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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
序章
17/130

最高のコンビプレイ

「……」

 サッカーフィールドの再度で不機嫌そうに座っているフードの少女、レイカはシュンを見つめていた。

「どうした?」

「別に?」

 シュンがそう聞くがレイカはそう返した。

 ちなみにドーロン達はオラリマの子供たちと話し合っている。

(確かに試合で勝ってはいる。だが一騎打ちでは完璧に勝てたことはない)

 そこが気にくわなかった。

 あのあと、なんどもサッカーをやったが試合では勝つこともできた。シュート力に関しては誰よりも優れているレイカがゴールを決めて点をとって勝っている。

 しかし、シュンとのボールの奪い合いではよくて引き分け、悪くてシュンにボールを奪われ抜かされる。

 一騎打ちで負けている。すなわち個人の技量ではシュンのほうが上だということ。

 その事実がレイカを不機嫌にさせていたのだ。

 なぜ勝てないのか、その疑問が解決できなくてうっとうしい。

「……あなたのそのドリブルの技術、いったいなんなの?」

 おもわず聞いてしまう。

 シュンのサッカー技術を知りたくて仕方なかったからだ。

「俺のドリブル? どれが知りたい」

「全部よ、全部。足でボールを浮かばせたりとか、右に行ったかと思ったらいつのまにか反対側の方向に進んでたとか、とにかく色々よ」

「そっか、なら俺が使えるドリブル全部見せてやるぜ。君のプレイスタイルに合うドリブルが見つかるかもな」

「本当? なら早く見せて。もっと上手くなりたいから」

「おう! じゃあ新しく作ったドリブルでも見せるか」

「私もハイチャージドリブルを教えてあげるから。あなたの身体能力ならすぐに覚えれるわ」

「いや、それはちょっと……」

 ハイチャージドリブル。

 おそらく肩でタックルしながら前にむりやり進むドリブルのことだろう。レイカがよくやっている技だ。ドーロン達もよく使っている。

 確かに強力なドリブルではあるが、

(いくら激しいチャージが大丈夫な異世界サッカーとはいえ、自分が使うのは……)

 異世界のサッカーが過激とはいえ、前世のサッカーが染み付いたシュンにとって激しい接触プレイはあまりしたくない。というか、サッカー選手の本能的にチャージやスライディングタックルを相手の体にぶつけるのは無理だ。ファールじゃないか、とか紳士的プレーとはかけ離れているんじゃないか? とかそんな考えが頭によぎってしまうためできない。

 だから教わるのは断ろうとしたシュンだが、レイカは不満そうにして、

「シュン、甘いわ。あなたはストライカーでしょ? なら相手の守りを壊してやるって気持ちがないと。だからこそハイチャージドリブルを覚えるべきだわ。ドリブルはパワーよ」

「確かにそういうスタイルもある。だが俺はドリブルは相手を欺くことにあると思っている。緩急ある動きによるスピード、体の動きで相手の思考を迷わせて抜き去る。ドリブルはテクニックさ」

「んー……」

 同じサッカー好きだがプレイスタイルは正反対。

 テクニックで翻弄するシュンとパワーで圧倒するレイカ。

 そういった部分でもドリブルに対する考えも違うのだろう。

「しかし驚いた。レイカって氷属性の魔法も使えるのか。ということは魔力属性は氷なのか?」

「そうね。私の魔力属性は氷よ。地水火風の四大属性よりも珍しい属性よ。まあ珍しいってよりも持っている人が少ないっていうべきかしら」

「氷か! 俺の村には氷の魔法を使う人はいなかったからな。へー」

「……まあ、遠い村からきたから気づくわけないか」

「なに独り言呟いているんだ?」

「なんでもないわ」

 彼女の言葉に頭をかしげたが、深く聞くのはレイカの機嫌を損ねそうなので、シュンは聞くことを止めにした。

「おうおう、二人とも。サッカー談義に熱中か? それとも魔法の話し合い?」

「あー、リーザン」

 リーザンがシュンのもとにやってきた。彼は違うフィールドでサッカーの試合を行っていたが、どうやら試合が終わったようだ。

「二人ともすげープレイだったな。本当に子供同士の戦いか? と思ってしまうほどにな」

「そうか!」

「リーザン、ちょうどいいとこにきたわね」

 リーザンの姿をみた瞬間、レイカは立ち上がって、

「サッカーフィールドに来なさい。試合をするわよ!」

「いきなりだな、おい」

 サッカーの勝負の申し込み。

 リーザンは

「シュンとの戦いで満足したんじゃなかったのか?」

「まだ満足しきれてないわ。私もあなたの試合を見た。やはり見込んだ通りの実力ね。目の前に上手い相手がいるのにサッカーを申し込まないなんて、そんなことするわけないでしょ」

