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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
序章
18/130

出会いの約束

「よし! もっともっと点をいれてやろうぜ!」

「ええ!」

 コンビプレイでゴールを奪ったシュンとレイカ。もっと点をとってやろうと意気込む。

 二人の連携なら何点だって取れる。シュンとレイカはそう確信していた。

「……なあ、レイカ」

 するとリーザンがレイカに声をかける。

「……リーザン?」

 シュンは首をかしげた。

 すこし様子が変だ。

 いつもより表情が固い。かなり真剣な目付きをしている。

「なに?」

「話したいことがあるんだが、ちょっといいか?」

「いいけど。ここで話さないの?」

「ああ、人には聞かせられない大事なことだからな」

「リーザン、レイカ。なんの話をしているんだ?」 

「すまん、シュン。少し離れる」

 リーザンはレイカと共にこの場から離れていく。するとドーロン達がリーザンがどっかにいくのを見てシュンに聞きに行った。

「いったいどうしたんだ?」

「わからない。リーザン、かなり真剣な顔をしていた。なにかあったのだろうか?」

「そうか、シュンもわからないのか」 

 ドーロン達も突然リーザン達がこの場から離れたことに疑問を持ったらしい。シュンに聞いたがシュン自身も答えが知りたい。

「まあ、ちょっと話をして戻ってくるだろう。俺たちはサッカーを続けようぜ」

「……なあ、リズルがリーザン達についていってんだけどいいのか?」

「はあ!?」

 カガリの言葉にシュンが驚いて、リーザンの方に視線を向ける。

 リズルが歩いて着いていっている。隠れる気なんてさらさらない堂々な歩き。リーザンとレイカは着いてくる人なんていないと思っているため気づいていないが。

「あのバカ! プライバシーってやつを考えてくれよ! ドーロン、カガリ! リズルをさっさと連れ戻しにいくぞ!」

「ああ」

「すまない、みんな。俺たちも離れる」

「いや、いいよ。待ってるね」

 サッカーをしてれたチームのメンバーにそう伝えた後、シュン達はカガリを捕まえるために公園を出る。

 するとリーザンが曲がり角に隠れて聞き耳している。端から見たら盗み聞きしている危ない子供だ。

「おい、こら。リズル。なにしてんだ」

「いや、リーザン。どこにいったのかなって。トイレ?」

「女の子連れてトイレいくかよ。端から見たら変質者だぜ」

「じゃあ、ドリンクを買いに?」

「なら一人で買いにいくだろ。もしくは俺たちもつれてさ」

「あの、ちょっと聞きたいが」

「――っ」

 リーザンの声だ。

「帰るぞ」

「おい、シュン。掴まないで!」

「うるさいぞ、リズル。気づかれたらどうする?」

 ここで盗み聞きをするわけにはいかない。すぐさまこの場から離れて公園に戻ろうとしたシュン。リズルの首根っこを掴んで。

「レイカ、いやヴィルカーナ様と呼ぶべきでしょうか。貴族のあなたがなんでサッカーフィールドに」

 その言葉にシュンたち一同立ち止まってしまう。

「貴族?」

 シュンはリーザンの言葉を聞いて村の学校で習った授業を思い出した。

 ――貴族。

 このエルドラド大陸の領土を所有している者。

 魔導士として輝かしい活躍をする、人々の生活を豊かにするような功績を残す、などで名を残し、その名声によって国から正式に領土を与えられた人、それが貴族である。

 領土だけでなく、富も名誉も権力も手にしている、村のなかにいたら顔を会わせる機会さえない。

 まさに雲の上のような存在だ。

 そしてレイカは貴族である、そのことをリーザンの出した言葉で察した。

「レイカが?」

「貴族ってあの?」

「貴族ってなに?」

「いや、授業で習ったことあるだろ」

 四者様々な声を上げる。するとその声に気づいたのか、リーザンが、

「おい! リズルか? 隠れているなら出てこい!」

「「「……」」」

「おい、なんで俺を見るんだよ! さっきよりは声のボリューム下げたぞ!」

