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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
序章
22/130

最高のコンビ、復活

「さあ、ここよ」

「おお!」

 レイカに案内されて来た場所はキャペルのサッカーフィールド。

 ここは自由に使っていい場所であり、普段はサッカーボールを持った少年少女達がここに来てサッカーをするのだ。

 だが今は制服を着た生徒がボールを蹴っていた。

「人も多いけど、なんか学生が多いな。全員サッカー部か?」

「違うわ。ここにいる皆、魔導祭に観客として来た学生たちよ。気分転換にサッカーをしているのよ」

「へー」

 競技を観戦していたら、とりあえず体を動かしたくなるのだろう。

 サッカーでフィールドを走って気分爽快、といったところか。

「よし、さっそくこのシューズの履き心地を確かめてみるか。彼らのとこに入っていいか聞きに行くぜ!」

「ええ、相手が中等部でも高等部でも勝ってやるわ!」

 二人ともすぐさまサッカーフィールドに向かう。速くボールを蹴りたくてウズウズしている。

 フィールドにいた男子生徒に声をかけた。

「ねえ、入っていいか?」

「ん? ひょっとして君たちもサッカーがしたいのかい?」

「まあ、そうだな」

「いいねえ、ちょうどこっちも人数欲しかったんだ。このままだったらミニサッカーになってたよ。よし、入ってくれ。ああ、魔法の使用禁止な。俺たち、サッカーでの魔法の使い方なれてないからさ」

「いいわ」

 一緒にしていいと言われて、二人は喜んでチームの中に加わる。

「シュン、どれだけ上手くなったか私に見せなさいよ」

「ああ、存分に見せてやるぜ。レイカの活躍の場を奪っちまうかもな」

「言ってくれるじゃない。期待通りの活躍を見せてね」

 そんな軽口を言い合いながら二人はポジションにつく。二人ともメインポジションはフォワード。チームの先頭に並んで立った。

 笛がなり試合開始。

 相手選手がボールを味方に渡して、こちらのゴールに向かって走り出す。

 つたないドリブルだがなかなか速い。

「ふっ、邪魔よ!」

 相手選手がレイカを抜かそうと、ハイスピードで駆ける。横をダッシュで通り抜けるつもりだろう。

 だがレイカ相手にそれをするのはまずかった。

「邪魔はそっちよ!」

「キャア!?」

 レイカの横を通ろうとした瞬間、反応して強引なショルダーチャージでかます。レイカの肩に当たって吹き飛ばされる相手選手。大空に向かって体が飛んでいる。

(レイカ、前よりもパワーアップしたな)

 モンスターにも負けない驚異的な身体能力は今も健在。むしろ家で使用人とサッカーをし続けた結果、パワーはより高くなっていた。

 ボールを奪ってレイカはシュンを見た。

「シュン! あれ、できるわよね!」

「ああ! 全力でこい!」

 レイカは勢いよくシュンにパスを出す。パワーがのったパスは相手選手取れず、シュンに渡す。

 そしてシュンはそのパスボールを蹴り返してレイカに渡す。レイカもシュンと同じように蹴りかえし、二人は前進しながらボールを蹴り返してパスを繰り返す。

 かつて二年前にやったダイレクトパスコンビネーションである!

「あ、あのパスは!」

「サッカー部に所属している生徒でさえもほとんどできない、ゴールに進みながらのダイレクトパス!」

「マズイぞ! この二人、明らかにサッカーをしなれている! 実力者だ!」

 相手味方誰もが二人のコンビプレイに驚愕。

 なにせこの素早いパス連携だ。ちょっとサッカーをした程度の素人ができるようなものではない。 

(パスで伝わってくる! レイカ、実力をあげたな)

(シュン、あなたも上手くなっているのね。前よりすばやくパスをしあえているからわかるわ)

 パスの連携で互いの実力の成長がわかった。出会うことはなくてもサッカーを真剣に取り組んできたことがボール越しから伝わってくる。

 ハイスピードでありながらこの正確さ。

 二人のサッカーの実力は高等部のサッカー部にだって負けていない。

「止める!」

「止まらないぜ!」

 間に相手選手が入ってこようとも、シュンはループパスでかわすようにレイカに渡す。山成でありながら精密なパスだ。

「ならばそっちのお嬢さんに!」

「できるものならやってみなさい!」

 一方、レイカはむしろパスを強めて、相手が反応する前に渡す。強引な渡し方だ。スピードとパワーが乗ったパスはシュンの足にしびれが走るほどの威力を秘めている。シュートでも売っているのかと錯覚してしまうほどだ。

