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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
序章
21/130

再会

 まさかの再会。

 シュンはレイカと再び顔を合わせるときが来るとは思わなかった。

 オラリマの街ではなく、このキャペルで偶然出会ったのだ。

「あー、レイカ様って言ったほうがいいか?」

「いらないわよ! あなたに敬語使われるとむず痒くて仕方ないわ……本当にあなたにまた会えるとは思わなかったわ。他の皆は?」

「今日は家族で来たんだ。ドーロンたちは村にいるよ。リーザンは……魔導士の仕事のためこの大陸から離れて違う国に行ったよ」

「そう……魔導士って大変なのね」

「リーザンは自身の夢のために、他の大陸に行くことを決断したんだ。だから俺は寂しいとも思ってけど頑張って、って応援しながら送ったよ」

「夢のために。自分の意志でエルドラド大陸の外に出たってことね」

 懐かしそうに話す二人。

 二年も顔を合わせることがなかったのだ。久しぶりに出会えて二人とも喜んでいる。

「シュン。彼女はもしかして前に話していた……」

「ああ、そうさ。友達のレイカさ」

「どうも、こんにちは。私はレイカ・レクス・ヴィルカーナ。よろしくね」

「えっと……私はどういう対応をすればいいんだ?」

「挨拶を返せばいいのよ。ヴィルカーナさん、こんにちは」

 子供のシュンの友達とはいえ、貴族の娘に挨拶されるとは思わなかったモメント。

 そんな焦っているモメントを尻目にシュユはレイカに挨拶を返した。

「ほっほっ、お久しぶりでございます。シュン様」

「あっ、ばあやさん。どうもです」

 レイカのお世話役のばあやさんもいる。後ろに使用人もつれていた。

「シュン様のご両親様、おはようございます」

「お、おはようございます」

 こちらも挨拶を交わしていた。

 モメントは緊張しっぱなしだ。逆にシュユはニコニコと笑顔を浮かべている。いつでも平常心だ。

「レイカもこの祭を楽しむために来たんか」

「あなたもいるなんて。まあ目的はあれでしょ。サッカーを観戦しに来たんでしょ?」

「そうさ」 

 やっぱりね、そう言ったレイカ。

 一日だけサッカーをしあった仲だが、だからこそわかる。

 シュンがサッカー大好きの少年だということを。

「ねえ、シュン」

「なんだ?

「一緒にこの辺を回りましょう。サッカーの試合まで時間があるわ。私が案内してあげる」

「本当か!」

「この街には何回か来たことがあるから」

 それは助かる。

 この街に来て、サッカーが始まるまで何を見て時間を潰そうか悩んでいた。

 レイカならこの街の観光スポットや魔導祭の競技のことを詳しく知っているだろう。

「どうしましょうか、モメント」

「二人っきりにしてあげよう。友達同士の遊びに親が関わるのは挨拶のときぐらいだけだよ。お偉いさんが相手でもね。シュン、楽しんできなさい」

「うん、じゃあ行ってくるね」

 父と母から離れて、二人はキャペルの街の中に向かっていった。

 ちなみにレイカの使用人が護衛のため、こっそりとついていっていることはシュンは知らない。




「レイカ、そっちはサッカー楽しめているか?」

 街のなかを歩きながら、シュンはサッカーのことを聞いた。

「ええ、今はばあやや使用人のみんなもサッカーを一緒にしてくれるの。今では私と互角に戦うぐらい上手くなっているわ」

 レイカは楽しそうに語る。

 ばあやさんやヴィルカーナ家の使用人たちはサッカーの練習をしたのだろう。

 あの時、ばあやさんにサッカーをしてみては、と言ってよかった。シュンは喜んでいるレイカを見てそう思う。

「そんなに上手いんか。俺もばあやさんとサッカーしてみたいぜ」

「そっちはどうなの?」

「最近、俺が住む村に観光客がサッカーをしにやってきてね。中には冒険家や魔導士も来て、一緒にサッカーしたりしてるんだ」

「ふーん……」

 見知らぬ人とサッカーができるのは少し羨ましい。

 使用人たちをサッカーができるようになっても、シュンのようにいろんな人とサッカーはできないのだから。

「ということはあのときよりももっと上手くなっているわけね」

「まあな、それはレイカもだろ」

 シュンもレイカも今日までたくさんのサッカーをしてきたのだ。

 サッカーの技術は上がっているだろう。 

(だけど、まあ今はサッカーのことは後にして祭りを楽しむか)