 実はこっそりリーザンがいたフィールドを覗いていたレイカ。

 他の人より圧倒的に実力がずば抜けていたリーザン、ドリブルで相手を抜かし、タックルで相手からボールを奪っては、シュートを打って大量得点。

 完全に試合を支配していた。

 その実力を見たレイカはよりサッカー勝負をしたいと思ったのだ。

「だから勝負よ。シュンのチームに入って」

「まあ、いいぜ。俺もここにサッカーしにきたからな」 

 リーザンはレイカとのサッカー勝負の挑戦を受けた。リーザン自身レイカとはサッカーをしてみたいと思っていたからはなから断るつもりはない。

 リーザンも入ってくれるか、とシュンも楽しみになるのだがちょっと問題がある。

(俺のチームにリーザンが入るとちょっとこちら側が強すぎるな)

 シュン、ドーロン達に加えてリーザンが入るのだ。

 実力があるメンバーが相手チームに比べて多い。レイカ一人だけでは負担が大きすぎるし、試合が一方的になってしまう可能性もある。

(なら解決法法は簡単だな)

「なあ、レイカ」

「もちろん、あなたも一緒にサッカーするのよ。両方とも私が倒してあげるから」

「俺は君と同じチームになる」

「え?」

 レイカはシュンの申し出に驚いた。

 力の差があるなら誰かが相手のチームにいけばいい。

 ゆえにレイカのチームにシュンが移ることに決めたのだ。 

 それに理由はそれだけではない。

「あんだけ戦ったらさ、君と一緒に戦いたくなってきた。チームを組もうじゃねーか」

「……あなた、私のプレイに合わせられるの?」

「実力ならレイカ、君がよくわかっているはずだが?」

「そうね、そんなこと言えるなら心配はいらないみたいね」

 シュンの自身満々な言葉を聞いて、レイカはシュンが自分のチームに移ることを受け入れる。

「シュン、お前マジでいっているのか?」

「ああ、倒してやるからリーザン覚悟しろ」

「……こいつはマジにならねえとヤバイかもな」

 二人の実力は知っている。

 子供とは思えないほどの実力者。

 大人で魔術師とはいえ気を抜いていると負けてしまう。

 リーザンは気を引き締めないとな、そう思っていた。




「え、シュンが相手のチームに?」

 サッカーフィールドに戻ってきたドーロンはリーザンから

「あの二人が敵にいるチームってやばくないか?」

「確かにヤバイ」

「でも勝てたら絶対に嬉しいぜ!」

「まあ、そうだな」

 最初は戸惑っていたものの、リズルの前向きな言葉で勝ちにいく気満々になるドーロン達。

「ねえ、なんで俺たちのチームに大人が混じってんだ?」

「レイカが戦いたいってさ」

「あー、なるほど。大変なのね」

 わがままに振り回されているんだな、と察した街の子供達。

 しかし、同時に大人でしかも魔導士である人と一緒にプレイできるのはとても楽しみでもある。子供達の心はワクワクで一杯だ。

「相手に魔導士さんが来てる……勝てるの?」

「でもあの二人ならもしかしたら勝てるんじゃないかしら」

「ああ、俺たちは一緒に試合してわかった。あの二人は上手いぜ」

 一方、シュン達のチームは不安そうな顔をしているものもいれば、自信満々の表情を浮かべているものもいる。

 シュンとレイカに任せれば相手に魔導士がいても勝てるんじゃないか。

 二人の実力に期待しているがゆえの自信だ。

「みんな、リーザンは強い。それにドーロン達も上手い。でも連携をきっちりこなしてプレイしていけば勝てる。みんな、頑張ろう!」

「「「おう!」」」

 シュンの言葉に全員答える。

 そしてポジションに移動する。するとシュンは相手チームのポジションを確認した。

 ドーロン、カガリ、リズルはいつもの位置。

 だがリーザンは違った。ゴールの近くにたっている。ゴールキーパーではない、ディフェンダーの位置に立っていたのだ。 

「リーザンは今回はディフェンダーか」

「今回は、ってことは本当のポジションは違うの?」

「いつもはフォワードだ。ディフェンダーか、俺たちと戦う気満々だな」

 守備でシュンとレイカと戦う気だ。

 それに回りが子供ばかりでフォワードをするのは大人げないと思ったのも理由のひとつかもしれない。ゴールキーパーは子供なのに、大人で魔導士のリーザンがマジックシュートをかます絵面を想像するとなかなかにひどい。