「おい、レイカ! 足が痺れてきたぞ!」

「ならもうしびれていない方の足でパスしなさい!」

「わがままな注文するねえ! なら!」

 これ以上のパスは足が痺れてしまいパスをしそこなってしまう。そうなったらレイカの足を引っ張ってしまう。

 ならばこっちもわがままを通すのみ。

 シュンは受け取ったパスを地面におとして、

「俺一人で突撃するぜ!」

「そう来るのね! まったく!」

 そのままドリブル開始! 突然の行動に驚くことなくレイカもシュンについていくようにゴールに向かって走っていく。

 全力疾走で変わらない速度のドリブルでフィールドを駆け抜ける。

「いいぞ、このシューズ、走りやすい! 何千キロだって走り抜けるぜ!」

「うわ!」

 目の前にいる相手選手をすばやく抜き去り、さらにドリブルが加速する。

 レイカに買ってもらったこのシューズ。

 まだ完璧に足に馴染んでいないのにこの走りやすさ。ボールのタッチのしやすさ。普通の靴より段違いだ。

「いいね! 最高だ!」

 再び相手選手が守りにくるも、今度は目の前で立ち止まってすぐさま足でボールを拾って回転しながら相手を避ける。止まった瞬間に襲いかかってきた相手選手は急に回り始めたシュンに対応できず、避けられてしまう。追いかけようにも、シュンはもうすでに追い付けない距離まで先にいた。

 今のシュンは完全にノッテいる!

「シュートは打たせないぞ! ボールを奪う!」

 相手はシュンを止めようと襲ってくる。

 三人同時に攻めてきた。一人はショルダーチャージ、もう一人はスライディングタックル、最後の一人はジャンプチャージ。地空の進むルートを防いできたのだ。

(三人で囲むようにきたか。これはすこし骨が折れるな)

 三人が連続でボールを奪いに来るのは案外楽に越えられる。一対一を三回して抜き去ればいいだけの話。普通なら難しいがドリブルが大の得意なシュンならできる。

 だが三人同時で来るのは、目の前に壁がやってくるようなもので、抜き去ろうにも厳しい守りでボールを奪い取られてしまう。

 生半可なドリブルでは激しいチャージで吹き飛ばされてしまうだろう。フェイントを仕掛けようにもすでに相手が動いているため効果はない。

 厳しい状況だ。

「だが、これを抜けば!」

 相手のペナルティーエリア付近にディフェンダーはいない。

 目の前にいる三人を抜けば大チャンスというわけだ。

 シュンは目の前の三人を目を必死に動かしてどこが抜け道かを探して。

「そこ!」

 ボールを足首に固定。そして前方に向かって全力で飛び込んだ。

 頭をつき出すようなジャンプは自身の当たり判定を小さくして、敵のディフェンスを潜り抜ける。地面に着地する瞬間に前転してすぐさまドリブルを開始。

 突風のごときスピードと強引さで相手のディフェンスをかわしきったのだ。

「「「え!?」」」

 まさかの抜け方に相手チーム、驚きの声。

 シュンはそのままゴールキーパーと相対した。

「そのままシュートを打たせるかよ!」

 だが横から残っていた相手選手がゴールキーパーの前に立つ。

(さっきまでいなかったのに……もう戻っていたのか)

 サッカーの技術はつたなくても、身体能力は負けていないということか。

 このままシュートを打てば足で防がれる可能性もある。なら工夫のあるシュートを打つのみ。

「くらえ!」

 シュンはすぐさまシュートを打ち込んだ。

 ボールの下を掬い上げるような蹴り方。ループシュートである。

「あ――」

 相手ディフェンダー、力のこもったシュートを予測していたためかトリックシュートに反応できない。山なりの軌道を描くボールは止まっているディフェンダーの頭上を越えて、ゴールに進んでいく。