 サッカーなら後で楽しめる。

 今はエルドラド魔導祭を楽しもう。

「じゃあせっかくエルドラド魔導祭に来たのだから、私がおすすめする競技を見ていく?」

「レイカがおすすめする競技か……楽しそうだな! 行こうぜ!」

 レイカの案内についていく。

 エルドラド魔導祭は始まったばかりだ。


 

 

 箒にまたがって空を飛ぶ魔導士たち。

 空を優雅に泳いでいる鳥よりも速く、ゴールへ向かっている。

「空飛ぶ箒のレースか!」

「『コメットレース』。エルドラドでサッカー並みに人気な競技よ。魔法の箒で空を飛んでゴールを目指す。ルールがわかりやすい上にダイナミックなレースが披露されるから人気なのも頷けるわ」

「へー……なあ、あれなんだ? 競技者じゃなくて小さい店に人が集まっているけど」

「誰が勝つか予想して、当たったら賞金獲得。言っておくけど子供はできないから」

「あー、ギャンブルね……ていいのかよ。学生を賭け事の対象にして」

「大丈夫よ。中等部、高等部のレースは当たっても貰えるのはお菓子とかジュースぐらいよ」

「ああ、ちょっとしたゲームになっているのか」

 そう思ってレースを見ていたが、レースが終わった瞬間に膝を崩す大人を見て、非合法のギャンブルやってんじゃねーのか? と思ったがそんなことない、と思い込むことにした。

 

 白熱のレースを見終えた後、次に見たのは四角のフィールドに杖を持った魔導士二人が睨み合っている。  

「凄い緊張感だな。見るだけで口を閉じちまうよ」「喋っているじゃない。ルールは簡単。魔力の玉を相手の頭部か胴体に当てれば勝ち。手足でも三回当てれば勝利よ」

「他にも剣を持って勝負する競技もあるわ。ルールはこれと同じ」

 レイカの解説を聞いていると、試合が始まる。

 魔導士二人が魔法を唱え魔力を発射する。魔力弾を拡散させて命中率を上げたり、追尾する魔力を放ったり。

 そして相手の攻撃を素早く避けたり、空中で体を動かして魔力弾が当たらないギリギリの距離でかわしたりする。

 激しい攻防が続く。

「スゲー! あんなにアクロバットに動くのかよ!」

「突っ立ってたら当たるから。バリア使うの魔力がもったいないから最後の手段よ」

「なるほど、奥が深いな」

 

 シュンがみているのは鍋の中身をかき回している学生たちだ。

 観客も全くいない。

 なんというか、地味な競技繰り広げられている。

「なんか、すごい地味だな」

「『魔導薬品コンテスト』だからね。でもこの時間ぐらいに来るのがいいのよ。そろそろ完成する人が現れるわ」

「なあ、評価の基準ってなんだ?」

「今回は『能力強化ポーション』ね。冒険家が愛用する。審査員がこの大会に参加した生徒たちが作ったものを飲んで、評価するの」

 ボガーン!!

「おい、いま爆発したけど大丈夫なのか!?」

「今回の材料を見れば大怪我はすることはないわ。たぶん寝てるだけよ」

「そうか……即効性の睡眠薬を、調合を失敗して生成した?」

 とりあえず爆発を起こした女性が無事だったことに安堵した。


(俺の村、魔法は身近なものじゃあなかったからな。この魔導祭で驚くことばかりだぜ)

 どの競技も白熱した勝負ばかりだった。

 あまり知らない競技なのにレイカが丁寧に教えてくれるから、競技の面白いところがよくわかって勝負の観戦に熱がこもった。

 サッカーを観戦しにここに来たが、サッカー以外の競技も楽しく見ることができてよかった。

「どう、サッカー以外の競技もなかなかでしょ」

「ああ、エルドラド中の学院から選ばれた学生の真剣勝負。面白かったぜ」

 競技観戦の感想を言う。

 レイカとふたりきりでエルドラド魔導祭を見て回るのはとても楽しいものだ。

(ん?)

 レイカとふたりきりで――

(――ひょっとして、これってデートっやつ!?)

