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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
プロローグ
1/130

希望、消える

 夏の太陽の日差しが照り付ける。

 サッカーグラウンドで二十二人の戦士たちがボールを追いかけている。

『中学サッカー県大会決勝! 試合時間も残りわずか! さあ、どちらが全国大会への切符を手に入れるのか! おっとまただ! またあの選手がボールをとった!』

 実況の声がある一人の少年を注目した。

 その少年は誰よりも素早く走り、誰よりも長くフィールドを駆けまわり、誰よりもうまく相手を抜きさる。

 前から襲って来る複数の選手に緩急あるフェイントをかけてドリブルで突破していく。

『やはりうまい! 彼の動きを止めるものは誰もいない! 今日の試合も得点を決めるか、風間瞬!』

「勝利はもらうぜ!」

 大きく足を振り上げて、そのままシュートを放った。渾身の力がこもったシュートはハイスピードでゴールに飛んでいく。

 狙ったコースはゴールポストの近く。そう簡単には取られないははずだ。

「――クッ!」

 だが相手のゴールキーパーはすぐさま反応して瞬の打ったボールに飛びついてパンチングでボールをはじき返した。入ったと思われるシュート、ゴールキーパーの好判断で防がれてしまった。

「まだ、終わってないぜ!」

 だが瞬は一発のシュートでは諦めない。入らないのならば再びシュートを打てばいいだけである。

 こぼれたボールにすぐさま追いかけ拾って再びシュートを打とうとした。

「クソ、いい加減止まりやがれ!」

「――ウワッ!」

 予想以上の激しいスライディングタックル。避けきれず足にぶつかってしまい、瞬は思いっ切り地面に頭から倒れてしまった。

 危険なプレイに審判も笛を鳴らした。

「いてて……」

「おい風間、大丈夫か? 地面に頭から倒れてたけど」

「血、出てない?」

「お相手さん、勝っているとはいえ押されているからこんなプレイを……」

 チームメイトが心配しながらそう聞いてきたので、

「――大丈夫だ、何回もヘディングしてきたんだぜ。頭は頑丈だよ。足もホラ、血が出てない。骨も異常なし」

 心配させないように、そう言って立ち上がる。

 そして軽くジャンプして大丈夫のアピール。

「むしろ、チャンス到来ってヤツだ」

 今のファールのおかげでPKを得る事ができた。ここで決めれば同点。勝利の風向きがこちらに向かってきている。

「俺が打つ。ここで取って同点にするぜ」

 この大事な場面、瞬がキッカーの立候補をあげた。他のチームメンバーも頷き、瞬に命運を託した。

「風間、ゴールを決めてくれよ」

「点取り屋の俺に任せろ」

 ボールにチームメイトから受け取り、ゴールキーパーを見ながらボールを地面に置く。

(さて、どこに狙うかな)

 ゴールポストのきわどいコースか、それとも裏をかいて真正面か。

 瞬は少し悩み、笛が鳴った瞬間に足を動かした。

 そしてすぐさまシュートを打つ。コースは右上の角。回転は軽くかけるだけ。真っ直ぐに飛ばした。

「ウオッ⁉」

 そのコースはどれだけ手を伸ばしても届かない。ゴールポストに当たって入らないことをキーパーは祈るも、その祈りは通じず、瞬の放ったシュートはあっさりとゴールネットを揺らした。

『決めた! 風間君! 見事PKのチャンスを掴み、そして点を取った!』

「よっしゃ、同点だ!」

「風間! よく決めてくれた!」

「やっぱ、エースは頼りになるぜ!」

 シュートを決めた瞬にチームメイトが祝福してきた。瞬はチームメイトと一緒に喜びつつも気を引き締めるように大声で、

「皆! まだタイムは十分残ってる! ここで攻め切って逆転しようぜ!」

「「「おう!」」」

 同点になったことで、チームの雰囲気が良くなる。絶対に勝つという気概が溢れだした。

 反対に相手は重苦しい気配が漂う。瞬のチームにPKを渡して、点を取られてしまったことが原因だ。

 勝機は完全にこちらに傾いている。

(この試合、絶対に勝つ! そして中学最後の年で、皆と全国に行って優勝旗を持ち帰るんだ!) 

 試合再開のホイッスルが鳴った。相手選手がボールをパスしながらこちら側のゴールに向かってくる。

 だが、先ほどと比べて動きが鈍い。瞬はそれをすぐさま見抜いて、

「遅いぜ!」

「あっ⁉」

 瞬は相手のボールをカットして抜きさる。

(ここは一気に決める場面だな!)

 ストライカーとしての直感がそう囁いた。

 今の敵選手たちは浮足立っている。先ほどのPKで点を取られたのが原因だろう。

 絶好のチャンスだ。メンタルが立ち直る前に攻め込む。

 瞬は味方にパスを渡し合いながら、着実に前に進んでいく。

「頼む、風間!」

 味方のパスを受け取って、すぐさまドリブルでダッシュ。敵陣に斬り込んでいく。

「クソ、何度も突破されてたまるかよ!」

 相手選手が三人固まって襲ってきた。かなり警戒されている。先ほど点を取ったのだから警戒するのは当然か。

 だが、瞬は相手選手の動きを見て、

(ドリブルのキープ、速さなら誰にも負けねえ!)

