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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
序章
23/130

異世界の夢

 その会場は人の歓声に響いていた。

 空いている席がない満員満席。

 誰もがサッカーフィールドに視線を向けている。

 まだ誰もサッカーフィールドに人は立っていないのに、それでも熱い視線を向けていた。

 ここはキャペルのサッカー会場。

 この場所でエルドラド魔導祭のサッカー大会が開かれる。

 シュンとレイカは観客席に来ている。

 ちなみにシュンの両親とレイカの付き人たちも少し離れた場所にいた。

「凄い人だ……ほぼ満席」

「当然よ、エルドラドで誰もが熱中しているサッカーよ。しかも今年の魔導祭で競技に加わったから、初めての大陸規模の大会が開かれたようなものよ。誰もがサッカーを見たくてこの場所に来ているわ」

 この会場を見てシュンはサッカーを広げてよかったな、と強く思った。

(ああ、俺が楽しんでいたサッカーがこんなにも多くの人を熱狂にしてくれている)

 今考えれば凄いことになったものだ。

 最初は自分がサッカーをしたいから、村のなかに広めていったサッカーが。

 今では大陸の人々が夢中になっている。

 これも村の皆や友達、今は遠くにいるリーザンがサッカーを楽しんで、エルドラド中にサッカーを広めていってくれたおかげだ。

(嬉しいな。異世界は俺だけでなくサッカーを受け入れてくれた。俺の夢を……エルドラドは受け入れてくれたんだ)

 サッカーを皆で遊ぶ。

 それが自分の夢。

 今目の前に広がっている。

「そろそろ始まるわよ」

「そうだな」

 もうすぐ始まる試合にシュンは心を踊らせた。


 空に輝く太陽が会場の熱気をより熱くさせる。

 サッカーフィールドに一人の少年がボールを持ってゴールに一直線に進んでいる。

「おい、あのチームのストライカーがボールを取ったぞ」

 黒と赤が混じったユニフォームを着た選手が敵陣に切り裂いていく。

 彼が狙うは当然、点を取ること。

 しかし、目の前に相手ディフェンダーが立ちふさがる。

 するとディフェンダーは魔方陣を展開、足を振ると竜巻が現れて、その竜巻がボールを持った選手に向かって進んでいく。巻き込まれたら上空に吹き飛ばされてボールを奪われてしまう。

「魔法の規模が段違いだ……竜巻を発生させて相手を吹き飛ばしつつボールを奪うなんて」

「いや、待って」

 ボールを奪った選手に、背後から小柄の少年が。

 右肩に白色のキャプテンマークがある。

「あれ、キャプテンか? あのカットは」

 無駄を削ぎ落としたかのようなカット。相手の横を通っただけでいつのまにか足元にボールがある。

 おそらく横切った瞬間、足でボールを奪いつつスピードを落とさず抜き去ったのだろう。

 サッカーの実力者でなければできない技だ。

 そして目の前の敵に、ボールをかかとであげて抜き去って、さらに落ちてきたボールを足の甲で受け止めてから右回転。もう一人も華麗に抜き去った。

 その大技にレイカはシュンの方を見ながら、

「今のはシュンが使ったヒールリフトにローリングドリブル!?」

「それを合体させた技か! 面白いな、あとで真似してみるか!」

 目の前で繰り広げられた技を見て自分の技にしてみたいなと思っているシュン。いい技があったらなら練習するのは大事だ。

 そしてとうとうシュートチャンス。少年はここぞとばかりに魔方陣展開。

 ボールから旋風が巻き上がる。

「決めるよ! 『ストームシュート』!」

 彼の足から放たれたのは風の螺旋槍。触れたものを吹き飛ばす強大な風魔法のシュート。

 地面すれすれの低空軌道でゴールに向かって発射された。

 ゴールキーパーは相手のシュートを止めようと、魔方陣を展開。するとバリアを展開してシュートを迎え受けようとした。

 風のシュートとバリアがぶつかり合う。

 しばらくすると、バリアの方にヒビが入ってぶち破られた。ゴールキーパーはそれでも諦めずシュートに両手でキャッチしたもの、自身の両腕が弾かれてそのままシュートはゴールにはいった。

「おお! 見事に点を取ったぜ!」

 シュートがゴールに入り、観客は大盛り上がり。シュンも立ち上がって歓声を上げる。

「やったな!」

「当然だよ。僕のシュートは絶対だからね」

 見事ゴールを決めたチームのキャプテン。チームメイトが喜びの声をあげながら近寄ってくる。相手チームはしまった、と落ち込んでいた。

 点を取った選手はチームメイトにもみくちゃにされながらも、喜びの雄叫びを上げていた。

(……なんだろうな、なんか、懐かしい気分だ)

 試合を観戦するのはいつぶりだろうか。

 そう思っていると、

「――っ!? 」

 その時、シュンの視界にあるビジョンが写った。

 白黒の風景、だがシュンには忘れることのない記憶。

 そう、あの時の、

(――前世の、中学全国大会決勝!)

