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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
一章 魔導学院、入学へ
28/130

点取り屋たちの勝負

 笛が鳴り響く。

 審判がならした、試合の開始だ。キックオフ。

 シュンがティンクレイにボールを渡して、

「よし! 全部ぶっとばしてゴールを決めてやるぜ!」

 ゴールに向かって迷わずドリブル。同じチームメンバーなんて知らないといわんばかりのハイスピードで敵陣に突撃する。

「おい! やっぱりかよ!」

 シュンは慌ててティンクレイについていく。彼のことだ、最初っから一人で敵陣に乗り込んでシュートを打ちにいくに決まっている。

 その事をシュンは考えていたが、予想通りにやるとは。

(なにがたち悪いって、単独プレイでもシュートを決めそうだなってことだな)

 試験の前で行った練習でティンクレイの実力の高さはわかった。

 シュンは相手のプレイを少し見ればどれほどの実力かは大抵わかる。

 エクス・ティンクレイというサッカー選手。

 この試験を受けに来た人たちのなかで一段抜けてサッカーが上手い。

 おそらくソロプレイでもストライカーとして活躍できるだろう。

「オラオラ! びびったらぶっ飛ばす!」

「うおっ⁉」

 ボールを奪おうとした相手をショルダーで弾き飛ばしながら進むティンクレイ。

 ただ肩をぶつけただけで人が紙切れのように飛んでいく。普通の人なら強引なドリブルでもここまで人を吹き飛ばさないのに、何てパワーだ。

「ならば数人で!」

「止めるもんなら止めてみやがれ! 『フルパワードリブル』だぜ!」

 誰がいようが構わない。曲がることもフェイントもかけることをせずゴール一直線に進んでいく。そしてブロックしてきた相手はどうでもいいと言わんばかりに吹き飛ばしていく。

「うわ⁉」 

 妨害してこようがなんの意味もない。数で押しても力で押し返されて、スライディングで襲ってもボール越しに蹴り返されて逆に地面を転がりながら飛ばされる。

 ティンクレイの進む姿は、獰猛なモンスターがゴールという獲物を狙って突き進んでいるようなものだ。

「そんな力任せで! サッカーはパワーだけじゃない!」

「オレが力任せだけのドリブルしかできないと思っているのか! テクニカルドリブルを見せてやるよ!」

 相手の言葉に勝手に乗ったティンクレイは、その場で立ち止まって、至近距離で足を振った。

 あの大振り、シュートやパスに見せかけたキックフェイクか。シュンはそう思ったが、次の瞬間、衝撃の光景を目の当たりにした。

「『アッパーボール』!」

「おえっ⁉」

 なんと、シュートを斜め上に蹴り飛ばして相手ディフェンダーの顎に命中。相手は白目を向きながら上空に体を投げ飛ばされた。

 あまりにもえげつないドリブルに敵はおろか、味方さえも顔がひきつっていた。

「え、えぐい技を……」

 確かにテクニックを用いたドリブルではある。

 だがあのキック力で放たれたボールを顎にぶつけるこのドリブルは見るだけで震えてしまいそうだ。

 ラフプレイが多い異世界サッカーでも残虐な技だと思ってしまうシュン。

 そして相手の顎にぶつけたボールはティンクレイの方にバウンドしながら戻ってきて、

「壊れろ! 『ファイアシュート』!」

 火炎弾、発射!

