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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
序章
13/130

魔導都市オラリマ

 シュンがマジックシュートを覚えて、リーザンのPK対決でリベンジを果たしたあの日から。 

 シュンはサッカーも魔法の技術もどんどん腕を磨いていった。

 自分がしたい動きを練習していき、前世で読んだ漫画やプレイしていたゲームの技を覚えていく。

 魔法もバリアを練習していき魔法の技術を高めていく。

 どちらもこの世界のサッカーにおいては大事なもの。故に全力で練習していく。

 さらにはドーロン達や村にすむ大人や子供、リーザンもサッカーが上手になっていき、レベルの高い勝負をできるようになったのはとても嬉しいことだった。

 サッカーを真剣にプレイして楽しんでもらえる。それがシュンにとってとても嬉しかったのだ。

 そして三年、シュンが十三歳になった。

 前世で言うなら中学生になる歳だ。

 この三年、シュンだけでなく、シュンが住む大陸エルドラドも大きな変化を迎えていた。

 シュンが伝えた、サッカーと言う存在によって。




「シュン! お客様の対応、お願いね!」

「わかったよ、母さん!」

 シュンの母、シュユが忙しそうにしながらそう頼み込んだ。

 シュンは今、両親の店の手伝いをしていた。

 シュンの両親が開いている店は服屋。オドロン村の中に一軒しかない服屋だ。

 この村に住んでいる人々は、この店で衣服を買う。上着にズボン、下着などを売っており、帽子や靴もちょっとだけ商品スペースがある。

 父モメントは衣服を作り、母シュユは小物類の製作と店の接客をする。シュンは両親の仕事のお手伝いとしてお客の対応と会計をしていた。

「シュン、いつも助かるわ。特に接客がいいからあなたが店にいるといつも以上に商品が売れるのよ」

「そうなのか? それだったら嬉しいな」

 母からの褒め言葉にシュンは照れながらも喜ぶ。両親の店が繁盛している。

 それは嬉しいことだ。

 より力をいれてお手伝いをしようと意気込むシュン。すると店のなかにベルの音が鳴り響く。お客様がご来店した合図だ。 

「いらっしゃいませ! ってリーザン?」

「よう、お久しぶり」

 オドロン村生まれの魔術師、リーザンが入店してきた。

「あらまあ、リーザン君じゃない」

「ああどうも、シュユさん」

 リーザンとシュユが顔見知りのように挨拶を交わした。

「母さん、リーザンと知り合いなのか」

「この村の服はここでしか買えないんだぜ。村で暮らしていた人なら、この店と主人の名前は誰もが知っているさ。街に引っ越しするときも俺はここで色々買ったからな」

「あー、それもそうか」

 このオドロン村で服屋はシュンの家族が経営しているこの店だけ。

 他の村の人は農業や食材の店などをやっているのが多く、それが原因か服屋の店は全く増えない。

 シュンはなんでこんなに店が片寄っているんだ? と思っていたが、どうやらこの村の生活は農産物を都会の街にだして、そこから交換の形で外部からの食料や生活用品などを手に入れているとのこと。