「いや、まあ声がよく通りやすいからな、お前」

「遠くからでも聞こえちまったんだろうな」

 バレてしまったものは仕方ない。

 シュン達はリーザンとレイカの前に現れる。

「やあ、リーザン。その、ごめん。盗み聞きしちまって」

「いや、いいさ。悪気はなかったんだろ。なら仕方ないさ」

 シュンは頭を下げて謝罪するが、リーザンは気にしない。

 するとリーザンはレイカに視線を合わせて、

「話していいか?」

「……いいわ。話さないほうが不自然よ」

「わかった。みんな、彼女の名前はレイカ・レクス・ヴィルカーナ。レイカは名門ヴィルカーナ家の一族なのさ」

「「「「ヴィルカーナ家?」」」」

 一同首をかしげる。

 無理もないな、とリーザンは言ってレイカの家のことを話始める。

「ヴィルカーナ家。このエルドラド大陸の医者や冒険家が使っている魔導医薬品。使用者の約半分は彼女の一家が生産している物を使っていると言われる。ヴィルカーナの紋章がかかれた魔導医薬品は他の魔導士が作るものより品質がよく、そして安い。都会の街じゃあ誰もがヴィルカーナの名を知っているほどさ」

「魔導医薬品?」

「まあ簡単に言えば回復ポーションだと思ってくれ」

「おお、わかりやすい」

 シュンから考えればレイカの家は、ヴィルカーナは魔導薬品製造に関わっていて、そして多くのポーションをつくっている一家だと思った。

(この広い大陸に住む人口の半分は、彼女の家のポーションを使っているのか……まじでスゲーな、ヴィルカーナ家)

「リーザン、なんでレイカがヴィルカーナ家の娘だってわかったの?」

「ヴィルカーナ――」

「レイカって呼んで」

「……レイカの魔法の技術は魔導士のなかでも話題でね。百年に一人の天才児だとか六英雄の再来とか。まあ色々言われているんだよ。さっきのサッカーでその噂も嘘じゃあねえってわかったがよ。彼女のシュート、止めようと思ったのに俺が吹き飛ばされるなんてな」

 中等部なりたてで大人の、しかも正式の魔導士相手を魔法で吹き飛ばしたのはまさに天賦の才能。そしてレイカの魔法を身近で受けたリーザンだからこそ、レイカがヴィルカーナ家の一族だということがわかったのだろう。

「魔法には自信あったけどさすが現役魔導士ね。私のマジックシュートを弾き返せたのは誇れることよ。自慢しなさい」

「こんなに歳の離れた子供に言われてもな」

「で、なんでこんな場所までレイカを連れてきたんだ?」

「……レイカの保護者まで連れていこうと考えていた」

「リーザン、なんでだ?」

 なぜそんなことをしようとしたのか。

 その理由を聞こうとする。

「サッカーは楽しいものだ。でも接触プレイ、そして魔法の応酬、怪我するのは目に見えている。いくら回復薬や回復魔法があるからって、まだ幼い令嬢に怪我させることなんかあったら大変なことになるからな」

「大変なことって?」

「レイカの親族さんに……叱られるだけならなまだいいかもな」

「私のパパとママは優しいわよ! そんなことしないわ!」

「いや、そうはわかってますよ、ええ」

(まあ、たとえレイカの両親が優しくても気後れするよな)

 エルドラド大陸の魔導薬品の約半分のシェア率を誇るヴィルカーナ家。そのお嬢様であるレイカに怪我はさせられない、そんな気持ちがわいてしまうのもわかる気がする。

 そんなことを思っているとレイカはイラつくように拳を握りしめて、

「……そう、やっぱりあなたもそんなことを考えていたのね」

「あなたも?」

 気に入らなそうにリーザンを睨み付けるレイカ。

 その表情には怒りがにじみ出ている。

「みんなそうよ、私が貴族の娘って知ったら怪我しないでって手加減する! そんなサッカーつまらないわ!」

 吐き出すように叫ぶ。その声には怒りだけでなくどうしようもない悲しみも混じっているような、シュンはそう感じた。

 そしてその叫び声を聞いて、シュンは理解した。

(サッカーをつまらなそうにやっていたのは、レイカ自身の実力が優れているだけじゃあなかった。貴族の生まれ、それが原因で相手が本気を出してくれなかった。これまで本当に全力でサッカーをできなかったんだ)