 風間瞬の得意分野はシュートではなくドリブル。そして陸上選手並みの足の速さ。

 敵選手がチャージで取ろうとして来たら、一瞬止まって、再加速で抜き去っていく。

「ま、また抜かれた……」

 この緩急ある動きが相手を惑わせ、動きが鈍った瞬間に最高速のダッシュで突破する。

 これが風間瞬のドリブルだ。

「まだ!」

 一人抜きさると、前から敵選手二人がスライディングタックルでボールを奪い取ろうとしてきた。

「同じディフェンスは通じないぜ」

 瞬は抜き去ろうと体勢を低くして、

「ほら、パス!」

「「なっ⁉」」

――すぐさま、隣のチームメイトにパスを渡した。そして相手のスライディングタックルを避けて、相手を抜き去ってすぐさま味方からのパスを受ける。

そしてそのままゴールを決めようと思ったが、

「ちっ、流石にマークがきついぜ……」

 相手ディフェンダーが瞬を通さないように、徹底に防御。

 動かず、ひたすら瞬が動くのを待っている。生半可なドリブルではすぐさまボールを奪われてしまうだろう。シュートを打とうにも距離が遠いためキーパーに楽に取られるのが落ちだ。

 どうしようかと、周囲に目を走らせると。

――見えた、サイドを走っている味方の姿が。

「頼む! 決めてくれよ!」

 パスを出して決勝点を託した。

「よし!」

「させるか!」

 だが、そう簡単にはいかない。パスを渡したチームメイトの近くに相手選手がチャージでボールを取ろうと襲い掛かってくる。

「くう! 届け!」

 突破できない、そう思ったのか足を思いきり振ってシュート。がむしゃらに打ったボールはゴールまで届くも、

 ――パキンッ‼

 ゴールポストに命中。ボールはゴールから離れるように弾かれ地面を転がっていく。

 相手ディフェンダーが瞬たちの攻撃を止めるため、ボールを奪おうとする。

「まだまだ!」

 すると、瞬の他のチームメイトが走ってきたボールを取る。まだ瞬たちの攻撃は終わっていない。終わらせない。

 すぐに足をあげてシュート体勢。

「通させるかよ!」 

 だが一点でも取られたら敗北はほぼ確定の相手チーム。絶対にボールを止めるという気迫がこもった守備で、チームメイトのシュートコースを塞いできた。さらに近づいてボールを奪おうともしてくる。

「もう遅い!」

 だがチームメイトはそのままシュートを打った。

 だがその方向はゴールから大きく外れた軌道。へまをしてしまったのか、相手選手たちはそう思いながらボールを奪い取ろうとしたその瞬間、

「うおおおお‼」

 疾風の如く走り込んでくる一人のサッカー選手がいた。

 瞬だ。

 瞬が自身の出せる最高速のスピードで走っている。わかっているのだ、あのボールが何なのかを。

(あれはシュートじゃない! 俺のパス、俺たちチームの! 得意の点の取り方さ!)

 チームメイトのラストパスだ。

「トドメを頼む! 瞬!」

 ――わかっている! ここで決めなきゃ点取り屋失格だ!

「いけ!」

 自身の身体能力を生かしてジャンプ。こちらにハイスピードで向かってくるボールに頭をぶつけて飛ばした。

 全身全霊のダイビングヘッドだ。

 急な軌道変更のシュートにゴールキーパーは反応が間に合わず、ボールは誰の体にかすることなくゴールへと入っていった。

 一瞬の静寂。

『決まった! 風間、決めるときは確実に決める選手だ! この土壇場で見事、ゴールを決めた‼』

 そして大声で歓喜の声を上げる瞬のチームメイト。対象に相手チームは悔しそうにうつむく。

「やったぜ! あとは三分、コッチが守れば勝ちだ!」

「風間、よく決めてくれた! さすが俺たちのチームの点取り屋だな!」

 チームメイトが瞬に駆け寄ってきて称賛の声を上げた。

「おい、まだ試合は終わってない。気を引き締めないと一瞬で点を取られるぞ。あと瞬、いつまで倒れているんだよ」

「……」

 瞬の名前を呼んだが反応が返ってこない。だんまりしたままだ。

「……瞬?」 

 ふざけているのか、と思って再び声をかけるが、瞬はピクリとも動かない。まるで死体になったかのような。

「おい! 瞬!? 誰か!! 救急車を呼んでくれ!」

「どうしたんだ君たち!?」

「審判! 来てくれ! 風間が倒れたまんま動かないんだ!」

 突然の転倒にフィールドにいるチームの仲間の誰もが声を荒げる。審判と相手のチームも彼らの声を聞いて驚愕の表情を浮かべた。そしてその様子を見た会場の両チームの監督や控えメンバーにどよめきと不安が広がっていった。

 風間瞬はこの先、目を覚ますことはなかった。

 ボールをヘディングしたことで発症してしまった脳出血によって、命を失ってしまったからだ。

 一人のサッカー少年は突然の不幸によって、この世から去っていった。

 将来はプロのサッカー選手になる。

自分の夢を叶えるための行動をすることすら、できずに。

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