートが来たならシュートで対抗するだけだ!」

 炎をまとった弾丸シュートにシュンはダッシュで向かっていった。

「無茶だ! シュン、避けろ!」

 無謀な行動にシュンを心配して避けろと言葉を送る。

 しかしシュンはその言葉を無視。

 目の前の砲弾を止めることの方が大事だ。

「『ウィングオーバーヘッド』だ!」

 するとシュンは前に飛びながら地面に背中を向ける。

 そして右足に竜巻をまとい、そのまま低空オーバーヘッドキックを『カノンファイア』に叩き込んだ。

 オーバーヘッドブロックが炸裂!

「うぅう! うお⁉」

 だが『カノンファイア』の威力に耐えきれず吹き飛ばされて地面を転がるシュン。

「ハッ?」

 そしてティンクレイの視界にあり得ないものが映っていた。

 こんなことが起きるなんてあり得るはずがない、そう思っていた。だが目の前には信じら得ないものが見えてしまっている。

 ――ボールが上空に上がっている。

 理由は簡単だ。

 シュンのオーバーヘッドブロックによって空に吹き飛ばされたのだ。

 シュン自身も吹き飛ばされてしまったが、意地のシュートブロックで『カノンファイア』をなんとか弾き飛ばしたのだ。

「嘘だろ?」

 嘘だと思いたかった。だが真実はシュンに己のシュートを止められた。

 ゴールキーパーでもない、ディフェンダーでもない。

 ストライカーであるフォワードにシュートを止められてしまったのだ。

 その事がティンクレイのストライカーのプライドに傷がついてしまったのだ。

「皆、シュンが止めたシュートボールを俺たちで取るぞ!」

 レッドチーム、すぐさまボールを取るために行動を開始する。シュンが体を張ってティンクレイの『カノンファイア』を止めてくれたのだ。それに応えなければ。

 ボールを拾った瞬間、仲間に渡そうとしたその時、

「邪魔だ!」

「うあっ!?」

 突如、ボールを拾った選手が空に大きく吹き飛ばされる。

 ティンクレイだ。

 ティンクレイの乱暴なショルダーチャージによって飛ばされてしまったのだ。

「許さねえ……この怒りは俺が点をとって勝つことによってはらしてやるぜ!」

 このティンクレイ、シュートを止められると呆然とするより、ゴールを奪ってやる、と激怒を抱くタイプ。

 根っからのストライカーだ! 

「どけ! 怪我してもテメーらのせいだ!」

「ぎゃああ!」「きゃああ」

 炎をまとい力を込めて自分を邪魔するものを蹴散らして前に進む。

 この荒々しいショルダー、『強引なファイアドリブル』と呼ぶにふさわしい。

「くっ、止めなければ……」

 シュンは立ち上がろうとするも体が重く感じてしまう。

 それはティンクレイの『カノンファイア』を止めたことによる反動――ではない。

(魔力が……少ない)

 同点にした『ウィンドボレー』、そしてティンクレイのシュートを止めるために使った『ウィンドオーバーヘッド』。

 マジックシュートをほぼ連続で使ったことによって魔力が激しく消費された。とくに『ウィンドオーバーヘッド』は『カノンファイア』を止めるために多く魔力を使ったため、より多く魔力が消費されてしまったのだ。

 これ以上の魔法は危険だ、体内からそう訴えかけられている。

(でも、まだ大丈夫だ。あと一発……打てる)

 だが体が重くなっただけだ。これぐらいならプレイに支障はない。

 急いで立ち上がってティンクレイを止めにいく。

「皆! 囲んで一斉に魔法を使え! 一人では今のティンクレイは止められない!」

「お、おう!」

 距離は離れている。そのため指示を出してティンクレイを

「雑魚どもが! 邪魔するやつは全部飛ばしてやる!」

 イラつきながら前に進み、足を思いっきり振って前方の選手の顎にボールをぶつけて吹き飛ばした。

「うげ!?」

「ああ! 『アッパーボール』か!」 

 あの狂暴な技だ。

 相手の顎に鋭いボールをぶつけて吹き飛ばすドリブル。

 何がなんでもゴールを奪ってやるという意思が彼のプレイから見える。

 今の技を食らった光景を見て、連携をとっていた味方は一瞬怯えてしまった。

「止まりやがって、吹き飛ばされてえんだな!」

「ぎゃああ!」

 わずかに体が止まってしまったその隙をついて、ティンクレイの強引なドリブルで軽々と弾き飛ばした。

 ティンクレイは止まらない、どんどんゴールに近づいていく。

「ゴールがはっきりと見えてきた。この距離なら確実に決められる!」

「…………っ!」

「ん、テメーは」

 シュートを打とうとした瞬間、誰かが前に現れた。

 エスバーだ。

 ティンクレイを止めるためにエスバーが立ちふさがった。

 だがそれがどうしたといわんばかりに近づいて、

(動きは悪くねえ、だが肝の小さいビビりだ。ならこれが通る!)