 本気で自身の技術をぶつけ合うサッカーができない。

 圧倒的な実力のせいではなく、貴族の生まれのせいで。

 そのことを考えるとシュンは胸が痛くなる。絶対につまらないって思ったから。サッカーを楽しめる瞬間が一瞬もなかったと感じてしまったから。

 だからレイカはフードを被ってこの街に住む少女を演じていたのだろう。

 それで普通に全力のサッカーができると思っていたのだろう。

 だからこそ先程浮かべたあの笑顔が頭によぎる。

(始めてサッカーを楽しめたんだな)

 シュンと戦い、そしてコンビを組んでいたときのレイカの表情はサッカーを全力で楽しんでいた。

 その楽しさを奪っていいものか? 

「なあ、リーザン」

「……なんだ?」

「レイカが貴族の娘ってこと、俺たちだけの秘密にしようぜ」

「そのほうがいい。周りに気づかれると面倒になる」

「よし、じゃあ皆。サッカーフィールドに戻ろうぜ」

「おう」

「だな」

「「……!」」

 シュンの言葉に三人は頷き、レイカとリーザンは戸惑う。

「いや、ちょっと待て。皆って……ここにいる全員ってことだよな」

 そう全員、レイカも含まれているということ。

 ようはこういうことだ。

 レイカが貴族の娘だということを周囲の人たちには隠してサッカーをしよう、というわけだ。

「そうだぜリーザン。もしかした誰か一人、仲間はずれにしようぜ、ってそんな意地の悪いこと考えているわけじゃあないよな」

「……考えているわけないだろ」

 一息ついて、 

「レイカが貴族だろうが、子供が夢中にやっていることに水差すかよ。いいぜ、なんなら夜になるまでサッカーやろうじゃねえか」

「おお、さすがリーザン! 話がわかる!」

「だよな! 仲間はずれはつまらないからな!」

「というわけでレイカ。サッカーをしにフィールドにもどろうぜ」

「……いいの?」

「いいに決まっているだろ! 俺とコンビ組んでたくさん点を取り合おうぜ。なあレイカ」

 サッカーフィールドに向かおうとする。シュンはレイカに手を差し出した。

 レイカはシュンの手のひらをしばらく見つめて

「――うん!」

 笑顔のまま、そう頷いて、その手をつかんだ。


 再びフィールドに戻ったシュン達はサッカーを思いっきり楽しんだ。

 特にシュンとレイカのコンビは今日出会ったばかりとは思えないほどのコンビネーションで、二人で点とアシストを稼いでいき、相手のシュートを守ったり、パスとドリブルの連携プレイで相手を抜き去っていく。

 その瞬間のレイカは笑顔を浮かべながらボールを蹴っていた。

 初めて全力でサッカーが出来る。

 その事に喜んでいるのだ。

 シュンもレイカが喜んでいると嬉しい。サッカーを本気で楽しんでいる。

 その事実が、嬉しかったのだ。

 



 太陽が沈み始めて夕日が浮かぶ。

 もう夕方だ。

 好きなことをしていると時間がたつのが早いとシュンは思った。

「ふー、お前ら強すぎだぜ。ついていくのがやっとだったよ」

「ほんとだ、止めるのも一苦労だよ」

「というか、シュンの動きについてこられるレイカすごいな!」

 ドーロン達はシュンとレイカのプレイングに驚嘆していた。

「俺も子供相手とはいえ全力を出さざるを得ないほどだったな」

 リーザンは店で買った木の実ミックスジュースをイッキ飲みして、先ほどのシュンとレイカのプレイを思い出す。

 最初にやったダイレクトパスコンビネーションも驚きだが、二人のコンビ攻撃はそれだけではない。シュンのドリブルで敵陣を乱してからのレイカの強烈なマジックシュートといった正道な攻め、レイカの魔法でディフェンダー陣を壊滅させてからのシュンのダイナミックかつ精密なシュート、などといった様々なコンビ攻撃には手を焼かされた。