 だから今回はディフェンダーのポジションにたつことを選んだのだろう。

「レイカ、一人で突っ込むなよ」

「なによ、私が突進して点をとればいいだけの話でしょ」

「君は少し単独プレイが過ぎる。もちろんソロプレイが上手いのはいいことだ。だが真のサッカープレイヤーはソロプレイもチームプレイも上手い。パスで進もう」

「……わかったわ。でもちゃんと受け取ってよ」

「まかせろ」 

 二人だけの作戦会議を終えて、そして試合が始まる。

 シュンがボールを軽く蹴ってレイカに渡す。

「レイカ! いくぞ!」

「ええ!」

 シュンとレイカ、二人の攻撃が始まる。

 二人はパスをしながら前に進んでいく。

 だがただのパスではない。

「え! なに、あのパス!」

「マジかよ! ボールが地面についてない!」

 そう二人のパスワーク、地面にボールを落としてない、トラップすらしていない。

 ダイレクトでパスを渡しながら進んでいるのだ。

 地面に落とさずダイレクトパスで進む利点はその圧倒的スピード。どんどんゴールに向かって進んでいった。

(あの二人、初めて組んだんだよな? なのにあの速度のパスワーク! 普通じゃねえ!)

 リーザンは驚くしかない。

 ダイレクトパスをしながら進むのは至難の技。スピード、タイミング、そしてなによりコンビの相性。この三つがなければできない。

 だがシュンとレイカは初めてチームを組んで、初めて今のプレイをした。

 実力だけでなく二人の相性さえもバッチリだからこそできたのだ。

「初めてだわ……この感覚」

 パスを出しているレイカ本人がこのパスに驚いていた。

 今まで彼女はソロプレイにこだわっていた。

 圧倒的な実力によるワンマンプレイ。それで彼女は勝ってきた。

 それに実力がありすぎて普通に前にドリブルしようとすると他のみんなは追い付かない。パスを出してもパスが速すぎて受け取れない。

 実力がありすぎたがゆえに単独プレイでしかできなかった。

「だが今は違う」

 シュンがいる。

 シュンがレイカに合わせてくれている。

 これがサッカーのチームプレイ。

 レイカはこのプレイにどこか心地よい感覚を味わっていた。

「さすがの二人! でもそれだけじゃあ俺たちを越えられないぜ!」

 リズルはスライディングタックルで、カガリはジャンプチャージでパスの軌道を塞いでくる。

 そして空中にいるカガリがレイカからのパスボールをカットした。

「おっ!?」

 しかしパスのパワーに押されて、止めることはできてもボールが飛んでいって、サイドラインを越えてしまった。

「ああ! 止められたわ!」

「でも、始めて連携パスを出したとは思えないいいプレイだったよ! 次ならシュートを打てるぜ」

「ええ、そうね」

 ボールを止められても二人は気にせず、今のパスプレイで自信をつけた。

 二人なら絶対に点をとれる、そんな自信を。

「カガリ、大丈夫か」

「ああ。しかしなんてパワーでパスを出していたんだ。それをなんてことなくダイレクトパスし続けるシュンもやるな」

 カガリをシュンとレイカのコンビを見ながらそう言った。

 先ほどの連携パスをカットしたからわかる、レイカのパワーパス。そしてそれを軽々とリターンパスを送るシュン。

 この二人組のサッカーのレベルは段違いだというのが今の連携で理解した。

「これは俺もガチでやらねえと一瞬で点をとられるな」

 そして二人の動きをみて、あらためて気を引き締めるリーザン。

 そしてサイドからボールをシュンの味方が投げて試合再開。

「みんな! パスで繋げて前線をあげてくれ!」

「おう!」

 味方攻撃陣、一気に前線をあげていく。連続パスによって相手のゴールに近づいていった。

「シュートを打つのはシュンとレイカだ! 二人を激しくマークしてくれ!」

 カガリの指示が飛ぶ。相手ディフェンダー、すぐさま行動。シュンとレイカ、二人のストライカーのシュートを封じるためにマークした。

「くっ、私の回りをチョロチョロと……」

「マークされるってことは警戒されている、すなわち俺たちのシュートはヤバイって思われているわけだ。だが、これぐらいじゃあ!」

 シュンはマークから逃げるように走り出す。ドリブルも速いシュンは当然、ダッシュも速い。しかも速いだけでなく、急にストップしたりして相手を惑わせて疲労させたりもする。

