芝のフィールドで
魔導都市オラリマの東区域にある、大きな公園があった。サッカーをするための公園だ。
そこには芝で作られたサッカーフィールドがある。
どこのフィールドも男女子供大人がボールを追いかけてサッカーを楽しんでいた。サッカーがしたいなら街の人たちはいつもこの場所に訪れる。
オラリマサッカー公園。
今日も人で賑わっている。
「すげー、サッカーフィールドがこの公園に何個あるんだ!?」
「六つある。ミニサッカー用のグラウンドも四つあるぜ」
「ということは……十!? そんなあんの!?」
「ああ、サッカーが流行って一気に作ったからな。広い土地に魔法で地面と整えてこの公園を作ったんだが、俺も急にここまで作るとは思わなかったがよ」
「そこまでサッカーにはまりこんでくれているってわけか」
都会の街の行動力に驚くドーロン達。
まさかここまで多くのサッカーグラウンドがあるとは。この街でサッカーにお熱だということがうかがえる。
「よーし、じゃあサッカーしに行くか! なーに、ちょっと声かければ入れてくれるさ、ってあれ、シュンはどこ行った?」
早速サッカーをしに行こうとしたが、いつのまにかシュンが消えていた。
迷子になってしまったのか、焦り始めるリーザンだが、ドローンは指を指して、
「あそこ」
「なあ、俺も入っていいか? 一緒にサッカーしようぜ!」
「すでにサッカーしに他のチームに混じっているよ」
「速いな! 勝手に行動すんじゃねー!」
一瞬かいた冷や汗が消えた。
もし迷子になって見つからなかったら必死に探さないといけなかった。見つからなかったらシュンの両親に頭をさげることになっただろう。
そんなことも知らず、シュンは初対面の子供に自分達もいれてくれと交渉していた。
「いいけど」
「よっしゃ! あと友達もつれてきているから呼んできていいか?」
「うん」
「おーい、みんな! 早くこっちにこいよ! 早くボール蹴ろうぜ!」
「本当にサッカーのことになると行動速いなアイツ」
「まあ、すぐにサッカーできるしいいんじゃないか?」
「そうそう、さっさとボール蹴ろうぜ! 足がウズウズしてる!」
ドーロン達はシュンのもとにいこうとする。自分達も早くサッカーがしたいのだ。
「よし、いってこい。俺は他のフィールドで相手探してくる」
「え、リーザン、一緒に来ないの?」
「さすがに子供達のチームに混じるのは大人げない。相手が誘ってくれるならともかくな。なーに、俺は俺で楽しんでおく。じゃあ、たっぷり楽しみな」
そういって隣のサッカーフィールドに向かっていった。
シュン達四人で同じチームに入ってサッカーをすることになった。
「君たちどこから来たの?」
「オドロン村からさ。この街からちょっと遠くにある村だよ。観光に来たんだけど……サッカーがしたくなったからこの公園に来たんだ」
「サッカー、面白いよね! この街の魔術師さん達が作ったんだけど、すごく楽しいゲームを作ったなって。魔法だけじゃなくて娯楽も作るなんて流石だな~」
「おい、シュン。いつのまにかこの街でサッカーが作られたことになってんぞ」
ドーロンたちはこの街でサッカーが作られたことにすこし不満ぎみ。
本当は自分達が作ったのに、それをとられたことが気にくわないみたいだ。
対してシュンは、
「いいじゃないか。誰が作ったとか」
「俺たちが作ったのによ……正確にはシュンがサッカーを作って俺たちが最初に遊んだのにさ」
「でも、俺はサッカーがここまで広がってくれたから別にいいかな」
確かにシュンはこの世界でサッカーを作ったのは事実。だがそれは前世で楽しんだサッカーをこの世界でしたいがために行った。そしてこの大陸にサッカーが広がっているのならシュンの目的は達成している。
この世界でサッカーができる、そして楽しめる。それができればシュンは誰がサッカーを作ったなんてことはどうでもいいのだ。
「俺はサッカーが楽しめるなら、それでいいんだ」
「……まあ、それもそうか。よーし、オラリマの連中に俺たちのプレイを見せてやるぜ!」
「そうだな。それにこの街のプレイングを見るのも楽しそうだ」