 そのため村の人は農家が多い。牧場を経営している人も多い。

「で、リーザン。この店に来たってことは商品を買いに来たってことでしょ? いい品ばっかだよ、見ていって買っていってよ」

 ついでに言うなら魔導士であるリーザンなら金をたくさん持っているだろうし、たくさん商品を買ってくれるんじゃないか、なんてことも思っていたりする。

 商品を買ってほしいシュンだが、リーザンはお客様のように店のなかを歩き回ることはせずシュンに近づいて、

「なあ、シュン」

「なに?」

「俺の住んでる街に観光しに来るか?」

「え?」

 そんな提案を持ちかけたのであった。




 オドロン村から馬車にのって約半日。

 遠く離れた場所にある巨大な街。

 魔導都市オラリマ。

 このエルドラド大陸にいて、もっとも発展した街。

 真っ白の城壁の中には、多くの人間が暮らしてる。

 様々な色のレンガで作られた建物の群れ。

 夜を照らす魔力街灯で常に昼のように明るい夜のない街。

 道には人が多く、様々な店に、活気がいいことが目と耳から伝わってくる。  

 そのオラリマにシュン達はやってきた。

「うわあっ! すげぇ! 人も多いし、建物も綺麗なものばっかだ!」

 馬車から降りたシュンの一言。その言葉に驚愕と興奮につまっている。 

「ははっ、俺も最初この街に来たときそんな感想抱いたよ。都会ってこんな場所なんか、すげえな、ってな」

 それほどまでにこの街は人気に溢れている。

 この大陸の中心といっていい場所だからだ。

「しかし、突然なんで観光に?」

「お前に見せたいものがあってよ。まあ、他にも色々目的はあるんだが、一番の目的はそれだな」

「見せたいもの?」

「それはその場所についてからのお楽しみってヤツだ」 

 お楽しみとはいったいどういうものなのか。

 ならその言葉通りに楽しみに待っておくべきだろう。シュンのワクワクはさらに高まった。 

「おいおい、俺たちの村じゃあお目にかかれないものばかりだぜ!」

「なんだこの店。中には杖や箒が……! 魔導士専門の店なんて始めてみた!」

「あの乗り物、馬もペガサスもいない! どうやって動かすんだ? うおっ! 人が乗ったら勝手に動いた!?」

「あー、あまり騒ぐのは止めてくれんか」

 ドーロン、カガリ、リズルたち三人も未知の世界に

 なぜドーロンたちがいるのかというと、シュンが一人だけだと寂しいし友達と一緒に観光楽しみたいから呼んでいい? っと聞いたのだ。リーザンは、あと三人ぐらいなら面倒みきれるかな、と言ったのでよく遊んでいるドーロンたちを誘ったのだ。

