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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
二章 大会への道筋
101/130

喧嘩は終わってない

『決めたっ! ついに決めたぞ! 逆転だ! モーグリン選手が見事に決め切った!』

「――やったぁッ‼」

 ようやくシュートを決めることをできたモーグリン、歓喜のガッツポーズ。

 何度もマジックシュートを打って、ついに一点もぎ取ることができた。それが嬉しい。

「やったな! チコ!」

「おいおい、即席で今のシュート打ったのか⁉ 最高だぜお前!」

「リンガルくん、スラくん! どうよ!」

「ああ、これで逆転だ! 大手柄だ!」

「モーグリンさん、やりましたね! 新たなマジックシュートを完成させることに!」

「シュンくんのアドバイスのおかげだよ! ありがと!」

 チーム全員がモーグリンを褒める。とうとう逆転に成功したのだ、誰もがこの点差をひっくり返したことに喜んでいる。

「これで逆転! すごいわ! 後半戦、こちら側が一方的じゃない!」

「いつも通りの動きができれば先輩たちは誰にも負けないわ! このプレイこそがマデュランさんたちの実力なのよ!」

 ベンチにいるクアトルもレイカも、他のチームメンバーも、だ。

 マギドラグ魔導学院は完全に勝利ムードである。

「と、止められなかった……あんなシュートを隠し持っていたのか……」

「くそ……結局シュンを止められなかったからこうなっちまった!」

「はあ……はあ……やばい、息切れてきた……」

 一方、ゴールを奪われたダーディススクラプは全員が暗い表情。点を取られてしまったことに対して怒りを抱いているものや、魔法を激しく使ったため魔力切れを起こしかけて息が荒くなっている者もいる。

 肉体的にも精神的にも満身創痍だ。

(逆転されて士気もただ下がり、しかも攻撃陣は魔力もすくねえ状態か)

 一番きついのは逆転されたのではない。チームの攻撃陣たちの魔力の残量がわずかしかないということだ。

 マジックサッカーにおいて魔法が使えないのはプレイにおいて致命的。シュンほどサッカーの技術が高ければ補えることはできるかもしれないが、ダーディススクラプのサッカーは力任せに素早く動き点を奪う超攻撃スタイル。そのためにサッカーの基礎的な技術よりシュートととにかく敵にぶち当たってボールをキープし続けることをイクオスはチームメイトに教えてきた。それでは魔法を使えないことのリスクを消すことはできない。

(相手も結構魔法使ってたよな。それでもへばってないのはさすがは魔法名門学院の生徒ってわけか)

シュン以外の選手は伊達にマギドラグ魔導学院に在学しているわけではない。優等生集団のAクラスの生徒たちと比べたら魔法を扱う技術は低いが、それでもそこらの魔導学院に通っている生徒たちよりかは魔法をうまく扱えるのだ。