「いつもの連携でバッチリだ! 目立とうぜ!」
四人ともやる気十分。
そしてシュン達はいつものポジションについた。
シュン、フォワード。ドーロン、フォワード。カガリ、ミッドフィルダー。リズル、ディフェンダー。
同じチームで組んだときには必ずなるポジション。
シュン、カガリ、リズル三人が縦に並んで、ドーロンがサイドに立つ。
そしてシュンは芝が生えたサッカーフィールドを見つめる。
(芝のフィールド……この踏みごごち。懐かしい……)
前世の中学生の頃に戻った懐かしい気分だ。
がむしゃらにボールを追いかけ、全国の頂点を目指していたあの時に。
自然と体に力が入る。今なら何十キロでも走っていけそうだ。なんならフルタイムを全力疾走しても息切れしないと思う。
そう感じてしまうほどシュンのメンタルは意気揚々としている。
「俺にボールを渡してくれないか?」
「いいよ」
同じチームのメンバーにボールを受けとり、試合が開始される。
「よし、上がるぞ! シュン、っていったよね! ゴールに向かって進もう!」
「おう!」
シュンはドリブルをはじめて、ハイスピードでダッシュをはじめた。
「えっ!」
味方のメンバーも突然走っていったことに驚いた。
だがそれ以上に驚いたことは、あまりにも速くフィールドを走り出したことだ。
すでに敵フィールドの半分を越えるところまで走っている。
「おっ、シュン。最初からギアマックスだぜ!」
「これは俺たちもサポートしに行くか!」
「おう! 俺もいくぞ!」
「最初からオーバーラップするな! リズルはもしものための守りをしておいてくれ!」
「わかった!」
ドーロン、カガリも全力疾走でシュンについていく。
「そんな単純なドリブルで!」
こちらにまっすぐ向かってくるシュンを見て相手はダッシュでチャージをしていた。
しかしシュンは冷静に、相手の横にボールを出して通り抜けさせた後、すぐさまボールの反対方向から相手を抜いてかわした。
「あれ!?」
「まだまだ!」
今度はスピードを緩めた後、すぐさま最高速のスピードで緩急のある動きを作り出し、そのまま相手を抜き去った。
次は相手の頭上にボールを越えさせて本人は低い姿勢で抜く。
すでに三人抜き。相手チームは大慌てだ。
「な、なんだアイツ! ドリブルの数も多いし、一つ一つのレベルも高い!」
「数人で囲んで止めるぞ!」
敵チームディフェンダー全員がシュンを止めようと突撃してくる。
シュンは、自分に注目がいっている。ならここは抜くより、パスが優先。
「ドーロン、パス!」
「おう!」
シュン、ここで強行突破はしない選択を取った。すぐさま味方にパスを渡してシュン自身は前に走っていく。
パスを受け取ったドーロンは、
「おい、渡すぞ!」
ボールを思いっきり蹴って、反対側のチームメイトにボールを渡そうとした。
蹴り出されたボールは高い軌道を進み、
「あれ!?」
仲間はボールを受けとることができずサイドを割ってしまった。
「しまった! 前に出しすぎたか?」
ドーロンが出したパスは仲間が走る十メートル以上先に送ったのだ。
いつもシュンや村の子供達とやっているせいで受け止めてくれると思ったけど、パスを渡す相手はオラリマにすむ子供。今日はじめてあった相手に出すパスではない。
「ドーロン、パスを渡す相手は初対面の子だよ。いつもやっている俺たちならドーロンのパスがどこに出すかわかるけど、知らない子ならパスミスだと思ってしまう。気を付けてくれ」
「ああ、わかった。パスは俺の得意分野だ。すぐに修正するぜ。すまん、変なパス出しちまって」
「いや、いいよ。僕も走れば受け止められたから、次からは止めるよ」
ドーロンがミスについて謝ったあと、試合が再開。敵チームがボールを投げて仲間に渡して、相手はそのまま連続パスでこちら側に攻めていった。
「よし、今度はこっちが攻めるぞ!」
「そうはいかん!」
リズルがボールを取りに防御体制をとりながら近づく。
相手は取られてたまるかと、体を揺らしてフェイントをしかけた。
「へっへ! 取った!」
「あっ!?」