「他の人にも注目されるし、迷惑もかかる。はしゃぐならいいが騒ぎすぎるのは駄目だぞ」

「「「はーい」」」

「わかったよ、リーザン」

 子供達に注意をして、

「よし、ずっと馬車にのって疲れたろ。まずはこの街を歩き回るか! ついでに昼飯を食べる店探しながらな」

「おー! それいいな!」

「魔法の本とか欲しいな。本屋によれる?」

「野菜! ジューシーな野菜食べたい!」

 ドーロン、カガリ、リズル、三人これから始まる、オラリマの観光が楽しみでウズウズしていた。

「リーザンがオススメする場所に行ってみたい! 絶対楽しいだろ!」

 当然、シュンも。

「オイオイオイ、ハードルあげるなよ。でもいいぜ、楽しませてやるぜ、ついてこい!」

「「「「オー!」」」」

 リーザン達のオラリマ観光が始まった。


「すげーな。魔術師の秘密の部屋ってこんな感じなのかなって」

「かもな。俺は魔術師だけど、こんな部屋作ってみてーな」

 最初に訪れたのはさきほどカガリが見ていた魔法道具ショップであった。

「本の数も膨大だし、杖や箒もあるし、魔法の材料も豊富。俺も仕事の準備で活用している店さ」

「なあドーロン。この耐火の布生地。お土産に持ってかえったら母さん父さん、喜ぶかな」

「いいんじゃねーか。村じゃあそんな貴重な布ないから喜ぶと思うぜ」

「んんー、どれがいいんだ? これは――だめだ、俺には難しすぎる。でもこういう本読めば将来役に立つか」

「カガリは本が好きだな。俺、文字読むの苦手だから、なんか遊べる道具ないかな~」

「やめとけ、リズルが魔法の遊び道具もったら他の人に迷惑がかかる」

「前も、村の道でドリブル練習だとか行って家の窓にボールぶつけて怒られてたよな」

「ちゃんと注意するし!」




「リーザン。いい店だね」

「おう、給料が少ないときはこの店によくきているんだ」

 次に来たのは大衆食堂。

 リーザンがよく来ている飲食店だという。

 店のなかはきれいでお客も多い。店員が運んでいる料理からいい香りがただよってきて食欲をそそった。

「どんなものでも頼んでいいの!?」

「この店、安くて旨いからな。いっぱい食え食え」

「いいの!? 野菜! 果物! パンも肉も! ちょうだい!」

「頼みすぎだろ、リズル。いくら奢ってもらえるとはいえもう少し

「俺はこいつにするぜ。煮込みハンバーグだ!」

「お前、本当に好きだな。シュン」

「好きなもん頼んで悪いかよ。それに場所によっては煮込みハンバーグの味も違うだろ。だからいいんだよ」

「そうだな、やっぱ好きなもん食うのが一番美味しいよな」

 この店のソース煮込みハンバーグの味は。

「――うまいっ!!」

 絶賛するほどの味であった。




「なんだあの建物?」

 この街で一番大きい建物の近くに足を運んでいた。

 オラリマは大きな建物も多かったが、目に入った建物はその建物よりもさらに一回りも大きい。

「あれは学院だ。ようは学校だよ」

「あれが学校!? 大きすぎない!?」

「マギドラグ魔導学院。この大陸で一番最初に設立された学校だと言われている。この街にすむ人々なら誰もが入学したいと声を上げる魔法の名門学園さ。入れるのはお金持ちの貴族か魔術の天才児ぐらいか。ここはすごいぜ。生徒も教師も大人数、魔法の実験設備も最先端のものを取り入れており、この大陸で今活躍している魔導士や研究家が卒業している。俺も入学してみたかったな……」

「リーザンはどうやって魔法を習ったの?」

「同僚に頼んで教えてもらった」

「俺、入学してーな」

「ああ、この学園なら村では習えない魔法の研究ができるかもしれないからな」




「この街、すごいな……」

 とても楽しく歩き回ったシュンは感想を口に出した。

 自分の見たことないものだらけの街。この場所で暮らしていたら退屈なことなんて起こらないんじゃないか、そう思ってしまうほど。

「どうだ、シュン。この街は」

「ああ、本当楽しいよ。この街で暮らしたくなるぐらい……ん!?」

 この街のいいところを言おうとしたその時、シュンの目にあるものが写った。 

「あれは!」

「おい、シュン! どこ行くんだよ!」

 止めようとするドーロンを無視して走り出す。

 そして店の前で足を止めた。

 店のなかにあるものを見て驚愕する。

「サッカーボールだ! それだけじゃあない!」

 店の中を覗いてみると、ブーツもある。動きやすいユニフォームのようなものもある。ゴールキーパーのグローブだって当然ある。さらには様々な種類のサッカーボールも見えた。

 シュンが見つけたもの、それはサッカーショップだったのだ。

「異世界のサッカーだとシューズはブーツに近いのか。でも考えればこの世界には魔法があるし、シューズという存在もないから頑丈かつ動きやすいブーツの形になったのは納得できる。ユニフォームは半袖と長袖両方あって、魔術師っぽい感じに仕上がっている。こ、こんなサッカーのための店がこの世界にあるなんて!」

 異世界でサッカーの専門店を発見するなんて想像してなかった。

 興奮をにじませた表情をしながら店の中の入って、サッカーの道具を見てはおお! と歓喜の声をあげる。

 サッカーが大好きなシュンにとってはサッカーの道具を見るだけで心が沸きだつのだ。

「あー、見つけちまったか。まああとで案内しようと思ってはいたけどよ」

 追いかけるようにサッカー専門店に入店したリーザンは、店のなかを笑顔を浮かべたまま商品を見ているシュンを見つけた。ドーロン達もリーザンの後ろについている。

「リーザン、あれってもしかして」

「そう、サッカー専門店さ」

「マジかよ! サッカーの専門店なんてもんもあるのかよ!