「決めさせるか!」

 だがディフェンダーは動けなくても相手ゴールキーパーは反応していた。

 ジャンプしてパンチングでシュンのループシュートを弾き飛ばした。

「防いだ!」

「そんなわけないでしょ!」

 なんとかゴールを防げたと思ったその時、レイカが弾かれたボールを足で受け止めていた。

 そしてそのまま左足で素早くシュート。パワーよりもスピードがあるシュート。パンチングで防いだときに体制を崩したゴールキーパー。急いで立ち上がるも間に合わず、ゴールにボールが入っていった。

「うわああ! 入ったわ!」

「二人、上手すぎだろ。俺たち見ているだけだったぜ」

 シュンと同じチームメンバーも二人の活躍に舌を巻く。

 自分達よりも明らかに上手い。あの二人のサッカーの腕はなかなかのものだと、今のプレイで感じ取ったのだ。

「やったわ! まあ、シュンが作り出したチャンスを無駄にするのはストライカー失格だしね」

「レイカ、やったな! いいシュートだったぜ!」

「あなたのドリブルもよかったわ。あの抜け方は、ちょっと驚いたけど」

 さすがに飛び込みドリブルはレイカも想像できなかったみたいだ。

「どうだ、驚いたか?」

「あなたも強引なプレイできるのね」

「まあな」

 いつだって最善のプレイを心がけている。あの飛び込みドリブルだって相手を抜き去るためにとっさに考え付いたことだ。

「やっぱりあなたとコンビを組むのは楽しいわ」

 レイカはシュンを見ながら、

「シュン、相手が誰だって負けない自信がつくわ」

「俺も同じさ。やっぱり君とするサッカーは面白いな。いつもの自分より上手いプレイができる」

 ここまで息があうのはそうそういない。シュンはレイカとのサッカーが楽しくて仕方ない。レイカも同じ気持ちであった。

 二人が喜んでいると、チームの味方が二人に近づいて、

「なあ、そこの二人。君たちどこの学院だ?」

「俺は村の学校に通っているよ。年は中等部だな」

「私もシュンと同じようなものね」

「二人とも中等部だって!?」

「まじかよ、二人ともそうは思えねえ」

 高学年のサッカー部にも負けないプレイング、ついでに容姿が中等部と思えないほど大人びているのが原因で、自分達と同じ高等部だとチームの味方は思っていてたのだ。

 ちなみにシュンとレイカはこっそり話し合いをしている。

「レイカも学校に?」

「私は家で働いている使用人が家庭教師をやっているのよ」

「なるほど」

 なにも学校や学院に通うだけが学ぶ行為ではない。

 金持ちの家なら優秀な家庭教師を雇用してマンツーマンで勉強するのも手であろう。

「しかし、シュンだっけ? 君のドリブル凄いね。見たことない技ばかりだし、足さばきも立派だし」

「やっぱシューズがいいからかな。もっとスピード出せるぜ」

「それはよかったわ。感謝して」

「ああ、感謝してるよ」

 レイカには心のそこから感謝をしているシュン。

 やはりサッカーシューズはサッカー選手の心強い味方だ。このシューズのおかげでドリブルもシュートもよりレベルが上がるだろう。

「このシューズ。大事に使うよ」

「ええ、大事に使って。壊れたらまた買ってあげるわ」

「そ、そこまではしなくてもいいと思うが」

「なに、私のプレゼントを受け取れないっていうの?」

 友人とはいえ、ものをもらってばかりでいいのか、という考えが頭によぎるが彼女があそこまで意思が強いなら感謝してもらうべきかもしれない。

「よーし、二人の活躍。期待してるぜ? 俺たちも頑張るからよ」

「よし、もっと点を取ってやろうぜ。いや、次は俺が点を取る」

「いや、私だってもっとシュートを打ちたいわ」

「さっき点取ったから俺に打たせてくれよ」 

「あのー、俺たちも攻撃に参加したいんだが」

 味方の言葉も無視して二人は試合でシュートをどっちが打つかもめている。試合が始まれば、そんな言い争いもしなくなるほどの連携プレイを見せるが、どちらも我が強いストライカーなのだ。点を決めたいのは当然のことである。

 そして二人はエルドラド魔導祭のサッカー大会が始まるまで、この場所でサッカーをしたのであった。

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