 触れるものを焼け焦がす炎のシュートがゴールキーパーのど真ん中に向かっていく。確実にゴールキーパーをぶっ飛ばす気で放ったシュートだ。

「ば、バリアで!」

 バリアの魔法で止めようとしたが、魔法を発動する前にキーパーの胴体のボールが命中。

 そしてシュートボールの勢いは止まることなく、そのままキーパーごとゴールに叩きつけた。

「ごはっ!」

 血を吐きながら地面に倒れるキーパー。それだけで今のシュートの威力がすさまじいことがわかる。

「ふん、チョロいぜ!」

「や、ヤバイよ……ティンクレイ君、化け物よ」

「あんなシュート、受けたくねえ……」

 相手チーム、誰もがティンクレイのプレイに恐怖の表情を浮かべた。

 それほどまでの実力の高さ、そして狂暴なプレイング、その二つがティンクレイの恐ろしさを物語っている。

 相手が震えているのを見てティンクレイはつまらなそうに振り向いて、

「はっ、ビビりが。こりゃもう勝負する必要ねえな」

「まだ試合は終わっていないぞ」

「相手、足ガクガクだ。ああなったらプレイの質も落ちる。誰も俺を止めれねえ。まあビビってなくても俺には勝てねーだろうけどな、ハッハッハ!」

 つまらなそうにはしていたものの、シュートを決めたのは嬉しいのか大声で笑いながら自分のポジションに戻っていこうとした。

「油断はするものじゃないがな。だけど」

「あっ、まだ文句あるのか?」

 いい気分なのに、注意の言葉を送ってくるシュンにイラついて、一瞬ぶっとばしてやろうかと考えたティンクレイ。

 シュンはそんなティンクレイの思惑を知らぬまま言葉を続けて、

「いや、今のシュート。最高にイカしていたぜ」

「おっ?」

 称賛の言葉をティンクレイに送った。

 予想してなかったティンクレイ、足を止めてシュンの言葉に耳を傾けた。

「魔法の威力も凄いが、なにより蹴りのパワーがボールによく伝わっている。だからあの高威力のマジックシュートを放てるって訳だ。いいシュートだぜ」

「だろ、オレのシュートをよく理解してんな! そうさ! オレは最強のストライカーだからな!」

 滅茶苦茶喜んでいた。

 気分良さそうにシュンの背中を叩いてくる。持ち前のパワーで叩かれているためかなり痛いが。

(やはり実力はこの中でもトップクラスだな)

 実際のプレイを見て、サッカーの技術も高いが、なによりパワーに関してはトップクラス。

 中等部で活躍していたというのも頷ける。

 そして試合は再開。今度は相手がボールを持ってゴールをとろうとこちらに向かってくる。

「へっ、奪ってもう一点取ってやるぜ!」

 余裕そうに相手のドリブルを止めようと近づく。ショルダーチャージで相手を吹き飛ばそうとしたその瞬間、

「来た! 『ウインドドリブル』!」

 相手が魔法を発動。

 自身の回りに強風が吹き、ティンクレイの体が風に流されて地面に転ばされてしまった。

「うおっ! 魔法使ってきやがったか!」

「ティンクレイ、油断するな!」

「俺を油断させた相手が悪いんだよ! 相手が魔法を使うならこっちも容赦しねーぜ!」

 抜かされたことにイラついているティンクレイ。

 絶対にぶっとばしてやる、そんな呟きが聞こえた。根に持ちすぎだ。

 戦況はシュンのチームが攻められてる。

 相手は魔法を駆使して徐々にボールをゴールに近づけている。

「なにしてやがる! 強引にタックルしやがれ!」

 ボールを奪えない味方に激を飛ばすティンクレイ。

 相手はこちらのディフェンシブサードに入り込んでいる。シュートを打たれるのも時間の問題だ。

「お前も抜いてシュートだ!」

「…………っ!」

 相手のボールをもっている選手が、エスバーを抜き去ろうとしている。

 エスバーはどこかぎこちない動きをしている。

(試験官に見られて緊張して……いや、まさか相手の顔を見て緊張しているのか!)

 どっちかはわからない。だが緊張で動きが鈍いのは確か。

 これでは簡単に抜かされてしまうだろう。

(このプレイは愚策だが、今のエスバーにはこの言葉を送るしかない!)