 ドーロン達もシュン同様驚く。やはりサッカー専門店があるとはおもってみなかったらしい。

 都会ってスゲーな、ドーロン達はそんなことを思っていた。

「俺がお前に見せてやりたかったのに、すぐに見つけるなんてよ。本当にサッカーが好きだな、お前」

「リーザン」

「なんだ?」

「この街ってサッカーは流行っているってことだよね」

 サッカーの専門店がある。それすなわち、街の人々はサッカーそのものに関心があるからこそ店を開くことができる。

 でないとサッカー専門店なんて作られるわけがない。

 そう思って聞くと、

「ちょっと違うな」

 違うの? そんな疑問を抱くが、

「この街だけじゃない、他の街でもサッカーに夢中になっているぜ」

「え!?」

 衝撃の事実に驚愕するシュン。

 この異世界で自分が好きなサッカーが流行っている。

 本当のことかと手の甲の皮を捻ってみたら、

「痛い……」

 夢ではないことは確定した。

 リーザンはなぜこの大陸にサッカーが流行っているのかを説明しはじめた。

「俺が村でやったサッカーを同僚たちとやろうと頼んでな。で、同僚たち、はまってくれたんだよ、サッカーにさ。そしたら魔導士もやっているゲーム、ってかんじで街に噂が広がっていってよ。誰もがやりたくなっちまんだろうな、今じゃあ街中どころか、他の街もサッカーが広まっていって、今じゃあ空前のサッカーブームさ」

 ようはリーザンがこの街でサッカーをしたら広がっていった、ということだ。 

 リーザンがシュンがしたかったサッカーを広めてくれたのだ。

「シュン、よかったじゃねーか! お前が作って、俺たちが始めたサッカーがここまでひろがるなんてよ!」

「まさか、村の外でも広がっているなんてね。こりゃあ、驚きだよ」

「すっげな!」

 ドーロン達も大はしゃぎ。

 やはりサッカーが広がっていたのはオドロン村に住む人なら誰もが嬉しいことだ。

「サッカー、したいな。この街の人たちと一緒にボールを蹴りたい」

 周りのサッカー道具を見ながらシュンはそう呟いた。

 最初はこの場所に観光を楽しみにして来た。

 だが目の前にこんなサッカーのための店があるのだ。

 ならこの街の人々はサッカーを楽しんでくれているはずだ。

 その人たちとボールを蹴りたい。一緒にサッカーを楽しみたい。

 シュンはそう思って今の言葉を口に出したのだ。

「シュン、お前の言いたいことはわかるぜ。ここで村のなかじゃあ滅多にお目にかかれないもんを見て楽しもうかと思ったが、サッカーもしたくなってきたぜ!」

「この街のサッカーも見たくなったな」

「いや、いっそのこと俺たちも混じろうぜ! シュンのいった通りにさ! からだ動かそう!」

 ドーロン、カガリ、リズル、三人もシュンの言葉に賛同してサッカーがしたくてうずうずしている。

「はあ、お前らならそういうと思ったよ。本当にサッカーが好きだな」

「リーザン、サッカーしにいっていい?」

「……なにいっているんだ」

 リーザンは頭をかいて、

「いいに決まってんだろ。この街を楽しみにしてきたんだろ? ならサッカーも楽しめよ!」

 当然、シュンの頼みを聞いた。

「おお! 話がわかる! さっそくサッカーしにいこうぜ!」

「だな! この街にグラウンドがある公園は二つある! 今回は芝のサッカーフィールドがある場所に案内するぜ」

「芝! っていることは草が生えているフィールド!?」

 芝のサッカーフィールド。

 聞くだけでワクワクが止まらない。

 この世界でそんな場所でサッカーができるなら嬉しい限りだ。

「シュンが言ってたんだ。芝のほうがスライディングするときとか怪我がしにくくなるからいいってな。土もいいが、お前ら芝のフィールドみたいよな?」

「「「「見たい!」」」」

 シュンたち四人、一斉に答えた。

「ならついてこい! フィールドを走り回ろう!」

「「「おう!」」」

 リーザンの案内についていくシュン達。

 そして自然と歩きに力が入っていくシュン。サッカーがしたいと足がウズウズしているみたいだ。

(この異世界でここまでサッカーが流行るなんてな。俺は嬉しい! この世界で、サッカーがどこでもできる! 誰とでもサッカーができるんだ!)

 来たことのない都会の街、そしてこの異世界で始めてみる芝のフィールド。

 楽しみで仕方ないシュンであった。

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