 それが今、自分たちの魔力がつきかけているのにマギドラグの生徒が魔力切れになっていない理由だろう。

 まさに絶望的な状況。

 負けはほぼ確実。

 喧嘩じゃあぶん殴られて立ち上がるのも険しい状態だ。

「ねえ、イルマ……どうすればいいの……? わかんないよ……」

「……さすがにもう無理っすよ、これ」

 ホーラが頼るようにすがりつく。

 他のチームメイトもイクオスに救いの目を向けている。

「まさか、ここまで一方的とはな。点取り合戦なら俺たちの得意分野なのによ」

「い、イクオスさん……」

 イクオスは軽く息を吐き、いつも通りの口調で話し出す。

「なあ、どうせ負けているんだ。こうなったら全員で攻めるか」

「全員で?」

「ああ、そうさ。同点に持ち込めば延長にできる。って、延長戦のことは決めてなかったな。まあでも引き分けには持ち込めるさ」

「で、でも、ゴール奪えるんっスか?」

「安心しろ。最後は俺に任せな」

「「「っ!」」」

「なーに、ゴール近くまで行けば、ディフェンス全員蹴とばしてゴールにボールを叩き込んでやるからよ」

「で、できるんですか?」

「おいおい、俺を誰だと思っていやがる。喧嘩無敗のイルマ・イクオスだぜ」

 自信満々に答えるイクオス。

「だから安心しろ。必死に頑張って俺にボールをつなげてくれればいいんだ。できるな」

「わかった!」

 即答でホーラが答えた。

 さっき見せていた不安の表情はもう消えている。

「みんな、イルマの言う通りにしたがおうよ! 絶対にきめてくれるって!」

「イクオスさん、いいじゃねえっスか。その提案に乗ったっスよ」

「おう、わかったぜ!」

「こうなったら当たって砕けろだ! 一点どころか二点も三点も奪ってやろうじゃあねえか」

「最後まで攻め続けるわ!」

 イクオスの言葉を聞き、チームメンバーもやる気を取り戻す。

 まだ根性を張れる。

 なら最後まで勝つ気で点を奪いに行ける。

 指くわえたまま負けになることを待っているなんて、そんなこと喧嘩上等のダーディススクラプにはあり得ない行動なのだ。

「クソ……逆転されるなんてありえねーだろ……」

 チームから離れてぶつぶつと不満を呟くキセル・パイプ。

 そんな彼に怖がることなくホーラが近づいて、

「ねえ、パイプ、聞いてた?」

「ああ、なんだ⁉」

「全員でせめるって話」

「……聞いてたよ、クソが」

「口わるーい」

「黙れよ、アン・ホーラ! ていうか、もっと守りを――」

「そんだけキレる元気あるなら問題ねえな、パイプ」

「……イルマ」

「あんまチームの雰囲気悪くするようなこと言うもんじゃねえよ。そんなことより勝ちに行こうぜ」

「……ああ、わかったよ! やるよ! やられっぱなしはイラつくからな! やられたら俺の気が晴れるまでやるのが、俺の流儀だぜ!」

 文句の言葉を心の底にとどめて、ムキになって自分のポジションに向かっていくパイプ。

 イクオスの言葉に誰もが希望を宿した。

 喧嘩で負け知らず、サッカーだってチーム最強のエース、そんな彼が点を取ってやると豪語する。

 期待しないわけがない。その思いに応えたいと彼を慕う者たちは誰もが思ったのだ。

「皆さん、気を引き締めた方がいい。相手はまだ闘志を失っていません」

「シュンの言う通りだな」

「これが喧嘩根性ってやつ? 負けず嫌いね、いいじゃない」

 ダーディススクラプのやる気みなぎる雰囲気を感じ取り、マギドラグの選手も気を引き締める。

 超攻撃特化のチームだ、油断はできない。

「逆転できたのは嬉しいけど、気を引き締めないといけないってわけね。一分あれば点が入ることもある、それがサッカーよ」

「大丈夫よ、今の皆なら止められる! 皆、頑張って!」

 ベンチにいるレイカとクアトルも味方に声援を送る。

 この試合の最後の時間が始まる。

『逆転して、試合ももうすぐ終わりの時間! しかしダーディススクラプの闘志はまだ尽きていない! 彼らの攻撃的サッカーならまだ点を奪える! 残り少ない時間でも試合の行方はまだわかりません!』

 ――ピピィィィッ!

『さあ、笛が鳴る! アディショナルタイムの攻防が始まるぞ!』

 パイプがボールを蹴り、イクオスが後ろにボールを渡して、一気に前に出た。

『おっと、イクオス選手、バックパスだ! そして一人だけでゴールに向かっていく!』

(他のチームを信じて、前に出たのか!)

 アタッキングサード内で待機していつでもシュートを打つ準備をしているのだろう。

 ダーディススクラプの中でゴールを奪えるのはイクオスしかいない。だがイクオス一人でゴールを突っ走っていくとしても、一人でマギドラグの選手全員を抜くのは無理だ。

 だからこそ味方にボールを上げてもらう。

 そしてここぞという場面でイクオスにボールを渡すのだろう。

「ならそうさせる前にボールを奪うだけだ!」

 シュンが相手選手からボールを取ろうと走りこんでいくも、

「パス!」

「おう!」

『シュン選手を避けるようにパスを渡している! とことん警戒しています!』

(情けえねえ話だが、シュン相手にタイマンで勝てる自信がねえぜ……イクオスさんにボールを渡すには逃げしかねえ!)

