ストライカー少女 前編
「おい、いきなりどっか行ったかと思ったら女の子に声かけてたんかよ、お前」
サッカーフィールドに帰ってきたシュンに待っていたのは呆れていたドーロンであった。
突然、シュンがいなくなったので、驚いていたところにレイカと会話をしていたので、どうせサッカー上手いヤツと一緒にしたいんだろうなと思ってしまったのだ。
「また女の子にナンパしているぜ」
「よく声かけれるな。しかもオドロン村の女の子じゃなくてオラリマに住む見知らぬ女の子に」
「おいおい、シュンが女に声かけるなんてサッカーをしようって、誘うときぐらいだろ」
「……普通にナンパだと思わないか?」
「思わねえな、シュンのヤツだから。どうせいいプレイングしたから一緒にプレイしたいと思って声かけるんだろうよ」
ドーロンは村でのシュンの行動を思い出した。
シュンは誰だろうと、サッカーでいい動きをしていたら一緒にしようと誘っていく。
なぜなら上手いプレイをする相手とやるサッカーは白熱して面白い、シュンはそう思っているからだ。
だからドーロンはシュンの行動に、本当にサッカーが好きだな、と思っていて、そのため異性に声をかけてに行ってもどうせサッカーを一緒にしようって誘っているだけだな、と考えるようになったのだ。
そして今回も上手いサッカープレイヤーに出会えたらからだろうな、と思ったわけだ。
「理由はあるさ」
シュンのその言葉にドーロンは聞く。
「なんだよ」
「レイカは強い。勝負したら絶対に面白いぜ」
「ほら見ろ。このサッカー大好きが」
「あと一つ。レイカがつまらなそうだったからさ」
「は?」
もう一つの理由に、ドーロンは頭をかしげた。
シュンはレイカの姿を見つめる。その瞳はどこか悲しみが混じっている。
「彼女のプレイをあの闘争心を見たらわかる」
――おそらくだが、
「彼女はサッカーが好きなんだ。そして彼女にとってサッカーを楽しむと言うことは」
――自分と同じ、
「サッカーに全力をぶつけ、そして勝つ。それが彼女にとっての楽しみなんだよ」
――レイカはサッカーを心のそこから愛しているんだ。
シュンはそう思った。
レイカは強い相手とサッカーをしたいのは、サッカーに全力で取り込んで白熱した試合をしたい、そして勝利したい。
だが今の彼女はこの街のなかでは強すぎる。
だから心を熱くさせるような試合ができない。
「なるほどな。強すぎるからつまらない、魔導士と相手してもたまにしかしないだろうしな」
「一方的すぎるってのもつまらないものなのか」
シュンの言葉を聞いてドーロン達も頷く。
サッカーがつまらないなんて悲しいことだ。楽しくやってこそサッカーだ。
「なら俺たちが相手になればいいってわけだな! そうだろ、シュン!」
「ああ、オドロン村仕込みのサッカープレイを見せてやろう」
ドーロン達全員、やる気がみなぎる。
勝ってやるという意思がかいま見えた。
(しかし、女の子とサッカーか。村のなかではよくやっていたけど、前世では考えられないな)
前世の世界では男子女子別れてサッカーをするもの。身体能力の差、それが原因で男女別れてサッカーをしていた。
しかし、この異世界。魔力によって身体能力が上昇するおかげか、女性は男性にも負けない身体能力を持っているため気にしなくていい。
異世界の常識によってサッカーの常識も変わる。
そのことを痛感したシュン。
そう思っているとレイカがシュンの目の前にまでやって来た。
「ルールを決めましょう。魔法は使ってもいい、そして先に一点取った方が勝ち、というのはどうかしら」
「ああ、そのルールでいこう」
「ボールはあなた達に譲るから。さあ、さっさと始めましょう」
ルールを決めたあと、チームに別れてポジションにつく。
「おい、魔法ありだってよ。村じゃあできないサッカーだぜ」
「できないっていっても大人に隠れてコッソリやってたじゃん」
「魔法ありの方がダイナミックで面白いからな」