 するとマークしていた相手も早く追い付こうと動きが雑になっていく。

 これならパスを出しても奪い取られることはない。

「は、速い!」

「おーい! 俺にパスを出してくれ!」

「わかった!」

 マークが外れた瞬間が見えた味方はすぐさまシュンにパスを送った。

「よし、いくぜ!」

 ボールを受け取った瞬間、マークを振り抜く。

 そして相手を緩急のあるギアチェンジドリブルで相手をごぼう抜きだ。

「は、速い!?」

「うわ!」 

 相手もシュンのドリブルに驚くしかない。

 止めようと思って前にたっても、いつのまにか背後にシュンがいるのだ。

「スピードなら私の方が速い、でもドリブルのスピードは彼の方が上か」

 自信家のレイカもシュンのドリブルには思わず誉め上げる。

 それほどシュンのドリブルは誰も止められないほど厄介なのだ。

「やはりお前は危険だ! 止める!」

 カガリがやって来る。シュンがゴールに向かって進んでいるのを止めに。

 足元に魔方陣を出している。魔法でシュンからボールを奪いにいくつもりだろう。

「いつもの『ファイアチャージ』か」

 オドロン村でサッカーをしあっているからわかる。

 あれは炎のショルダーチャージだ。あれをくらえばボールを奪われてしまう。

 だがシュンは相手が魔法を使っても冷静にドリブルして、カガリが迫ってきた瞬間、かかとでボールを浮かばせた。そして自身は体を真横に向けて避けるように抜き去る。

「魔法を使っても体当たりじゃあ俺は止められねえ!」

「――それはどうかな!」

「おおお!!」

 カガリを抜いた先に水をまといながらスライディングして突撃してきたリズルが現れた。

 チャージ、スライディングの二段攻撃。

 これでシュンを捕らえようとしてきたのだ。

 今、シュンの状況はカガリを抜いたあとで体勢が悪い。このままではスライディングタックルをくらって吹き飛ばされるのが落ちだ。

 ならば、

「レイカ!」

「なんとっ!?」

 シュン、不安定な体勢でありながらここでパスを選択。

 レイカに鋭いパスを渡す。

「いいパスよ。さあ、決めてやるわ!」

「そうはさせん!」

 シュートを打とうとしたら、リーザンが前にいる。シュンのパスを読んでレイカに近づいていたのだ。

「ちょうどよかった! あなたとは一騎討ちをしたかったのよ!」

 闘争心むき出しにチャージドリブル。しかも先ほど使っていたバリアでのチャージではない。冷気をまとった状態でショルダーチャージを仕掛けたのだ。

「『フリーズ』!」

 氷属性の魔法を唱えてリーザンを吹き飛ばそうと突進。

 普通の相手なら冷気で動きを鈍らされて、そこからチャージをされて吹き飛ばされてしまうだろう。

 だが相手は魔導士のリーザン。

「子供とは思えない魔法の技術だ。なら俺も!」

 リーザンはレイカの強引なドリブルに備えて膝を軽く曲げて魔法を発動。ハイスピードで炎のスライディングタックルを仕掛けた。

「え!?」

 素早いスライディングタックルに足をとられて、体勢を崩される。

 そしてすぐさまリーザンはボールを奪い取り、立ち上がってパスを出す。

「力任せじゃあ俺は越えられねえ」

「くっ!」

 悔しそうに顔を歪める。

「普通の大人相手なら楽だけど、やはり魔導士相手は手強いわね」

「リーザンは魔法だけじゃなくてサッカーも上手い強敵だ。手強いよ」

「それは今の一戦でわかったわ。だけど次は突破する!」

 だが同時に自分を楽しませてくれる相手だ、そのこともわかった。

 期待はずれでなくてよかった。

 だからこそ絶対に抜き去ってやるとレイカは闘志を激しく燃やす。

 そしてしばらくたつと、一方的に

「点をとるぜ! 邪魔すると痛い目見るぜ!」

 リズルが前線に上がって強引なドリブルで相手を弾き飛ばしながらゴールに進む。

 一気に攻めようとカガリ、リズル他相手ディフェンダーが上がってきた。守りはリーザンに任せて、自分達は数で制圧しようとしてきたのだ。

 このままでは点をとられるのも時間の問題であろう。

「私たちも戻りましょう!」

「ああ、ボールを奪って反撃だな!」

 シュンとレイカは自分達のゴール付近まで下がった。

 ボールを持っているのはドーロン。彼から奪い取るのみ。

「ドーロン! お前には打たせん!」

「シュンか! ここまで来やがったか!」

 シュンがスライディングでボールをカットしようとする。しかしドーロンはすぐさまカガリにパスを渡して取られないようにする。