 メインはフォワードでもどのポジションでも活躍できるシュンは魔法を使わない勝負ならディフェンスも中々のもの。素直に突破しようものならボールを奪われてしまう。

 ならばここはシュンを避けるようにパスで進んでいくしかない。

「シュンだけに目を向けんじゃねえ!」

「ぐっ⁉」

 だがボールを奪いに行くのはシュンだけではない。

 パスコースを読み、ボールを受け取った瞬間を狙ってトノスが炎のスライディングタックルでボールを苛烈に奪い去る。

「よし!」

「このぉ!」

「え⁉」

『ご、ゴールキーパーのシガー選手が中盤まで上がってきた⁉』

 ボールを奪い、すぐにバックパスをしようとしたトノスに地響きが鳴るような足音が聞こえてくる。

 シガーがゴールから離れてトノスに突っ込んできていた。

 笛が鳴った瞬間に、前に走り出していた。

 全員でゴールを攻める、それは当然、ゴールキーパーも含まれている。シガーも攻撃に加わっていたのだ。

(どうせ、点取れなかった負けだ! ここでボール取ってイクオスさんに渡った後に戻れば問題ない!)

「パワァァア‼」

 オーバーラップで中盤まで走り出し、トノスに自慢の筋力を生かした強引なチャージをねじ込む。突然のゴールキーパーの襲撃に予想外のトノス。シガーの肩を直撃し、吹き飛ばされてしまう。

「うわっ⁉」

『トノス選手、吹き飛ばされた! ボールはすぐにダーディススクラプに移る!』

「パイプ、頼んだぞ!」

 そしてすぐさま力強いパスを出し、遠くにいるパイプにボールを渡した。

「無茶だがいい判断っスね!」

「やらせませんよ!」

 ボールの

「へっ⁉ いやこれは!」

「返してもらうっスよ!」

 ボールがバルバロサの足元に転がっていく。それと同時にしゃがみ込んで回し蹴り。パイプの得意の回し蹴りドリブルだ。

「なんと!」

 だがパイプがしゃがみ込んだ瞬間に嫌な予感を感じたバルバロサ、ボールを拾ってジャンプで回し蹴りを回避して飛び越えようとする。

「渡すわけにはいかねえんスよ!」

 避けられても冷静に、しかし獰猛に攻撃を続ける。体をひねりながら両手を地面につけて真上に両足を突き出して、自分の上空を飛んでいるバルバロサの腹部をボール越しに蹴り上げた。

「うおッ⁉」

 強烈な痛みと共に上空に体を吹き飛ばされるバルバロサ。そしてボールはパイプの足元におさまり、

「ホーラ、飛べ!」

「むっ⁉」

 そしてシュートを打ったかのような力強いパスをホーラに蹴りだした。

(ここはシュートじゃなくて――)

「いっけえ! うけとって!」

 そのボールをダイレクトでヘディングパス。ボールのスピードを落とさずに直角に曲げてイクオスのもとにまで届ける。

 イクオスはすぐさまそのボールを受け止めようと走り出した。

「よし来た!」

「させねえよ!」

「読めてんだよ!」

「――ぐはっ⁉」

 送られたボールをそのままダイレクトキック。そして背後から襲い掛かってきたリンナイトの胴体にボールが激突。そのままボールごと蹴り上げてリンナイトを上空にはるか高く飛ばした。

 乱暴かつ繊細な技術によるドリブルでリンナイトを蹴散らす。

 ここまでボールをつなげてもらった。

 邪魔するものは誰であろうと吹き飛ばして、ゴールを奪いに行く。

「ここでボール取られたら負けだ! ゴールぶち込むまでボールはやらねえ!」

「ええい! 止めてみせるわ! ミンホイ、来て!」

「は、はい!」

 トイズとミンホイがイクオスを止めようと立ちふさがりながら魔方陣を展開。魔法のディフェンスで止めに来る。トイズは炎の、ミンホイは水を魔法で出現させて、それをまとってイクオスへショルダーチャージを仕掛けに行った。

