わたしたちだけの文化祭(11)
さきほどまでの賑わいはすっかり落ち着き、月明かりだけがこの島を照らしていた。
まだ文化祭の名残りのある校舎内もすっかり暗く静まり返っていたが、明るく点る部屋がひとつだけあった――生徒会室だ。
華乃はひとり、生徒会室の一角にある応接間のソファに座っていた。
目の前にはテーブルに置かれた紅茶がひとつ。華乃はそれに触れると、その手をスライドさせた。すると、カップは二つになり、まったく同じ物が瞬時に複製された。
華乃は複製されたほうの紅茶を飲む――それから、華乃は少しだけ顔を歪めた。
「……無味、ですわね」
華乃は言って、ため息をついた。
「〈量産型少女〉の異能の欠点は複製されたものの『中身がない』ということでしょうか……。銃弾なども威力はありましたが、結局すべてハリボテだった可能性も否めませんわね。このようじゃ、『活性化進行薬』をコピーして増やしても、どうやらムダなようですわね……」
華乃はスカートのポケットから一本の試験管を取り出す。
「薬は残り一本。予備を作れたら安心でしたが、この薬は大切に取っておかねばなりませんわね――尾張さんの異能を手にするためにも」
華乃は再び薬をポケットの中へしまった。
それから、華乃は深くソファにもたれかかり、ゆっくりと目を閉じる。
その瞼の裏には何を見ているのかはわからない。ただ、華乃は神妙な面持ちになり、またゆっくりと目を開いた。
「……そろそろ、わたくしも動き出さなくてはいけませんわね」
◇
――一方そのころ、此乃は寮の自室で、お気に入りのアイマスクを着けて眠っていた。
寝息を立てて眠っていたが、突然その口元は酷く歪んだかと思えば、此乃は勢いよく身体を起こした。
アイマスクを乱暴に外し、長い間潜っていた水中から顔を出したように激しく呼吸をし、動揺を顕にしている。
「……な、なんだったでありますか、今のは……!?」
此乃は頭を抱え、必死に呼吸を落ち着かせようとしている。
「此乃の夢は、現実に起こることであります……なら、なんで、どうして……」
此乃は悔しげに下唇を噛み、その場で項垂れる。
「……っ。でも、そっか。ようやく、お姉ちゃんの望んでいたことがわかった」
深く息を吐き、此乃はようやく落ち着きを取り戻す。
「……此乃の『予知夢』は絶対に外れない」
此乃は毛布を強く握り締め、その表情はどこか決意じみていた。
「――此乃が、なんとかして阻止しなくちゃ……!」
此乃はスマホに手を伸ばし、誰かに電話を掛け始めた。
しばらくのコールのあと、夜中ということもあってか、不機嫌そうな声が電話を出た。
「もしもし茉莉。今から、此乃のいうこと聞くであります」
電話口からは、茉莉が寝ぼけていた意識を切り替えた気配がした。珍しい相手からの真剣な様子に、異常を察したようだった。
此乃は、『予知夢』のことをすべて話した。その間茉莉は一度も口を挟むことなく、ただ静かに聞き入れていた。
「……だから、今から此乃は、茉莉にはひどい役割をお願いするであります」
此乃は耳に推し当てたスマホを強く握り、こう告げる。
「――そのときは、此乃を殺して」