疾風は突然に
「な、なんだ今のシュートは……」
さきほど放たれた炎の砲弾シュートに驚愕するシュン。
センターラインからの超ロングシュート。普通なら無謀。フィールドの中央からシュートを打てば途中で威力が落ちて届かない。もし届いたとしても簡単にゴールキーパーに止められてしまうだろう。
だがあのシュートは別だ。
ティンクレイの魔法シュート。
まさに大砲。
あの魔法の威力ならセンターラインからのシュートでもゴールを決めれるだろう。
「って、大丈夫か皆!」
シュンは倒れているチームメイトに駆け寄る。
『カノンファイア』で吹き飛ばされてしまったチームメイト。あの威力のシュートを受けて怪我をしていないかどうか心配する。
「だ、大丈夫だ……痛みはあるがプレイに気にするほどじゃない」
「…………私も……」
全員、無事であった。
大きな怪我はしていないため治療士、ヒーラーの出番はいらないみたいだ。
「ま、まさか『カノンファイア』を撃ってくるなんて……」
チームメイトの一人が気の滅入るような表情を浮かべてそう呟いた。
「『カノンファイア』? それが今のマジックシュートの名前か」
「ええ、ティンクレイくんはあのシュートで点をとりまくったのよ。中等部のサッカー大会では誰も彼のあのシュートを止めることができなかった。まさにリーサルウェポンよ」
恐ろしいものを見たような表情で語るチームメンバー。
他のメンバーもさきほどのシュートを見てビビっている。
シュンはそんなチームの状況を見て、
「皆、確かにティンクレイのシュートは恐ろしい。だがビビったまんまじゃあ勝てねえ。こっちも点を決めてやろうぜ。むしろティンクレイを倒したら評価されること間違いないな」
勇気づけようと言葉を送る。
後ろ向きに気持ちでは試合に負けてしまう。ゆえに元気つけようとしたのだ。
「そう、だな。このまま諦めちゃあ試験にきた意味ないな」
彼らもシュンの言葉に頷いて不安を振り払う。
「でも、ティンクレイのシュートはどうやって止めるの? どれだけ点をいれても彼を封じないと」
チームメイトの言うとおり、点をとったとしてもティンクレイのシュートですぐに取り返されてしまう可能性もある。
「誰か、ティンクレイにマークしてくれ。ボールの取り合いになったら魔法を惜しまず使って止めてくれ」
「わかった」
ならシュートを打たせないようにするしかない。マークをつけて、そしてボールをすぐに奪う。それしかないだろう。
(あの威力のシュート……そして荒々しいプレイ。レイカを思い出すな)
二度しかコンビを組んだことないが、シュンのなかでは同じ歳で一番サッカーが上手いと思っている。そしてエルドラド魔導祭で勝負しようと約束した、レイカのことが頭のなかによぎった。
ティンクレイのプレイがレイカのサッカースタイルに似ていたからだろう。
(サッカー上手くなっているんだろうな。どこかの学院にもう入学する準備はできているのだろうか……って試合中に考えることじゃあないな)
レイカは今どんなことをしているか、それを考えている場合じゃない。
試験に集中しなければ。
「よし、試合再開するぞ。一点取り返してやろうぜ」
「「「おう!」」」
作戦会議を終えて、再びポジションにつく。
「へー、ヤル気満々だな。そうこねーとな。おい、ボールを取ったらオレに渡せ。オレの『カノンファイア』でドンドンゴールを決めてやるよ」
「え、俺もシュートを打ちたいけど……」
「どうせ決まらねーだろ。いいから渡せ。じゃねーとテメーらを吹っ飛ばしてでもボールを奪うぞ」
「わ、わかったよ……」
脅迫じみたことを言って無理矢理納得させるティンクレイ。
他のチームメイトも渋々と従う。
仲間割れ襲われるのは怖いし、なんだかんだティンクレイのマジックシュートは頼りになる。
半ば不満、もう半分はしかたない、その気持ちでティンクレイの要望をブルーチームのメンバーは受け入れたのだ。
そして試合は再開。
ボールは点をとられたシュンのチームから。
ボールを受け取ったシュンはサイドにいる味方にパスを渡して前に出る。
(もうドリブルでは抜けないな。慎重にパスを通していくしかないか)
いくら得意なドリブルでも魔法を使ってこられたら止められてしまう。
こちらも魔法を使って対抗するという手段もあるが、シュンからしてみれば魔力は極力消費したくない。
(試合時間が短いとはいえ、魔力はシュートに使いたい。それに……)
前に走りながら後ろに振り向く。
センターラインにティンクレイがいる。あそこからまたシュートを打つ気だろう。
(もしもティンクレイにボールが渡ったとき、止めるには魔力が必要だ)
シュートを阻止するためのマジックディフェンスを行うためには魔力が大事。
魔力の残量には気を付けなければ。
「ほら!」
「うわ!?」
そんなことを考えていたら、ドリブルをしていた味方が地面を転がっている。どうやら吹き飛ばされてボールを奪われたみたいだ。
「相手チームも守りが固いな!」
シュンがボールを奪い返しにすぐさまボールをもっている選手に近づいていく。
「いくらあんたでもフォワード相手なら!」
「やってみろ!」
相手は強引にチャージして真正面からシュンと突破してこようとしてきた。
シュンは相手の行動を見て、ニヤリと笑い、
「それ待ってたぜ! 『スクリューカット』!」
突撃してきた相手を回転しながら避けつつ、左足でボールを掬ってそのまま奪い去る。
これは魔法技ではなく必殺技だ。
この世界のサッカーは強引なプレイが多い。それに対処するために編み出したカット技だ。
ちなみに足裏で奪い取るパターンもある。
「避けたのかしら……あれ?」
シュンを抜き去ったと思った相手はいつのまに自分の足元にボールがなくなっていたことに困惑している。シュンはすでに走っていた。
(シュートを打って……っ!)