 そうだ。

 シュンの人生が変わったあの試合。

 今シュンの目に写っているのはドリブルしている自分の姿。風間瞬の頃の姿。

 同点の状況、勝つために必死に前線に向かってダッシュしている。チームの味方もシュンについてきている。

 相手を俊敏に抜き去り、まさに一人舞台。誰もがシュンを止めることができない。

(そしてシュートを打ちまくって……最後に味方からラストパスが来てーー)

 覚えていない。

 この先のことをシュンは知らない。なぜか先の部分の記憶が消えている。

(……死んじまったから記憶がねえってか。まあいい、今疑問に思っていることは)

 なぜ今になって、前世の記憶が脳裏によぎったのか。

 なぜ試合の観戦をしている時にこのビジョンが目に写ったのか。

(ああ、そうか。俺は) 

 ――チームの皆と優勝をしたかったんだ。

 優勝して、今まで頑張ったこと、勝利を手にしたことを。

 喜びたかったんだ。分かち合いたかったんだ。

 そのことに今気づいてしまった。

 でもそれはもうできない。

 チームの皆とはもうサッカーができないから。もう出会うことすらできないから。

 ――だけど、

「俺は……この世界でも手にいれるのか?」

 目の前の白熱していく試合をいながら、誰にも聞こえないほど小さな呟きを、そっと口に出した。

 フィールドで試合をしている学生たちを羨ましく感じてしまう。

 自分もあの場所に立ちたいのに。

「今のシュート、いいシュートだったわね。魔法もだけど、あの地面に当たらないギリギリの低さで飛ばすコントロール。やっぱりエルドラド魔導祭じゃあ魔法だけじゃなくてサッカーが上手い人も多いのね……聞いてる?」

 返事が返ってこないことに少し苛立ちながら、レイカはシュンに視線を移すと。

「――え?」

 シュンの目から涙がこぼれていた。

 突然の泣きにレイカは戸惑う。

「ど、どうしたの? シュン、泣いて?」

「……悲しいから泣いているんじゃないさ。魂が震える試合ってのはこういうのだなってわけだな」

 半分嘘だ。

 前世の友達のこと、サッカー選手になる夢、そのことが脳裏に刻み込むようにビジョンとして見せられて、昔に戻りたいという気持ちが強くなった。

 そしてそれが叶わない、その事を実感して悲観したがゆえの涙。

 そしてもう半分は、

「なあ、レイカ。このエルドラド魔導祭で頂点をとればさ、それはこの大陸で一番サッカーが上手いってことになるよな」

「そうね。この先サッカーの大会が開かれることもあるでしょうけど、今はエルドラド魔導祭が一番規模が大きいわね」

「そっか」

 そう、今流した涙は希望の涙。

 この異世界で、サッカー全国大会に等しい大会が今目の前にある。

 もし、この大会優勝できれば。

(昔の皆とは目指せないけど、この世界でもサッカーの頂点を目指せることはできる)

 サッカーで優勝したい、サッカーで頂点をとりたい。

 その夢は叶えることはできる。

「なあ、レイカ。俺は決めた」

「なにを?」

「このエルドラド魔導祭のサッカー大会で優勝する」

「――!」

 シュンは言葉を続ける。

「俺はサッカーでは誰にも負けたくない。だからこの大会に出て、優勝してみせる。このエルドラド大陸でサッカー選手として、一番になってやる」

 自分の好きなサッカーで一番をとりたい。

 大会で優勝したい。

 前世で叶えられなかったこの夢を叶えたい。

 シュンはこの試合を見て、それを強く思った。

 それを聞いたレイカは、

「いいじゃない。夢はそれぐらい大きくないと」

 シュンの夢に頷き肯定する。

「私もあなたと同じ夢を持っていたのよ」

 そして自分の夢がシュンと同じことを告げた。

 シュンは驚くことなく、そうか、と笑顔を浮かべていた。

「レイカもか」

「私、自分の好きなことで負けるの、大っ嫌いなのよ。たとえあなたが相手でもサッカーで負けるのは絶対に嫌。だから私も、来年魔導学院に入学して、サッカーの頂点にたってみせるんだから」

 レイカもまたサッカーを愛している。

 ゆえに頂点をとりたい。

 誰より自分が強い、その事を証明したいのだ。

「いいね、レイカが相手だと燃えるぜ」

「あなた、そんなこと言っているけど。高等部になってどっかの学院に入学しないと」

「まだ一年ぐらい時間があるぜ。俺に合うサッカー部を見つけてやるよ」

 時間はある。

 その間は自分が入りたい学院を探すこともできるし、サッカーの練習もたくさんできる。

 自分を鍛えられる時間は限られているが、一年近くあるならもっと実力をつけられる。

「もし戦うことになったら、手加減しないから」

「するなよ、全力で戦え。そして、楽しもうじゃねえか」

「そうね」

 好戦的な姿勢を見せる二人。

 シュン自身、同じチームでもいいな、とも思っていたが、別のチームで戦うのも悪くない。

 レイカならサッカーで熱い勝負ができるはずだ。

「……試合の観戦に戻りましょうか」

「だな。なあ、レイカ。この試合が終わったあと、またサッカーしないか? なんか体を動かしたくなってよ」

「するに決まっているわ。今も足がうずいているけど、見るのもまたさっかーだから」

「そうだな」

 二人はフィールドに視線を戻す。

 両方とも、熱き闘志を燃やして。

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