試験開始
シュンが行うサッカーの試験は二つある。
一つはサッカー能力測定。
もう一つは実践形式の練習試合だ。
先に行われるのはサッカー能力測定。自身のパワー、スピードなどの身体能力。そして魔法とサッカーの技術も測られる。
「『ウインド』!」
シュンは呪文を唱えている。
いま行われている試験は魔法試験。
マジックサッカーは魔法も使う。ゆえにどれだけ魔法の扱う技術があるかそれを確かめるための試験だ。
シュンの魔方陣から突風が圧縮された風の塊が生まれて、それを発射した。
「おお、村の出身にしては中々の技術……」
(村の中で練習しまくったからな)
シュンは魔力量が他人より少ないだけで、魔法の技術は村のなかでも上の方である。子供達の中でシュンより上手い友人はカガリぐらいだ。
「うぅ……はあ、はあ……頭がクラクラする……」
「君、大丈夫かね?」
「だ、大丈夫です。マジックポーションを飲めば……」
魔法の技術は上がっても、シュンの魔力量はいっこうに成長しないため、試験が終わったあとのシュンは顔が真っ青で今にも倒れそうだった。試験官からも心配されている。
シュンはマジックポーションを飲んで次の測定に備えた。
魔法の試験を終えたあとは、身体能力の測定。
足の速さ、腕の力、長時間走ることができる持久力などを確かめるための測定。
身体能力測定の試験は多く、百メートルダッシュ、握力や筋力の測定、長距離のランニングなどたくさんの測定をこなしている。
そしてそれが終わればサッカーの技術の測定。
シュート、ドリブル、ディフェンス、パスなどサッカーの基本を試験管にアピールする。
中には相手のチャージに耐えられるか、などこの世界でしか考えられないような試験もあった。ラフプレイはファールにならない異世界ならではの試験である。
シュンはその試験にどうやって対処したかというと、
「オラ――がはっ!」
相手のチャージを軽く避けたあとにチャージをぶつける。
カウンターチャージだ。
相手の強引なドリブルを寸前で避けて、素早く反撃をショルダーチャージをぶつける技である。ドリブルで相手の攻撃を避け続けることができるシュンだからこそできるチャージである。
「どうしたんだ? 体を痛めたか?」
「いえ、気にしないでください」
(こういうプレイはあんまり好きじゃないんだがな……)
だがシュン本人は乱暴なプレイは好まない。前世でのサッカープレイヤーとしての理性がそうさせている。戦う相手を怪我させるなんてもってのほか……なのだが、この世界は怪我をしても回復魔法やポーションがあるため、ほかのみんなは結構過激に攻めていく。村のみんなも強引なプレイを練習したときは、ああこれが異世界のサッカーの常識か、と思ったほどである。
そしてこのあとも試験は続いていく。
シュンも、そしてこの試験を受けに来たほかの人たちも真剣に取り組んだ。合格を得るために。
「もっとハードな試験でもいいんだぜ? オラよ!」
ティンクレイは持ち前の身体能力と魔法技術で、試験を高得点に納めていく。
伊達に中等部でエルドラド魔導祭で活躍してたわけではない。ほかの人よりも明らかに点数が高い。
そして、シュンはどうかというと。
「うん、これといった失敗はしていないな」
シュンはすべての試験を高得点で納めていった。
魔法も練習して平均点は越えている。身体能力とサッカー技術は村でのサッカーや森林の山を走り回ったりして鍛え上げた。
試験に落とされるような結果は出していないはずだ。
「皆、おつかれ。サッカー能力の測定は終わった。よく頑張った」
監督がそう告げる。
今のでここにいる全員の測定が終わったみたいだ。
全力を出して満足している人もいれば不安そうな顔を浮かべている人もいる。
「だが、試験はまだ終わっていない。次の試験、実戦形式のサッカーをしてもらう」
試験はまだ残っている。
実戦形式のサッカー、すなわち今からサッカーをして自分の実力を監督や試験官にアピールするタイムだということだ。
「先程受けた試験を元にして、レッドチームとブルーチームに選ばれた方に入ってもらう。そして実戦を行い、自分のプレイングを我らに存分に見せてほしい。ルールは前半後半どちらも十五分、計三十分。魔法の使用は認める。全力でアピールしてくれ」
試合の時間は短い。
そのなかで自分の実力を示すには大変だ。しかも監督たちに見られていては緊張もするだろう。
「へっ、いいじゃねえか。やっぱ実戦で結果を残すやつが一番うめえんだよ。さっきの試験なんて遊びだぜ」
ティンクレイは闘志をたぎらせている。早くサッカーをしたいらしい。
「いや、遊びじゃあねえだろ」
「おいシュン! 勝負しようじゃねえか」
「勝負だと?」
いきなり勝負を挑まれた。
「お前、ポジションは?」
「フォワードだ。ほかのポジションも一通りできるが、メインはフォワード」
