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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
三章 中央地区予選の始まり
130/130

対決、ジェムライト魔導学院 ②

 レイカのシュートが外れて、ボールはジェムライトのものへとなる。

 ダイアのロングパスからのカウンター。いきなりレイカからシュートを打たれたときは驚いたものの、すぐさま攻撃に意識を集中させてゴールへとボールをつないでいきながら前に進んでいく。

『ジェムライト魔導学院! さあ、反撃だ! パス多めの攻勢です!』

「早くください! シュートはたくさん打った方がいいですから!」

「わかっている――」

「おせえ!」

 サファイアの要求を聞いてボールを渡そうとしたら、地面を高速で滑るリンナイトの鋭い蹴りが炸裂。相手選手のボールを奪いながら吹き飛ばした。

「うわ⁉」

「前ばっか見てんじゃねえ!」

『リンナイト選手! 得意の高速スライディングタックル! まさに矢の如し! ボールを瞬く間に奪い取った!』

「チコ!」

 滑りながらボールを蹴り飛ばして、味方のモーグリンにパスを出す。 

「よいしょっと!」

「見えましたわ!」

「うわ⁉」

 ボールを受け取ろうとしたら、背後からダイアが足でボールを拾うようにカット。無駄のない動きだ。

「ほーほっほっほ! 遅い遅いですわ!」

『おっと! 中盤まで上がってきていたダイア選手! ボールを見事にキープだ!』

「さっさと味方にパスですわ! リンパルオさん!」

「はい! ツァイト!」

 前線にいる味方のミッドフィルダー、リンパルオにボールが渡り、そこからルビーへとボールを流す。

「はいはーい! 見てて見てて! あたしのシュート!」

「打たせん!」

 ルビーがシュートを打とうとしたとき、キャプテンのマデュランが前に立つ。

(あっ、ハンサムの人! でも、確かマデュラン様って結構強かったよね~)

 巨体を生かしたディフェンスに加えて、強力な魔法でのシュートブロック。それを兼ね備えているマデュランが前方にいるのにシュートを打つのは無駄になるだけ。

 ということはシュートを打つ場面ではない。

 マデュランは相手にするだけこちらが損する。それほどまでに彼の守りは堅い。

 だからルビーが取った行動は、

「サファイア! おーねがい!」

 もう一人のフォワードであるサファイアにパスを出した。

 彼女にシュートを託したのだ。

「よし! ゴールを決めたらダイア様に褒められます! がんばりますよ!」

「させない!」

 魔方陣を展開。だがそこに横からトイズがやってきてショルダーチャージだ。

「おっっと……『スカイクリスタルスラッシュ』!」

 体をそらしながら魔法を展開。

 するとボールに水色の水晶が包まれて、そのまま横払い蹴りでボールを蹴り飛ばした。


「……止める!」


 それを反応して体の中心でボールを受け取るエスバー。少し後ろに下がるも、がっしりと両手の中にボールが収まった。

「なっ⁉ 魔法なしで⁉」

(トイズさんが妨害したおかげで魔力を使わずに止めることができたな)