 シュンが考えた言葉はサッカープレイヤーとしてのアドバイスと考えたらあまりにも愚かなプレイのアドバイス。だが緊張しているエスバー相手ならこれしかない。

「エスバー! 相手ではなくボールを見ろ!」

「…………! ……うんっ!」

 シュンの声を聞こえたのか、エスバーは視線を落とす。

 そしてこちらに転がってくるボールだけを見て、

「…………くッ!」

 一瞬で近づいてボールを奪い取った。

「よし! やっぱり守備は上手いと思ったんだ!」 

 さっき見た練習で壁に跳ね返って遠くにいったボールにすぐに追い付くスピードはあったんだ。冷静になれば相手のドリブルぐらい簡単に止めれるはず。その予感は的中した。

 とられて相手は戸惑ってふらついてしまう。

「なっ!?」

「…………誰か!」

 エスバー、すぐさま近くの味方にパス。

「急いで前線に渡すよ!」

 そして味方チームのパス連携。始めて組んだチームだからかつたないものの、ボールはティンクレイに渡った。

「へ、それでいいんだ。攻めるぜ!」

 そしてそのままゴールに向かって走り出そうとしたティンクレイ。

 また単独プレイか、味方たちはそう思った。

「――フッ! おい、シュン! パスだ!」

 ドリブルを止めた途端、ボールをシュンに送ったのであった。 

「ティンクレイがパスを出した?」

 フィールドにいる誰もが驚いた。単独プレイを好むあのティンクレイが仲間にパスを出したのだ。

 ありえないと思っていた、先程みたいに一人で敵陣に乗り込んで相手を蹂躙してゴールを奪ってくるのだと考えいた。

 だが一人を除いて驚いていない者もいる。

「もらったパスは無駄にはできんな!」

 パスを受け取ったシュンだ。

 まさか、とは思ったが驚きはしていない。

 すぐさま敵陣に向かってドリブル開始。

(オレのシュートを見て怖がるどころか誉めるなんてよ。おもしれーやつだ、テメーの実力、見せてもらおうじゃねーか)

 シュンにパスを出したのは気分だ。シュートを決めて、称賛の声を受けた。気分がいいからティンクレイはシュンにボールを渡したのだ。

 それにシュンの実力がどれだけのものか見たい。

 その二つの理由がシュンにボールを渡した理由だ。

 シュンはほぼボールを持っていない状態の走る速度と変わらないスピードで相手の陣地に侵入。狙うはゴール、それひとつ。

「ティンクレイと比べたら!」

 相手のミッドフィルダーがシュンを止めようと向かってくる。

 左右に離れてすぐに二人組連携でシュンからボールを奪ってくるだろう。

 ならば、

「遅いぜ!」

「「えっ?」」

 ギアをあげてトップスピードで一瞬に抜き去る。さらにスピードが上がると思わなかった相手はポカンとした顔で立ち止まってしまう。

 二人が連携して止めてくるなら、連携する前に突破すればいいだけの話。

「油断するんじゃねー! 全力で止めにいけよ!」

 簡単に抜かれてしまった味方にきれる相手。

 そして魔方陣を展開。青色の魔方陣から水が発生する。

「『ウェーブブロック』だ!」 

 大きな波を発生させて、ボールごとシュンを飲み込もうと襲ってきた。

(波で体がすくわれちまうな、ならば!)

「俺も、魔法の練習はしたんでな!」

 シュンはボールを上空にあげて、自身も飛び上がって魔方陣を発動。

「『ゲイルステップ』!」

 すると足元から爆発するかのような突風が吹きあられ、ジェット噴射のごとくシュンの体を足から押し出して、自身が突風になったかのような速度で空中を飛ぶ。

 前に高速で飛びながらボールを足首でキープして、そのまま波を飛び越えていった。

「嘘だろ! 突破した!?」

 軽々と波を越えられて驚く相手。

 シュンが新たに開発した魔法のドリブル。『ゲイルステップ』。

 この技のいいところは魔力をそんなに使わないため、魔力量が絶望的に少ないシュンでも何回連発しても魔力切れを起こさないのが利点である。

 そしてシュンは地面に楽々と着地して、すぐさまドリブルをする。

「いいぜ! テンション上がってきたぜ! やっぱサッカーはドリブルだよな!」

 そのあとも自分に襲いかかってくる相手を巧みなドリブルでボールをキープしていく。

 チャージをしてくればローリングドリブルで回転しながら抜き去り、スライディングなら低めの起動を描くヒールリフトで軽々と避け、数人でかかってくるなら一対一に持ち込んで左右のフェイントドリブルで避けていく。