 なんとかリーザンは二人のシュートを防いではいたが、それでもすべて止めることはできずゴールを決められたりもした。

 魔導士を正面から破るシュンとレイカのサッカーの技術は他の子供達より数段ずば抜けているのだ。

「いやー、楽しかった。レイカは?」

「あなたと同じ気持ち。こんなに楽しいサッカー、生まれて始めてだわ!」

 シュンもレイカも今回のサッカーを全力で楽しんだ。険しい顔ばかりしていたレイカの表情も笑顔が浮かんでいる。

「こんな日がたくさんあればいいのに。ねえシュン。明日も

「それは……ごめん。俺たち、明日には自分達が住む村に帰るんだ」

 シュンたちは翌日には村に帰る予定であった。 

 理由は二つ。

 一つはシュン達の家族と相談の結果だ。

 旅行に行くことは賛成してくれた。

 だが出来るだけ早く帰ってきてほしいと言ったからだ。

 二つはリーザンのお金がないからだ。

 子供四人分の旅行費も支払うことになっていた。シュン達の家族に心配されたが、自分が誘ったのだから自分が払いますよ、と伝えた。

 その結果、オラリマを旅行するには一泊二日が金銭的にも限界だったのだ。

 その二つの理由で明日には村に向かう馬車にのらなくてはならない。

 シュンの話を聞いてレイカは残念そうに落ち込む。

「そう……あっ、そうだ! 私がお金渡すからもっとこの街に留まれるわね!」

「いや、始めてあったのにお金をもらうのは……それに両親には明日には帰るって伝えてたんだ。もし帰らないと絶対心配する」

「ああ……そうね。家族に心配させるのはいけないことね」

 レイカは仕方ない、って表情を浮かべる。でも肩を落として落ち込んでいる様子を隠そうとはしなかった。

「うーん……」

 このまま別れるのは寂しくて悲しい。

 どうかこの空気を払拭できないか。シュンは考えて、

「なあ、リーザン。ボールない?」

「あるけど、何に使うんだ?」

「それはね――」

 リーザンにやろうとすることを話した。

「いいな、それ」

「でしょ」

 賛同してくれた。

 リーザンは鞄からボールを用意する。

「よし、ドーロン、カガリ、リズルもこい!」

「なんだなんだ?」

 男たち集まってなにかを始めた。

 レイカは気になって、

「あなたたち、集まって何を?」

「ああ、ほんの少し待ってくれ。なんなら俺とパスしあうか?」

「今はいい、私も混ぜなさい!」

「おい、シュン。できたぞ、ほら」

 ドーロンがシュンにボールを手渡した。

 シュンはボールを確認して、 

「レイカ、俺たちのプレゼントだ」

 それをレイカに見せる。

 シュンが持っているもの、サッカーボールだ。

 しかしただのサッカーボールではない、シュン達の名前がかかれている。シュン達がサッカーにサインとして自分達の名前を書いたのだ。

「これは……!」

「俺たちとレイカが一緒にサッカーをしたっていう証さ」

「だな」

「しかし、ドーロンとリズル。字が汚いな。読めなかったらどうする?」

「うるさいな、カガリ。文字かけるだけで偉いもんだろ」

「そうだぞ!」

「はっはっは――レイカ、受け取ってくれると嬉しいな」

「……ありがと」

 素直にお礼を言ってボールを受け取った。表情を見るに笑顔だ。

 喜んでもらえてよかった。

「レイカ様。そろそろお時間ですよ」

 レイカの後ろに老婆が声をかけてきた。

 老婆の後ろには武器を携帯している男女がいた。

「ばあや! もう来たの?」

「レイカの知っている人?」

「私の家で働いている人たちよ。ばあやは私のお世話役よ」

 彼らはヴィルカーナ家の使用人だ。

 夕方の時間。レイカを迎えに来たのだろう。

「まあ、こっそり隠れて私を見守っていたけど」

「気づいていたのか?」

「いや、ばあやが見守っておくって言ったから」

「お家に戻らないと、お父様やお母様、お兄様も心配になられますよ」

「ばあや、言われなくてもわかっているわよ」

 ばあや、と呼ばれた老婆の後ろに立っている男女がレイカの近くにたつ。おそらくはヴィルカーナ家で働いている使用人でありレイカの護衛なのだろう。

 レイカはこの場から離れる前に、シュンたちに近づき、

「みんな、今日は私と一緒にサッカーをしてくれてありがとう。本当に楽しかった」