「ルールは何であろうと、俺たちのサッカーをやるだけさ」
そんな会話をしたあと、シュンはボールの近くに立って準備万端。
「だ、大丈夫かな? あの娘にかてるかな?」
「戦う前から敗けることを考えたらつまらないよ。気を楽して勝ちにいこうぜ」
「う、うん!」
不安になっている街のこどもの気を紛らせて、試合が開始される。
シュンはボールを受け取ってドリブルをはじめた。
「さあ、あなたの実力はどうなのか見せてみなさい!」
「やはり来るか!」
開始と同時に、レイカがシュンのボールをカットしにきた。
目の前にいるのだ。それは当然。
(パスを出すのが一番。だがそれは彼女から逃げることになる)
普通のサッカー勝負ならそれでいい。気を見て一騎討ちを挑むか、チームととも進むか、それを考えるのもサッカーの醍醐味だ。
だがレイカに勝つとシュンは決めている。
ならばここはレイカを抜き去ることを選ぶべきだ。
「勝負だ!」
「望むところ!」
シュンがレイカの前に立ち止まって抜きさろうと彼女の行動を確認する。
まずは右にいくと見せかけてのフェイント。鋭く無駄なく体を動かしてゆさぶってみるが、レイカはフェイントに惑わされずボールを追う。
「くっ!」
すぐさまボールをかかとで後ろに戻して距離をとる。
次にボールを蹴りあげて頭上を越えるようにしようとした。
ボールをあげた瞬間、
「見えた!」
レイカもジャンプしてボールの軌道を防ごうとした。シュンは慌ててボールを回し蹴りで地面に落として足元に戻す。
今の攻防で互いに一歩も譲らない。再びボールの奪い合いの状況となってしまった。
(抜き去れない! 俺の行きたいところをことごとく潰してくる! 守りも上手いぞ)
(ここまで粘られるなんて……この男、シュート以外も上手いのね)
しばらくにらみあって、すぐさまシュンが動いた。
(ここはギアチェンジだ。一瞬止まって、最高速のダッシュで抜き去る!)
レイカの目の前で止まって、すぐさま最大出力のダッシュで駆け抜けることを選択したシュン。
緩めのステップで相手を油断させてからのダッシュ。
最高速のドリブルは彼女の横を通り抜けて――
「惑わされると思った!?」
レイカはすぐさま足を動かして、ボールに蹴りをぶつける。
シュンの動きを読んで、ドリブルを止めたのだ。
「グハッ! ぼ、ボールは?」
バランスを崩されたシュンは地面に転がる。ボールはどこにいったかすぐさま周囲を確認。
「チッ、奪い取れなかった……」
シュンの視界に地面にお尻をつけているレイカの姿が。
彼女も地面にこけていた。
ボールの奪い合いによって蹴りはぶつけたものの、シュンの最高速のドリブルを片足で止めきれず尻餅をついてしまったのだ。
すなわち、今回のボール取り合いは引き分けに終わったと言うわけだ。
「おい、本気のシュンのドリブルを防いだぜ、あの女!」
「やはり実力は高いということか!」
後ろにいるリズルとカガリは今の戦いを見て、よりレイカの動きをよく見ておかなければならないと思った。少しでも目を離してしまったらすぐに抜かれて点をとられてしまうだろう。
そんな予感が頭によぎったからだ。
そしてこぼれたボールはドーロンが取る。
「サッカーはチームゲームだ。センタリングをあげてやれば!」
サイドからかけ上がるドーロン。
レイカのチームメンバーも止めにかかるが、
「抜いてやる!」
「うおっ!?」
肩を突き出してショルダーチャージをして相手を吹き飛ばしながら進んでいく。
強引なドリブルでどんどん前に進んでいった。
「俺たちだって意地があるぜ! 止めてやる!」
これ以上ドーロンを進ませないために、相手チームは複数人の連続スライディングタックルが飛んできた。鋭い矢が束になって攻めてきたみたいだ。
「うわ!」
さすがのドーロンもたまらずボールを奪われ地面に転がる。
そして相手チームは、
「レイカさん! 渡すぜ!」
「ええ、速く渡してきて!」
すぐさまレイカにパスを渡す。
