わたしたちだけの文化祭(10)
「楽しかったですねー。文化祭」
「そうだね、なんだかみんな新鮮だったよ」
「ボクたちの出し物も好評だったよねぇ〜……林檎ちゃんが異能を使おうとしたときはホント焦ったけど……」
「だって! わたしだけ異能禁止って……みんなズルいのよ!」
――月明かりが差す異能部部室にて、せつなたち四人は他愛ない会話を楽しんでいた。
今日だけは特別に寮ではなく、みんなで最後まで過ごしたいとせつなが提案し、こうして部室に布団を敷き、川の字になって夜の時を過ごしていたのだ。
「つい最近までいろいろありましたけど、今日で気持ちは和らぎましたよね」
「うん〜。あの日のことが嘘みたい。夢だったんじゃないかなぁって、思っちゃうなぁ」
「……でも、現実なのよね」
せつな、亜仁の会話を経て、林檎は神妙な声音を添えた。
奈子は上半身を起こしながら、窓の外を見る。
「……ああ。あの日の爪痕は、ところどころに今もハッキリ残ってるから……ね」
校舎内はだいぶ片づいたとはいえ、建物の損傷や、森林の破壊の痕までは消すことはできていない。それは今でも残っており、あの日は確かにあった現実なのだと、何度でもせつなたちに知らしめていた。
「……あの子は、なんだったのかしら」
林檎は呟いた。だが、それに答えられるものは誰一人としていない。
「まあ、過ぎたことを考えたってしょうがないよ〜。とりあえず難は去ったんだからさぁ。今後のことはきっと、会長がなんとかしてくれるよぉ。だって、今回の騒動も、結局は会長が治めたんだから……」
「……確かに今も会長のおかげで、いつもみたいね学園生活を送れてる……けど、今後はどうなっていくのかしら。わたしたち……なんかこのままじゃ……」
林檎は話しながら、せつなを見た。
「せつなはどう思う?」
林檎に意見を求められたせつなは少し悩んだが、やがてこう答える。
「この先どうなるかはわかりませんけど……。わたしは、これからもみんなといっしょに過ごせたらいいなと思います。学園を卒業しても、ずっと友達でいられたらなって」
林檎と亜仁は微笑み頷いた。二人もその気持ちは同じなようだ。
せつなは隣を見ながら、「奈子お姉ちゃんもそう思うよね――」と声を掛けたときだ。
せつなは目を見開いた。
奈子はうつ伏せに倒れ、肩で息をしていたから。
「――奈子お姉ちゃん!」
せつなは奈子を抱きかかえ名前を呼んだ。林檎と亜仁も慌てて奈子の様子を伺う。
奈子の身体は熱を帯びており、息遣いは荒く、うなされていた――明らかに高熱に見舞われている。
「わたしが保健部まで運ぶわ! せつな、亜仁、保健部を叩き起してきて!」
「「……了解!」」
せつなと亜仁は急いで部室を飛び出し、寮へと向かった。
「大丈夫だよ、せつなちゃん……きっと、部長は文化祭が楽しすぎて、少し熱が上がっちゃっただけだから」
せつなの不安の表情を読み取ったのだろう、亜仁はそう励ました。だが、その亜仁も不安に揺れる瞳までは隠し切れてはいなかった。
「……はい。だと、いいです」
せつなの腹の底では、よくわからないグツグツとした何かが煮えたぎるような、説明し難い感覚を覚えていた。