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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
序章
20/130

エルドラド魔導祭

 一日限りのサッカーで友となったレイカ、村でいつもサッカーに付き合ってくれたリーザン。

 彼らと別れて二年がたった。

 シュンは十五歳、前世で言うなら中学三年生。風間瞬が事故で死ぬ歳と同じ頃の年齢となった。最近では前世のあの大会の夢を見ることが少なくなったような気がした。前世のことを忘れていっているのか、そんな寂しい気分になっていった。

 レイカに、リーザンに、またで会えたらいいな。

 そう祈りながらシュンは今日も村のなかでサッカーをする。

 レイカとサッカーをしたあの時から、この村にも観光客が増えていった。

 オドロン村の人たちはサッカーが上手い。その噂がオラリマの街で広がったのか、サッカーをしにこの村にやって来る人が増えたのだ。 

 リーザンやドーロン達とオラリマに旅行にいったときにやったサッカーで活躍したのが原因だろう。

 そして村にやってくる観光客のなかにはサッカーが上手い人もいる。

 そんな人たちがやって来て、シュンはよりサッカーを楽しむようになっていた。




 オドロン村の広場。今日もサッカーボールを蹴る音が響き渡る。

「シュン、いっけー!」

 村の子供達の声援。シュンが相手にしているのはこの村に観光しにやって来た人たちだ。

 彼らもなかなかの実力者だ。なにせ全員大人、しかも魔法の技術も村の人たちに比べて高い。なにせ観光しに来た人は、新米とはいえ冒険家だ。

 危険なモンスターを狩ったりしている人たちなのだ。身体能力は魔導士よりも高い。

「アイツがシュンだ! 気を付けろ! 子供とはいえこの村のなかで一番の実力者だぞ!」

「そう簡単に抜かせるか!」

 その冒険家は警戒しながらシュンを見つめる。

「抜く!」

 相手の前で立ち止まって、相手もシュンを迎えようと動きを止めた瞬間、最高速のスピードで冒険家を抜き去るシュン。冒険家は反応こそしてはいたものの、シュンの速度に追い付けなかった。

「でた! ギアチェンジドリブルだ! あれは誰も止められないぞ!」

 緩急のある動きで相手を抜き去るシュンお得意のドリブル。

 最高速は抜き去った冒険家の人のダッシュよりは遅いかもしれない。だがゼロからトップスピードのドリブルは、端からみれば神速のごとき速度に見えてしまうのだ。

 そしてシュンは相手チームをドンドン抜いてゴールに近づいていく。

「待て! これ以上は好きにさせん!」

 今度は魔導士がシュンの前に立ちふさがる。

 シュンはペナルティーエリア内にいても冷静に考える。

「ならば!」

 すぐさま足を大きく振る。

 シュートの構えだ。

 魔導士とゴールキーパーをかわすようにシュートを打つつもりだ。

「シュートか! 止めてやる!」

 魔導士、前に出る。シュートを打つ前に止める、もしくは打たれても自身の体で止めるためだ。

「むっ?」 

 シュンはなんと、ここでシュートをからぶった。魔導士、シュンのミスにつけねらうかのようにスライディングタックルをしかけた。

「焦ったな! 奪い取る!」

「なんてな!」

 空ぶった足をすぐさま地面につけて、左足でボールを押し出して魔導士のタックルを避ける。

「なにっ!?」

 突然のドリブルに魔導士困惑。

 キックフェイントと呼ばれる、シュートやパスを打つと見せかけて、相手の行動を制限させて抜き去るフェイントドリブルだ。

「よし、抜いた! って!?」

「甘いぜ!」

 魔導士を抜いてシュートを打とうとしたその時、ゴールキーパーが飛び出してボールを掴み取る。ドリブルで相手を抜かした瞬間の隙をついてボールを奪ったのだ。

「やられた!」

「そうなんども点をとられるのは勘弁だからな」

 ゴールを奪えず悔しそうにするシュン。すぐさま下がってボールを再び取ってシュートを打ってやると意気込んでいたが、笛の音が鳴り響く。

 試合終了、休憩時間に突入だ。

「やっぱ強いな! 冒険家と魔導士は!」

「いや、いくら魔法使わないとはいえほぼ互角に戦えるってなにもんだよ」

「ただのサッカー大好きなだけですよ」

 観光に来た冒険家の言葉にそう返すシュン。

 サッカーが好きで上手くなりたいからこそ、シュンはここまでうまいのだ。

「でも、最近はとっても楽しくサッカーをできているよ。村の皆も上手いけど、観光に来てくれた人たちもサッカーうまいからさ。始めて出会った人だからこそ、どんな技が来るかわからないから面白いね」