 だが、シュンは狙った通り、そんな表情を浮かべて、

「『フリーズチャージ』!」

「――!? うおっ!?」

 冷気をまとったレイカがカガリに激しくショルダーチャージ。

 カガリを吹き飛ばしてボールを奪取。そしてシュンに渡して前線に二人でかけ上がった。

「だめだ! シュンのドリブルが速すぎる!」

 全力疾走とほぼ変わらない速度で走れるシュンのドリブル技術。後続の相手チームを置き去りにしていった。

「レイカ! パスだ!」

「ええ!」

 シュンと一緒に走っていたレイカにパス。そしてすぐさま足を振り上げた。

「ドリブルで突破できないならシュートで突破するだけよ! これが私の『アイスシュート』よ!」

 ボールに氷が包まれて、それを全力のパワーで蹴り飛ばした。

 氷の塊はゴールへ向かって突き進んでいった。

「俺が止める!」

「やはり来たわね! 止めるものなら止めてみなさい!」

 リーザンが炎をまとった足でブロックしにきた。

 レイカは知っていた。リーザンが自分のシュートを止めに来ることは。

 インサイドでボールを受け止めた。

「この氷は!?」

 足に伝わる冷気、だが一番驚いたのはボールの回りにある氷。まるで金属を殴ったかのような感触。魔導士であるリーザンが押されるほどの魔法の威力。

(中等部でこの魔法のパワー! やはり……彼女は――!)

「うわあ!」

 弾き飛ばされるリーザン。魔導士であるリーザンをもってしてもレイカのシュートは止めきれなかった。

「うそ!?」

 いや、止めてはいた。

 なんとかボールを弾いてレイカのシュートを防いでいたのだ。

 自身の一番のシュートを止められて唖然とするレイカ。

「レイカ! ストライカーはボールを取られるまでシュートを打つものだ!」

「――! そうね!」

 シュンに言われてすぐさまボールに意識を戻して、再び氷の魔法を唱えてシュートを放とうとした。

 すると頬に激しい風が撫でた。

 横を見ると――シュンが風をまとった足でシュートを打とうとしていたのだ。

「シュン!?」

「レイカ! 足と止めるな! そのまま振り抜け!」

「――! ええ!」

 その言葉に従い、レイカはボールに左足をぶち当てる。

 そしてレイカがボールに足が当たった瞬間、シュンも右足をぶつける。

 二人の蹴りがボールにぶつかり、互いのパワーと魔法がのったシュートが繰り出された。

 風と氷がボールを包み込み猛吹雪とかす。

「う、うわああ!?」 

 ゴールキーパーもビビってゴールから逃げてしまうほど。

 無人となったゴールにシュートが入っていった。

 するとゴールネットが凍りつき、砕かれて地面にボールが落ちた。それだけで今のシュートの威力が想像できる。

「な、なんだ今のシュート!?」

「い、いま二人でボールを蹴ったよな!」

「タイミングもバッチリ。初めて二人で打ったとは思えない完成度」

「なによ、あれ!?」

 あまりにも強烈なシュートにフィールドにいる選手だけでなく、観戦していた人たちもただただ驚く。

「魔法と魔法の融合、そしてシュートの合体……初見でやりやがったのが一番ありえねえ」

 リーザン、今のシュートを信じられないものを見るような目で見ていた。

 連携でシュートを打つのはまだわかる。シュンとレイカは天才的なサッカー技術を持っている。

 だが一番ありないのが魔法の融合。属性の融合魔法は完璧にコンビ同士の息を合わせながらしなければ発動しない。

 でもあの二人は融合魔法シュートを一発で放つことはできたのだ。

「やった! レイカ、決まったな!」

「ええ! でもまさか初めてでコンビで打つシュートを決められるなんて驚きだわ!」

「それは俺もさ!」

 シュンとレイカ、互いに今のシュートに驚きながらも会心の出来に大喜び。

(『ツインシュート』! まさかこの世界に来て今日初めて一緒に組んだ子と出せるとはな!)

 漫画で見たことある連携シュート。

 左右から横方向に足を振って完璧なタイミングではなつシュート。

 それを今日を初めて出会った少女と放つことが出来るとは。

 本当にこの二人のサッカー技術と相性は最高クラスである。

「俺たち、今日始めてくんだけど。相性最高かもな!」

「……そうかもね」

 レイカもシュンの言葉に照れながらも肯定した。

 なんだかレイカに認められたような、そんな気がしてシュンは嬉しかった。

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