しかしフェイントに見向きもせず、長い足を伸ばしてボールをカット。そしてすぐさまカガリにパス。
「よし、シュン! 前に走れ! いつものいくぞ!」
「りょーかい! いつものだな!」
シュンはフィールドの中央を突っ切るように走り出した。
突然走り出したシュンに視線を奪われている間に、
「よし、そこの君! ドーロンに、右奥にいるヤツに渡してくれ!」
「わ、わかった!」
カガリは味方にパスを渡して、味方はすぐさまドーロンに渡す。
そしてアタッキングサードのサイドにいたドーロンはパスを受け取って、すぐさま相手のゴール付近を確認。
そこにすでにシュンがいた。
「シュン、受けとれ!」
ドーロンお得意のラストパス。
シュンの支店から見ればちょうど蹴りやすい高さ、そしてスピード。
まさにゴールを決めてくれ、そんないいパスだ。
「いい高さ! 決めるぜ!」
シュンは体を捻りながら空を飛ぶ。
「えっ!? あれってオーバーヘッド!?」
敵チーム、誰もが驚き。
この街の子供達も練習しているが、なかなかうまくいかず、できるだけで人気者になれる。
それほど子供にとっては習得が難しいオーバーヘッドシュートをシュンはこの場でしようとしているのだ。
「絶好のセンタリング! 決めなきゃ点取り屋は名乗れねえ!」
上空に飛びながらバク転しつつ足をボールにぶつけた。
オーバーヘッドシュートは正確に相手ゴールのバー近くに飛んでいき、相手ゴールキーパーは反応するも、
「あぁ……!」
反応したときにはすでにボールはゴールネットを揺らしていた。
「シっ! どんなもんだい!」
喜びのガッツポーズ。
これがシュン達の黄金パターン。
リズル、カガリがボールを奪ってドーロンに渡して、ドーロンはシュンにラストパスを渡す。
これができたらほぼ点が入る、強力な攻めパターンである。
「き、君は何者なんだ? あんないとも簡単にオーバーヘッドを打つなんて……」
街の子供達はシュンの動きを見て驚愕する。
ドリブル、シュート、共にレベルが違う。同じ子供なのに、シュンなら大人達だって手駒にとれる、そう街の子供は思ってしまうほどシュンのプレイに驚かされたのだ。
そしてさっき放たれた、オーバーヘッドキックも当然驚いた。
あんな簡単そうに打てるのはこの街でもそうそういない。
「オーバーヘッドを打つにもコツがあるんだよ。なんなら今教えようか?」
「本当!?」
「本当さ。手本ももう一回見せようか?」
シュンにオーバーヘッドキックを教われることに、同じチームメンバーはシュンの回りに集まった。やはりオーバーヘッドキックは大人気。
シュンも教える気満々である。
「あ、アイツら上手くないか?」
「ああ、とくにあの黒髪の緑眼の男、ドリブルは見たことない技ばっか繰り出してくるし、オーバーヘッドも打てるなんて……」
「あとあの三人も、あの少年の動きに完璧についていけてた。一人こちらにいるだけでも戦力大幅アップだよ」
相手チームはシュンの動きに驚き、そしてドーロン、カガリ、リズルの三人もかなりの実力者だということを見抜いた。
「おーおー、早速点を取ったのか。この村の子供達相手にも十分勝てる実力があるってことか。これは俺もちょっと張り切ろうかな!」
隣のサッカーフィールドでサッカーをしているリーザンはシュン達の活躍を見て喜んでいた。
よくサッカーで遊ぶ子供達がサッカーで活躍しているのだ。年長者のリーザンが喜ぶのは当然。彼らの頑張りがリーザンのサッカー熱をより加熱させる
さっそく一点取ってくるか、そんな気分で相手のゴールまで走っていこうとしたら、
「ぎゃあああ!!!」
突如、公園内に悲鳴がこだまする。
公園内にいる全ての人間が悲鳴がした方向に顔を向けた。
「邪魔よ!」
少女の声だ。
フィールドを見ると、フードを深く被った女の子が猛スピードでドリブルを仕掛けていた。
銀髪がフードからちらりと見え、深紅の瞳には闘争心が剥き出しだ。
フードの少女がゴールに向かってまっすぐ突き進んでいる。
「く、くそ!」
相手ディフェンダーが焦りながらボールを取りにスライディングで来るも、