 村の人とともサッカーをするのは楽しい。だが村の外からやって来た人とするのは違う楽しさがある。

 自分の知らない動きを見せてきたり、その動きを見て新しい技の開発もできたり、楽しいことたくさんだ。

 特に実力のある冒険家相手だとより上達できる。強敵とのサッカーが一番成長に繋がるのだ。

「てか、シュン。お前、村の人のプレイスタイル全部覚えているのか?」

「大体は、だがな。ドリブルで相手を抜き去る時にプレイスタイルや癖を見るってのは大事だからよ」

「ほんと、サッカーのことになると頭よくなるな。自分の店の服作りは全然覚えないくせに」

「失礼な、覚えているぜ。糸で作ったアクセサリーとか人気なんだぞ」

「小物作りしか覚えてねえじゃあねえかよ。今年で学校卒業するのに」 

 正直、服屋を継ぐ気はない。

 あったとしてもサッカー用品を売るならついでもいいかもしれない。

 そんな二人の会話を聞いてシュンを見る冒険家。 

「サッカーが好きだからこそここまで上手になったのか。そこまで体をうまく動かせるなら冒険家に勧誘されるだろうな」

「冒険家も興味はあるけど、やっぱりサッカーの方が好きだな。サッカーに関われる仕事につけたらな」

「無理だろ」

「無理かどうかはわからんぜ。この大陸中にサッカーが広がっているんだ。現にオラリマにはサッカー専門店があるじゃん。ならあってもおかしくないって」

「そうだがな……」

「なんなら大きな街でコーチでもしてみるか? いいかもな」

「それなら……できるかもな」

 前世で得たサッカーの知識をエルドラドの人々に伝えるのもいい。もっとサッカーに熱中してくれるかもしれないし、技術を教えていったら新しい技も身に付けるかもしれない。

 そんな将来のことについて考えていると観光にきた冒険家が、

「サッカーの仕事、ね」

「なにか知っているのですか?」

「さすがに知らないな」

「ああ、そうですか……」

「でも。これはサッカーが好きなら誰もが興味をもつと思うんだ?」

 そういって冒険家はある紙を鞄の中から取り出した。

「ああ、これこれ」

 そしてその紙をシュンに見せてあげた。 

「『エルドラド魔導祭』?」


 

 エルドラド魔導祭。

 それはこの大陸に設立されている各魔導学院の中等部、高等部の生徒から選ばれた代表を選出して、生徒自身が磨きあげた魔法の技術をお披露目する祭。

 春と夏の間と秋と冬の間、年二回行われる。

 この祭で活躍し名を広げれば、国から認められる魔導士になれる近道を手に入れられる。

 そして学院は生徒が優秀な成績を残せれば、学園の名声を手に入れられることができる。

 ゆえに学院の生徒はこの祭に向けて努力し、学園の教師は生徒がいい成績を残せるように指導をしていく。

 そして今年、この魔導祭に新たな競技が加わった。

 それは――


 