『アッパーボール』だ。

 エスバーにはこの技が通る、そう思って足を振り始めた。

「吹っ飛べよ!」

 ハイスピードのシュートと見違えるようなボールがエスバーの顔に向かっていく。

「…………あっ!」

 顔に迫った瞬間、エスバーは飛ばされて地面に倒れる。

 だがその時、不思議なことが起きた。

「ぼ、ボールが!」

 ボールが消えた。

 ティンクレイとエスバーの間にあるはずのボールが消えていたのだ。

(まさか!)

 上空を見上げると、高く上がったボールが。

「なんで!」

 なぜボールは空高くにあるのか。

 遠くから見ていたシュンは見えていた。

「エスバーが顔面に来たボールに反応して足を振り上げた……なんて反射神経だ」

 そう、ティンクレイの放った『アッパーボール』を反応してボールを蹴りあげたのだ。

 普通なら避けることすら難しい『アッパーボール』。だがエスバーはボールを蹴った瞬間ではなく、自分の顔に迫った瞬間に足を動かして蹴りあげたのだ。

「…………や、やった」

 なんとかボールを上空に弾き飛ばすことに成功させて喜ぶエスバー。どんな形でもティンクレイの攻撃を妨げることができた。ディフェンダーとしての最低限の仕事はできたということだ。

「取り返せばなんの問題ないな!」

 ブルーチームの選手はボールを取り返すために上空に大きくジャンプする。高く上がっているボールでも魔法があれば高く飛べる。

 シュンもボールをとろうと走るスピードをあげようとした。

「シュン! あなた空に飛んでも大丈夫?」

 そのとき味方がそんなことを聞いてきた。なにがしたいかはサッカープレイヤーならすぐにわかる。

「おう! 十メートルぐらいなら怪我なく着地できるぜ」

「わかった! じゃあ飛ばすわ!」

「いいぜ、来な!」

 シュンの合図と共に魔方陣を展開。

「『ウォーター』! 飛んで!」

 地面から天に向かって水が噴出される。シュンが水によって空に飛ばされて、鯉の滝のぼりの如く高く高く上がっていく。

 水の勢いが強く体勢が崩れそうになるも、サッカーで鍛えたバ抜群のランス感覚で体勢を整える。

「なに⁉ あんな場所から来やがった!?」

「これなら俺が先にボールを取れる!」

 さらに水を地面のように蹴って大きくジャンプ。これにより相手選手よりも高く飛べて、先にボールにたどり着いた。

「ほら、パスだ!」

 オーバーヘッドキックで敵が少ない場所にいる味方にボールを渡す。

 これで敵の攻撃は防げた。

 すなわち、こちらが攻撃するターンということだ。

「よし! 俺も他の連中に負けないってこと見せてやるぜ!」

「私だって!」

 シュンの仲間も闘志に満ちた目で前に進む。

 試合時間を見ると残り三分を切っている。最後の攻撃チャンス、フィールド全員後先考えず魔法を連発する。

 レッドチームは魔法によるドリブルと的確なパスで前に進んでいった。

 シュンも攻めの連携に参加し、

「おっと、通るぜ!」

「あっ!」

「ほら、パス!」

 ボールを持てば相手を抜き、相手が魔法を使ってくる素振りを見せたならすぐさま仲間にパス。

 そうやって前線を上げていき、

「シュン、お願い!」

「おう!」

 アタッキングサード手前でシュンにパスが通る。

 最後のシュートチャンスだ、このボールは大事にしておかないといけない。

 そう考えて前に進む。

「やっぱ、テメーにボールが渡るよな!」

 するとすぐさま前からティンクレイがやってきて立ち塞がる。エスバーにボールを飛ばされた後、ゴールまで下がっていたのだ。

 シュンの攻撃を止めるために。

「ティンクレイか!」

 再びの一騎打ち。

「テメーをぶっ飛ばす! そして点を取る! シンプルなことだっ!」

 灼熱の炎を身に着けて、フェイントをすることなく真っ直ぐ突っ込んでくる。

 見るだけで体が震えてしまうようなショルダーチャージ、『強引なファイアチャージ』が襲ってきた。

(だが、ここを超えれば!)

