PKリベンジ!
一ヶ月後、リーザンは再びこの村に帰ってきた。
「おーい、坊主共! ちょっと来な! 魔導士さんからのプレゼントだ!」
リュックにたくさんのボールを持ってきて、村の人々に配っていた。
前にマジックシュートの打ち方を教えた際に、シュンが持っていたサッカーボールに、子供達が欲しいと言ってきたのでたくさん用意してきたのだ。
「おー! シュンが持っているボールだ!」
「本気で蹴っても全然壊れない! 魔法を当てても! スゴーイ!」
「おいおい、いくら壊れないからって初っ端から乱暴だな」
子供達はリーザンから貰ったサッカーボールで楽しく遊び始める。みんな喜んでいた。
「みんなにもサッカーボールが渡ってる。よかったな。さてと」
シュンは子供達に囲まれているリーザンのもとに向かった。
「リーザン」
「おう、シュン」
PK勝負をリーザンに挑ませてと頼み込もうとした、その時リーザンはわかっていたかのように頷いて、
「言いたいことはわかるぜ。前の勝負のリベンジだろ。いいぜ、相手になってやるよ」
「――! やった! 今回こそは勝つぜ!」
リーザンの言葉にシュンは闘志を燃やす。
再びPK勝負ができる、そのことに。
「シュンとリーザンのPK対決だ!
シュンがリベンジを仕掛けてきたぞ!」
「やっぱりな! こりゃ楽しみだ!」
「シュン! 今度こそ勝って!」
フィールドにいた子供たちもサッカーを中断して、二人の対決を観戦しに集まってくる。
それほど二人のPK勝負を楽しみにしているのだ。
「なあ、シュンの奴、勝てると思うか?」
カガリがドーロンに心配しながら聞いた。
「わからん。シュンは一発勝負なら勝てるって言っていたが……」
シュンの言葉を考えれば、初見殺しに特化したシュートなんだろうか。
一体どんなシュートを編み出したのだろう。
「まあ、シュンの勝ちを祈ろうぜ」
「そうそう!」
「だな」
ドーロンたち三人はシュンの勝利を祈って応援を始めた。
「ルールを確認するぜ」
リーザンはグローブをつけながらゴールの前に立った。
今回のPK対決のルールを確認し始めた。
「勝負のルールは前と同じ。ペナルティエリアの線からシュンがシュートを打つ。そして俺がゴールキーパーをしてお前のボールを止める。間違いないな?」
「うん。あってるよ」
「よし、来な!」
ルールの確認を終えたあと、リーザンの言葉により勝負が始まった。
シュンは魔法陣を展開。
シュンの周りに風が吹き始める。
(前より風魔法の威力が上がっているな。練習しているのが頬にくる風で伝わってくる)
シュン自身は魔力を持てる量が少ないのに一ヶ月でここまで成長したのは、ちゃんと考えて練習をしたという証拠。
(相手が子供でもシュン相手なら油断できん! どんなシュートでも全力で止める!)
より警戒を強めてシュンが放つシュートに備えた。
そしてシュンは風の球体を思っきり蹴りつけた。
「『ウィンドシュート』!」
シュンの足元から小さな竜巻がボールとともに放たれた。
「おおっ! いいシュートだ!」
観戦中のドーロンも驚き。
狙いはゴールの左上隅。いいコースだ、ゴールポストギリギリのコントロール。
並のゴールキーパーでは反応できても手が届かない。
そう、並のゴールキーパーならだ。
「いいコントロール! だが間に合うぜ! 『バリア』!」
両手にバリアを纏って、向かってくるシュートに――
「……」
飛びつくどころか動くこともなくそのまま立ち止まった。
「「「えっ!?」」」
その対応に子供たちは全員戸惑うように声をあげた。
なぜリーザンは動かないのか。
(この風……よく見るとわかる。強烈に横回転かけてやがる)
リーザンの目には見えていた。
風の向きが見える。
右から左に竜巻のように回転している。
今、シュートの軌道はリーザンから見たら右上に進んでいる。
だがこの回転を読むと、
(風は空気の流れ。目と肌でわかった。あのボールの本当の軌道は!)