 空に火の花が咲く。

 晴天の太陽がきらめく真昼の空に。魔法の花火がくっきりと轟音をたてて輝き光っていた。

 街の中は様々な種族の人が溢れている。

 学院の制服を来た生徒も楽しむようにこの場を歩き回っていた。

 歓喜の声はやまず、至るところにある屋台に人は集まり、この時間帯で酒をあおっている大人もいる。

 なぜここまで賑やかなのか。

 それはこの街で開かれている祭こそ『エルドラド魔導祭』なのである。

「おお! 父さん母さん! 見てくれ、大盛況だ!」

「初めて来たが、ここまでとは。とても賑やかで楽しそうじゃないか」

「仕事を休んでこの祭に来てよかったわ」

 シュンは家族と一緒にこの街に来ていた。両親の衣服店はこの日のために

 シュンの家族がやってきた街の名前は『娯楽の街・キャペル』。

 この街はエルドラドのありとあらゆる娯楽が集まったと言われている。

 ショッピングモールや魔法の道具を受かって遊ぶマジックゲームコーナーや、カジノや腕試しの闘技場などといった大人が楽しめそうな施設まである。

 魔法の技術においても、魔法の最先端の街であるオラリマに匹敵すると言われてるほどだ。

「家族の旅行でこの場所を選んで正解だったな」

「ええ、そうね」

 前に冒険家から見せてもらった『エルドラド魔導祭』のことを家族に話して、自分も行ってみたい、と伝えたら、たまには家族で旅行でも行ってみるか、となってこの街の『エルドラド魔導祭』を楽しむために行くことになったのだ。

 そしてシュンがここに来た理由は、エルドラド魔導祭に大きな興味を抱いたからである。 

「まさか、魔法の大会でサッカーを競技として入っているなんてな! これってすごいことなんじゃないのか?」

 そう、興味を引いた理由はエルドラド魔導祭にサッカーが加わったからだ。

 エルドラド魔導祭は学生が磨きあげた魔法の技術を見せるための大会。

 そしてその大会でサッカーが入った。

 今、エルドラドの大陸ではサッカーが大流行。エルドラド魔導祭の主催者側がサッカーも競技に入れようと意見をいい、誰もがその意見に大賛成。さらに魔法を使ったマジックサッカーなら魔法の技術のお披露目にもなる。

 エルドラド魔導祭にサッカーが入るのは必然であったのかもしれないほど、サッカーはエルドラドの人にとって身近な存在になってきていたのだ。

「早くサッカーの試合を見に行こう! ねえ!」 

「シュン。掲示板に張ってあった予定表ではサッカーは昼からだよ。いまはまだ朝だ」

「そうだった……早く観戦したくてつい」

 まだサッカーの試合が始まる時間ではない。

 サッカー観戦が楽しみで、早い時間帯でこのキャペルに来てしまったのだ。

「あせってもサッカーは逃げないさ。サッカーの試合が始まるまで、他の魔法競技を観戦しにいくのはどうだろうか?」

「まあ、他の競技。私見てみたいわ。シュン、どうしましょうか?」

「へー、楽しそうだ。他の魔法競技もどんなものがあるか知りたかったんだよね。父さん、母さん、一緒に見に行こう」

 モメントの意見に賛成し、サッカー会場から離れてキャペルの街中を歩くことに決めた。

「で、父さん。これから何を見に行くの?」

「競技はまだやってないが、エルドラド魔導祭の開幕パレードがもうすぐ行われるらしい。皆で見に行かないかい?」

「パレード! いいね!」

 魔導祭のパレード、聞くだけでワクワクする。

「で、どこで行われるの?」

「ここさ」

「この場所?」

 今いる場所でパレードが行われるのだろうか。

 周りを確認しても、自分達と同じエルドラド魔導祭を楽しみに来た人たちばかり。

 するとシュンの体に影が覆う。見上げると、大きな乗り物が空を飛んでいた。

「おお、空飛ぶパレードか! あの動物、ペガサスか!」

 大きな乗り物は馬車だ。

 羽を生やした馬、ペガサスと魔導士の風の魔法で浮かばせている。

 その乗り物とペガサスの長い列がキャペルの空を飛んでいた。

 すると乗り物の中から華麗な衣装をまとった人が箒に乗って出てくる。なかには絨毯に乗っていたり、ボートにも乗っている人もいる。

 彼らは魔導士だ。

 そして魔導士たちは枝のような小さい杖を出して、魔方陣を展開。空に炎を放ち始めた。

 無数の炎が空を飛び、天高い場所で集まって規則正しく丸の形に並んでいく。

 炎の動きが止まると激しく燃え盛り、

「消えない花火……!」

 明るい空のなかでキラキラと激しく光る炎。

 そしてその炎は六芒星の形を取ると、激しく爆発。

 すると地面に向かって宝石のように輝くなにかが降ってきた。

「雪か! しかもこんなにカラフルに……」

 虹のごとく多種多才の雪が降り注ぐ。太陽の光によって七色の雪は宝石に近い輝きを放ち、見る人を魅了させていった。

「すげー……こんな綺麗な魔法の使い方があるなんてよ!」

 これがこの世界の観客を楽しませる魔法のパレード。

 シュンはただただ驚愕し、そして芸術的魔法に心惹かれていく。

 開幕のパレードはまだ序盤。始まったばかり。

 パレードはこのあとも続き、シュンの驚愕する声が途切れることはなかった。

 



