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【完結済】異能部へようこそっ!  作者: みおゆ
第10話・ソラビト
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ソラビト(2)

「会長がわたしたちに用事って、なんですかね?」


 せつなは奈子(なこ)と浜辺へと向かいながら、そんなことを言った。


「……あ、もしかしてこのあいだ勝手に瞬間移動、使っちゃったからかなぁ……」

「せつな……また異能を勝手に使ったのか?」

「ごめんなさい、遅刻しそうになっちゃって……」


 苦笑いを浮かべごまかそうとするせつなに、奈子は厳しい視線を向けた。


「でも不思議だな。なぜ会長は生徒会室ではなく、浜辺へなんて呼び出すんだ……?」


 それについてはせつなも同じ疑問を持っていた。

 なぜ、校舎内ではなく、外へ呼び出されるのだろうかと。


 そんな疑問を抱きながらも、指定された浜辺へ辿り着いた二人。そこには、華乃(かの)が先に立って待ち構えていた。


「よく来てくださいました。今日は二人に、話しておかなくてはならないことがありまして」


 せつなと奈子は背筋を伸ばし、話の続きを待つ。


三山(みやま)さん。あなたにはいつもこの学園を、そして国を守ってくださいました。卒業を前に異能が使えなくなってしまったこと、あなたにとっては心苦しいかもしれませんが、自分を責めることはありませんわ。あなたは全力を捧げ、その責務をまっとうしてくださいました」


 華乃の話を聞いた奈子は、それは誇らしげに胸を張った。


 華乃は次にせつなを見やる。


尾張(おわり)さん、あなたは今までに例を見ない、素晴らしい異能の持ち主ですわ。時を操る、この世の頂点に立つ力といっていいでしょう」


「えへへ……そんなぁ」とせつなは頬を掻きつつ、頬を緩めている。


「お二人とも、今日までご苦労さまでした。あなた方と出会えたこと、わたくしはとてもうれしく思います」


 せつなは「なんですか、改まって――」と返したときだった。


 突然、奈子が咳き込み始めた。

 苦しそうに身体を丸め、その場にしゃがみこんでしまう。


「奈子お姉ちゃん、大丈夫!?」


 せつなは奈子の背をさすり、声を掛けたが、奈子は返す余裕もない様子で、ひたすら苦しんでいる。


「どうしよう、また体調が……! 早く保健部に――」

「その必要はありません。尾張さん、とにかく今は、三山さんから離れるのです」

「え、どうして……」


 戸惑うせつなの手を引き、華乃は奈子から距離を取ったところで説明する。


「快復から今日がちょうど三日目。そのときが来たからですわ」

「そのとき……?」


 せつなはもう一度奈子へ視線を向けようとしたが、突然、目の前が眩い白い閃光に包まれ、反射的に目を瞑る。


 すぐに光は落ち着き、せつなは再び目を開けたそのときだった。


「ギャアアアアアアア」


 耳を劈くような悲鳴。

 その声は、何度も聞いたソラビトの声と同じものだった。


 そして、ソラビトの出現の暗澹たる様を表すかのように、晴れやかだった青空に雲がかかり、風が吹き荒れていく。


 せつなは華乃を振り払い、目の前に立つ巨大な()()を見上げた。


 雲のようなものを纏う、人間のような形をしたそれは、大きな口に剥き出しの牙、頭からはツノようなものを生やし、鬼のような形相を浮かべていた。


 自分を見下ろすそれはソラビトだと、せつなは直感で理解(わか)ってしまった。


「……え?」


 だが、せつなはまだすべての現象を認められていなかった。

 何もかもが突然のことすぎて、脳の処理が間に合わない。


「生徒かいちょ――」


 せつなは華乃に助けを求める視線を向けた――が、華乃は目の前のソラビトを捉え、右の拳を握り締めようとしていた。


「――ダメっ!」


 せつなは華乃を押し倒す。華乃の異能は狙いを外し、ソラビトの肩を掠めた。


 背後から聞こえる悲鳴にせつなは耐えながら、華乃を睨みつける。


「……何、しようとしたんですか」

「それはもちろん、ソラビトを駆除しようと」

「――違うっ! アレはソラビトじゃない! 会長も見たでしょう、今、奈子お姉ちゃんが光って……!」


 せつなは話しながら、真実に気づき目を見開く。


「奈子お姉ちゃんが光って……目の前にソラビトがいて……なんで? 奈子お姉ちゃんはどこ? ……違う、そう……奈子お姉ちゃんは……」


 華乃はせつなを押しやり、スカートについた砂を払いながら立ち上がる。


 座り込むせつなに、華乃はこう言い放つ。


「――ソラビトは、異能使いの成れの果て」


 せつなは恐る恐る顔を上げた。


「あなたもわたくしも――異能使いのみなさまは、最後はああなって、破壊だけを繰り返す兵器に成り下がるの」


「……待って、わたし、どういうことか全然……」


「――いいえ、理解しているはずです。ただ、心の内から湧き出る絶望に蓋をしようと必死なだけ」

「ちが……ちがう、ちがうちがうちがうちがう……!」

「思う存分泣き喚きなさい。大丈夫。わたくしが全部受け止めてあげますから」


 華乃は不敵な笑みを浮かべる。


「さあ、お見せなさい――あなたの異能の、真の力を」

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