風の球が急に大きく円を描いた。そして右上のコースから反対の左上のコースに変わった。
フェイントのカーブシュート。
シュンが放ったシュートはそれだ。
風魔法をシュートの威力を上げるためではなく、より曲がりやすくするように使った。
それをリーザンはシュンのシュートを見て瞬時に理解したのだ。
「やはり正反対! 止める!」
曲がり始めた瞬間に足を動かしてジャンピングキャッチ。バリアをボールにぶつけて掴もうする。
リーザンほどの魔法の腕ならシュンの風魔法を軽々と消し飛ばしてボールをキャッチすることができるだろう。
前にやったPKの時と同じように。
バリアが風にぶつかる瞬間、
――突如、ボールの風が消えた。
「なにっ!?」
リーザンは戸惑いの声を上げた。バリアをぶつけていないのに魔法の風が消えた。
なぜそうなったのか。
それは突然の魔法解除。シュンが魔法を解除して風を消したからだ。
さらにボールの変化は止まっていない。
横に鋭く曲がってきたシュートは、風が消えた瞬間、地面に引っ張られるように急降下し始めたのだ。
ジャンピングキャッチで飛んでいるリーザンの下を進んでいる。
「うおおっ!」
なんとか反応して落ちていくボールに手を伸ばす。が、指にかすることもなくそのままゴールにボールが転々とバウンドしながら入った。
「ヨッシャ! 決まったぜ!」
「おお、シュンが勝った!」
「なんか凄い軌道のシュートだったな」
「横に曲がって地面に落ちていったね」
観客も大盛況。
今のPK対決に誰もが息を呑んで見守った。
「シュン、今のシュートは一体……?」
悔しがりながらも、気分を落ち着けてシュンが放ったシュートについてリーザンは聞いた。
「風はブラフさ。本当はこれ! 受け止めてみて!」
シュンはすぐさまシュートを打ち込む。
真っ直ぐ進み、ゴールの右側のコースだ。
反射的に動いて、リーザンはシュンのシュートを止めようとした。
するとボールは目の前で大きく落ちていく。
「急に真下に落ちるこの軌道! これだ! さっきのシュートはこの軌道!」
さすがに一度見た軌道のシュート。
即座に反応して、腕を下ろして当てる。キャッチこそできなかったものの手に当たり、弾くことができた。
一瞬で対応してきたリーザンに驚きながらも拍手するシュン。
「一回見ただけで止めるのすごい! 今のもゴールを決めようと思って打ったのに」
リーザンのシュートへの適応力に驚きながらも褒めるシュン。
そしてリーザンは今のシュートのからくりにすぐさま気づいた。
「回転をかけたシュート、だが横方向の回転じゃない! 上から下への縦回転か!」
「さっすが、すぐにわかったか」
「縦回転?」
リーザンはシュートのからくりを理解したが、子供達は疑問の声。
シュンはその疑問に答えようとボールを持ってゴールから遠ざかる。
そして再びシュートを放った。
「えっ! あんなに高く打ったらゴールをこえちゃう!」
シュートの軌道は大きくゴールの上に飛んでいる。このままではゴールを飛び越えてしまう。
だがボールは急に地面に向かうように落ちていき、ゴールネットを揺さぶった。
入ったのだ。
大きく外れたシュートが見事ゴールに。
「ま、曲がった! さっき見たいに、急に落ちた! しかも威力もある!」
「なるほど、ロングシュートでもこの威力か」
シュンの縦回転ロングシュートに驚愕する観戦者たち。
シュンは自身が打ったシュートのことを説明し始めた。
「ドライブ回転といってね、上から下にかかる回転のことなんだ。スピードも落ちにくいし、なにより回転の影響で真下に鋭く落ちるようになる」
「ドライブ回転か……そういえば、今まで回転は横方向のしか打ったことないが、そうか縦もあったな」
ドライブの縦回転。
カーブやスライスのような横回転とは別に、上から下方向にかかった回転をドライブという。
空気抵抗によって大きく落ちる起動を描きつつ、スピードも落ちることのない。
ロングシュートのみならず近距離で打てば、パワーがプラスされてより強力なシュートになる。
打ち方は難しいものの、その難易度に見合う性能を持った回転シュート、それがドライブシュートである。
「あれ、俺の無回転シュートを見て思いついたのか?」
「いや、たぶんリズルがロングシュートを打ちたいって言ったのが原因じゃなかった?」
カガリは考えたことを話す。
「ロングシュートでも威力が落ちにくいシュートの打ち方を教えてやるってシュンがいっていただろ。おそらくあれが威力の落ちないロングシュートの打ち方、ドライブ回転なのだろうな。そして、そのドライブ回転でリーザンを破る手段を見つけたと」
「まあ、どっちにしても俺のおかげでシュンは勝つことができたんだな! よかった! シュン!」
「おいおい……」
とにかくリズルはシュンをたたえた。
ドーロンとカガリは呆れているが、まあそのとおりだな、とも思ったので、そうだなと肯定してあげた。
そしてシュンのドライブ回転の説明に戻る。
「さっきみたいに山なりに打てばロングシュートもでき、近くでまっすぐ打てばゴールキーパーの手前で落ちるように曲げるシュートもできる。かけるのは横回転よりは難しいけど覚えたらより威力のあるシュートを放てるよ」
「「「おー!」」」
「シュン! 今のシュートの打ち方を教えて!」
「俺も打ちたい! ドライブシュート打ちたい!」
「わかったよ。縦回転シュートの打ち方ならたくさん編み出したから、他の打ち方も教えるよ」
「やった!」
子供達はシュンのドライブシュートに夢中だ。
魔導士であるリーザンを破ったシュートだ、ドライブシュートに魅了されても仕方ない。
シュンは喜んで縦の回転をかけながら打つシュートの打ち方を教え始めるのであった。
「魔法ではなくサッカーの技術で俺を破るとはな。本当に面白いな」
ゴールネットに入っているボールを見つめて、リーザンはそう呟いた。