「俺も楽しかったぜ。レイカとコンビを組んだこと、一生記憶に残るだろうな」

「ああ、レイカのシュート、足に響いてきたぜ。忘れねえよ」

「楽しかったな、またやりてえな」

「俺も俺も!」

「それは俺も同意見だな」

「じゃあ、さようなら。元気でね」

「そちらもな」

 別れの言葉を告げたあと、レイカは護衛と一緒に自分の家に帰っていく。

 彼女の姿が見えなくなるまでシュンはレイカを見送った。

「皆様、今日はありがとうございます」

「え?」

 この場に残っていたばあやが頭を下げて礼を言う。

「レイカお嬢様に全力でサッカーをしてくださって。レイカお嬢様はヴィルカーナ家の一族。そのことを知った子供や大人はレイカお嬢様を傷つけないように手加減んしてしまうため本気のサッカーもできません。レイカのお兄様はサッカーが上手なのですが、なにぶん学業に励んでいて、レイカお嬢様と遊ぶ時間もとれません。ですのでレイカお嬢様がサッカーを全力でする機会がなかったのです」

 だが、

「皆様は違った。レイカ様がヴィルカーナ家のお嬢様だと知っても手を抜かず全力でサッカーをした。あんなに楽しそうにサッカーをしている姿は初めてみました。これも皆様がレイカ様と本気でサッカーをしてくれたおかげなのです」

「リーザンは最初は家のところにつれていこうとしたよな」

「いや、仕方ないだろ。貴族相手に怪我させるのはまずいだろ。まあ、あんな不満げな顔を見たらそんな考え吹っ飛んだがな」

「とくにシュン様。あなた様のプレイング、お見事でした。シュン様がこの街に住めばレイカ様のサッカー相手になってくくれば」

「俺にも帰る家がありますから、それは無理ですね。んー、ばあやさん」

「はい、なんですかな、シュン様」

「ばあやさんや、ヴィルカーナ家に勤めている人たちがサッカーをやったら、レイカのサッカー相手になるんじゃないかなって」

 シュンは思った。

 レイカが全力でサッカーをする方法はどんなものがあるか。 

 ならばヴィルカーナ家で働いている人たちがサッカーの技術をあげてレイカと一緒にサッカーをすればいいのではないかと。

 同年代の人とやれないのは寂しいかもしれないが、それでも自身の実力と同じぐらいの相手とサッカーを出来るようになるはずだ。

 それは全力でサッカーが出来るようになるということだろう。

 シュンの意見を聞いてばあやは顎に手を当てて考え込むそぶりを見せて、

「……ふむ、そういう考えもありましたか」

「サッカーは楽しいものですよ。してみたらどうですか?」

「あんなに楽しそうにサッカーをしているレイカ様を見て、私もサッカーに興味が湧きました。シュンさま、助言をありがとうございます。家にもどったらレイカ様のお家族に相談してみましょう」

「サッカーできたらレイカは絶対に、一緒にサッカーしよう、って誘ってきますよ」

「そうかもしれませんね。では私もそろそろ戻らなければならないので……皆様、お元気で」

 ばあやもこの場から離れていく。ずっとこの場に残っていたらレイカに心配されるからだろう。

「さようなら。あなたともサッカーをする機会があればしたいですね」

「それは、私もです」

 シュンの言葉にそう返してばあやはレイカが住む家に戻っていったのだった。




「楽しかったな。オラリマ」

 翌日、馬車のなかでオドロン村へと向かうシュン一行。

 ドーロン、カガリ、リズルは馬車のなかで寝ている。

 今起きているのはシュンとリーザンと馬車の運転手だけだ。

「ああ、まさか貴族のお嬢様とサッカーするなんて、正直に言えば夢でも見たんか、って思ったぜ」

「リーザン、大袈裟じゃない?」

「街のなかでも滅多にお目にかかれないんだぞ」

 レイカとのサッカーはいい思い出になった。この体験は忘れることはない。

 とくに一緒にコンビを組んだ時の衝撃は一生覚えておくだろう。

(……また、もう一回レイカと組めたらな)

 馬車の窓から顔を出して先程いたオラリマの街をじっと見続けた。




「ああ、そうだ。シュン。大事なこというぜ」

「なに?」

「俺、一週間いないにはこの大陸からいなくなるわ」

「え?」

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