「遅いわ!」
ボールを浮かばせてジャンプ。そのまま相手を軽々と抜き去る。
「隙が見えたぜ!」
着地隙を狙ってきた敵がショルダーチャージを仕掛けてきた。
相手の方が少女に激突する。
「その程度? 軟弱なのよ!」
「うわあ!?」
体当たりされて吹き飛ばされたのは――相手チームの方だった。フードの少女が反撃と肩を振ると、相手チームを大きく吹き飛ばしてそのまま突き進む。
一見ラフプレイでレッドカードものだが、ここは異世界。相手をショルダーチャージやスライディングタックルで吹き飛ばした程度ではイエローカードどころかファールにもならない。
彼女は止まらない。どれだけ相手がチャージやスライディングで止めようとしても全て力でねじ伏せていく。超特急の馬車の如く突き進んでいった。
「この距離なら!」
そして突然止まると、足を大きくあげた。シュートの構えだ。
「邪魔するっていうなら全部ぶっ飛ばす! 『バリアショット』!」
ボールに全てを防ぐバリアが張られて、少女は足を目にも止まらぬ早さで振り抜いた。
空気が振動するほどの衝撃が観戦している人々にも伝わってくる。
「わあっ!」
シュートを防ごうとしたディフェンダー達も弾き飛ばし、ボールはスピードを緩めることなく突き進む。
ゴールキーパーも真っ正面からシュートを受け止めようとしたが、
「ぐおっ――!」
手で触れた瞬間、強固なバリアに弾かれて腹部に直撃。そしてそのままゴールキーパーごとゴールにおしこんでいった。
力技でゴールを奪い取って見せたのだ。
「ふん、当然の結果ね」
ゴールを奪ったのに喜ぶことはなく、こんなことよるあること、なんて態度をしていた。
自分の実力に絶対の自信を持っている、そんな重いが表情から伝わってきた。
(動きは乱暴だが、その分パワーに溢れたプレイングだ! それにパワーに目がいきがちだが、スライディングタックルを軽々とジャンプして避ける技術もある! 魔法も当然上手い! 全ての技術が高水準だ!)
あの少女はサッカープレイヤーの実力が高いことが先程のプレイで理解した。この街にあれほどの技術を持った娘がいるなんて、シュンは内心驚いている。
「お、お前! もうちょっと手加減しろよ! もうちょっと和気あいあいと楽しんでやろうと言う心はないのかよ!」
相手チームの抗議。
よく見れば足を抱えてうずくまっている子もいる。
怪我をさせられたのが怒った原因だろう。
「サッカーで手を抜けというの? ふざけたこと言わないで」
だがフードの少女は依然として不敵な態度を変えない。
「サッカーはゲームであり勝負。全力でぶつけ合うのが一番楽しいのに。あなた達がしたいのはサッカーじゃなくて球蹴りよ。だったら家の庭でしてなさい」
「な、なんだと!」
「それに私が魔法を使うサッカーをしよう、っていってその提案を受け入れたのはあなた達でしょ。それなのにちょっと怪我をしたぐらいで、情けない」
「なっ!?」
「マジックサッカーなら多少の怪我は起こってもおかしくない。だって魔法が飛び交うから。だいたい、チャージだのスライディングだの、先に仕掛けてきたのはそっちのくせに、反撃されて怪我したら文句言うなんて、情けないわ」
彼女の言葉に、相手チームはイラつきを抱く。
「くそ! お前となんかサッカーやるかよ! 皆、違う相手とサッカーしようぜ!」
「そうだな! お前となんか遊んでやるかよ!」
少女の目の前で情けないことをいいながらフィールドから離れていく相手チーム。
少女はつまらなそうな顔をしながら見送っていた。
「……その、どうする? 相手きえちゃったけど」
「ふん、つまらないわ。負けるのは嫌いだけど、勝ちすぎると暇になるのね」
フードの少女の味方メンバーが気まずい顔をしているが、そんなこと知ったことではないと彼女はボールを足で浮かばせて、リフティングを始めた。
「うわ、でた……彼女か」
シュンのチームメンバーである街の子供が嫌そうな顔をしてそういった。
「彼女って、結構有名人か?」
「サッカーをしている人なら誰もが知っているよ。フードの少女。つい最近現れて、サッカーをしては負けなし。彼女が負けるところを見たのがないほどだよ」