そして力強く地面を踏んでドリブルをはじめた。
「さてと、さっさと点を取ってやる!」
フードから覗く紅の瞳に闘志が宿る。
「『バリアドリブル』で吹き飛ばしてあげるわ!」
彼女の体にバリアが現れる。そしてシュンと同じチームメンバーたちを吹き飛ばしながら前に進んでいった。
「うわ!」
「何だって!」
強力な魔法が組合わさったドリブルに悲鳴をあげながら地面に落ちるチームメンバー。
魔法を使ったレイカは無類の強さを誇っている。少女の体には歴戦の戦士のような力が宿っているかと錯覚するぐらい、パワードリブルで豪快に進んでいった。
さすがにこの状況は不味い。シュンはすぐさまディフェンスメンバーに指示を出した。
「魔法なら魔法で対応するしかない! カガリ! リズル! 二人とも頼んだぞ!」
「わかった!」
「おうよ!」
シュンの指示にしたがって
「『バリア』なら俺たちも使える! リーザンに習ったからな!」
「よし! なら俺たちが止めてやる!」
カガリ、リズル、共にレイカをチェイス。左右から挟み撃ちで攻めこみにきた。
だがレイカは囲まれても焦らない。むしろ闘争心が沸き上がってくる。
「私に魔法で勝負を挑む! それが浅はかなのよ!」
「「「『バリア!』」」」
三人、一斉に同じバリアの魔法を発動。
強固なバリア同士が激突。
ガキンッ、っと鈍い音が辺りに響き渡る。
「邪魔と言ったら邪魔なのよ!」
左右からのバリアチャージをもろともしないレイカ。自身のバリアを周囲に飛ばすように操って、衝撃波を作り出した。
そしてその衝撃波に巻き込まれたカガリとリズルは上空に大きく飛ばされてしまった。
「うお!?」
「なんてパワーだ!?」
地面に不時着して、立ち上がろうとしたときにすでにレイカは他のディフェンダーも吹き飛ばしながら前に進んでいた。
そしてペナルティーエリアの近くにまで進むと足を振り上げる!
「この距離ならシュートで決めれる! 『バリアシュート』!」
ボールにバリアをまとわせて、そのまま渾身のシュートを放とうとした。
「『ウィンド』!」
だがその時、横から突然、シュンがスライディングしながら乱入。
そしてその体勢のまま足を横に振り抜いて、シュートを妨害。ボールを蹴飛ばそうとしてきたのだ。
シュンとレイカの脚力のせめぎあいとなった!
「そう簡単に決めさせてたまるかよ!」
「私の邪魔をしないで!」
より強く、足に力を込めてボールを押し込んだ。
レイカのシュートを受けているシュンは、とてつもないパワーの流れに足を吹き飛ばされそうになりながらも必死に耐える。
だが一対一の攻めはすぐに終わった。
「全部飛べ! 飛んでしまいなさい!」
レイカが押しきって、シュンを吹き飛ばしながらマジックシュートを放った。
「よし、押しきった――」
ゴールは決まった、そう思った瞬間、ボールは大きく横にそれていき、ゴールバーの横を通っていく。
ファールだ。
今のシュートでゴールは決められなかったのだ。
「ご、ゴールの外に!?」
「押しきれなかった……ってことか?」
レイカのチームメンバーも今の結果に頭をかしげる。
普通に入っていたと思っていたのに外れてしまったからだ。
(なんとか防ぎきったって感じか……)
シュンは息をはいて安堵の表情を浮かべながら立ち上がる。
実はさきほどのスライディングブロックは片足だけでなく、もう片方の足でボールを押し込んでいたのだ。その結果、シュートの軌道がそれてゴールの外に出てしまったのである。
「こ、この男!」
レイカはなぜ外れたのかすぐに気づいた。
シュンの妨害プレイのせいだ。あのスライディングがなければ確実に決まっていた。
シュートは打った。でも、この男が結果的にシュートを防いだのだ。
「へ、結構やるだろ?」
「……ええ、そうね」
不敵に笑うシュンを見て、
(本当に久しぶりに面白い勝負ができそう……絶対に勝つ)
勝利に向けて闘志をメラメラも燃えていった。