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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
序章
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二度の生誕

「――――」

 誰かの声が聞こえる。

 優しげな声だ。

 風間瞬は意識を覚醒し、今置かれている自分の状況を頭の中で整理しようとした。

(俺は……どうしたんだ? サッカーグラウンドのフィールドにいたはずなのに……ここはどこだ?)

 考えてもわからない。

 周囲を確認すればわかるのだろうか。そう考えて周りを見ようとしたら、

(なんだこの手のひらは……いくらなんでも小さすぎないか?)

 自分の手のひらを見て驚愕した。

 小さい人形の手のひらを見ているみたいだ。しかも皺どころか指紋もない。

 まるでこれは赤子の手のような――

「――!」

 瞬はすぐさま起き上がろうとしたが、それもできない。ジタバタ暴れる事しかできなかった。

 それは当然、何故なら瞬の体は、

(これは夢か? そうじゃなきゃおかしいだろ! だって俺の体は!)

「おぎゃあ⁉ おぎゃああ‼」

 赤子の声が鳴り響く。

風間瞬は、赤ん坊になっていたのだった。

 

 

 

(夢なのか? 現実なのか?)

 突然の体の変化に困惑する瞬。

 中学生だったのに今は赤子。しかも周りを確認してみると自分の記憶に存在しない建物の景色。

 天井も壁も木でできている建物なんて、瞬の暮らしていた場所には存在していない。いや、存在していたとしてもその建物に入ったことなんてない。自身の自宅だって壁紙がちゃんと張られてあった。

 この場所は瞬の知らない場所だ。

(VRゲームの映像を見ています、って方がまだ納得できる……でもこの体は現実。俺が赤子にまで若返ったという事実だ)

 瞬は、自分が非常識な経験をしていることを納得するしかなかった。

「――――――――!」

(――誰かの声か?)

 声のした方向に目を向けた。

 そこには見知らぬ二人の男女がいた。二人は瞬を見て優しく微笑んでいた。

(笑っている……まさか両親か? いや、そりゃ赤ん坊の近くには父さん母さんはいて当然だよな)

 瞬には自分を生んでくれた両親がいる。ちゃんと生きている。

 だが目の前にいる二人も自分の親だ。なんとなく、そう思った。

(……言葉がわからない。日本語でも、英語でもない。全く分からない言語だ……)

 聞き覚えの無い言葉だ。余計に混乱する。

 頭の中が思考でグルグルになっていると、女性はキッチンらしき場所に行って、水が入った鍋を穴が開いている机においた。穴の下には薪が置いてある。

「――――」

 女性は知らない言葉を呟くように唱えると、指先から円形の陣が生まれた。

(な、なんだあれ?)

 するとその陣から小さな火が現れて、薪に移って燃えさかる。

(……魔法、てやつか?)

最初は疑った。魔法なんてそんな空想な産物あるのか? と。

中学三年生の瞬でもファンタジーは現実には存在しないんじゃなか、そんなものは漫画や小説の中にだけにしか存在しない、そんなふうに思っていた。

 だが今目の前に見せた奇跡は、間違いないなく魔法だ。アニメで見たような魔法陣から小さな火が繰り出された。

 そして魔法が存在するということは。

(本当に日本……なのか? まるでゲームの世界……いやファンタジーの世界みたいだ)

 今住んでいるこの場所は自分が住んでいた地球ではない別の世界、すなわち異世界だという事がわかった。言語も違う上に、目の前で繰り出された魔法の存在。それらが、自分が住んでいた場所とは常識そのものが違う世界だという事を理解せざるを得なかった。

(……ホントに驚くことばかりだ)

正直、常識外なことが急にやってきて混乱している。

(俺、なんでこの世界に生まれたかわからないんだよな)

 瞬は知らないのだ。ヘディングシュートによる脳の血管が切れて、それが原因で死んだことに。フィールドに倒れた時にはすでに意識は失っていたからだ。

(……いつの間にか死んでいたのか? 何が原因で? サッカーフィールドで……ヘディングを決めて……その後の記憶がない! それが原因なのか⁉)

 事故による死で転生して、この世界に命を宿したのだが、その真実を知ることは出来ないだろう。誰も知らないからだ。

(まったく……わけわかんねえよ……いきなり赤子になって、魔法が存在するような世界にやってきて……いきなりじゃなかったら喜んでいたけどよ)

 瞬はまだ中学生だ。ファンタジーの世界には興味津々だし、自分がその世界に足を運ぶ事ができたのは嬉しい。

 だが、こんな状況では戸惑うしかない。

 違う世界に飛ばされたのだから。

(家族やチームの皆はどうしているんだろうか……もう会えないのか)

 瞬の心はさみしさに満ち溢れていた。もう両親と友人に会う事ができない。しかも自分の死んだ姿を見たら、絶対に悲しむだろう。

(サッカーで世界一の選手になりたかったのに……待てよ?)

 自分の幼いころからの夢が叶わないと理解した瞬はあることが頭に浮かんでいた。

 それは他の人にとってはささいな事でも瞬にとっては大事なあることだ。

(異世界ってことは……俺の大好きなサッカーは存在しているのか?)

 異世界で新しい命を得た瞬はそんなことを考えていた。

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