 どう考えてもそうだろう。

 そう意識してしまうとシュンの顔が赤く染まる。

(女の子とはサッカーでよく遊ぶけど、ふたりきりで街の中を歩き回るのはレイカが始めてだな……」

「ねえ、シュン。魔法に興味を持ったなら……顔赤くない?」

「あ、あー! さっきの観戦で熱くなったからかな〜!」

 慌てて誤魔化すシュン。

 レイカはへんなの、と首を傾げたがそれ以上は何も聞かなかった。

「で、魔法に興味はあるよ。それがどうしたの?」

「やっぱり、ならなにか魔法の道具でもプレゼントしようかしら」

「えっ」

 いきなりのプレゼントにシュン、驚く。

「嬉しいけど、本当にいいのか?」

「いいわよ、前にもらったサッカーボールのお礼をしたいの」

「そうか、なら言葉に甘えようかな」

「そうこなくちゃ。私が誰かに奢るって珍しいから感謝するといいわ」

「で、レイカ。図々しいことを言うけどいいか?」

 シュンは自身の靴に指さして、

「魔法の道具より、サッカーのシューズが欲しいんだ」




 二人はキャペルの衣服店が並ぶ道を歩いている。

 目的はひとつ。シュンが欲しがっているサッカーシューズを手に入れるためである。

「サッカーのシューズね。あなた、持ってなかったの?」

「俺の村には普通の靴は売ってあってもサッカーシューズは売ってないんだ。だからいつもは日常で使う靴を履いてサッカーをしてたんだ」

「ならちょうどよかったじゃない。私が代金出してあげるわ」

「ありがと! いやー、欲しかったんだよな、サッカーシューズ!」

 ようやく自分の元にシューズが手にはいる。

 レイカには感謝しかない。

 しばらく歩いていると目的地についた。

「キャペルのサッカー製品専門店よ。動きやすい服にサッカーボール、もちろんサッカーシューズだって売っているわ」

「おお!」

「ゴールも売っているわ」

「ゴールも!?」

 そんな大きなものまで売っているとは。

 この店の品揃えが楽しみになってきた。

「早速店の中見てくるぜ!」

 サッカーシューズ以外にもどんな商品があるか、興味津々なシュンはすぐさま店の中に入っていった。

「待ちなさい! もう、

 置いていかれたレイカはシュンについていく。

「おお!」

 店の中に入ったとき、興奮だけでなく懐かしい気分にもなった。

 壁に並べられているシューズや動きやすい服。棚にはいろんな模様のサッカーボール。

 サッカーのための道具がたくさん売られていた。

「サッカーボールもこんなに様々な模様が……この紋章は?」

「サッカーボールを作ったクランの紋章よ。私達が作りましたって証明ね」

「へー、紋章二つあるのはなんでだ?」

「その紋章、学院の紋章なの。この魔導祭に出ている学院が紋章とデザインを提供して、ボール作りの職人たちが制作。学院の練習に使ったり、応援している人が買ったりしてるわね」

「なるほど、応援団とか活躍している選手のファンとかが買うのか」

「そうね。シュン、こっち。シューズ置き場はここにあるわよ」

「すげー数だな……」

 棚に並べられている多くのシューズ。

(前の世界のシューズとは形が違うのもあるのか)

 前世の記憶ない独特な形をしたシューズも売っている。

 サッカー専門店で売っているから試合でも使えると考えられるが、

「ひょっとしてシューズの形は決まっていない?」

「ええ、そうよ。エルドラド魔導祭のような大きな大会でも、靴はよほど他者を妨害するようなデザインじゃなければ、どんなタイプの靴でもいいのよ」

「へー」

(エルドラドにとって、サッカーはまだ作られたばかりだから細かいルールは定められていないってわけか。シューズの規定もないのか)

 ゆえに多種多様なシューズが売られているというわけだ。

「どれ選ぶの? 試着して確かめてみれば」

「うーん、そうだな……」

(とにかく動きやすさを重視したシューズがいい。軽くて、足にフィットするシューズを探すか)

