終わるまで根性を張り続けろ
『ああぁぁっ‼ 試合終了間際! イクオス選手の決死のディフェンス突破からの『臥龍空牙』! 炸裂っ!』
「やばい!」
「くそ!」
「エスバー! 頼む!」
イクオスの『臥龍空牙』が空を駆け、ゴールを喰い破ろうとしてくる。
エスバーの前には味方は誰もいない。一人で止めにいかなければならない。
「……やるしかない!」
すでに覚悟は決めている。
なんとしてもゴールを守らなければならない!
「……『ファイアボール』!」
右手に圧縮された獄炎球を、自身に向かってくる『臥龍空牙』へ狙いを定めて発射。さらに自身も走り出し、もう片方の燃えた左腕で全力の力を込めたパンチング。火球と拳を同時に緑の龍の頭部に叩き込む。
ここで同点にさせるわけにはいかない。魔力を大量に使ったその炎で風の臥龍を倒しに行く。
「……だ、ダメだ! うわっ⁉」
だが、イクオスの『臥龍空牙』は力が消える気配がまったくない。
エスバーの炎など振り払われる火の粉のように、儚く風に吹き飛ばされていく。火の玉はかき消され、左腕の炎は風に流され煙さえ起きない。
勢いがとどまることなくボールが進み続け、エスバーの左腕を弾いて体も吹き飛ばされていく。
「うわあああっ⁉」
「エスバー⁉」
「決まったっ‼」
エスバーが空に飛ばされ、無人となったゴールに『臥龍空牙』が突き進んでいった。
「テメー! 俺を忘れんじゃねえっ‼」
ボールがゴールに入る直前、誰もがゴールが決まったと、そう思った瞬間に高速で横から人影がやってくる。
「『ストライクタックル』!」
驚異的なスピードで『臥龍空牙』に飛び蹴りを誰かがぶつけた。
リンナイトだ。
リンナイトがゴール前まで戻ってきたのだ。
「なっ⁉」
「え⁉」
『あー! イクオス選手に最初に吹き飛ばされたリンナイト選手が! 誰にも気づかれずにゴールに戻っていた! そしてシュートブロック!』
「このお‼」
そう、イクオスに蹴り飛ばされたリンナイトは吹き飛ばされた後にすぐに起き上がって、イクオスを追うことよりゴールに戻ってエスバーのサポートに専念したのだ。そしてエスバーが飛ばされた瞬間、リンナイトが魔方陣を展開して超高速で空を飛びながら、空中をスライディングしながらイクオスのマジックシュートをブロックしたのである。
「いい加減っ、止まりやがれってんだよ!」
腕を上に、左腕を後ろに伸ばして、ゴールポストにしがみつき、そのままの体勢でイクオスのシュートを止めに行く。高速スライタックルに自身の両腕のパワーが加わる。
それでもボールは止まる気配はない。
だがそれがどうした。止まらないなら止まるまでこの体勢でシュートブロックし続ければいい。自分の体力がつきようが、ボールが止まるまで耐え続ければいい。
そうするだけでシュートは止まるのだから。
「……リンナイトさん!」
そこに吹き飛ばされたエスバーが立ち上がって、そのまま回し蹴りをボールに向かって放った。
(リンナイトさんや先輩たちの頑張りを無駄にするわけにはいかないだろ、フレイ・エスバー!)
その鋭い回し蹴りはボールの中心を捉えて、そしてそのままボールを蹴り弾いた。
「なっ⁉」
それにはイクオスも驚きを隠せない。
止められた。
自身の『臥龍空牙』がこの土壇場で防がれてしまったのだ。
いくらシュートブロックが入っても、マデュラン以外なら突破できる、そう思っていたがそれは崩れ去ってしまった。ボールは誰もいないところに転々と転がっている。自身のシュートが防がれたのはそのボールを見れば無理にでも理解してしまう。
『と、止めた! リンナイト選手とエスバー選手! 全身全霊の守りでイクオス選手の『臥龍空牙』を見事止めてみせました!』
「そのボールは私がもらいますよ!」
「なっ⁉」
そのボールをミンホイが取る。シュートが止められ、誰もが驚き止まっていたがミンホイはボールが弾かれた瞬間にすぐに走っていたのだ。
弾かれたボールはミンホイが受け止め、ダーディススクラプの攻撃を完全に封じた。
ダーディススクラプの決死の攻撃を見事止めることに成功した。
「ま、マジかよ⁉」
「今のイクオスさんのシュート、完璧な『臥龍空牙』だったよな⁉」
「テメーら、もう一回俺にボールを渡せっ!」
「お、おう!」
「当然っすよ、リーダー!」
「ええい! そっちが乱暴に来るなら魔法で蹴散らしますよ!」
襲い掛かってきた相手選手も、試合の最後のため出し惜しみなく魔法を使っていくミンホイ。水と共にフィールドを激流のように駆け巡る。
「うぎゃあ⁉」
「むっふー! マネージャー兼任とはいえやるときはやりますよ!」
ボールを護るように前に進んでいくミンホイ。