「だと思ったぜ、オレと同じだ。ならちょうどいい、勝負しようぜ。どちらがストライカーにふさわしいかをな。まあ、勝つのはオレだろうけどな」
「いいぜ、サッカーの勝負はどんな内容であろうと引き受けるぜ!」
いきなり勝負を仕掛けられた。
だがシュンにとってサッカーの勝負はどんとこいだ。
「あの二人、燃えてるぜ」
「まあ、正直俺らも楽しみだな。二人の勝負」
測定で高得点をだし、準備運動の練習でサッカーの技術を見せた。
次の試験でどれだけ暴れるのか、誰もが注目していた。
「……」
「おい、なんかしゃべれよ」
「いや、だってよ……」
二人は隣同士で立っている。
シュンは恥ずかしそうに、ティンクレイはイラつきながら。
そして二人の服装は同じ赤色の魔導士が着そうなユニフォームを着用していた。
そう、二人は同じチーム、レッドチームに選ばれたのだ。
「くそ、なんでお前と同じチームなんだよ!」
「恥ずかしい、あんな意気揚々とティンクレイの勝負に乗ったのに……」
同じチームになることが頭になかった二人。シュンは先程の宣言が恥ずかしくなり、ティンクレイはぶちギレている。
周囲のレッドチームのメンバーも生暖かい目で彼らを見ていた。
「考えてみれば、同じチームになる可能性もあるよな」
「勝負の宣言して、こうなったら恥ずかしいよな」
「うるせいぞお前ら! まあ、いい! 同じチームなら多く点を取った方が勝ちでいいな! テメーより多くシュートを決めればいいだけだ!」
「おい、暴走だけはするなよ。最低限のチームプレイはしろよな」
「はっ、いらねえよ。そんなもん、俺が大量に得点をとればいいだけの話だ。サッカーは点を取ったやつが勝つ競技だぜ」
シュンの言葉なんてどうでもいいと言わんばかりに聞く耳持たない。
攻めも守りも一人でやるつもりだろう。
「ありゃソロプレイに走るな……まあいいさ。俺のプレイをするだけだ」
いつまでも恥ずかしがってはいられない。
実践形式の試験でも活躍して監督や試験官にいいところを見せなければ。
「皆、集まってくれ。試合が始まる前に名前と自分の得意なポジションと特技を教えてくれ」
サッカーはチームスポーツ。今日であったばかりの人と連携をとるのは難しいが、せめて名前とポジションは知っておきたい。
「おい、ティンクレイ。お前もこっちにこいよ」
「自己紹介しなくても、全員オレのこと知ってんだろ?」
「皆はお前のことを知っていても、ティンクレイは俺らのこと知らないだろ? 声かけるときに困るぞ」
「番号かお前で呼ぶぜ。じゃあ、先に行っておくからよ」
先にフィールドに向かうティンクレイ。
ワガママなやつだ、シュンは頭を抱える。
「まったく……俺の紹介いくぜ。俺はシュン。メインポジションはフォワード。ドリブルなら誰にも負けない。こんなところか、じゃあ次は君だ」
「え、えーと。私は――」
チームメンバーの自己紹介が始まる。
名前とポジション、そして
「よし、次の人」
「…………」
「君は、さっきあった」
ボールを渡した子だ。
自分が指名されたからか視線が泳いでいる。緊張しているのがすぐにわかる。
「…………」
「あの、自己紹介をしてくれると嬉しいんだけど」
「…………」
スイーっと横に目をそらす。
言葉を発しない。
「な、名前とポジションだけでいいんだ。
「…………」
それでも黙ったまま。
どうしようかと悩むと、
「…………フレイ・エスバーです」
「――!」
ようやく喋ってくれた。
わりとかわいい声である。
「…………ポジションは……ディフェンダーもできます……」
「わかった。教えてくれてありがとう」
礼をいってシュンはすぐさまチームのフォーメーションを考える。
「よし、これでいいな」
シュンが作ったフォーメーションは4ー4ー2。
彼らのポジションを聞いて決めた。
バランスがよく、スタンダードなフォーメーションだ。
「皆、自分のポジションを確認してくれ。できたらフィールドに行こう」
「「おう!」」「「うん!」」
「…………ッ!(コクコク)」
全員頷いてフィールドに行って、担当するポジションに立つ。
(ここからが本当の試験……だろうな)
緊張してきた、だが同時に楽しくもなってきた。
この場所で自分のサッカーを見せる。やるべきことはそれだけだ。
【エルドラドサッカー日誌】
・オドロン村
シュンが住む村。サッカーが大好きな人が多い。
村の広さも人口も中々で、街に比べると少ないが他の村に比べると多いぐらい。
街に村で作った農産物を売り出して、そこで利益を出して村を経営している。
魔法の教育はあまり発展していない。
外の街からは「オドロン村の人々はサッカーが上手い」と噂が。
名産品はオドロンキノコ。シュン曰く「カラフルな色をしているシイタケみたいな。生で食べることができるすごいキノコ」