「……よかった」

 魔法を使うことなく自身の体だけで止められたことに驚愕するサファイア。

 トイズもなんとかサポートできて安心する。

『おおっと⁉ エスバー選手! シュートを体の中心でがっちりとキャッチ! 丁寧なキャッチングです!』

「……シュンさん!」

 すぐにシュンへとパスを出す。

 今度はこっちがカウンターだ。シュンはボールを受け取りつつ前に走り出す。

「よし! レイカ! 上がれ! シュートの準備をしておけ!」

「あなたもボールを取られないようね!」

 マギドラグの攻撃コンビが前へと進みだす。

 するとシュンの前に余裕そうな表情を浮かべる相手選手の影が。

「へ、こいつ相手なら……」

「なんだっていうんだ」

 ハイスピードで接近、からの左からの右、フェイントを混ぜたドリブルで軽々と相手選手を抜かしていく。

「え⁉」

「何してんのよ!」

「さっさと止めろ!」

 ジェムライトのシトリーとエメラルが味方の抜かされる姿を見て怒鳴る。そしてそのままシュンからボールを奪おうとタックルを仕掛けていった。

 抜かした後の隙を狙った。

 これならボールを奪える。

「よっと!」

 軽々とボールと共にジャンプ。そして着地共にボールを足首に固定しながら右回転で相手の体当たりを避ける。

 それをいとも簡単に行って楽々と二人抜き。

 鮮やかに抜いてすぐに相手選手から距離を離していく。

「「え⁉」」

「シュンくんいけー!」

『見事なドリブル! シュン選手! 今日も絶好調だ!』

 実況もこれを待っといたと言わんばかりに大喜び。

 誰も彼を止めることができないのか。


「まったく、村民相手になんて情けない!」

 そんな彼を止めようとジェムライトの守護神が動きだす。シュンのボールを取ろうとダイアが駆け寄ってくる。

「お出ましか! 抜かせてもらうぜ!」

「あなたには無理ですわ!」

 シュンはいつも通り、相手を惑わすようにフェイントドリブルで横をすり抜けようとしたが、

「――⁉」

 危機を察知してすぐさまバックステップ。

 シュンがダッシュしようとした軌道の先にはダイアの足がある。あのまま進んでいたらボールを奪われていた。

「あら、なかなか鋭い」

(……俺が足に力を入れた瞬間に足をのばしていなかったか?)

 勘でただ伸ばしただけではない。

 自分がダッシュしようとしたその時にダイアは動いていた。

 間違いない。

 ダイアはシュンの動きを読んでボールをカットしてきたのである。

「これが未来予知じみた動きってやつか……」

「私の目には見えるの。相手の動きがはっきりと」

 目の前で待ち構えているダイアを見つつ、周囲を確認するシュン。

(レイカが待っている……ここは分の悪い勝負でも突破しにいくしかない!)

 ドリブルで抜き去ることを選んだシュン。

 あんなに挑発されたのだ。ここで逃げるのはドリブラーの名が廃る。

 トップギアで足を踏み込み、緩急あるダッシュで相手を惑わしに行く。最初は遅く、そして一気に最高速でダイアの横を抜き去ろうとしたが、

「甘い!」

 ダイアはそれに気づき、シュンの進む方向を読んで足を振る。

 ボール越しに足と足がぶつかった。

 ――緩急に惑わされていない! 初見で⁉

 今日初めて試合を行っている。ならこのドリブルも初めて見たはず。なのに対処できている。シュンの移動を予測してボールをカットしてきた。

 だがボールと止められた程度では止まらない。

 シュンはすぐさま受け止められた足を動かし、反対側に移動する。

「しぶといお方!」 

 それも対応して、ダイアも反対側に再び足を伸ばす。

 本人たちにとって長い一騎打ち。

 両者の攻めと守りが拮抗しあい、ボールが二人の間で揺れ動く。


「ええい! これ以上見てられっか! オラ!」


 そこにトノスがシュンをサポートしに二人の間をスライディングタックルで滑ってくる。ただ見守っているわけにはいかない。シュンを助けにきたのだ。

 彼の足がボールに触れて、

「なっ⁉」

「今だ!」

 シュンが体をひねりながら前に飛ぶ。そしてボールを足首で拾いながら、飛んだ勢いでダイアの横を抜き去った。

「なんですって⁉」

『ナイスサポート! 二人の激闘をトノス選手がシュン選手に勝利をもたらした!』

「助かりました!」

「おうよ! てかあんな突破しやがるのかよ」

 大胆なドリブルに驚くトノス、そしてシュンはゴールへと走り出す。

「助けてもらった以上、絶対にボールを渡さなければ……」

「他の方! 早く止めなさい!」

「はい!」

 すぐにシュンを止めようと周りのジェムライトの選手が動くが、先ほどダイアを相手にしたシュンにとってはあまりにもゆったりとした動きに見えた。

「魔法も使ってこないようじゃな!」

 フェイントも使わない、スピードだけで相手を抜かす。相手のディフェンスはかすりともしない。

「よし! レイカ!」

 相手を抜きゴールの近くのサイドライン。まさにラストパスにうってつけの場所。

 ここで確実にレイカにボールを渡す。ゴール前の相手選手の場所を確認。相手選手がレイカの周りを囲っている。シュンがシュートを打つと全く考えていない。レイカにさえボールが渡らなければ問題ない。そんな動き。 

 なめられているな。

 自分相手には油断して魔法も使ってこない。完全になめ切っている。

 そう思いながらも、ここはレイカにボールを渡す。

(レイカは俺を信じて前に出た! 絶対にパスを出すぜ!)