一方、『臥龍空牙』を止めたリンナイトは地面に倒れこんでいた。
「いつつ……立てねえ」
「……リンナイトさん、ありがとうございます」
「言ったろ、後半戦は無失点だってよ。最後の最後で相手に決められちゃあ情けないだろ」
エスバーの差し伸べられた手をつかんでフラフラになりながらも立ち上がる。
なんとか防げてよかった。
だがイクオスのシュートを受け止めたためかゴールポストにしがみついて立つのがやっと。後は仲間に託すのみ。
「ま、マデュランさん! お願いします!」
「ああ!」
相手を突破したミンホイがマデュランに向けてボールをパス。すでに立ち上がっているマデュラン、イクオスに吹き飛ばされようがノーダメージと言わんばかりに、全力を込めた強引なドリブルで突き進んでいく。
「邪魔だ!」
「うわあ⁉」
『強靭なチャージが周りの選手を蹴散らす! 一気に三人飛ばし!』
マデュランを止めようと乱暴なディフェンスを仕掛けてくるダーディススクラプの選手を、全て力で返り討ちにするマデュラン。巨体なパワーと堅固なバリアに包まれたタックルは誰もその巨盾を突き崩すことはできない。マデュランの足を止めることができるものはもう目の前には誰もいない。
「誰にも渡さん! モーグリン! 頼む!」
「うんうん♪」
そして中盤にいるモーグリンにパス。
「シュンくん! 準備いい!」
「当然! この距離からでもぶち込めますよ!」
相手ディフェンダーの近くにいたシュンも準備万端だ。
「じゃあ託すね!」
「シュンには渡さねえ!」
パイプが横から回し蹴りスライディング。右に水も包まれて激流の一撃を叩き込みに来た。
――その時、モーグリンの足元に魔方陣が展開された。
「『ウズシオスロッシャー』!」
「なっ⁉ ぐっ⁉」
渦潮が出現して、パイプをその水流で吹き飛ばしてシュンのもとに発射。その渦潮に誰もが近づけない。
「この距離からのシュート⁉ まさかロングシュートか!」
「決めるぜ!」
「いや違う⁉」
『モーグリン選手が放ったシュートの軌道上にシュン選手がいます! 得意のシュートチェインをかますつもりだ!』
モーグリンが放ったシュートの軌道上にシュンが立っている。いつでもシュートが来いとウェルカム態勢だ。
(ダーディススクラプ、試合が終わるまで豪快な攻めを続けてくる、まさに超攻撃的チーム。三十秒でもあれば一気に点を取られてしまうだろう)
なら、
(俺もここで点を決めてやる! それで二点差になれば、もう同点にはできない! 逆転になる可能性もゼロにできる!)
最後の最後まで全力で点を取りに来るなら、自分もそれに応えよう。
この一点で本当の試合を決める決勝点にする。
「行くぞ!」
「させるかよ!」
「ホーラが止める!」
ダーディススクラプの選手もシュンのシュート体勢を黙って見ているわけにはいかない。
横から挟み撃ちの形でダーディススクラプのアン・ホーラとスヌースが鋭いスライディングタックル。シュンの攻撃を阻止しに来た。
「――シッ!」
だがそれも、タックルが当たる寸前に前に踏み込んでギリギリでかわした。
「え⁉」
「消えた⁉ ぎゃっ⁉」
シュンが消えて、ホーラ達のスライディングタックルが激突。そしてシュンは背後からくる『ウズシオスロッシャー』の速度と軌道を見ながら魔方陣を展開。そして体に風を感じながら空を飛び、
「『ティルウィンドジェット』!」
ウイニングショットをモーグリンが放つ『ウズシオスロッシャー』も完璧なタイミングで蹴りを合わせる。そして渦潮と竜巻が合体し、空に暗雲立ち込める豪雨の嵐がダーディススクラプのゴールに向かって飛んでいった。
「うぅ、うおおおおお⁉ 『ご、豪腕――」
ゴールまで戻っていたシガーが魔法を発動させようにも、シュンとモーグリンの協力シュートの前に魔法を使う前に吹き飛ばされてしまい、ボールと共にゴールのネットへと叩きつけられた。
『ゴール! ゴオオッル! 速攻カウンターが刺さった! 瞬く間に一点を取る! モーグリン選手とシュン選手が決めました!』
「よし! これで勝負は決まった!」
「やった!」
――ピピィィィッ!
二度の笛が鳴った。
『そしてここでもう一回笛が鳴る! 試合終了の笛だ! 勝ったのは
シュンのシュートが決まったと同時に試合が終わったのであった。
マギドラグ魔導学院対ダーディススクラブ魔法学校
6−4
マギドラグ魔導学院
シュン 4得点 1アシスト
リンガル・ミーホ・マデュラン 1得点
チコ・モーグリン 1得点 1アシスト
ダーディススクラブ魔法学校
イルマ・イクオス 3得点
キセル・パイプ 1得点 1アシスト