「そんなにうまいのか」
確かに今のプレイを見て、彼女の実力はかなりのものだとシュンは感じた。
力によるごり押しのプレイも魔法のプレイも注目しがちだが、スライディングを華麗に避けたのは彼女のドリブルの技術の高さがあったからこそだ。
「しかも彼女が相手をした人物もやばくてよ。大人は当然、魔術師相手にも完封したんだぜ」
「マジか! そんなに上手いのか」
「ああ、上手いよ。彼女はね、マジックサッカーがものすごく上手いんだ」
「マジックサッカーがうまい?」
「サッカーの腕も大人顔負けなんだけど、魔法に関してもそうなんだ。新米とはいえ魔導士さえも彼女からボールを奪えなかったんだよ。この街の中じゃあ一番うまいかもね」
「ふーん、そうか」
確かに先程の話では魔術師相手にもサッカーをしていたはず。ということは彼女の魔術師に負けないほどの魔法技術を持っているということだ。
ならマジックサッカーが上手だということも納得できる。
だが、
(……なんだか、楽しくなさそうだな)
サッカーがあれほど上手いのにあの表情。
惰性でやっているようにも感じられる。
(だが理由は何となくわかる。彼女の勝負に向ける闘志をみれば)
「……ん、見覚えのない顔ね」
シュンが彼女を遠くから見つめていると、フードの少女は他のフィールドを見ながらそう呟いた。
そしてボールを地面に下ろして、そのまま蹴り飛ばしてシュートを放った。
「――っ!?」
ボールの向かう先にいたのは――リーザンであった。こちらにボールが向かってくることを察知したリーザンはすぐさま体を振り向いてボールを真上から踏みつけるように蹴って、地面に叩きつけた。
突然、ボールが乱入してきたためリーザン達のチームメンバーも相手チーム全員も立ち止まてしまった。
「なるほど、やはり実力はあると思っていたわ」
「おいおい、もしかしてこのボールを蹴り飛ばしてきたのはお嬢ちゃんかい」
いきなりボールを飛ばしてきた少女に冷たい視線で見つめるリーザン。突然の攻撃に近い行動に怒りを抱いているようだ。
「ねえ、そこのあなた。私とサッカーで勝負しなさい。私があなたが今戦っている相手チームに入るから」
「いきなりわがままいってくるじゃねーかおい。いい年して、大人がいつでも言うことを聞くと思ってんじゃないぞ。高等部の娘が辻斬りまがいなことしやがって」
「私、今年で中等部だけど」
「……」
黙りこんでしまうリーザン。小言で、マジ? と呟いていたがそれは誰も聞こえていない。
でも勘違いしても仕方ない。
彼女の身長、スタイル、共に大人の女性と変わりない体型をしているからだ。
(今年中等部ってことは、前世でいうと……中学一年生? マジか)
シュンも流石に驚いた。正直言えばリーザンと同じ考えで彼女のことを高等部だと思っていたからだ。実際はシュンと同じ歳の少女だった。
「……そっか」
その言葉しか返せないリーザンであった。胸の中にあった怒りは消えている。
「リーザン、頼む! 彼女を倒してくれ!」
「彼女とサッカーするのは嫌なんだよ! 彼女がいるチームが一方的に勝っちまって、サッカーがつまらなくなってしまうんだよ」
「いや、お前ら大人げないだろ。いくらめちゃくちゃ強いからって子供相手にサッカーするの嫌って」
一緒に試合している相手の反応に呆れるリーザン。
遊んであげればいいのにな、と思っているとフードの少女はリーザンを興味深そうに見つめてきた。
「リーザンって言うのね。魔導士で、しかもサッカーの技術も十分高い。いいじゃない、そういう相手を待っていたの、私は」
フードは周囲の人を見渡して、
「私はサッカーをしにここにきたのに……周りが情けない人たちばっかで退屈してたの。あなたならいいサッカーができそう。だから勝負しましょう。ね、リーザンさん」
瞳に闘争心をむき出しにして勝負を挑んできた少女。
サッカーに対する熱い思いを
「なあ、そこのアンタ。俺とサッカーしないか?」
その勝負に待ったをかけた一人の男がいた。
「はあ? あなた誰よ」