 ティンクレイを超えれば絶好の得点チャンスなのだ。

 ならば乗り越えるのみ!

「『ゲイルステップ』で抜くだけだ!」

 風になったかのようなスピードで一気に抜き去りにかかる。

(ショルダーは上半身部分が攻撃範囲。ならば!)

 地面スレスレに姿勢を落として、二人の距離が一メートルぐらいに近づいた瞬間に、シュンの足元から強風が吹く。

「地面ギリギリの『低空ゲイルステップ』だ!」

「なっ!?」

 ティンクレイの足元を抜くように突破。

 突然シュンが体勢を低くしたことによりティンクレイのショルダーはかすることなく、消え去ってしまうように見えてしまった。

「パスだ! 頼むぜ!」

 ティンクレイを抜き去ったあと、すぐさま仲間にパスを渡す。

「よし! 絶対に相手にボールを渡さないわ!」

 味方も魔法を駆使して前に目指す。

 相手が魔法で止めてこようとも、絶対にボールを渡してたまるか、その執念で返り討ちにする。

「うおっ!?」

 相手の選手が飛んでいく。

 試合時間も残り少ない。

 シュンの味方も全力全開だ。

「シュン、頼むぜ!」

 そして、アタッキングサードに入ったところで、シュンにパスを渡す。

 シュンなら決めてくれる、そう思ってのラストパスだ。

(ここしかない。ここで点を決めれば!)

 シュンの周りに相手選手はいない。相手ゴールキーパーの周辺もディフェンダーこそいるものの人数が少ないため守りが薄い。

 絶好のシュートチャンスだ。この好機、ストライカーが逃すはずがない、逃してはならない。

(試験であろう、サッカーで負けるのは嫌だ! 最後まで全力で戦うまで!)

 それが勝負の掟。

 勝利するため全力のシュートを叩き込む!

「この一撃にかける!」

 ボールをチップキックで浮かばせる。そして蹴り上げると同時にバックステップで下がる。後ろに下がって地面に着地した瞬間、魔法陣が展開し、そこからジェット気流の如き強風がシュンの体を強く押し飛ばした。

「ゴールへ飛んでいけ! 『ティルウィンドジェット』!」

 そして空中で体勢崩さず、魔法の強風によるハイスピードジャンプでボールに近づいて渾身のボレーシュート! 

 音速の如きスピードで振り抜かれた蹴りはボールを視認できないほどの速度で飛んでいった。

(は、ハエェ!?)

 ティンクレイも思わず目を見開く。ブルーチームのディフェンダーも動いて壁になろうとするも、ボールはすでに彼らを抜き去っていく。

「と、止めれない! ならば『バリアシールド』で!」

 手でキャッチできないと感じ取った相手ゴールキーパーはゴール全体にバリアを張って弾き飛ばそうとするも、

「あぁっ!」

 バリアはいともたやすく破れ、紙のように千切れていき、ゴールにボールが入っていく。

 ゴールのネットを激しく揺らすほどの。旋風を吹き荒らして。

【エルドラドサッカー日誌】

 カノンファイア

 強烈な爆発力を共に発射される炎の砲弾シュート。

 ボールに蹴りを入れた瞬間に魔法陣を展開し、ボールに魔力エネルギーを一気に注ぎそむ。そしてシュートを放つと同時に膨大な魔力を消費して獄炎を作り出し、ボールとともに発射する。ティンクレイの身体能力、そして天才じみた魔法の技術あってこそできる。

 このマジックシュートはエクス・ティンクレイのリーサルウェポンであり、中等部のエルドラド魔導祭サッカー大会では打てば確実に点を取るなど無類の強さを誇っていた。


 ティルウィンドジェット

 シュンが自ら作り出したマジックシュート。

 チップキックでボールを浮かばせながら後ろに下がって、地面に足をつけた瞬間、足元に強風を発生させて勢いよく前にステップ。そしてハイスピードでジャンピングボレーでシュートを打ち込む。音速の如き風のスピードで飛んでいくが、シュートを打つ瞬間に強力な回転もかけているため威力も破格。

 基本的に魔法によって威力を高めることが主流のエルドラドサッカーにおいて、このシュートはシュンの類まれなる技術によって威力をあげている。

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