「そうはさせねえ!」
「なに!」
絶対に止める、そんな闘志を感じ取ったシュンは視線を一瞬背後に向けると、ティンクレイが来ていた。
フォワードのティンクレイがディフェンスに参戦してきたのだ。
(なるほど、理由はわかるぜ。センターラインから打つなら守りに加わった方がいいって訳か)
センターラインからシュートを放つということは相手のフィールドに入る必要がない。ならば自陣で相手の攻めを封じて、あとはパスやドリブルでセンターラインまでボールを運べばいい、それがティンクレイの考えなのだろう。
そしてその作戦をして点をとることができる、ティンクレイの実力なら。
「だが、俺のドリブルに追い付けるか!」
シュンはすぐさまドリブルのスピードを上げる。追い付かれないように、吹き飛ばされてボールを奪われないために。
「は、速い!」
全く同じ速度。ボールをもっているシュンがティンクレイと同じ速度で逃げている。異常な状況だ。
だがシュンのドリブルの技術ならそれは可能である。
「全員で止めろ!」
ゴールキーパーの声が飛ぶ。
相手チームのメンバーがシュンを止めようと前から迫ってくる。
近づいた瞬間、魔法を離してシュンを止めるつもりだろう。
(ここでボールを奪われるわけにもいかない……時間を考えてもな)
試合の時間は十五分しかない。
もう半分は過ぎている。ここで一点をとれなければ不味い。
だが前には魔法を構えているディフェンス陣、後ろはティンクレイが追いかけてきている。
どうすればいいか。
「パスだ!」
一瞬迷ったが、これほど注目されているのならば他のメンバーにボールを渡せばシュートを打ってくれるだろう。そうでなくても前線を上げれる。
「ナイスパス!」
そう考えてシュンは仲間にパスを渡した。ボールを受け取った味方はゴールに向かっている。
「シュンに打たせなければいい! 相手チームのその他はキーパーが体張って止めやがれ!」
「わかった!」
「言ってくれるな、ティンクレイのやつ~!」
ティンクレイの指示が敵陣地に広がり、守りをしているメンバーがすぐさま行動を起こす。
そしてシュンは、
(そして、あの技を使う。相手も予測できないはずだ)
周囲を見ながら技の準備を行う。この技は初見なら確実に通る。
ゴールキーパーもディフェンダーも予測できないはず。
「シュン! パス渡すぞ!」
「わかった!」
シュンにボールが返ってきた。みれば彼の周りに相手選手が。ボールをとられる前にシュンに渡して死守しようと考えたのだろう。
こちらに向かってくるボールを受け止めようとした。
「やはりシュートを打つのはテメーか!」
その瞬間、ティンクレイが来た。ボールを奪おうとパスボールを奪いつつシュンを吹き飛ばしにやって来た。
ここでシュートを決めるのはシュンしかいない、そう思っての突撃だ。
シュンはすぐさま空を飛ぶ。
「ジャンプ勝負でも負けるかよ!」
ティンクレイも飛んでヘッドで競り合いしようとする。巨体のティンクレイなら空中の競り合いも強いだろう。
(普通の競り合い、ならな!)