 やはり前世で履いていたものに近いシューズを探すのがいい。

 軽いものならシュンの得意なドリブルにも活かされる。

 商品棚を見て自分の足に合いそうなシューズを探す。レイカも一緒に探してくれる。

「シュン、これなんてどう? バニリスっていう大きなリスのモンスターの素材を使って製作した一品物よ」

「なんかゴテゴテしてないか? 俺は軽めのシューズがいいんだけどよ」

「軽いわよ」

「ホントだ、かる! だが足首に布あるの邪魔だな」

 二人は商品を手にとっては合っているかどうか確かめる。

 だが自分の足にフィットするシューズはなかなか見つからない。

「シュン、あなたこだわるわね」

「フィールドを走り回る相棒のような存在だぜ、シューズはよ。やっぱりちゃんと考えて決めないとな」

「そうね、私もシューズは職人にオーダーメイドで作ってもらったし。自分がいいと思ったシューズを選ばないとね」

「オーダーメイドか……なあ、シューズ一足いくらした?」

「二十五万ダイア」

「桁一つ多くない?」 

 モンスターの素材でも使っているのか? と考えさせるほどの料金だ。

 ちなみにダイアとはエルドラド大陸の金の単位であり、さっき買おうとした果汁たっぷりジュースは百五十ダイアである。

 生活用品や食料の値段は前世の円とあまり変わらない価値なので、計算が楽で異世界でも買い物に困らないのは幸いだ。ものによっては貴族しかかわないだろ、というような生活用品を売られていることもあるが。

「うーん……ん?」

 真剣に自身の足にピッタリ合うシューズを探していると、ある一足が目に入った。

(俺が履いていたシューズと模様と形が似ているな)

 全体的に白色で、緑の太い線が入っている模様をしたシューズ。

 前世の時に履いていたシューズと模様が似たシューズが売られていた。

 思わず手にとって、よく確認。

(履いてみるか?)

「試着いいですか?」

「シューズの試着ですか? 大丈夫ですよ」

 店員に試着の許可を貰い、自分の足にシューズを履く。

 脱げないように紐を結んで、

「よっと!」

 軽くジョギングするぐらいの速度で足踏みして、動きやすいかどうか確かめるために。

「ほらっ!」

「きゃっ!」

 さらに前転バク転からの空中ひねり回転。着地したときの足の感触も良し。

 このシューズはかなり合っているわ。

「うん、いいな」

「いきなり激しい動きしないでくれる! 驚くわ!」

「ごめん、ちょっとこのシューズの履き心地を確かめみたくてさ」

 驚かせてしまったことを謝って、シュンはシューズを見つめる。

「これ、いいな。すごく動きやすいよ」

 履いてわかった。

 このシューズはシュンの足にガッチリとあっている。

 気に入った。

「よし、これにするか!」

「決まったわね、店員さん、これいくら?」

「そのシューズなら一万七千五百ダイアになります」

 その値段を聞いて驚くシュン。

「た、高いな」

 だが腕のある職人が作ったのならその値段は納得できる。でも高いものは高い。

 おこづかい半年分以上はあるんじゃないか、とシュンは思った。

「そう? 安いほうじゃない」

「いや、俺からしてみればな……」

「大丈夫よ、私が買ってあげるから」

 レイカが店員と話をする。

「お客様、どうぞ」

「あの、店員さん。シューズ増えているんだけど」

 店員が持ってきたシューズの数、なんと四足。

 シューズの模様は全部同じだが、二足は少し大きめだ。

 なんで四足持ってきてのか疑問に思っているとレイカが答えてくれた。

「一足じゃあ壊れたとき足りないでしょ。予備の分と、あなたが成長して足が大きくなったときの分の一足。これで安心でしょ?」

「お、おう」

 いったいどれぐらいの値段になったのだろうか。

 そんなことを聞くことが怖くなったシュンはなにも言えず、素直にシューズ三足を店員から受けとる。

「……その、大事にするよ」

「大事に使って。壊すのはサッカーをしている時だけよ」

 首を激しく上下に振ってレイカの言うことに従う。

 こんなに高いシューズをもらっていいのか、と思ったがレイカからのプレゼントを断ることなんてできない。

 シュンはレイカに感謝しながら大切に使おうと思った。

「じゃあ、早速そのシューズを使ってみましょう」

「使ってみましょうって、サッカーをするってわけか。いいね、どこでできるんだ?」

「ついてきて、この街にも誰もが使えるサッカーフィールドがあるから」

 シューズの性能を確かめるのは実戦しかない。

 シュンとレイカはサッカーをするためにこの店をあとにした。


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