「邪魔だ! 『疾駆韋駄天』!」

 だがそれをイクオスは暴力で突破する。

 強烈な旋風と共に大地をかけて、その旋風がトイズたちの魔法をかき消し、遠くに吹き飛ばしていった。

「くうっ⁉」

「きゃあ!」

 その嵐の強風になすすべもなく、トイズとミンホイは吹き飛ばされてしまう。

 ディフェンダー陣の半分は突破した。

 最後に残っているのは、

「シュートは打たせん!」

「お前を越えれば!」

 イクオスの前を遮るのは当然、マデュランだ。

 彼を越えなければシュートを打つこともできない。さらにここで立ち止まっていたら試合終了のホイッスルが鳴ってしまう。

 迷っている暇はない、すぐにでも突破する。

「『疾駆韋駄天』!」

 ドリブルの速度を上げて嵐と共に突撃を開始した。

「『タワーシールド』!」

 その嵐の突撃にマデュランは巨大な壁盾を形成。真正面から迎え撃つ。

 風が盾に激突し、周囲に荒々しい旋風が巻き上がる。その風と共に、イクオスは強引にぶっ壊そうとその壁に回し蹴りを叩き込んだ。喧嘩無敗の蹴りが『タワーシールド』にヒビを入れた。

「突破させるか!」

 壊れそうな壁に魔力を注ぎ込み、すぐさま魔法の障壁を修復。ヒビがなくなり壁の強度が元に戻っていく。そして魔力を操り、壁から衝撃波を発動させてイクオスを弾き飛ばした。

「この!」

 無理やり空中で体勢を立て直し、ボールをマデュランの腹目掛けて蹴りだしつつそのボールを追いかける。そしてさらに膝蹴りを追加。強烈な一撃をマデュランの胴体にお見舞いした。

「ふんっ!」

 だがその蹴りを腹に力を込めて耐える。わずかに後ろに下がってしまうも、その蹴りも耐えきって、反撃のショルダーチャージ。襲い来る強撃にイクオスも肩をぶつけてチャージにぶつけあい。

 肉体同士のぶつけ合いなのに、鈍い金属音が鳴り響く。互いの肩がぶつかった瞬間、強烈な衝撃がサッカーフィールドに広がった。そして肩を押し付けあって力比べ、両者険しい表情だ。

(なんてパワーだ! これが喧嘩の技術か?)

(魔導の名門学院の生徒なだけあるぜ……肩から嫌な魔力が伝わってくる!)

「やっぱ不良じゃねえ奴との喧嘩が一番燃えるな!」

「ここで笑うか! 戦闘狂め!」

 互いに離れて再びマデュランの豪快なショルダーチャージが炸裂。スタミナが続く限り何度でも放つ、ここで止めることさえできれば試合に勝てる。ならば妥協の攻めはしない。ボールを奪うまで全力全開のディフェンスだ。

 それを見てイクオスは体勢を低くして、

「この!」

 思いきり斜め前に踏み込んでいく。マデュランのチャージに当たるか当たらないかぎりぎりのわずかな隙間。

 ここで避けの選択。相手の強烈なチャージをかわし切って前に進む。

「うおおおおおおっ!」

 だがそれでは止まらない。

 無理やり体を急転回させて、その勢いのままジャンピングショルダーチャージだ。無茶な防御態勢、しかしそれでもゴールを守るならできることならなんだってやる。執念の守りだ。

「――っ‼」

 だがその執念を感じ取ったか、イクオス、ここで立ち止まって肩を突き出す。

 ここで土壇場のショルダーアッパー。肩がマデュランの顎をかち上げて、そのまま上空に飛ばしていった。

「がぁっ⁉」

「マデュランさん⁉」

「この喧嘩! 俺がもらった!」

 敵は全員吹き飛ばした。

 あとはゴールキーパー、ただ一人。

「きめて! イルマ!」

 味方の声援と共にイクオスは足元に魔方陣を展開した。

 強烈な魔力が右足に集まっていく。

「決めねえわけにはいかねえっ‼ 『臥龍空牙(がりょうくうが)ッ』‼」

 喧嘩野郎の右足から緑竜が雄叫びを上げた空を飛んだ。

【エルドラドサッカー日誌】

 ウズシオスロッシャー

 チコ・モーグリンは試合の中で完成させたマジックシュート。

 大量の水を魔方陣から作り出し、その水を操って高速回転。自分もその水の流れを入り込み、強烈な水の回転と共にシュートを放つ。その時、全てを飲み込む渦潮が生まれ、それをゴールに向かって飛ばすのだ。

 もともとはモーグリンが作った魔導洗濯マシーンから発想を得て作り出されたマジックシュート。彼女にとって魔導具は幼いころから自分の生活と共にあった。ゆえにこの技を完成させることができたのだ。

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