シュン、ここで背中を地面に向けた。そしてそのまま足を伸ばしてボールに足をぶつける。
「なっ!? オーバーヘッドだと!」
空中での競り合いでまさかの大技。シュンの足がティンクレイの頭よりも早くボールに届き、そのまま蹴り飛ばした。
「頼む!」
シュンの打ったオーバーヘッドシュートはゴールから大きくコースを外れる。そしてボールが向かう先にはシュンのチームの仲間がいた。
「絶好のパスだぜ!」
「シュートを打ってくれ!」
「わかった!」
ボールを受け取った味方の周りには敵選手はいない。絶好のシュートチャンス。
「『バリアシュート』だ!」
ボールを堅いバリアをまとわせてシュートを打ち込む。
シュートボールはまっすぐゴールに向かっていった。
「ティンクレイやシュンのシュートを受けまくったから遅く見えるぜ!」
余裕をもって魔法陣を展開してシュートに備える。キャッチしてやろうと構える。
「いいシュートが来たぜ!」
「なっ!?」
突然の乱入。
「え?」
「いつのまに!」
「待ちやがれ!」
シュンがシュートコースの横から現れた。相手チームがシュートを打った選手に一瞬視線が移っている瞬間にダッシュでペナルティーエリア内まで侵入していたのだ。
すぐに気づいたティンクレイだが、シュンのスピードに追い付けず、そしてシュンは勢いよく飛んで、
「『ウィンドボレー』だ!」
味方が放ったシュートに自身のマジックシュートの威力をプラス。さらにコースの軌道も変えて足を振り切った。
「なにっ!?」
ゴールキーパー、急なシュンのシュートに戸惑いながらもなんとか反応して魔法を発動させながら手を伸ばす。だが不安定な姿勢では満足にボールを止める力を発揮できずバリアが破けてゴールに入った。
シュンの奇襲によって一点をもぎ取ったのだ。
「シュ、シュートチェインだと!?」
シュンがしたことにティンクレイは思わず大声を上げて驚く。フィールドにいる選手や試験官たちでさえも驚いていた。
シュートチェインとはエルドラドサッカーで生まれたサッカーの技であり、マジックシュートをさらにマジックシュートで威力をプラスする技術だ。
だがそれは簡単なものではない。
味方が打ったシュートよりも速く、そしてタイミングも合わせてシュートを打たなければきちんとボールにパワーが乗らず威力が落ちてしまう。それだけならまだしも、シュートコースがゴールから外れてしまったりしたら味方に迷惑を掛けるだけ。
実力ある高等部でもできる人はそうそういない。
だがシュンはシュートチェインをしてゴールを奪った。
味方の放ったマジックシュートを完璧にタイミングを合わせて蹴りをぶつけた。
それはシュンのシュートに追いつけれる足の速さと振りのスピード、味方のシュートにベストタイミングで打つ感覚、それらが優れているからこそできるのだ。
「どうだ! これが点取り屋のシュートさ!」
ゴールを決めて、俺のシュートを見たか、と言わんばかりのガッツポーズ。
「シュン、チェインシュートうてるの?」
シュンと同じチームメンバーが今のプレイについて聞いてきた。あの高度なプレイに興味津々だ。
「チェインシュート? ああ、マジックシュートをノートラップで打ったことか。村にいたときによく使ってたぜ。ノートラップシュートは俺の得意シュートさ」
チェインシュートは村での試合で使用していた。
ドーロンからのパスやシュートをノートラップで打っていたり、それを見た子供や大人は大盛り上がり。いつしかシュンの得意技にもなっていたのだ。
ちなみにドーロンからよく「俺が入れるはずだった得点奪うんじゃねえ!」と怒られることがあるのはここだけの話だ。
「凄い……なんで中等部のとき活躍してなかったの? あなたの実力ならエルドラド魔導祭のサッカー大会に出れてもおかしくないのに」
「村で暮らしていたから出れなかったんだ」
村には学校はある。だがお金もない、遠くの街にいくための乗り物もない、そのため他の街に行くことができない。大会に出ることはできないし、他の学校や学院と練習試合することもできない。もっともシュンの通っていた学校は部活なんてなかったが。
「そうだったんか……エルドラド魔導祭に出てなくても強いやつっているんだな」
「同点になったぜ。さあ皆! 勝ちに行くぞ!」
「「「おう!」」」
シュンの言葉に答えるレッドチーム。
「チッ、シュンのやつ。見てろよ、すぐに点を入れてやる」
遠くからシュンをにらみつけるように見つめているティンクレイ。
試合の勝敗はどちらになるか。
【エルドラドサッカー日誌】
マジックサッカーの基本魔法
マジックサッカーの基本とも言える技はバリアを張る『バリア系』と自身の属性魔力をまとう『属性魔力系』のニ種類がある。
初心者はまずこれらを覚える。
この二つは覚えやすく、実践でも活用しやすい。魔法でも基礎は大事である。