 誰もシュンを止められない。誰もシュンの体とボールに触れることすらできない。

 シュンの姿はまさに風。

 風は誰にもとどめることはできない。

「へー、やるじゃねえか」

「…………凄い」

 鮮やかなシュンのドリブルを見てティンクレイも思わず誉める。エスバーは誰にも聞こえないような小声で感嘆の言葉をこぼしていた。

 そしてペナルティーエリアに入るシュン。

 絶好のチャンス、これで決めなければ点取り屋なんて名乗れない。

「決めてやる! 『ウィンドシュート』!」

 風の渦がゴールに向かって進んでいく。

 コースはゴール隅。高速で飛んでいく。

「今度こそ!『バリアキャッチ』!」

 だが相手も見ているばかりではない。

 さきほどティンクレイにゴールを破られた屈辱。

 これ以上点をとらせてたまるか、と強い意思をもって魔法を発動。

 両手に堅固のバリアを展開し、その両腕でシュンが放った風のシュートをキャッチする。

 止めた、相手のゴールキーパーはそう思った。

「えっ!?」

 手のひらで止めたはずのボールはまだ止まらない。キュルキュルキュルと回転音がゴールキーパーの腕から聞こえてくる。

 ボールはまだ生きている。

 むしろ手の中にあるボールの風の勢いが増していき、手に大きな竜巻が発生。そのまま相手ゴールキーパーは吹き飛ばして、ボールがゴールに突撃。

 ゴールネットを揺らした。

「ヨッシ! 期待には応えられたな!」

 ゴールを決めたシュンは軽くジャンプしてガッツポーズ。

 決めるときは決めた。

 味方チームも喜び人もいれば、シュンのプレイングに目を奪われた人もいる。

「凄い……ティンクレイとは真逆だわ。あんなに華麗な動きで相手を抜き去ってシュートを決めるなんて……」

「だけど、普通のマジックシュートなのにあの威力……どうやって?」

「回転か」

 誰かがシュンのシュートのからくりを言った。

 声をした方に視線を向けると、ティンクレイがシュンを見ていた。

「あのヤロー、風だけでなくボールにも強烈なスピンをかけてシュートを放ったな」

 ティンクレイは気づいた。

 シュンのシュートはただのシュートではない。

 風とボールにドライブ回転をかけて放つことにより、威力をあげていたのだ。

 だからゴールキーパーがキャッチした瞬間、大きな竜巻が生まれて吹き飛ばしたのだ。

「異常だ。回転をあそこまで強くかけれるとは……どういう足の振り方してんだ?」

 だからこそ、シュンのシュートの打ち方が理解できない。

 バリアを破って、なおかつゴールキーパーの体を弾き飛ばす。それは生半可な回転ではないことの証明。

 見ても他の選手と変わらない普通のシュートモーションだったのに。

「へっ、おもしれーやつだ」

 理解できない技術を持っている。

 そのことに笑みを浮かべてシュンを見た。

「よし、皆! まだ試合は終わってない! どんどん攻めようぜ! 相手の攻めがキツくなったら俺も守りに入るし点もたくさんとってやるからよ!」

「ああ、俺たちもいいとこ見せないとな!」

「このままあなたたち二人に任せっきりじゃあいられないからね。当然よ!」

 これはあくまで実践形式のサッカー試験。

 トゥール魔導学院の監督や試験官にアピールする舞台だ。

 ゆえに点をとって活躍したシュンとティンクレイに負けないために、チームメンバーのやる気が燃え上がっている。

「いいね、俺ももっと点を決めてやるぜ!」

 他のメンバーのやる気を見て、シュンももっとギアを上げる気である。

 もっともっと活躍してやると意気込んで自分のポジションに戻っていた。

【エルドラドサッカー日誌】

 ウィンドシュート

 風の魔力属性を持つ選手が自身の足かボールに風をまとい放つマジックシュート。

 属性をまとうシュートはマジックシュートの基礎中の基礎であり、マジックシュートはバリアをボールまとわせてけるバリアシュートと同じぐらいフォワードや攻め寄りのミッドフィルダーに普及している技である。

 属性をまとわせるシュートを覚えなければフォワードには入れない、と言われるほど基本のシュート。

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