 そう思い、渾身のラストパスを放つ。

「高い⁉」

『ここでミス失敗⁉』

 シュンが放ったパス。それはゴールを軽々と超えるほどの高いパス。あまりにも高いパスであった。空に昇っていくボールがレイカのはるか高い頭上まで上がっているのだ。

 緊張して失敗でもしたのかと、この軌道を見れば誰もが思った。


「――いいパスね」


 だがレイカはそれを望んでいた。

 今レイカが欲しいパスは他の選手が取られないようなパス。このパスはどう見ても高く上げ過ぎた失敗の軌道。

だがそれでいいのだ。

「フッ‼」

 少ししゃがみ込んでそのまま思いっきり真上にジャンプ。そしての近くまで一瞬で飛び上がった。

『ヴィ、ヴィルカーナ選手! 飛んだ! なんて跳躍力! 空高く浮かんだボールに追いついた!』

「ぶち込む!」

 魔方陣展開!

「『アイシクルフォール』!」

 強烈な冷気が彼女の周囲に生まれてボールに集結。そして冷気がボールを凍らせ、大きな氷槍を作り出す。その氷槍をオーバーヘッドキックで真上から叩きこんだ。氷の槍はまさに巨大ツララのようにゴールへと向かって落下していく。

「そこから! くっ! 『ジェムダストカッター』!」

 ゴールキーパーのアルマディンも魔方陣を展開。

 両手の中に宝石を作り出し、それを押しつぶして砕く。そして砕かれた宝石を操って回転。すると宝石の粉でできた回転カッターを作り出した。そしてその宝石粉のカッターを巨大ツララに押し付けてけぶり切ろうとする。

「――⁉」

 だが氷に激突した瞬間、カッターが消えていく。

宝石の粉が吹き飛ばされている。傷一つつけることができない。そしてそのまま止まることなくゴールラインを超えて地面に氷が突き刺さった。

 そして氷が消えてボールだけがゴールの中に残る。

『ゴール! ゴーーーール! ヴィルカーナ選手! やはり決めた! 氷撃の一打が見事にゴールを貫きました!』

「見た! これが私の実力よ!」

 ゴールを決めて振り向き、味方に一番と人差し指を立てた。

 自分が一番のストライカーであると誇示するように。

「やる! さすがレイカ!」

「あなたもいいパスね」

「普通のパスじゃあ打ちづらいだろ?」

「ええ、周りに選手がいない方が打つの楽だもの」

「ヴィルカーナ! やるな!」

「さっそく一点決めちゃってさ! これはワタシも打ちにいかないと!」

「ふふふ……そうでしょう!」

 マギドラグの味方もレイカの活躍に大盛り上がり。

 称賛の言葉にレイカも思わず笑みを浮かべた。


「グヌヌ……さすがはレイカさんというべきでしょう。やはりシュートに関しては私より上だと認めざるを得ませんわ」

「ダイア様……申し訳ありません」

「いいですわ。この一点は私が止め切れなかったがゆえに取られたもの。一番の責任は私ですわ」

 落ち込んでいるアルマディンを慰め、レイカの方に視線を向けた。

「やはりシュートはレイカさん頼み……ならばやるべきことは決まっていますわ」

 頭の中で作戦を組み立てるダイア。

 まだ序盤。

 何とかして同点にしようと闘志を燃え上がらせるダイアである。

 

「ダイア……」

 一方、何かを企んでいるダイアに対して、シュンは嫌な予感を感じた。

(しぶといディフェンスだ。トノスさんが間に入ってくれなかったら勝てなかった)

 進もうとした方向にいつのまに彼女の足がある。まさに未来予知のようなディフェンス。ボールこそ取られなかったが、シュン自身の力で突破もできなった。

 偉ぶっているが、ディフェンスはその自信に見合う堅固な守りである。

「口だけじゃねえ。立派なディフェンダーだぜ。たく」

 試合はまだ始まったばかり。

 一点だけじゃあ足りないが、ダイアを相手にしてどれだけ抜かせるか、それがマギドラグの得点を稼げるかどうかだとシュンは感じ取った。

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― 新着の感想 ―
第130話をありがとう。ついに...開幕ゴールが決まった。でも、これからはもっと激しい戦いになる。まだ前半戦の序盤なので、130話はあまりレビューしない。ただ、シュンがディフェンスを攻めあぐねるのは間…
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