「いやー、騒いで喉が乾いた」

 エルドラド魔導祭の開幕パレードはとても楽しかった。

 祭の始まりを伝えるだけなのに、見る人を楽しませるための様々なパフォーマンスに目を見開くばかりだ。

 驚きすぎて喉も乾いてしまう。

「そうか、なら果実ジュースでも買いにいこうか」

「おー、ありがとう。父さん」

 モメントのおごりに感謝するシュン。

 お祭りの果物ジュースの屋台に足を運ぶ。

 村でも果物たっぷりのミックスジュースをよく飲むからこの店にもあればいいな、と思った。

「ねえ、そのイチゴジュースちょうだい。果汁百パーセントよ」

「――!?」

 聞き覚えたのある声が聞こえる。

 忘れるはずがない、あの二年前に聞いたあの声だ。

 声をした方向に視線向ける。

 見覚えのある白銀の髪、深紅の瞳、魅惑のボディ。

 その姿をシュンは記憶に刻んでいる。

「……レイカか?」

 声をかけた。

「――!? あなた、なんで私の名前を知っているの――あれ、どこかであったような……」

 レイカは戸惑いながらシュンの顔を見つめる。じっくり見られるのはさすがに恥ずかしい。 

 でも、まさかレイカはシュンのことを覚えていないのか。

(俺、結構背が伸びたしな)

 いや違う、おそらくシュンのことを覚えてはいるが、二年前の姿と今の姿に記憶が一致しないのだろう。

 ならどう説明すればいいのか。

 答えは簡単だ。

「父さん、ボール頂戴」

「あ、ああ」

 なんで突然、そんなことをいったのか、疑問に思ったモメントだったが素直にボールを渡す。

「よし」

 するとシュンはこの場でリフティングを始める。

 足の甲、膝、かかと、基本的な部分の次に回転しながらリフティングをしたりした。

(始めてであったとき、レイカにリフティングを披露したんだよな)

 あの出会いはいまでも鮮烈に覚えている。

 最初は険悪な雰囲気だった。

 だが一緒にサッカーをして絆を深めあった。

 だからこそ、最初にあったときに披露したリフティングをみれば思い出してくれると思ったのだ。

「あ!?」

 レイカは思い出したかのような表情を浮かべた。

 あのとき、一緒にサッカーをしたことを思い出したようだ。

「俺のこと、思い出したか!」

「シュンなのね! あなた!」

「正解! レイカ! 受けとれ!」

 ボールを上空に浮かばせて、そのまま体を捻りながらオーバーヘッドキックを披露。

 威力は手加減しているため、シュートと言うよりはパスだ。

 レイカはジャンプして胸でトラップする。ドレスを着ているためシュートは打てないがボールを受け止めることはできる。

 ボールを受け止め、レイカはボールを手にとってシュンに近づいていく、

「おお! 久しぶりだな! 何年ぶりだ!」

「二年ぶりよ! また会えるなんて! 背が伸びてわかりずらかったわ」

「170センチ越えたからな。それにかなり昔のことだから覚えているかどうか」

「忘れるわけないじゃない! 一番楽しかったあの思い出を!」

「忘れた顔してたくせによ!」

「シュンのことは覚えているの! 容姿が変わったから思い出しずらかったのよ!」

 二人は抱き合って二年ぶりの再開に歓喜しあう。

 最強のコンビが再び出会ったのだ。




「その、レイカ。そろそろ離れてくれないかな……って」

「なんで?」

「距離が近いなー、って。嫌いって訳じゃあないんだ」

「……ッ!?」

 自分のおかれている状況に気づいたレイカ。顔がリンゴのように真っ赤だ。

 久しぶりの再開で気分が高揚したとはいえ、出会ってすぐさまハグをしている。

 シュンに抱きつている状態に恥ずかしさを覚えたレイカは静かにシュンから離れる。

「……その、しばらく黙っててくれない」

「あ、ああ」

「……迷惑な命令言ってゴメン」

「いや、いいって」

 気まずい空気が消えるのに五分ぐらいかかった。

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