「俺はシュン。オドロン村からサッカーをしにここに来たんだ」
「オドロン村……知らない村ね」
シュンがフードの少女に声をかけてきた。
理由はもちろん、サッカーの試合の申し込みだ。
「で、私になにかようなの?」
「さっき言ったぜ。俺はアンタとサッカーをしたい。勝負しようじゃねーか」
「しないわ。私は今目の前にいる魔導士リーザンと勝負したいの。あなたなんかに構っている暇はないわ」
「おいおい、いきなり拒否はないだろ」
フードの少女の冷たい態度に
「実力のないあなたと戦いたくないの。ほら、他の人と遊んでいたら」
「実力なら自信あるぜ」
サッカーの腕がないから試合をしたくない。
なら実力を見せればいい。
シュンはボールをチップキックで浮きあげて、そこからリフティングを始めた。
膝、足の甲、背中など体全体を使ってボールを鮮やかに浮かばせ続けた。
「おお、すごいリフティングだ!」
「そんなの。サッカーにリフティングの腕は関係ないわ」
「まあ、見とけって……よっ!」
ボールを高く浮かばせて足元に魔方陣を展開。
「『ウィンドボレー』!」
足に風を纏わせて、ジャンピングボレー。
シュートは大空に向かって飛んでいった。ゴールなんて知ったことかと言わんばかりに上空に飛んでいく。
「打ち損じたのね。へー、それが自慢できるほどの実力なの?」
「まあ、見てて驚け」
レイカの煽りも受け流して、シュンはゴールを見つめる。
何を驚けと? レイカは飛んでもない方向に飛んでいったシュートボールの行方をみようとした。
――すると突然、ボールが真下に落ちるように大きく曲がる。重力に引っ張られるように地面へと向かっているかのような曲がり方。だがボールは地面に激突する前に、ゴールの中へと飛んでネットを揺らした。
「あのマジックシュートの軌道……! あそこまで曲がるのはみたことないわ……」
先ほどまでの余裕たっぷりの態度が崩れるほど、フードの少女は今のボレーシュートに驚く。
(回転をかけることでボールの軌道を変更させることを知っている。それに今のボレーシュート……いい動きね。大人でも真似できないほどの)
シュンの動きを分析して、かなりの実力者だということは理解できた。
「……あなたポジションはフォワードね」
「そう、そして村一番の点取り屋さ」
やはりか。
少女は興味が湧いた。
目の前にいる少年はどれだけ自分を楽しませてくれるのか。
そして、どれほど熱いサッカーをしてくれるのか。
「私もフォワードなの。私の前で点取り屋を名乗るなんてね」
「どうだい、勝負してくれるか?」
「いいわ。まず最初にあなたを相手してあげる。メインディッシュはあとよ」
少女はシュンの勝負に乗った。
彼の動きを見て、戦ってみてもいい、そう思ったからだ。
そして少女の言葉にシュンは微笑む。
「よし! 楽しみにしてるぜ。で、名前は?」
「……言う必要あるの?」
「さすがにアンタとかオイとか呼び続けるのも失礼だと思ってね。名前を教えてくれると助かるんだが」
「……レイカよ」
「レイカか、いいサッカーをしよう」
「相手になればいいけど」
フードの少女、レイカは先程シュンがサッカーをしていたフィールドに入って相手チームに近づき、
「そこのあなた達、私が入るから一人抜けて」
「い、いきなりなんだよ、お前」
「その、すまん。レイカを入れてくれないか? ちょっと彼女と勝負したくなったからな」
むりやりチームに入ろうとするレイカをフォローしているシュン。
「まあ、いいけど……」
「あの子強いけど一人でプレイするからな……」
入れてはもらえた。
若干、チームの雰囲気は悪いが試合をしていれば良くなっていく……はずだ。
「俺も戦ってみたかったがな。まあ、後で頼めばいいか。シュンと彼女の勝負を見るのも楽しそうだしよ」
観戦気分のリーザンはシュン達がいるサッカーフィールドの近くで腰を下ろして、どんな戦いになるのか楽しみに試合の開始を待ったのであった。
「しかし、レイカか……もしかしてあの? いや同名ってだけかもしれないしな」
リーザンは彼女の姿を見て呟いた。